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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科25巻11号

1997年11月発行

雑誌目次

真夏の夜の夢—入局ドラフト制

著者: 脇坂信一郎

ページ範囲:P.975 - P.976

 夏の暑い盛りにこの「扉」の原稿を書いている.掲載されるのは丁度6年生の卒業試験期間中であろうか.試験の後には,各科が盛んにいわゆる医局説明会なる入局勧誘を行うことであろう.数年前から当大学で始まったことではあるが,本年6月−7月の放課後にも,附属病院主催の公式の医局説明会が持たれた.各科が持ち時間30分ずつで,それぞれの医局の紹介を行った.当科でも資料やスライドを時間を掛けて準備して臨んだが,脳神経外科の枠が夏休み直前であったためか,出席したのはクラスの中の5名だけであった.聞くところによると学生が誰も来なかった科もあるという.この時期に既にある程度の取捨が行われているということであろうか.
 4年生の11月から5年生の10月にかけて,2週間の脳神経外科臨床実習に廻ってきたときには,「今まで廻ってきた中では脳神経外科医局の雰囲気が最も良かった」,「脳神経外科に非常に興味がもてた」などと好意的な感想を述べてくれた学生も,6年生で脳神経外科の臨床実習がカリキュラムに組まれていないためか,その印象も次第に薄れてしまうのであろう.6年生でもう一度脳神経外科の実習をしたいという学生の希望も多いのだが,限られたカリキュラム時間の中で,いわゆる既得権のためかなかなか替わってくれるところもない.

解剖を中心とした脳神経手術手技

側頭葉てんかんに対する側頭葉下面からの手術

著者: 堀智勝 ,   近藤慎二 ,   竹信敦充

ページ範囲:P.977 - P.985

I.はじめに
 Engelらの集計3)によると,1986-1990年の間に多施設で行われた側頭葉てんかんに対する海馬・扁桃体を含めた前方側頭葉切除術(anterior temporal lobectomy:ATL)の有効率(発作消失あるいは改善)は92%であった.ところが同時期に行われた海馬・扁桃体の選択的切除術(selective amygdalohippocampectomy:以下selec—tive AH)の有効率も91%であったことより,現在では側頭葉内側部に焦点が限局する症例ではselective AHが適切な治療法と考えられている.最初のselective AHは1958年Niemeyerら14)の報告した中側頭回経由で側脳室下角に到達する方法によるものであった.1975年になるとYasargilらはシルビウス裂を経由したselec—tive AHを考案しており,良好な手術成績が報告されている28,29).いずれにせよ側頭葉内側構造に到達するためには必ず何等かの皮質を経由する必要があり,時に脳回の一部切除の行われることもある.しかしDamasioら1)が左側頭極および中・下側頭回は語彙抽出に関与している可能性を示唆しているように,手術のmorbidityをいかに最小限にするかということに重点のおかれている現代の医療では,側頭葉新皮質も発作に関与していない限り極力温存すべきである.

研究

「動眼神経系」術中モニタリングの簡便化:「上眼窩電極」による経皮的compound muscle action potentials記録

著者: 関谷徹治 ,   畑山徹 ,   嶋村則人 ,   鈴木重晴 ,   田村正人

ページ範囲:P.987 - P.992

I.はじめに
 脳幹内で電気刺激を行い頭蓋外の各支配筋からcom—pound muscle action potentials(以下,CMAP)を記録することによって,脳神経核のmappingを行うことができる2,5,9-13).しかし,これまでの報告では,顔面神経核と下位脳神経核のmappingの報告は多いが,眼球運動神経核の同定の報告は極めて乏しい5,9,10,13).中脳手術において,眼球運動神経核やその髄内路をmappingすることの意義は大きいと考えられるにも関わらずmap—pingの報告が乏しい原因の一つは,外眼筋に直接電極を設置することが困難なことにあると考えられる.
 われわれは,眼球運動神経系の術中モニタリングをルーチン・ベースで行ってきているが11,12),このモニタリング法のより簡便な実施方法,すなわち,市販の電極を用いて眼科医がいない状況下でも実施できるような方法も同時に模索してきた.その結果,より簡便な術中モニタリング法を開発することができたので報告する.

高血圧性脳出血の再出血例の検討:その特徴と再発因子について

著者: 窪田惺 ,   三好明裕 ,   多田羅尚登 ,   熊井戸邦佳 ,   松谷雅生

ページ範囲:P.993 - P.999

I.はじめに
 高血圧性脳出血の再出血の実態は,必ずしも明らかでなく,再出血について詳細に検討した報告は意外と少ない7-9,12,14,16).そこでわれわれは,再出血の解明の手がかりを得る目的で,過去18年間の高血圧性脳出血の再出血例について,年齢,性別,入院時重症度,出血部位,再出血パターン,再出血の時期,再出血例と血圧との関係および退院時成績について分析し,再出血例の特徴と再発因子について検討したので報告する.

