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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科25巻5号

1997年05月発行

雑誌目次

うまい学会発表のコツ

著者: 植村研一

ページ範囲:P.397 - P.398

 学会発表に限らず,講演のうまさは天分や素質によるのではなく,緻密な計画性と自己訓練による.私が医学生の時,某教授は講義が下手でボソボソ声で何を言っているのかさっぱり分からなかった.しかしその先生の書かれた教科書は大変明快で分かり易かった.論文執筆と講演との大きな違いに気付かなければ,うまい学会発表はできない.
 同じ研究成果を論文にする場合,頁数の制限から,キーワード密度の極めて高い短文で書かざるをえない.読者は難解なら読み返せば良い.しかしこんな文章を棒読みされたら誰も分からない.演説原稿は分かり易い口語体の文章で書かねばならない.論文では図表数も極端に制限されるので,一つの図や表にできるだけ多くのデータを詰め込まざるをえない.こんな図表をそのままスライドにしたら最前列の聴衆すら分からない.「読みにくいスライドで恐縮ですが……」と言った言い訳ほど無礼な行為はない.学会の口頭発表で制限されるべきは演説時間であって,決してスライド枚数であってはならない.盛りだくさんの論文用の図表はそれぞれ複数のポイントを絞ったスライドに作り直す.日本の学会でスライド枚数を制限する会長がよくいるが,無理解も甚だしい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

海綿静脈洞部腫瘍の手術

著者: 玉木紀彦 ,   中村貢

ページ範囲:P.399 - P.409

I.はじめに
 1965年にParkinson15)が内頸動脈海綿静脈洞瘻に対して直達手術を行って以来,剖検や手術所見による海綿静脈洞の微小解剖の研究が行われ,その結果,海綿静脈洞内へのさまざまな到達法が報告されてきた.一方,手術アプローチが困難な脳深部病変に対しては,手術中の脳組織への侵襲を可及的に少なくするという頭蓋底外科手術の概念にもとついた開頭方法が開発されてきた.これらの開頭方法の普及と微小解剖の理解によって,かつてはno-man's tandと呼ばれていた海綿静脈洞の腫瘍に対する手術適応は拡大し,同時に手術成績も向上してきた.
 当施設でも積極的に海綿静脈洞部腫瘍に対して根治的手術を行ってきた.海綿静脈洞部も含めて頭蓋底部腫瘍の手術を行うには,1)神経解剖の理解と習熟,2)種々の神経画像診断法の応用,3)種々の術中モニタリングの利用,4)脳神経外科手術手技の熟練,などが重要である.

研究

内頸動脈後交通動脈動脈瘤の手術:MR血管撮影の元画像の有用性について

著者: 竹市康裕 ,   小島正行 ,   李英彦 ,   船津登 ,   京嶌和光 ,   馬淵順久 ,   津田永明 ,   長澤史朗

ページ範囲:P.411 - P.416

I.緒言
 MR血管撮影(MRA)は脳動脈瘤を無侵襲的に診断する検査法として近年急速に普及してきた.本検査法では通常MRA投射像が読影されているが,動脈瘤とその周囲の脳血管との詳細な検討にはMRA元画像が有用とされている1,5,7,11).さらにMRA元画像は原理的にはスライス幅の薄いT1強調画像と考えられるため,血管構築のみならず,これに隣接する脳や脳神経などを明瞭に描出することができる14)
 一方,内頸動脈後交通動脈動脈瘤(ICPC動脈瘤)は後交通動脈,前脈絡叢動脈や動眼神経などの重要な構造物に囲まれている.また側頭葉内に嵌入している場合には,不用意な手術操作により術中破裂を来たす場合がある16).このため従来から術前の詳細な検討が重要であるとされてきた.しかしながらX線血管撮影では,重なりあった動脈瘤と脳血管との立体的な把握が困難な場合があり,また脳や脳神経は描出できない.このため必ずしも十分に局所解剖の予測ができるわけではなかった.

頸動脈動脈解離に対する治療方法と長期予後の検討

著者: 宇野昌明 ,   上田伸 ,   新野清人 ,   西谷和敏

ページ範囲:P.417 - P.423

I.はじめに
 頸動脈動脈解離は以前は非常に少ないと言われていたが16),その概念の普及と診断法の進歩により最近では症例数が増加している1,2,5-10,12-14).原因としては動脈硬化を基盤としたものや外傷を基因としたものがある8,13).大部分の症例は保存的加療がなされてきたが,その治療方法,長期follow-upの成績についての報告は少ない13,18,19).今回われわれはその治療方法の選択と長期予後について検討したので報告する.

