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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科25巻2号

1997年02月発行

雑誌目次

脳神経外科医に要求されるもの

著者: 榊寿右

ページ範囲:P.99 - P.100

 脳神経外科は,人の不幸や悲しみに最も遭遇する機会の多い臨床分野の一つであろう.麻痺や言語障害を起こした患者の心には,どんなに軽度なものであっても根本的な人生設計の変更なくして笑みは生まれないだろう.ましてや意識を失った患者は医療する側の一方的な提供に甘んじなければならない.日常臨床において,一歩間違えば患者をそういう障害者にしかねない脳神経外科医に課せられる倫理的責任は極めて重いと言わざるを得ない.
 学生生活を終えて医師国家試験に合格すれば,臨床研修医として医師の第一歩をスタートさせることになる.医師の最も重要な使命であり,任務である「生命の遵守とそれに対する尊厳」をどこで学ぶのであろうか.私は「生命は最も尊ばれるべきもの」という誰もが当然知っているはずのものに対して,生命の存亡という場面に直面した時,迷うことなく自己を律して行動し,生命を救うべく対応し得る医師に育つのに数年以上の年月が必要であると思っている.何故なら頭の中で十分理解していても,行動を伴うことが出来るかどうかは別問題だからである.入局してからしばらくの期間,先輩医師に人格も崩壊するほどに怒鳴られ,重症患者に対し,枕頭看護さながら治療に当たらせられるという経験は「生命を護るために行動すること」がどれだけ重い意味を持つものであるかを知る上で必要不可欠なものと考える.私は最近,ある病院で大変考えさせられる事を経験した.用事があってその病院を訪れていた時に,今にも死にそうな重症の患者をかかえた医師が,夕方5時の勤務時間が終わるのを待ちかねたように,カネの音と共に何の顧虜の念なく消え去るのを見たのである.その医師の出身が我が母校であり,卒業する時にはそれなりの成績を収め,ある有名な市中病院で研修を受けていたと聞いて愕然とした.胸座を取って殴ってやりたい衝動にかられたのを今でもはっきりと覚えている.改めて卒業直後の修養の大切さを知ると共に,生命の尊厳や医の倫理などというものは,声高らかに叫ぶものではなくて,身をもって体で覚えるものであることを痛感した.入局して訳も分からず怒鳴られて,不眠不休で枕頭看護さながらに鍛えられた数年間の経験は,生命の尊さを体で覚えるために必要だったのである.

総説

体内埋め込み用programmable pulse-generatorを用いた脳機能外科:不随意運動の脳深部刺激療法を中心に

著者: 片山容一

ページ範囲:P.101 - P.108

I.はじめに
 脳深部刺激(DBS)療法が多くの症例に試みられるようになったのは1970年代である(Fig.1).当時のDBS療法に使用された刺激システムは,体外のパルスジェネレーターによって刺激を発生させ,これをトランスミッターにより無線で体内に送るものであった.
 このような刺激システムには多くの臨床的な問題があった.本人の知的機能や運動機能に障害があれば,自分でトランスミッターを操作することが困難である.逆に本人が無暗に刺激条件を変更してしまうという危険もある.また刺激をしたまま眠ってしまうこともある.さらに入浴中や運動中にはトランスミッターを作動させにくいという問題もある.これらは体外から刺激を送るシステムの持つ基本的な限界である.多かれ少なかれ,これがDBS療法の一般化を妨げてきたといえる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

脊髄動静脈奇形の手術

著者: 宮本享 ,   永田泉 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.109 - P.115

I.はじめに
 脊髄動静脈奇形は選択的脊髄動脈造影の発達に伴い本疾患に対する塞栓術が開発され治療を行う機会が増加したが2-5,20,21,29),superselective catheterizationの開発の結果,本疾患のいくつかのタイプが最も根治的な治療が困難な病変であることが判明してきた20).本稿では現時点での脊髄動静脈奇形の手術的治療について述べる.

