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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科25巻12号

1997年12月発行

雑誌目次

未知なる世界へ

著者: 吉井與志彦

ページ範囲:P.1065 - P.1066

 近年医師の適正を評価するために大学入学選抜時に面接を導入云々という記事が見られる.適正の中に人間的な暖かさ,思いやり等の情意性が含まれていることはいうまでもないが,臨床は,いつも応用問題を解決するようなもので,情意性だけでも適正を欠くことは明らかで,結局は全体的なバランスのとれた医師を求めているということなのであろう.
 その一方で大学教官の任期制も話題になって久しい,医学部も例外ではなく,医学部教官の適正とは何だろうかと考えさせられる話題である.従来の研究,教育,診療全てに万能な医師が適正な教官なのだろうか?医師となる学生には先の情意性に加えて,動機付けとか,自己学習法,問題解決型思考法等が必要と思えるのに,そのような教育法の優劣はあまり評価されていない.そのようなことが気になっていたので,赴任した大学では,早速ベッドサイドの学生から教え方に関してのアンケートをとることにした.アンケートの結果を見て,まだまだ改善すべき所はあると痛感させられる.

総説

細菌性脳動脈瘤

著者: 宮澤隆仁 ,   島克司

ページ範囲:P.1067 - P.1072

I.はじめに
 細菌性脳動脈瘤注)は稀な疾患ではあるが,一旦破裂した場合の死亡率は60-90%と著しく高く8-10,41,49),その治療には的確な判断が要求されるため,普段よりその病態,診断および治療法について熟知している必要がある.本総説では,特に細菌性脳動脈瘤治療の現状と問題点に重点を置いて解説する.

研究

Magnetic resonance angiographyとthree-dimensional computed tomographic angiographyを用いた未破裂脳動脈瘤の診断

著者: 奥山徹 ,   齋藤孝次 ,   平野亮 ,   高橋明 ,   橋本祐治 ,   稲垣徹

ページ範囲:P.1073 - P.1079

I.はじめに
 脳ドックや外来診療において未破裂脳動脈瘤の診断をより確実に行うために,magnetic resonance angiogra—phy(以下MRAと略)とthree-dimensional computed tomographic angiography(以下3D CTAと略)の撮像方法や解析方法を改良工夫し,臨床に応用してきた6,7).われわれは未破裂動脈瘤の診断に1992年2月からMRAを,1995年4月からは3D CTAを併用して,最近ではdigital subtraction angiography(以下DSAと略)とほぼ同様の診断が行われるようになった.この結果より未破裂動脈瘤の診断はMRAと3D CTAで可能で,手術も十分行うことができると考えており,1995年よりこれらの検査のみで手術を行っている症例も飛躍的に増えている.
 そこで今回は,MRA,3D CTA,DSAの検査の診断能力を検討するために,未破裂動脈瘤におけるそれぞれの診断率について比較検討したので報告する.

急性硬膜下血腫に対する大開頭小硬膜切開および意図的待機的手術による血腫除去

著者: 朴永銖 ,   石川純一郎

ページ範囲:P.1081 - P.1089

I.はじめに
 急性硬膜下血腫(以下ASDH)は脳挫傷による脳実質損傷を伴うことも多いので依然死亡率が高く,また救命しえても遷延する意識障害をはじめとする重度の精神・神経症状を残すことが多い.
 われわれは早期より低体温療法の有用性に着目し,積極的に軽度低体温療法を術後管理に導入してきた13).軽度低体温療法の施行によっても予後不良となったASDH症例の原因を明らかにすべく,過去の手術症例を詳細に検討した結果,新たな手術方針による治療を試み良好な成績を得たので報告する.

内包における錐体路の局在について:視床出血のCT分類と神経症状

著者: 辻篤司 ,   徳力康彦 ,   武部吉博 ,   細谷和生 ,   井手久史 ,   中久木卓也 ,   半田讓二

ページ範囲:P.1091 - P.1095

I.はじめに
 高血圧性脳内出血の中で視床出血は,その局在と進展方向および血腫量によって神経症状が大きく異なり,神経解剖学的にも非常に興味深い疾患である.内包後脚を走行する錐体路の局在については,Foersterの図示以来,内包後脚の大部分を占める説明図が用いられてきたが,近年その局在は内包後脚の後半部に限局しており,更に吻側から尾側にかけて前方から後方に偏位するとの見方が強まってきた6).その一方で,視床出血の進展形式と神経症状の解析から,数多くの臨床分類が報告されてきた.
 今回,視床出血の局在と運動麻痺を対比させることで,錐体路の解剖学的局在について症候学的に検討を加えたので報告する.

