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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科25巻7号

1997年07月発行

雑誌目次

患者にやさしい脳神経外科医

著者: 森惟明

ページ範囲:P.585 - P.586

 大学時代の級友,京都大学神経内科教授 木村 淳君がCaplan LR:The Effec—tive Clinical Neurologist(Blackwell Scientific Publications,1990)の監訳をし,その邦訳を“患者にやさしい神経科医”として出版しているのが眼に止まり,ふと“患者にやさしい脳神経外科医”とはどのような脳神経外科医であるかを考えさせられた.それからしばらくして,米国でベストセラーとなったGoleman D:Emotional Intelli—gence.Why it can matter more than IQ(Brockman,1995)(土屋京子訳:EQこころの知能指数,講談社)を読んでみて,“患者にやさしい”とはどういうことかが,あぶり出されたように思う.
 多くの患者に,“よい医者とは”と質問すると,“患者に親切で,よく勉強する医者だ”という答えが返ってくる.“患者に親切だ”ということは“患者にやさしい”と同義で,“患者の痛みがわかる”共感能力を有するということであろう.このことは,他人の感情を理解し,他人の立場に立ってものを見る態度を有し,他人に対する心遣いができるというEQにほかならない.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頭蓋内—頭蓋内バイパス手術

著者: 宝金清博

ページ範囲:P.587 - P.597

I.はじめに
 血行再建は,1)血流量,2)血流方向,3)手法,4)目的といった視点から分類することができる(Table 1)24,28,33).血流量から見ると,a)高血流量バイパス(high flow bypass),b)低血流量バイパス(low flow bypass)の2つに大きく分けられることがあるが,厳密な定義はない.血流方向からみると,a)生理的方向のバイパス,b)非生理的方向のバイパス,の二つに分けることができる.手法は,実に多様であるが,基本的には,a)直接的か,b)間接的か,c)graftを使用するかどうかで,分けることができる10,27,44).また,血行再建術の目的からも分類が可能である.これらをまとめるとTable 1のようになる.1988年の国際共同研究の結果公表以降,慢性脳虚血に対する外科的脳血行再建は世界的には行われなくなった.しかし,本邦では,脳循環不全のある場合,現在でも行われている.しかし,現時点における脳血行再建術の適応は,2)と3)にある.この技術の多くは,脳動脈瘤手術や頭蓋底手術での応用範囲の広い技術と言える5,12,26,29,30-32,42)
 バイパス手術のうちで,最もよく使われる頭蓋外—頭蓋内バイパス術(EC-IC bypass)は脳表面での吻合が主であり,脳神経外科医にとって応用範囲の広い基本手技と言える.これに対して,ここで述べる頭蓋内−頭蓋内バイパス術(IC-IC bypass)は,頭蓋内動脈間での血管吻合(short graftを介在することもある)を意味している.通常のEC-IC bypassでは,不十分であったり,不可能であったりする場合に応用される手法である18,35).したがって,その適応は必ずしも広くはないが,Table 1からも理解されるように,生理的血流方向である,血流量が十分であるなど,利点も多い.この手術手技は,様々な部位での応用の可能な独立した技術であり,特定の解剖学的部位に特有の技術ではない.本シリーズの主題からはややはずれるが,本稿では,主に,本法の手術手技に関して述べたい.

研究

頭蓋内腫瘍摘出術の術前検査としてのMRI高速FLAIR法の意義

著者: 中口博 ,   佐々木富男 ,   桐野高明 ,   大久保敏之 ,   林直人

ページ範囲:P.599 - P.606

I.はじめに
 FLAIR法(fluid attenuated inversion recovery sequ—ence)は,自由水の信号を抑制したT2強調画像が得られるMRIの撮像法の一種である1-17).脳梗塞とWir—chow Robin腔との鑑別2,4,12-14)や,脊髄病変の描出6,15,17)などでの有用性が指摘されているが,脳腫瘍像に関してはいまだ報告は少ない4,12)
 われわれは,高速FLAIR法を種々の頭蓋内腫瘍34症例に適応し,詳細に読影した上で従来の撮像法の画像と比較した.その結果FLAIR法は腫瘍摘出術を施行する上で極めて有用な撮像法であると思われたので以下に詳述する.

頭部銃創例の臨床病理学的研究

著者: 志村俊郎 ,   向井敏二 ,   寺本明 ,   戸田茂樹 ,   山本保博 ,   中村俊彦 ,   高取健彦 ,   遠藤任彦

ページ範囲:P.607 - P.612

I.はじめに
 頭部銃創例は,本邦においてもここ数年増加し,最近は特に一般市民が巻き込まれることも多く見られ深刻な社会問題となっている14,19).そこで脳外科医も救急医療の現場で本症の治療に遭遇することもありその病態の把握が救命の鍵になることも少なくないものと思われる.著者らは,9例の頭部銃創例を経験したので銃弾による脳損傷の形成のメカニズムについてCT scanと剖検所見との相関を中心に臨床病理学的検討を行ったので文献的考察を加え報告する.