MR angiographyによる硬膜動静脈瘻の診断

著者: 藤田敦史 ,   桑村圭一 ,   齋藤実 ,   高石吉將 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.1001 - P.1006

I.はじめに
 MR angiography(MRA)は非侵襲的に脳血管を描出することが可能であり,現在では脳血管障害の日常診療におけるスクリーニング検査となってきた5,6).しかし,その撮影目的は脳動脈瘤の発見に重きを置くため,その関心領域は通常Willis動脈輪周辺に設定されることが多い.したがって横静脈洞・海綿静脈洞・錐体静脈洞などに病変が認められる,硬膜動静脈瘻のMRA所見についての報告は少ない2,4,9).今回われわれはMRAにより硬膜動静脈瘻を推定診断し,脳血管写で確定診断し得た2症例を経験したので報告する.

頭蓋内巨大動脈瘤の手術成績:瘤内血栓,動脈瘤頸部硬化性変化合併例の検討

著者: 上出廷治 ,   大滝雅文 ,   田邉純嘉 ,   端和夫

ページ範囲:P.1007 - P.1015

I.はじめに
 巨大脳動脈瘤の自然経過は極めて予後不良で3,7),神経症状を呈したものを放置することはできない.しかし,顕微鏡下手術が一般化し,手術技術が向上した現在でも,その治療成績は決して満足できるものではない3).文献的には術中動脈瘤頸部クリッピングが困難で,母動脈の閉塞術,coating術などを選択せざるを得ない場合が約半数におよぶ3,6).クリッピングを施行できた症例でも,手術に伴って発生した脳虚血による術後悪化が少なくない.母血管の一時血流遮断が長時間におよんだための虚血や,クリッピングにより母動脈や分枝動脈の高度狭窄や閉塞を来した結果発生した虚血,さらに動脈瘤内の血栓が剥離して発生した末梢動脈塞栓症などによるものである.大きな動脈瘤でも,特に瘤内血栓が存在したり動脈瘤頸部近傍に動脈硬化巣が存在する場合には,手術時こうした虚血性合併症を如何に防止するかが問題となる.本稿では,このような動脈瘤の手術法,治療成績を報告するとともに,合併症予防法について検討する.

症例

上衣下巨細胞性星細胞腫と腎血管筋脂肪腫を合併した結節性硬化症の1例

著者: 野口哲央 ,   菅野洋 ,   坂田勝巳 ,   所和彦 ,   小野敦史 ,   山本勇夫

ページ範囲:P.1017 - P.1019

I.はじめに
 結節性硬化症tuberous sclerosis(TS)は顔面皮脂腺腫,癲癇,精神発育遅延を三主徴とする常染色体優性遺伝性疾患であり,15万から30万人に1人の頻度で発生し,このうち家族発生例は14-35%,孤発例は60—80%とされている5,8,9,11).近年の分子生物学の進歩により,その原因遺伝子は染色体9番長腕4)と16番13)に同定され,前者はTSC1,後者はTSC2と命名されて多発性嚢胞腎との関連が指摘されている.TSは種々の腫瘍を合併することが知られており,われわれは脳室内の上衣下巨大細胞性星細胞腫subependymal giant cell astro—cytoma(SEGA)および腎血管筋脂肪腫renal angiomyo—lipoma(RAML)を合併したTSの1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

頭蓋底骨折に伴った両耳側半盲の1例

著者: 林拓郎 ,   若本寛起 ,   島本佳憲 ,   宮崎宏道 ,   石山直巳

ページ範囲:P.1021 - P.1025

I.はじめに
 頭部打撲後,両耳側半盲を呈することは稀ながら文献上散見され,その発生要因として何らかの視交叉部の障害が指摘されているが,その手術所見の報告は稀である.
 今回われわれは頭蓋底骨折に伴い両耳側半盲を認め,髄液漏根治術の際に視交叉部周辺を観察し得た1例を経験した.その臨床経過,画像所見,術中所見より両耳側半盲の原因を検討し,発生機序を中心に若干の文献的考察を加え報告する.

IDC(Interlocking Detachable Coil)にて塞栓術を行った動脈瘤の1剖検例:走査電子顕微鏡による検討

著者: 小泉徹 ,   河野輝昭 ,   風川清 ,   川口務 ,   本間輝章 ,   金子好郎 ,   堂坂朗弘 ,   田渕和雄

ページ範囲:P.1027 - P.1031

I.はじめに
 脳動脈瘤に対する血管内手術は近年IDC(Interlock—ing Detachable Coil:Target Therapeutics,USA),GDC(Guglielmi Detachable Coir:Target Therapeu—tics,USA)5)等の塞栓材料やmicrocatheterの進歩によって発展してきており,良好な治療効果の報告も増加している1,13,15,16).しかしながらその基礎研究,特にcoilに対する組織反応やその経時的変化についての検討は動物を用いた実験例が散見されるものの2-4,7,9,10),ヒトにおける報告例はほとんど見られない.今回,IDCによる未破裂動脈瘤塞栓術後4週間での剖検例を経験し,走査電子顕微鏡による所見を得たので報告する.