研究

肺癌よりの転移性脳腫瘍の治療方法について:performance statusの推移よりの検討

著者: 中川秀光 ,   萩原靖 ,   山田正信 ,   森内秀祐 ,   岩月幸一 ,   中村慎一郎 ,   宝来威

ページ範囲:P.117 - P.122

I.はじめに
 癌患者の治療についてはquality of life(Q.0.L.)が唱えられて久しく,performance status(PS)の程度が重要である.転移性脳腫瘍の場合は症状の軽減が主となり,残された限りある人生における個々のfunctional statusを維持することに主眼がおかれる.特に脳以外の癌病巣およびそれに対する治療等による抵抗力の低下等があらかじめ存在する場合が多く,積極的治療が即,好結果につながらない.悪性脳腫瘍患者では免疫能の低下が報告され6,20)特に高年齢患者に対しては免疫力4,18),回復力が悪いため治療中のPSが特に重要となる.現在転移性脳腫瘍は主に手術療法,放射線療法,化学療法から成り,その適応,治療法については多くの議論がなされている3,15).今回PSとしてKamofsky score(KS)の変化を追求しそれよりこれらの転移性脳腫瘍の治療法についてPSの観点から検討した.

術中SEPモニタリングによる中心溝の同定:陽性電位P20とP25の鑑別の重要性と術中ビデオを利用した簡便な同定法

著者: 並木淳 ,   大平貴之 ,   石原雅行 ,   戸谷重雄 ,   中務正志 ,   村瀬活郎

ページ範囲:P.123 - P.129

I.はじめに
 大脳皮質感覚・運動野近傍の病変に対する開頭術では,中心溝の位置を同定する目的で正中神経刺激による体性感覚誘発電位(SEP)の術中皮質上記録が行われている4,5,7,8,10-12).潜時約20msecに出現するpostcentralnegativity(N20)とprecentral positivity(P20)の位相の逆転が認められた脳溝を中心溝と同定するが,この判定基準の電気生理学的根拠は,中心溝後壁の感覚野area3bに存在する水平双極子の活動により,中心溝をはさんでN20とP20が形成されるためと考えられている1,6,11).しかし,中心溝の近傍ではN20・P20にひきつづき垂直双極子起源とされる1-3,6,11)陽性電位P25(Desmedtら3),高橋ら11)のP22,園生ら9)のcP22)が現れてSEP波形を複雑にする結果,位相の逆転からだけでは中心溝の位置を誤って同定する危険があることが指摘されている12),中心溝近傍の病変に対する開頭手術において,術中SEPモニタリングによる中心溝同定の有用性は異論のないところであるが8),この中心溝の誤判定の危険性が解決されていないため,術中SEPモニタリングによる中心溝の同定は,どの施設でも簡便に施行できて,かつ信頼性のある術中モニタリングになり得ているとは言い難い.われわれは1988年以来施行してきた術中SEPモニタリングによる中心溝同定の経験から,現在では簡便な方法で信頼性の高い中心溝の同定を行うことが可能になった.本研究ではわれわれが行ってきた術中SEPモニタリングによる中心溝同定の経験を提示し,通常の術中モニタリングの1つとして現在われわれが一般病院で行っているSEPモニタリングの実際の手順,特にP20とP25の鑑別の要点と,術中ビデオ画面を利用した簡便な中心溝の同定方法を報告する.

小児の髄膜腫:5例の臨床的検討

著者: 萬代和弘 ,   玉木紀彦 ,   倉田浩充 ,   江口貴博

ページ範囲:P.131 - P.136

I.はじめに
 小児(15歳以下)の髄膜腫は成人に比して比較的稀な腫瘍であり,その頻度は小児の脳腫瘍中,0.4%から3.6%であり4,11-13,15,21),成人の髄膜腫とは臨床的特徴が異なる.今回われわれは5例の小児髄膜腫を経験した.その臨床的特徴を検討し,文献的考察を加えて報告する.