未破裂脳動脈瘤の手術適応と危険因子

著者: 村田高穂 ,   下竹克美 ,   宮川秀樹 ,   大畑建治

ページ範囲:P.425 - P.431

I.はじめに
 われわれの破裂脳動脈瘤(=破裂瘤)の全治療成績における社会復帰率は47.2%にすぎず19),その意味で未破裂脳動脈瘤(=未破裂瘤)の発見と手術は,これら破裂瘤を事前に治療し得る絶好のチャンスであるといえる.一方で,手術するからには,その危険性は破裂の可能性と比較して低いものでなければならない.ここではわれわれの未破裂瘤手術の経験から,とくに手術による問題発生症例を報告し,その手術適応と危険因子につき検討する.

症例

海綿静脈洞進展をきたした蝶形骨洞原発真菌性肉芽腫の1例

著者: 山本博道 ,   遠藤俊郎 ,   池田修二 ,   赤井卓也 ,   栗本昌紀 ,   高久晃

ページ範囲:P.433 - P.436

I.はじめに
 副鼻腔真菌症は,ときに頭蓋内に直接浸潤をきたし重篤な結果をもたらす.治療法としては,脳内浸潤のないものでは,中枢神経症状を出しても経鼻的蝶形骨洞開放術が侵襲が少なく最も良いとされている2-6).しかし,いったん脳内浸潤をきたすと,手術法に関わらずその予後はきわめて不良なことも知られている1,7,9).今回われわれは,蝶形骨洞原発のアスペルギルス症が頭蓋底部に直接浸潤し,手術を施行した1例を経験した.治療法の問題点を中心に若干の文献的考察を加え報告する.

激しい頭痛で発症し,特徴的な神経放射線学的所見を呈したspontaneous intracranial hypotensionの2例

著者: 木下泰伸 ,   寺下俊雄 ,   寺田友昭 ,   中井國雄 ,   板倉徹

ページ範囲:P.437 - P.442

I.はじめに
 腰椎穿刺などの医源性により頭蓋内圧が低下し,postural headacheを引き起こすことは良く知られているが,明らかな外因なしに頭蓋内圧低下をきたす病態も存在し,spontaneous intracranial hypotension(SIH)と呼ばれている.SIHは稀な病態であるが,最近posturalheadacheの原因として重視され,MRIでの髄膜の特徴的所見も報告されている5,8,11,13,14,20,28,31,32,35).今回,くも膜下出血と見誤るような激しい頭痛で発症し,経過中に硬膜下血腫を合併した症例と,頭痛で発症しMRIにて特徴的所見を呈した症例の2例のSIHを経験したので,本病態の臨床所見,および神経放射線学的特徴の文献的考察を加え報告する.

Microcatheterが頭蓋内に遺残した脳動静脈奇形の1例

著者: 溝上達也 ,   有田和徳 ,   中原章徳 ,   川本仁志 ,   栗栖薫

ページ範囲:P.443 - P.446

I.はじめに
 Guide wireによりcatheterを先進させる,いわゆるnon-flow-directed catheterに比して血流を利用するflow-directed catheterは,guide wireを使用せず無痛性で患者侵襲が少く,血流量の多い末梢病変部への到達に優れるという特性を有している.したがって,脳動静脈奇形の塞栓術においてflow-directed catheterが用いられることが多い.今回われわれは,脳動静脈奇形の塞栓術において使用した,1.5F MAGIC flow-directed catheterが断裂し,頭蓋内に遺残した症例を経験したので報告する.

脳SPECTにて観察し得た外傷性脳血管攣縮の2例

著者: 平野亮 ,   橋本透 ,   小林康雄 ,   相馬文勝 ,   藤原秀俊 ,   端和夫

ページ範囲:P.447 - P.453

I.はじめに
 外傷性脳血管攣縮は現在までいくつか報告されているが,破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血後の脳血管攣縮に比べその病態と発生機序は未だ充分に解明されていない5,7,9)
 今回,成因が異なり興味ある経過をとった外傷性脳血管攣縮を2例経験し,脳SPECTを用いて観察し得たので考察を交えて報告する.

脳膿瘍破裂により脳幹部梗塞を来たした1例

著者: 昆博之 ,   隈部俊宏 ,   冨永悌二 ,   溝井和夫

ページ範囲:P.455 - P.459

I.はじめに
 脳膿瘍と出血の合併には,脳内出血に続発した脳膿瘍と脳膿瘍からの出血の2つの機序が存在するが,いずれも非常に稀である1-4,6,7,10-14,16,17,19)
 脳膿瘍の死亡原因として,膿瘍そのものによる脳組織の圧排や頭蓋内圧亢進による脳ヘルニアが主なものとして挙げられるが,頻度は少ないものの膿瘍破裂による髄膜炎,脳室上衣炎,急性水頭症が指摘されている20).膿瘍内容物自体による急性毒性,脳血管攣縮による脳梗塞の可能性も指摘されている9)が,詳細な報告は見られない.

