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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科25巻1号

1997年01月発行

雑誌目次

脳卒中は脳外科へ

著者: 端和夫

ページ範囲:P.5 - P.6

 先日発表された日本の死亡統計を見ると脳卒中による死亡が急カーブで減少している.これには生活習慣の変化や高血圧管理の普及なども関係しているであろうが,脳神経外科医が日本では頑張っていることも力になっているに違いない.
 世界中で日本ほど脳神経外科医が脳卒中の治療に深く関わっている例はない.外人との会話のなかで,日本では頭痛の人は勿論,高血圧やめまいの人が直接脳神経外科のクリニックを訪れる,という話しをすると,どの外人も例外なくけげんな顔をするが,私共はそのような患者がたとえ大学病院の脳神経外科の外来に来たとしても驚かない.最近では救急対策が整ったため,重症頭部外傷は救命救急センターへ運ばれる.その結果,大学病院や一部の施設を除いて,日本の大多数の脳神経外科施設では脳卒中が主な診療対象となっている.

総説

Cushing病の診断:最近の動向

著者: 寺本明

ページ範囲:P.7 - P.15

I.Cushing症候群の病型とその頻度
 Cushing症候群とはグルココルチコイド,特にコーチゾールの慢性的な過剰分泌によって生ずる諸症候・代謝異常の総称である.これは大きくACTH依存性とACTH非依存性に分類される.
 ACTH依存性病型としては,(1)下垂体性ACTH産生腺腫(Cushing病と呼ばれる),(2)異所性ACTH産生腫瘍(ACTH及びCRH産生腫瘍の場合もあり),(3)異所性CRH産生腫瘍がある.一方,ACTH非依存性病型としては,(4)副腎腫瘍(腺腫や癌),(5)原発性副腎過形成(いくつかの亜型あり)が挙げられる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

深部および機能的重要領域におけるグリオーマの手術:機能的マッピング,術中モニター,ナビゲーションの応用

著者: 松本健五 ,   富田享 ,   大本堯史

ページ範囲:P.17 - P.28

I.はじめに
 深部および機能的重要領域におけるグリオーマの手術を行う際,種々の事項を念頭において手術に臨む必要がある.脳腫瘍手術,特にグリオーマの手術の原則は,手術により患者の症状を悪化させず,神経機能を温存することを前提として,その条件下で可能な限り多くの腫瘍組織を切除することであろう.しかしながら,グリオーマは脳実質内に浸潤性に発育する腫瘍であることから,腫瘍の摘出は腫瘍とともに脳組織を切除することを意味し,他の腫瘍に比し局所神経機能の脱落の危険性が高い10,49,56).それゆえに手術計画を立てる際,腫瘍の性質,解剖学的局在(発生部位,進展範囲,浸潤性発育の程度)と隣接する脳の機能局在を画像から明らかにし,術前の神経症状,疾患の全体像,すなわち予測される予後や再手術の可能性も考慮し,腫瘍の切除範囲を決定することが極めて重要であり,さらにそれらを手術にいかに反映させるかが問題となる.
 的確な腫瘍の摘出を行うためには正確な術中の解剖学的オリエンテーションはもとより,精密な機能解剖相関の把握とそれに基づいたナビゲーション,手術操作が要求される.機能解剖相関の把握には機能的マッピング,術中モニターの応用などが,またナビゲーションには種種の機器が,それぞれ工夫されている24,36)

研究

前・中頭蓋底手術に伴う合併症

著者: 徳富孝志 ,   重森稔 ,   平野実 ,   坂口伸治 ,   清川兼輔 ,   早川宏司 ,   田井良明

ページ範囲:P.29 - P.34

I.はじめに
 前及び中頭蓋底部腫瘍に対する手術は,鼻腔,副鼻腔等顔面側からのアプローチを併用することも多く,したがって,重要血管や脳神経損傷による合併症に加え,術後髄液瘻や感染などの問題が生じる.特に頭蓋底部に浸潤した頭頸部悪性腫瘍に対しては,en blockに摘出することが必要条件であり,頭蓋底再建の問題を避けることはできない.著者らは,これら手術に伴う合併症を最小限にとどめるべく,耳鼻咽喉科,形成外科との連携のもとに頭蓋底部腫瘍の外科的治療に取り組んできた4,12).今回はこれらの自験例を対象として,手術アプローチや頭蓋底再建あるいは放射線治療等と術後合併症との関係についてretrospectiveな検討を行った.