後頭蓋窩硬膜動静脈奇形の組織学的検討

著者: 百次仁 ,   六川二郎 ,   山城勝美 ,   石川泰成 ,   奥山久仁男 ,   戸田隆義

ページ範囲:P.137 - P.142

I.はじめに
 脳血管撮影の普及に伴い硬膜動静脈奇形(以下DAVM)の診断は容易となり近年,多数の報告がなされている.静脈洞血栓症とDAVMの関連が論ぜられることが多いが,静脈洞血栓症がDAVMの原因とする報告3-5,8,12,13)や逆に静脈洞血栓症はDAVMの結果であるとする報告17,18)もあり意見の一致をみていない.われわれは術前塞栓術を施行後,手術的に摘出した静脈洞及びDAVMを組織学的に検討したのでDAVMの発生機序について考察を加えて報告する.

頸部内頸動脈動脈瘤の外科治療:治療経験と手術方針について

著者: 長澤史朗 ,   川西昌浩 ,   多田裕一 ,   太田富雄

ページ範囲:P.143 - P.149

I.序論
 頸部内頸動脈に動脈瘤が発生する頻度は手術対象となった頸動脈病変の1%以下と比較的低く,さらにこの半数以上は内膜剥離術後に発生したものである3,6-12).最近は画像診断の進歩により偶然発見される動脈瘤が増加し,動脈瘤の発生病態も明らかになりつつある.また脳血流検査法の進歩や頭蓋底手術手技の導入により,外科治療の安全性が高まった6,7)
 本研究では,われわれが経験した4例の頸部内頸動脈瘤を報告し,外科治療の選択につき検討したので報告する.

症例

壁内出血により発生した中大脳動脈分枝—血栓化紡錘状巨大動脈瘤の1例

著者: 藤村幹 ,   関博文 ,   菅原孝行 ,   佐熊勉 ,   太田原康成 ,   原田範夫

ページ範囲:P.151 - P.155

I.はじめに
 巨大動脈瘤の症状発現機序としては,頭蓋内占拠性症状,破裂によるくも膜下出血,そして血栓によると思われる虚血症状があげられるが,稀なものとして壁内出血や瘤内の完全な血栓化による動脈瘤の急激な増大が報告されている13)
 今回われわれは,CTおよびMRI所見より動脈壁内出血にて発症したと考えられた直径2.5cmの中大脳動脈瘤を経験した.手術所見より本症例は中大脳動脈の分枝に形成された紡錘状動脈瘤であった.

特発性血小板減少性紫斑病に合併した慢性硬膜下血腫の1例

著者: 宮本理司 ,   佐々木浩治 ,   大島勉 ,   松本圭蔵 ,   伊藤淳子

ページ範囲:P.157 - P.161

I.はじめに
 われわれは特発性血小板減少性紫斑病(idiopathicthrombocytopenic purpura,以下ITPと略す)に合併した慢性硬膜下血腫を経験した.血液凝固異常を有する患者には脳内出血やくも膜下出血を合併しやすいことが報告されているが1,3,5,15),ITP患者に慢性硬膜下血腫を合併したという報告は少なく,文献上検索し得た範囲では,わずかに6例の報告2-4,7-9,13)があるのみであり,稀な症例と考えられるので報告するとともにその治療法についても若干の文献的考察を加え報告する.

頭蓋内,眼窩内進展および多発性転移を伴ったolfactory neuroblastomaの1例

著者: 佐々木学 ,   佐藤雅春 ,   田口潤智 ,   尾崎正義 ,   能勢和政 ,   花田正人 ,   赤井文治 ,   早川徹

ページ範囲:P.163 - P.167

I.はじめに
 Olfactory neuroblastoma(ONB)は上鼻腔に発生する腫瘍であるが,他部位への転移をきたしたり,稀に頭蓋内にも浸潤することがある.このような進展例は予後不良とされているが,最近は化学療法を併用した試みがなされ,有効との報告も散発的ながらみられるようになってきた.われわれも頭蓋内,眼窩内に進展し,全身に多発性転移をきたしたONBに対して,化学療法を併用した症例を経験したので,報告するとともに文献的考察を行った.