症例

Meningioma en plaqueの1例:73例の文献的考察

著者: 樫村博史 ,   別府高明 ,   和田司 ,   吉田雄樹 ,   鈴木倫保 ,   小川彰

ページ範囲:P.1097 - P.1100

I.はじめに
 一般的な髄膜腫が頭蓋内方向へ半球状に発育進展するのに対し,稀に硬膜に沿って平坦あるいはカーペット状に発育し,さらに腫瘍に隣接する骨が過骨を起こすという通常の発育形態を示さないことがある.かかる髄膜腫は特異な発育形態からmeningioma en plaque(MEPと略す)あるいはen plaque meningiomaという,“en masse”に相対する描写的な名称が与えられている3,19).しかし,MEPに遭遇する機会は少なく,その病態についてはあまり知られていない.著者らが経験した右前頭円蓋部のMEPの1症例を報告し,さらに文献報告72例に自験例1例を加えた73例から臨床的および組織学的所見を概説してみたい.

脳内出血にて発症したネフローゼ症候群に伴う上矢状静脈洞血栓症の1例

著者: 萬代和弘 ,   玉木紀彦 ,   倉田浩充 ,   深田優子 ,   飯島一誠 ,   中村肇

ページ範囲:P.1101 - P.1103

I.はじめに
 年長児の脳内出血の原因として外傷性をのぞくと脳動静脈奇形,脳動脈瘤,血液疾患,腫瘍,もやもや病などの非外傷性脳内出血が知られているが,静脈洞血栓症に伴う脳内出血は稀である.今回われわれは脳内出血にて発症したネフローゼ症候群に伴う上矢状静脈洞血栓症の1例を経験し,その発生原因につき検討したので報告する.

外傷性基底核部出血の1例:超音波誘導穿頭血腫ドレナージ術による治療例

著者: 柳川洋一 ,   清住哲郎 ,   寺井親則 ,   阪本敏久 ,   岡田芳明

ページ範囲:P.1105 - P.1108

I.はじめに
 外傷性基底核部出血は,CT scan導入により報告例も増加しており,孤立性のもの7,16,20)と他の部位の出血巣を随伴するものとがあり4,9,10,16),臨床的には異なった像を呈する.本稿では外傷性基底核部出血に対し,穿頭用超音波プローベを用い,超音波ガイド下血腫吸引術を施行し,良好な経過をたどった症例を経験したので報告する.

Cleidocranial dysplasiaの1例

著者: 神田大 ,   加部茂彦 ,   神吉利典 ,   佐藤醇 ,   長谷川頼康

ページ範囲:P.1109 - P.1113

I.はじめに
 鎖骨頭蓋骨異形成症cleidocranial dysptasiaは,鎖骨の先天性完全欠損もしくは不完全欠損,頭蓋縫合,泉門の開存を主変化とする疾患で,常染色体優性遺伝疾患として知られている.本症は先天性疾患にもかかわらず,機能障害が少ないため放置され,偶然の機会に発見されることが多い2).今回われわれは1歳未満にて発見された症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

亜慢性期の手術によって視野・視力の劇的な回復がみられた下垂体卒中

著者: 新島京 ,   新宮多加志 ,   堀口聡士

ページ範囲:P.1115 - P.1118

I.はじめに
 下垂体腺腫内の出血もしくは出血性壊死による腺腫の急激な増大に起因する,突発性の頭痛,嘔吐,視野視力障害,眼球運動障害等を呈する病態は,下垂体卒中と呼ばれる.その頻度は,全下垂体腺腫の1-10数%といわれている1,3,6,7).いわゆるapoplexyとしては発症しないで,MRIで偶然発見されたsubclinicalな腺腫内出血をも含めると,全下垂体腺腫の10-20数%でみられるといわれている2,7)
 下垂体卒中による視障害の予後は必ずしも楽観的ではなく,当該症例に遭遇した場合には可及的速やかに血腫及び腫瘍を摘出し視神経並びに頭蓋内の減圧を計るべきであると考えられている2-5,7).特に,視神経は非可逆的な障害を受け易く,急性期に神経自身の減圧と微細な栄養血管の血流改善を行わなければ,その機能回復は難しいとされている2,5,6)

手術・化学療法にて治療した乳児anaplastic strocytomaの1例

著者: 斎野真 ,   嘉山孝正 ,   桜田香 ,   斎藤伸二郎 ,   佐藤清

ページ範囲:P.1121 - P.1126

I.はじめに
 小児gliomaの治療成績は成人例に比し良好であることは良く知られている11)一方,乳児gliomaの治療成績は未だ充分なものとは言えず19),今後解決しなければならない問題が多々残っている.そのひとつとして,放射線療法後の精神・知能障害,内分泌機能障害がある4,6,25,28).今回われわれは術後放射線療法を施行せず,手術及び化学療法のみで治療し良好な経過を示した乳児anaptastic astrocytomaの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

動脈瘤の塞栓術でgoose neck snareによる親カテーテルの保持が有用であった1例

著者: 松本博之 ,   増尾修 ,   桑田俊和 ,   森脇宏 ,   寺田友昭 ,   板倉徹

ページ範囲:P.1127 - P.1130

I.はじめに
 狭窄性病変に対する経皮的血管拡張術(PTA)や脳動脈瘤に対する塞栓術等,血管内手術の適応はますます広がりつつある.血管内手術の際に,動脈硬化の強い症例ではguiding catheter(親カテーテル)が目的の位置にうまく留置できずに,マイクロカテーテルを遠位部に誘導できないといったことはよく経験される.今回われわれは脳動脈瘤塞栓術において親カテーテルの固定にグースネックスネアが有効であった1例を経験したので報告する.

