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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科25巻4号

1997年04月発行

雑誌目次

入局説明会

著者: 柴田尚武

ページ範囲:P.297 - P.298

 「扉」の執筆依頼を受けたのが1月8日であるから,本学では丁度6年次生の卒業判定も済み,各科が入局説明会を盛んにやっている時期である.大学病院玄関の掲示板には,色とりどりの各科の入局説明会案内のポスターが賑やかに貼り出されている.当科も1月10日に入局説明会をやり,5-6名の入局予定者を確保する見通しがつき,ほっとしているところである.勿論ただ1回の入局説明会ですんなりと入局が決った訳ではなく,ここに到るまでの,医局長と学生勧誘係(毎年若い医員の中から,適役と思われる一人を選んで任命している)の並々ならぬ水面下の努力の結晶なのである.内心では「世間では厳しい就職難なのだから,入局試験でもやったろうか」と思ってみたりもするのだが,実行する勇気も度胸もない.実際,某大学脳神経外科教授が,信念に従って入局勧誘活動を一切やらなかったところ,その年の入局者は0であったため,翌年からはやらざるをえなかったという話を聞くと尚更である.
 国公私立18大学を対象に,「新卒医師の診療科選択の現状」を調査した報告(1994年度医学教育助成事業)によると,1993年の内科系教室の入局状況は52.4%で,外科系教室のそれは34.7%であり,全国の医学生全体の傾向として外科系に進む者が減少し,内科系が増加している訳であるが,この傾向は年と共に強まり,女子医学生の増加がこの傾向をますます助長している一因であるとしている.本学の1996年における入局状況は,内科系が58名(うち女性27名)で,外科系が49名(うち女性10名)であり,全国と全く同じ傾向である.もっとも女子医学生は外科系でも眼科,産婦人科に集中している.

総説

世界の保健医療:新しいパラダイムを求めて

著者: 若井晋

ページ範囲:P.299 - P.306

I.はじめに
 脳神経外科医を含めて外科医の陥りやすい陥凹は手術「のみ」によって患者を治癒せしめうると考えることである.それは患者を全的な人間としてではなく部分の集合体としてしか見ない人間観に依っている.それは一方で外科医自身の手術「技術」(テクネー)を外科医自身の全的な人間としての,他の人間への全的な関わりから切り離して部分的なものへと低下させることに他ならない.筆者はこのような医療をholistic medicine(全的医療)に対してpiece-meal medicine(切り刻まれた医療)と呼ぶ33).更に全的医療とは単に個人としての医療従事者(heanth care provider)が個人としての患者(client)に関わることだけではなく,それぞれが属する共同体から,地域,国,世界との関わりの中で保健医療に関わっていくことをも意味している.
 WHOのheanth care pyramidは人的資源,財政的資源の適正な配置,配分を示すもので世界の保健医療を語るときに避けて通れない一つの指標である.先端医療(hi-tech medicine)に従事する脳神経外科医にとってもまたこの世界の限られた人的,財政的資源の中でheanth care providerとして働くように要請されている.それは単に保健医療の枠組みの中でのみ考えられるものではなく,政治,歴史,文化,開発,公正,正義,平和,人権といった広いperspectiveの中で見られなければならない.人権との関係ではHealth rightという概念が提起されてきており20),文化との関係では伝統医学(tradi-tional or alternative medicine)が再評価されてきている3,18).1994年4月に起こったルワンダでの虐殺に医療従事者の一部が関与したこと1),歴史的にはナチスや,15年戦争中の日本軍が中国で行った人体実験に医師が関わっていたことなどを通して人権と保健医療との深い関わりが読みとれる.しかもそれは歴史的な出来事ではなく現在この地球上で起こっている出来事であることを“Health right”に関わる医療従事谷の一人として認識すべきであろう.本稿では上述の観点から,1)脳神経外科医にも知っておいてもらいたい(と著者が考える)地球規模の問題,2)世界の保健医療の現状,3)それに及ぼす世界銀行の政策,4)最後日本の地域保健医療の中で脳神経外科医の果たす役割について若干の見解を,著者の経験及びデータに基づいて論ずる.