新疾患概念としてのlymphocytic infundibulo-hypophysitis with diabetes insipidusの提唱:症例報告と文献的考察

著者: 宮城航一 ,   新垣辰也 ,   伊藤壱裕 ,   古閑比佐志 ,   銘刈晋 ,   金城利彦 ,   新垣有正 ,   仲宗根進

ページ範囲:P.169 - P.175

I.はじめに
 1992年,われわれはNeurol Med Chirにlymphocy—tic adenohypophysitis(以下LAHと略)としては珍しい妊娠出産に関係なく尿崩症を伴って発症した症例を報告した11).翌年,Ahmed2)は壊死を除けばわれわれの症例と病理学的にほぼ同じ病態を有した2症例をnecrotiz—ing infundibulo-hypophysitisと命名し報告している.その後,われわれはもう1例,同様な症例を経験した.従来報告されてきた妊娠出産に関係したLAH3-8,10,13,15-22)とわれわれの症例を含め尿崩症を伴ったlymphocytic infundibulo-hypophysitis(以下LIHと略)の10症例1,2,11,14,17,23)を比較検討した結果,Ahmedの提唱したne—crotizing infundibulo-hypophysitis2)を新しい疾患単位としてLAHから独立した疾患とすべきと考えた.ただし,壊死を伴った症例は10例中3例にすぎず,一方で全例に尿崩症を認めたことからLIH with diabetes in—sipidusと命名すべきで妊娠や出産と関連したLAHは炎症が下垂体前葉に限局し後葉は障害されないのでLAH related to pregnancy or deliveryと呼ぶべきである.この点に関して文献的考察を加え報告する.

嚢胞内を移動する塊をもった症候性ラトケ嚢胞の1例

著者: 桑原孝之 ,   篠原義賢 ,   杉浦正司 ,   平松久弥

ページ範囲:P.177 - P.180

I.はじめに
 CT及びMRIの出現以来,ラトケ嚢胞の報告は多い.報告上,嚢胞内容物は多様であり,髄液様の無色透明の液体,ゼリー状,白濁した粘液,乳汁様,顆粒状,画像上二層性を示すものなど種々様々である1,7).しかし嚢胞内に腫瘤を認めたとの報告はきわめて少ない.渉猟しえた限りではKucharczykらが嚢胞壁に固着したdesquamated cellular debrisをwaxy noduleと命名し報告し2),その後Sumidaらも同様の症例を報告している4)のみである.
 今回われわれは,嚢胞内を移動するmassをもったラトケ嚢胞を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.また本例は画像上,視床下部への圧迫所見がないにも関わらず視床下部性の下垂体機能低下症を呈していた.その機序についても考察を加えた.

頭蓋外内頸動脈瘤の1手術例

著者: 山口智 ,   沖修一 ,   小笠原英敬 ,   日比野誠一郎 ,   佐藤斉 ,   伊藤陽子 ,   岡崎英登

ページ範囲:P.181 - P.185

I.はじめに
 頭蓋外内頸動脈瘤は頭蓋内に発生する脳動脈瘤に比べると稀な疾患と考えられ,まとまった報告例も少ない5,6,8-11)
 症状としては脳虚血発作2-4,6,8-12),腫瘤のmass effectによる嚥下困難8,10,11),動脈瘤と同側の頭痛8,9,11,有痛性の頸部腫瘤として発見されるもの8,11)などがあり,その頻度の少なさからも治療方針,手術適応は未だ確立されてないと考えられる.今回われわれは無痛性の皮下腫瘤で発見された頸部内頸動脈瘤に対し動脈瘤切除及び血行再建術を行った1症例を経験したのでここに報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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