シャントを行わない水頭症の治療:第3脳室底開窓術

著者: 小林憲夫 ,   上川秀士 ,   三宅茂 ,   山元一樹 ,   児島範明 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.35 - P.40

I.はじめに
 水頭症の治療は体内にシャントを埋設するのが一般的である.しかしシャントを埋設している限り,水頭症の病人である.シャントの器材に頼らずに,髄液を処理できるようになれば,水頭症は治癒したことになる.第3脳室底開窓術(以下TVと略す)は,以前から行われていた水頭症の1治療法であるが,神経内視鏡を用いる方法が徐々に開発されてきた.神経内視鏡の種類には軟性鏡と硬性鏡があり,後者は単独で直接,または定位手術あるいは開頭術と組み合わせて,使用される.使用目的では観察のみに止める場合と,操作を加えて開窓術,生検などを行う場合とがある.当施設では主として軟性鏡を用いて,小児の水頭症の治療を行っているが,TVを施行した経験について報告する.

Transcranial Doppler法による頸部頸動脈狭窄病変由来の微小塞栓の検索

著者: 秋山義典 ,   坂口学 ,   善本晴子 ,   長束一行 ,   戸高健臣 ,   野村素弘 ,   澤田元史 ,   森本将史 ,   山本聡 ,   橋本信夫

ページ範囲:P.41 - P.45

I.はじめに
 頸部頸動脈狭窄病変は近年わが国においても増加傾向にあり,脳卒中の病因として注目されるようになってきている9).頸部頸動脈狭窄病変による脳卒中発生の機序として,脳血流の減少による脳血流不全と,狭窄病変が塞栓源となるという2つのメカニズムが考えられている.脳血流不全に関してはSPECT,PETなどの脳血流検査により評価がなされてきたが,塞栓発生のメカニズムに関しては,狭窄病変の形態,すなわち潰瘍の有無や血栓の付着などの間接的な所見から困果関係が推測されてきたにすぎない.しかし,近年Transcranial Doppler(以下TCD)を用いて微小塞栓を直接検出することが可能となってきた.今回われわれは,TCDを用いて頸部頸動脈狭窄病変由来の微小塞栓の検索を施行し,この方法による微小塞栓の検出と脳梗塞との関連につき検討したので報告する.

症例

頸静脈孔神経鞘腫の1例:95例の文献的考察

著者: 福井伸二 ,   宮澤隆仁 ,   大川英徳 ,   石原正一郎 ,   寺畑信太郎 ,   玉井誠一 ,   島克司 ,   千ケ崎裕夫

ページ範囲:P.47 - P.51

I.はじめに
 頸静脈孔部に発生する頸静脈孔神経鞘腫(jugular foramen neurinoma;以下JFN)は比較的稀であり,Tanら14)によると頭蓋内神経鞘腫のうち2.9%に過ぎないとされている.この腫瘍は難聴を主訴とすることが多いという点で,聴神経腫瘍との鑑別上重要であるが,最近はCT,MRIにより比較的容易に診断が可能となった.今回われわれは,三次元CT画像,MRIを含む神経放射線学的検査により術前に頸静脈孔部腫瘍と診断し,術中所見により舌咽神経由来と考えられたJFN症例を経験したので,過去の報告例と自験例を含めた95例につき文献的考察を加え,報告する.

経錐体骨到達法による腫瘍全摘出術後難治性髄液漏に対し血液凝固第XⅢ因子製剤が著効を示した1例

著者: 河村淳史 ,   玉木紀彦 ,   米澤一喜 ,   中村貢 ,   朝田雅博

ページ範囲:P.53 - P.56

I.はじめに
 近年,脳神経外科領域においては,手術手技において飛躍的な技術の進歩がみられ,脳実質に対し最小限の圧迫で目標点に達することができる頭蓋底からのアプローチが主流となりつつある.しかし反面,これまでの手術に比べ,手術時間は平均して長くなり,出血量,輸血量とも増加傾向にある.また術後合併症として,あらためて髄液漏.感染症などが問題となってきている.今回,われわれは難治性髄液漏に対し血液凝固第XⅢ因子製剤が有効であった1症例を経験したのでこれを報告し,難治性髄液漏に対する新しい治療法を示す.