くも膜下出血と脳梗塞で発症した解離性中大脳動脈瘤の1例

著者: 川口務 ,   河野輝昭 ,   風川清 ,   本間輝章 ,   金子好郎 ,   小泉徹 ,   堂坂朗弘

ページ範囲:P.1033 - P.1037

I.はじめに
 頭蓋内解離性動脈瘤は,比較的稀な疾患と考えられてきたが,本邦を中心に報告は増加している.特徴の一つとして内頸動脈系では,非くも膜下出血例が多く,椎骨脳底動脈系ではくも膜下出血例が多い点があげられる9).今回,われわれはくも膜下出血と脳梗塞をほぼ同時に発症した解離性中大脳動脈瘤を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

脳転移を来たした副腎皮質癌の1例

著者: 久保田芳則 ,   岩井知彦 ,   中谷圭 ,   坂井昇 ,   原明

ページ範囲:P.1039 - P.1042

I.はじめに
 副腎皮質癌は日本病理剖検輯報で全悪性腫瘍の0.15%というきわめて稀な腫瘍であり,腫瘍の産生したステロイドにより,その過剰症状を呈する‘内分泌活性癌’と,ステロイドを合成しない‘内分泌非活性癌’とに分けられる.剖検時における臓器別の転移頻度は活性癌および非活性癌とも約半数以上に肺,肝に転移が発見され,中枢神経系への転移は15%と報告されている11).しかし文献的には,副腎皮質癌の脳転移に関して剖検例3例,臨床例3例の計6例の報告2,6,10,12,16,19)があるに過ぎず,詳細な画像診断を含む臨床経過の報告例は全くない.今回われわれは,副腎皮質癌が肺の遠隔転移とともに脳転移を来たした症例の診断,治療を行う機会を得たのでその詳細を報告し,若干の文献的考察を加える.

脳室ドレナージ術9年後に瘻孔を生じ緊張性気脳症となった1例

著者: 朴永銖 ,   下村隆英 ,   奥村嘉也

ページ範囲:P.1043 - P.1047

I.はじめに
 頭蓋内に多量のairが貯留し,圧迫症状を来たす緊張性気脳症は座位手術後7,10),髄液漏に対するシャント術後,前頭洞閉鎖不良の状態で行ったシャント術後や慢性硬膜下血腫に対する穿頭術後2,3)に生じ,しかも術後24時間以内に起こってくるとされている.
 今回われわれは9年前に施行した穿頭部に瘻孔を生じ,緊張性気脳症を来たした稀な1症例を経験したので報告する.

硬膜より発生した放射線誘発平滑筋肉腫の1例

著者: 村上信哉 ,   森岡隆人 ,   西尾俊嗣 ,   松角宏一郎 ,   稲村孝紀 ,   福井仁士 ,   河野真司

ページ範囲:P.1049 - P.1053

I.はじめに
 頭部放射線照射はグリオーマ術後に広く行われている補助療法の一つであり,一般的には生存率や再発までの期間を延長し有効であると考えられている.しかし照射中のみではなく,照射後に長期間を経て脳壊死,痴呆を主症状とする脳症,内頸動脈閉塞に伴う脳虚血障害などの様々な障害が発生することがある.さらに最近では脳腫瘍治療後長期にわたり生存する症例が増加し,放射線誘発腫瘍,とくに下垂体腺腫などの良性疾患に対する放射線照射後に悪性脳腫瘍などが発生する症例数が増加してきていると思われる.ここで報告するのはfibrillary astrocytomaに対する放射線照射後6.5年目に硬膜より発生し,頭蓋内外に進展した放射線誘発平滑筋肉腫の1例である.

報告記

ヴェトナムでの脳神経外科分野短期技術協力—Part1. microscopeの導入

著者: 羽井佐利彦 ,   原徹男 ,   近藤達也 ,   秋山稔 ,   朝日茂樹

ページ範囲:P.1054 - P.1056

 国際協力事業団(JICA)は,ホーチミン市にある国立チョーライ病院Benh Vien Cho Rayに対し1993年度から1995年度まで総額25億円の無償資金協力による病院改善を実施し,また1995年度から新たに「ヴェトナム杜会主義共和国チョーライ病院プロジェクト方式技術協力」を開始している.この度,1997年2月から3月にかけて,本プロジェクトの一環として脳神経外科分野技術協力短期専門家として派遣された.目的は技術指導,特に今回のプロジェクトにより初めてヴェトナムの脳神経外科に導入されたmicroscopeのセットアップ,およびその技術指導—micro—neurosurgery—であった.
 チョーライ病院の歴史は仏領インドシナの時代に遡り,サイゴン市チョロン地区の市民病院として1900年に創立された.その後,コーチシナ住民病院,ラリュン慈善病院,415病院とその名称を変え,1957年にチョーライ病院となった.フランス支配の時代はフランス陸軍病院,第二次世界大戦中は一時,日本陸軍病院としても機能していた.そして,1961年ヴェトナム戦争が始まりチョーライ病院も荒廃したが,1971年から日本政府の無償資金協力により病院を新築し再出発した.新病院はサイゴン陥落の10ヶ月前1974年6月に完成し,東南アジアで最も大きな病院のひとつとなった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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