難治性前頭蓋底膿瘍の一期的郭清と腹直筋皮弁を用いた前頭蓋底の形成

著者: 加藤正仁 ,   加藤功 ,   浅岡克行 ,   澤村豊 ,   阿部弘 ,   山本有平 ,   越前谷幸平

ページ範囲:P.461 - P.465

I.緒言
 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は,難治性の感染症の起因菌として,各科でその治療,対策が検討されている.脳膿瘍を形成した場合も,その治療には,しばしば難渋する15)
 一方,近年の顔面を含む前頭蓋底部の病変に対する外科的な技術の進歩は著しく,以前は治療不能と思われた顔面頭蓋の腫瘍に対して,拡大摘出が可能となり,治療成績も良好である.今回われわれは,上顎洞内原発の扁平上皮癌摘出後,前頭蓋底より右前頭葉内,さらに海綿静脈洞を介し右側頭葉内に生じた脳膿瘍の症例に対し,根治的郭清術及び腹直筋皮弁を用いた前頭蓋底形成を行い,良好な結果を得たので,若干の文献的考察を加え報告する.

プロテインS欠損症による上矢状洞—静脈洞交会部巨大血栓症の1例

著者: 藤田敦史 ,   桑村圭一 ,   齋藤実 ,   阪上義雄 ,   高石吉將 ,   鈴木俊示 ,   松尾武文 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.467 - P.472

I.はじめに
 一般に静脈洞血栓症の原因としては感染,脱水,妊娠,腫瘍,外傷,経口避妊薬服用等が考えられる1).血液凝固系の異常であるプロテインS欠損症による静脈洞血栓症は稀で,1987年にEngesserら8)により報告されて以来,現在までに17例5,7-9,11-13,15-21)の報告が認められる.われわれの渉猟し得る限りでは,本邦での詳述報告例は未だ認められない.今回われわれは,急激な頭痛で発症した上矢状静脈洞,静脈洞交会部(torcular herophili),横静脈洞,直静脈洞にまたがる巨大血栓症を経験し,その原因として血液凝固抑制機能の異常を呈するプロテインS欠損症と診断したので,文献的考察を加えて報告する.

眼窩尖端症候群を呈した眼窩内神経鞘腫

著者: 姉川繁敬 ,   林隆士 ,   鳥越隆一郎 ,   祝迫恒介 ,   栄俊雅 ,   大塩善幸

ページ範囲:P.473 - P.477

I.はじめに
 眼窩内に出現する腫瘍として,偽腫瘍,涙腺混合腫瘍,血管腫,皮様嚢腫,リンパ腫などが多いとされている.神経鞘腫は比較的少なく2,6),大きなシリーズによると眼窩内腫瘍のうちの2.1-6.8%を占めるに過ぎないとされている3,11,12)
 一方,眼窩尖端症候群は一側の動眼,滑車,外転ならび三叉神経第1枝の症状に視神経障害を伴うものであり,進行性の黒内障と視神経萎縮をきたす9).今回われわれは右眼窩尖端症候群を有した症例において,CT scanで眼窩尖端部にmassを認め,手術により神経鞘腫が発見され,術後より症状の著しい改善を認めた1例を経験したので報告する.

下顎離断経口腔到達法を施行した頭蓋底陥入症の1例

著者: 朴永銖 ,   石川純一郎 ,   松本眞人 ,   佐藤宰 ,   大脇久敬

ページ範囲:P.479 - P.484

I.はじめに
 頭蓋頸椎移行部病変に対する治療は,手術アプローチ・手術術式についていまだ議論の多いところである1,2,4,6-9,12,14,16)
 今回われわれは,開口制限のため通常の経口腔的なアプローチによる手術では十分な効果が得られなかったために,下顎離断術を追加することによって良好な結果を得た頭蓋底陥入症例を経験したので報告する.

読者からの手紙

読者からの手紙

著者: 隈部俊宏 ,   吉本高志

ページ範囲:P.486 - P.486

 1984年東北大学脳神経外科,菅原らにより,「蝶形骨縁内側より前頭葉内に発育したYolk sac tumorの1例」というタイトルにて本誌に症例報告が掲載された(脳外12:401-406,1984)(Fig.1).
 この論文が執筆された時点での頭蓋内Yolk sac tumorの報告は30例に過ぎず,治療方法も確立されていなかった.本症例のポイントは,積極的な摘出術と放射線療法,さらに,それまで頭蓋内Yolk sac tumorに対してほとんど使用されることのなかったcisplatin,vinblastine,bleomycinの併用化学療法を行った点にある.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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