Interlocking detachable coilを用いて治療した急性期に破裂を繰り返した解離性椎骨動脈瘤の1例

著者: 中田光俊 ,   池田清延 ,   立花修 ,   山下純宏 ,   松井修 ,   野畠浩司 ,   宗本滋

ページ範囲:P.57 - P.60

I.はじめに
 1980年代より破裂解離性椎骨動脈瘤に対する治療として,血管内手術が行われるようになった2-4,7,13).著者らは,急性期に破裂を繰り返す解離性椎骨動脈瘤の激症例に対して,Interlocking Detachable Coil(IDC)(Tar—get Therapeutics Inc,CA,USA)を用いて血管内手術を行い救命し得たので文献的考察を加えて症例報告する.

術後一過性に無言症を呈した左前頭葉星細胞腫の1例

著者: 国塩勝三 ,   松本健五 ,   浅利正二 ,   大本堯史

ページ範囲:P.61 - P.65

I.はじめに
 脳外科的手術後に無言症(mutism)を呈することがあるが,なかでも小児小脳虫部腫瘍の術後に一過性に無言症を呈することはよく知られている6,8,9,19).今回われわれは,左前頭葉内に発生した悪性星細胞腫の摘出後に一過性に無言症を呈した稀な症例を経験したので,その発生機序を中心に報告する.

若年者の脳梗塞として発症した特発性頸部内頸動脈解離の1例:神経放射線学的所見を中心に

著者: 嶋田淳一 ,   萬代秀樹 ,   鈴川活水 ,   天羽正志

ページ範囲:P.67 - P.71

I.はじめに
 従来,特発性頸部内頸動脈解離は,欧米と比較して本邦においては稀とされてきた1,6).しかし,近年の画像診断技術の発達などに伴い,本邦においても報告例が増加してきている5,7,9,12).われわれは,24歳という若年者の脳梗塞として発症した特発性頸部内頸動脈解離の1例を経験したので,その神経放射線学的所見を中心に報告する.

嚢胞を形成した,脳動静脈奇形による脳内血腫の1例

著者: 坂本辰夫 ,   大塩恒太郎 ,   間淑郎 ,   関野宏明 ,   田所衛

ページ範囲:P.73 - P.77

I.はじめに
 出血したAVMの手術待機中に,脳内血腫の周囲に被膜が形成されて血腫が拡大し,後に嚢胞化した症例を経験した.嚢胞被膜の病理組織学的検討を行った結果,慢性に経過する頭蓋内血腫の被膜構造に共通点を見出したので文献的考察を加える.

モヤモヤ病疑診例(片側性)から確診例(両側性)へ移行し,急激な悪化を示した1成人例

著者: 藤原史利 ,   山田洋司 ,   林成人 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.79 - P.84

I.はじめに
 モヤモヤ病の成因はいまだ不明であるが,脳血管撮影で両側内頸動脈終末部の進行性閉塞性病変と脳底部の異常血管網を示すものが確診例と診断され,一側性病変のみをしめすものは疑診例とされている6).モヤモヤ病の成人例において一側性病変から両側性病変への進行は極めて稀であるとされ,その経過が確認された報告例も少ない1,7,14).今回われわれはモヤモヤ病成人例において,発症後4年間で一側性の閉塞性病変が両側性病変へ進行し,急速な悪化を示し死亡に至った1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

破裂後blebが嚢状動脈瘤様に造影された内頸—後交通動脈瘤の1例

著者: 林俊哲 ,   佐藤慎哉 ,   白根礼造

ページ範囲:P.85 - P.88

I.はじめに
 くも膜下出血の中には血管撮影を施行しても出血源を明らかにできない症例がある.これらの一部は脳血管撮影を繰り返すことにより動脈瘤が発見されることもあるが多くは原因不明のままである3,6,9,12,13)
 今回,われわれは初回血管撮影で動脈瘤の虚脱のため血管撮影で造影されず,さらに破裂部に形成された嚢状動脈瘤様のblebが2回目の血管撮影で確認され手術に至った破裂内頸—後交通動脈瘤の症例を経験したので若干の考察を含め報告する.

読者からの手紙

スポーツ脳神経外科

著者: 田島正孝

ページ範囲:P.90 - P.90

 わが国ではスポーツ脳神経外科を標榜し,あるいは,専門外来として診療を行っている病院はまだない.
 スポーツ脳神経外科はどのような事をするのかというと,表1のようになる.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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