研究

急性硬膜下血腫非手術例の自然経過:CTによる急性・亜急性期の血腫の経時的変化の検討

著者: 泉原昭文 ,   織田哲至 ,   鶴谷徹 ,   梶原浩司

ページ範囲:P.307 - P.314

I.はじめに
 急性硬膜下血腫の自然経過に関する報告は,従来,慢性硬膜下血腫の発生に関連したものが多いが18,19,21),急性期に急速自然消失したり2-5,9,13-15,17),亜急性期にmass effectが増大して手術を要した症例の報告1,6-8,10-12)が最近散見される.しかしながら,急性硬膜下血腫を保存的に観察した際の急性・亜急性期の血腫の経時的変化に関してのまとまった報告はきわめて少ない10)
 今回,われわれは保存的に加療した外傷に起因する急性硬膜下血腫で,少なくとも2回以上のCTを施行し得た症例を対象として急性・亜急性期の血腫の経時的変化について検討したので報告する.

視床痛に対する大脳皮質運動野刺激療法

著者: 藤井正美 ,   大本芳範 ,   北原哲博 ,   杉山修一 ,   上杉政司 ,   山下哲男 ,   城山雄二郎 ,   伊藤治英

ページ範囲:P.315 - P.319

I.はじめに
 視床痛を中心とする中枢性疼痛は一般に薬物治療が困難なことが多い.そこで外科的治療として,視床破壊術3,15,18,25)や視床知覚中継核5,10,11,24),内包後脚1),脊髄後索20)の電気刺激が試みられているが,その効果に関して多くの議論がある.近年,中枢性疼痛に対して大脳皮質運動野電気刺激療法の有効例が報告されてはいるが,その効果についても意見が分かれている13,14,19).また大脳皮質運動野の電気刺激療法を行う際,刺激効果に与える重要な因子の一つとして刺激条件が挙げられるが,その刺激条件についての一致した見解は得られていないように思われる.そこで今回われわれは脳梗塞または脳出血後に発症した中枢性疼痛の患者に対し大脳皮質運動野の硬膜外電気刺激療法を行い,その臨床的効果および至適刺激条件について検討したので,若干の文献的考察を加え報告する.

側脳室前半部病変に対する経脳梁法と経皮質法の比較:脳室拡大と可視範囲との関連について

著者: 長澤史朗 ,   三宅裕治 ,   太田富雄

ページ範囲:P.321 - P.327

I.序論
 側脳室腫瘍は小さくても間欠的に脳圧亢進症状を来たすことがあれば,脳室内を鋳型状に占拠するほど巨大化しても症状を出さないこともあり,診断確定時の腫瘍の大きさは症例により著しく異なる.また腫瘍の性状や局在・伸展も変化に富んでいるため,その摘出時には個々の症例に適した手術接近法を選択することが重要である.
 脳室内病変へは経脳梁接近法が広く利用されているが,脳室拡大がある場合には経皮質接近法が有用とされている4,7-10).しかし脳室拡大の程度,腫瘍の局在や大きさなどに関連して両接近法の適応を検討した研究は少ない.そこで本研究ではわれわれが経験した側脳室前半部病変に着目し,各症例の画像所見と手術所見を比較すると同時に,模型を用いて種々の程度の脳室拡大時に各接近法で視認できる範囲を検討した.

画像誘導手術支援装置を用いた難治性てんかんの手術

著者: 橋詰清隆 ,   田中達也 ,   国本雅之 ,   前田高宏 ,   米増祐吉

ページ範囲:P.329 - P.335

I.はじめに
 脳神経外科領域で手術支援を目的とした画像誘導装置が開発されてから間もないが,画像診断とコンピュータの進歩によりその精度や操作性は年々改善され,数種類が実用化されている.われわれの施設でも1995年度よりカナダISG社製のViewing Wand®が導入され,実際の手術に応用している.まだ症例数は少ないが,この装置を用いた難治性てんかんの手術例を提示し,画像誘尊手術の利点,問題点について報告する.