比較的長期間軽微な症状で経過した肺癌の脳転移,癌性髄膜炎の1例

著者: 北原正和 ,   関薫 ,   金森政之

ページ範囲:P.1131 - P.1135

I.はじめに
 悪性腫瘍の中枢神経系への転移の中でも,癌性髄膜炎は治療困難で予後不良である.今回報告する症例は肺癌からの脳転移および癌性髄膜炎であるが,脳転移巣の摘出,脳室腹腔シャント術後,癌性髄膜炎に対する放射線化学療法などを行わなかったにもかかわらず,1年以上の期間有為な日常社会生活を送り得たものである.癌性髄膜炎の経過としてはまれなものと考えられたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

約2週間の経過で増大した小児の硬膜外血腫の1例

著者: 金森政之 ,   関薫 ,   北原正和

ページ範囲:P.1137 - P.1142

I.はじめに
 急性硬膜外血腫は受傷後数時間以内までに増大する例が多い7,16,32).しかし過去の報告の中には,受傷数日から数カ月を経て硬膜外血腫が指摘される例や2,4-6,10,12,14,15,19,21,22,26,30,31,33),数日以上経過しても血腫の増大を認める例が散見される15,23,28).今回われわれは受傷後約2週間の経過で増大し,最終的に手術を施行した硬膜外血腫の症例を経験したので,その特徴と成因について文献的考察を加え報告する.

報告記

第4回国際神経外傷シンポジウム(4th International Neurotrauma Symposium)印象記

著者: 片山容一 ,   川又達朗

ページ範囲:P.1144 - P.1146

 第4回国際神経外傷シンポジウム(4th Interna—tional Neurotrauma Symposium)がYoung-Soo Kim教授(Yonsei大脳外)を会長として,1997年8月23日から28日までソウル市のシェラトン・ウオーカーヒルホテルで行われた.約400名の参加者を得て,合計289題(特別講演16題,ランチョンセミナー11題,ワークショップ48題,一般口演27題,ポスター187題)の発表があった.わが国からは90名を越える参加者があり,後に述べるように多彩かつ豊富な内容の研究成果が報告された.
 国際神経外傷シンポジウムは,神経外傷の研究者が専門分野を越えて一堂に会し,神経外傷を神経科学の一部門として討議しようとする目的で始められたものである.第1回が1993年に福島(会長:山本悌司教授(福島医大神内))で,第2回は1993年にグラスゴー(会長:Graham Teasdate教授(グラスゴー大脳外))で,第3回は1995年にトロント(会長:Charles Tator教授(トロント大脳外))で行われた.

ヴェトナムでの脳神経外科分野短期技術協力—Part.2第1回脳神経外科セミナーの開催

著者: 原徹男 ,   羽井佐利彦 ,   近藤達也 ,   秋山稔 ,   朝日茂樹

ページ範囲:P.1147 - P.1149

 日本より空路約7時間(香港経由),インドシナ半島東部に位置するヴェトナムに,本年2月,国際協力事業団(JICA)により,手術用顕微鏡が無償供与された.これに伴い,われわれは,JICAの要請をうけ,脳神経外科領域における技術協力短期専門家として,2月14日から3月21日までの5週間にわたり,ホーチミン市(旧サイゴン)に滞在した.ホーチミン市には,ヴェトナム随一の総合病院であるチョーライ病院があり,ここに手術用顕微鏡が初めて導入されたのである.この点に関して多くのことは,Part 1に詳述されているので,そちらにゆずるが,現在経済をはじめとして,多くの分野でめざましい発展をとげているヴェトナムに,microsurgeryが導入されたことは,ヴェトナムの脳神経外科史上特筆すべきことであった.われわれは,その技術指導という,外科医としては誠に栄誉ある役目を仰せつかったわけで,渡越前より身の引き締まる思いであった.昨年の秋頃より,日常の臨床の傍ら,手術ビデオや手術器具,そして英文の教科書などを少しずつ整え,不安と期待の交錯する気持ちで日本を出発したのである.
 実際の手術場でのヴェトナム人脳神経外科医の様子は,Part 1に述べられているように(macroではあるが)“極めて器用”の一言につきる.症例数もあり,毎日のように手術しているわけで,器械出しのナースを含め,実によく訓練されている.ただ,現在の彼らには,手術時問の短い術者が,腕の良い外科医という認識があり,このままでは,じっくりと腰を落ちつけて丁寧な手術をめざすというmicrosurgeryの目的とは大きくかけ離れてしまう.当施設にも留学経験のあるNho先生と,髄芽腫や蝶形骨縁の髄膜腫などの手術をする機会に恵まれたが,やはり,その点がなかなか理解してもらえず,この地にmicrosurgeryが根付くのには,もう少し時間が必要であろうと痛感した.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第25巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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