症例

前大脳動脈領域における末梢型外傷性破裂脳動脈瘤:閉鎖性頭部外傷に伴う遅発性頭蓋内出血例の検討

著者: 笹岡保典 ,   鎌田喜太郎 ,   金本幸秀 ,   大塚博之 ,   崎谷博征 ,   本山靖

ページ範囲:P.337 - P.344

I.はじめに
 外傷性頭蓋内脳動脈瘤の発生要因としては,穿通性外傷を主とする直接血管損傷と,閉鎖性外傷による間接損傷があり,特に閉鎖性頭部外傷に伴う外傷性脳動脈瘤は,比較的稀な頭部外傷の合併症とされている.しかも,外傷後ある時期を経てしばしば頭蓋内出血(delayed hemorrhage)を来たし,また予後も極めて不良であることから1),頭部外傷の合併症として臨床的にも社会的にも問題となることが多い.
 今回われわれは閉鎖性頭部外傷後,数週間後に突然誘因なく脳内出血を来たし,急激な経過をたどり死亡した3症例の前大脳動脈末梢部領域における外傷性破裂脳動脈瘤を経験したので,それらの臨床経過,CT上の特徴ならびに剖検所見を併せて検討し,本疾患について文献的考察を加え若干の知見を得たので報告する.

脳ドックで見つかった脳動脈瘤手術に際しての自己血輸血の使用

著者: 小澤常徳 ,   鎌田健一 ,   加藤俊一

ページ範囲:P.345 - P.347

I.はじめに
 輸血(同種血輸血)の使用においては,献血者のスクリーニング検査の強化など安全性を高める努力がされてはいるが,輸血後肝炎や輸血後GVHD(graft versus host disease)などの危険は完全には回避できない.これら同種血輸血によるリスクを避けるために,自己血輸血の普及が望まれている.今回われわれは,脳ドックにて発見された脳動脈瘤の開頭手術に際して,不測の事態による出血に対する輸血として自己血輸血を選択し,準備した.その意義についての考察を加え,報告した.

急性痴呆にて発症した硬膜動静脈瘻の1例

著者: 中井完治 ,   梅沢仁 ,   神山信也 ,   大谷直樹 ,   小野健一郎 ,   加藤裕 ,   石原正一郎 ,   島克司 ,   千ケ崎裕夫 ,   加地辰美

ページ範囲:P.349 - P.354

I.はじめに
 一般に硬膜動静脈瘻(以下dural AVF)の症状として血管性雑音,頭蓋内圧亢進症状や脳内出血などが知られている11)が,痴呆は極めて稀である.こうした痴呆は治療により改善できることから,treatable dementiaとして最近注目を浴びている12).今回われわれは,記銘力の障害を主徴とし,失認,計算力の低下などの痴呆症状で急性に発症したdural AVFの1例を経験したので,病態メカニズムや責任病巣を中心に,若干の文献的考察を加えて報告する.

自動釘打ち機による穿通性脳損傷:外傷性脳動脈瘤合併症例

著者: 作田善雄 ,   荒井祥一

ページ範囲:P.357 - P.362

I.はじめに
 自動釘打ち機(nain gun)による頭蓋内損傷例は,本工具の普及に伴い増加の傾向にあるが,外傷性脳動脈瘤を合併した症例はこれまで報告されていない.
 今回われわれは,自殺を企図して頭蓋内へ合計9本の釘を打ち込み,後に外傷性脳動脈瘤を合併した稀な症例を経験したので報告する.

Hypertrophic spinal pachymeningitisの1例

著者: 朝本俊司 ,   杉山弘行 ,   日野健 ,   小粥正博 ,   林宗貴 ,   岩間淳一 ,   土居浩 ,   長尾毅彦 ,   井田正博 ,   高橋学 ,   松本清

ページ範囲:P.363 - P.366

I.はじめに
 Hypertrophic spinal pachymeningitis(以下HSP)は,1869年Charcotによって初めて記載された比較的稀な疾患で4),臨床症状及び画像診断上,特異的所見が無いため術前診断に苦慮することが多い.今回われわれは,下位頸椎から上位胸椎にかけて限局性のHSPにより脊髄症状を呈した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

脳室腹腔短絡術後に難聴を呈した低髄圧症の1例

著者: 宮崎芳彰 ,   冨井雅人 ,   沢内聡 ,   池内聡 ,   結城研司 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.367 - P.371

I.はじめに
 今回われわれは,くも膜下出血後の正常圧水頭症に対して脳室腹腔短絡術を施行したところ,起座にて悪化する難聴を認め,antisiphon deviceを設置することにより症状の改善をみた稀な1例を経験したのでその発見機序を中心に文献的考察を加え報告する.

動静脈瘻により四肢麻痺を来たしたneurofibromatosis

著者: 姉川繁敬 ,   林隆士 ,   鳥越隆一郎 ,   祝迫恒介 ,   栄俊雅 ,   小笠原哲三 ,   宇都宮英綱

ページ範囲:P.373 - P.378

I.はじめに
 neurofibromatosis typeⅠ(NFⅠ)は常染色体優性遺伝形式をとり,全身の神経線維腫の発生を特徴とする疾患である7).血管系の異常を多く認めるものはvascular neurofibromatosisともいわれ,血管閉塞,動脈瘤,動静脈瘻(AVF)などの報告が見られる7).われわれは最近,頭蓋外椎骨動脈のAVFによる四肢麻痺で発症し,諸検査にてAVFとそれに隣接するfusiform動脈瘤,さらにモヤモヤ血管を伴う中大脳動脈の閉塞を合併したNFⅠを経験した.この症例に対してinterventionalに瘻孔を閉塞し,神経症状の著しい改善を認めたので,若干の考察と共に報告する.

特発性胸髄硬膜外血腫の1例

著者: 中邨裕之 ,   冨永悌二 ,   佐藤慎哉 ,   甲州啓二 ,   吉本高志

ページ範囲:P.379 - P.383

I.はじめに
 特発性脊髄硬膜外血腫(SSEH)は,比較的稀な疾患であり,急激に対麻痺,四肢麻痺等を生じるが,手術により良好な子後が得られるため迅速な診断と手術が要求される.近年多症例を解析した報告より,SSEHの疫学,症候,子後などは明らかになってきたが12,17),特発例の病因に関しては不明な点が多い5,16)
 今回われわれは,背部痛に続いて対麻癖を呈し,緊急手術により完全回復した症例を経験し,病理組織学的に出血.源と思われる異常血管を認めたので,SSEHの病因を中心に文献的考察を加えて報告する.

片側内頸動脈欠損症に合併した脳底動脈動脈瘤の2例

著者: 杉浦康仁 ,   宮本恒彦 ,   竹原誠也 ,   平松久弥 ,   赤嶺荘一 ,   内山晴旦

ページ範囲:P.385 - P.390

I.はじめに
 内頸動脈欠損症は0.01%以下と極めて稀な先天性病変であるが,比較的高率に脳動脈瘤を合併する1)ことが知られている.これらの多くは前交通動脈に好発する1)が,脳底動脈での発生は稀であり現在までに4例の報告2,17,20,24)があるにすぎない.今回,右内頸動脈欠損症に脳底動脈動脈瘤を合併した2例を経験した.1例は前交通動脈動脈瘤の術後長期間を経て新たに発生した脳底動脈分岐部動脈瘤であり,もう1例は圧迫症状を呈し血管内手術により改善をみたがfonnow-upの血管撮影上再増大を認めた脳底動脈本幹部動脈瘤であった.このような例の報告は今だかつてなく,内頸動脈欠損という特異な血行動態がもたらす治療上考慮すべき問題点を中心に文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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