嗅神経系を保存するfrontal transbasal approach

著者: 河内正光 ,   富田享 ,   浅利正二 ,   大本堯史

ページ範囲:P.613 - P.619

I.はじめに
 傍鞍部あるいは斜台部病変に対する手術到達法のうち,従来の経前頭蓋底到達法は節骨篩板,筋骨洞を除去するため,両側嗅覚の脱落を惹起するという欠点があった.近年Spetzlerらは,前頭蓋底を構成する筋骨および眼窩骨を筋骨洞粘膜および鼻粘膜と一塊にして切離した後,腫瘍除去後これを前頭蓋底再建に用いて嗅神経系を保存する方法を報告したが12),今回われわれはこれをさらに改良し,より簡便な到達法を考案し3例の症例に本法を行い,有用と思われたので報告する.

症例

血栓性静脈洞炎に続発したと考えられる硬膜動静脈瘻に対して血栓融解術を試みた1例

著者: 新井俊成 ,   大野喜久郎 ,   吉野義一 ,   田中洋二 ,   成相直 ,   平川公義 ,   根本繁

ページ範囲:P.621 - P.626

I.はじめに
 硬膜動静脈瘻(以下DAVF)は全動静脈瘻の10-15%を占める11)が,上矢状静脈洞部(以下SSS)に発生するものは稀である.われわれは,両側頸静脈孔部に高度の狭窄および閉塞を認め,横静脈洞—S状静脈洞部とSSSにDAVFを有する稀な症例を報告し,本疾患の発生機序および治療法について考察する.

腹腔鏡による遊離脳室腹腔シャントカテーテルの摘出

著者: 平野仁崇 ,   笹島浩泰 ,   峯浦一喜 ,   伊藤康信 ,   太田徹 ,   羽入紀朋 ,   古和田正悦 ,   田中淳一 ,   小山研二

ページ範囲:P.629 - P.633

I.はじめに
 脳室腹腔シャント術後におけるシャント再建率は,小児で51-61%6,8,12,17,18),成人では28-37%6,8)であり,シャントカテーテルの離断によるシャント不全が15%1)と報告されている.離断したカテーテルは腹腔内に遊離して細菌感染や臓器癒着を引き起こし,髄液吸収の腹膜有効面積を減少させる7,10,11,13,18).また,カテーテルが陰嚢内9,19)や消化管9,19)に迷入した急性腹症例も報告されており,早期に遊離カテーテルを摘出することが望ましい.
 最近,遊離カテーテルを腹腔鏡で摘出し得た3症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

Nail-gunによる頭部顔面穿通性外傷:釘抜去に骨螺子ドライバーが有用であった1例

著者: 伊野波諭 ,   鈴木聡 ,   福井仁士 ,   倉富勇一郎 ,   中尾圭介 ,   宮園正之 ,   上加世田和文

ページ範囲:P.635 - P.639

I.はじめに
 Nail-gunは建築用工具として広く世界中で用いられており,諸外国では以前よりその使用に伴った脳損傷例が報告されている1,3,6,10).近年,本邦でもその普及に伴ってnail-gunによる穿通性脳損傷例の報告が散見されるようになってきた2,8,9).われわれはnail-gunによる穿通性頭部顔面外傷を経験し,釘の抜去において整形外科用骨螺子ドライバーが非常に有用であった.これに診断・治療法についての若干の文献的考察を加え報告する.

造影三次元CT scanが手術到達法の術前評価に有用であった大後頭孔髄膜腫の1例

著者: 金井真 ,   河野一彦 ,   上原貞男

ページ範囲:P.641 - P.645

I.はじめに
 大後頭孔左前外側部より生じた比較的巨大な髄膜腫に対して経後頭顆到達法により手術を行い,良好な結果を得た.この部位への到達法の術前評価に造影三次元CT scanが有用であったので報告する.

巨大嚢胞性神経鞘腫の1例

著者: 宮城敦 ,   前田浩治 ,   菅原武仁

ページ範囲:P.647 - P.654

I.はじめに
 聴神経鞘腫はしばしば嚢胞を形成するが,腫瘍のほとんどが嚢腫で形成される聴神経鞘腫は現在までに15例ほどしかなく,極めて稀である1-7,9,10,14).今回われわれが経験した症例を含めて,臨床症状,CT,MRI所見,及び病理組織学的所見を検討したので,ここに報告する.

腎移植後の多発性脳悪性リンパ腫の1例

著者: 雄山博文 ,   山雄久美 ,   杉山敏 ,   松浦治 ,   村上栄 ,   池田公 ,   井上繁雄

ページ範囲:P.655 - P.660

I.はじめに
 免疫抑制剤の投与に伴い悪性リンパ腫が発生することは諸外国に於いては比較的よく経験されているが,わが国に於いては移植例そのものが少ないことより比較的稀である1,10-12,14,21,31,35).しかもほとんどが,リンパ節に発生したものであり,脳に発生した報告例はわが国においては調べ得た範囲で2例見られるのみである8,20).われわれは,腎移植後の免疫抑制剤投与によると思われた脳の悪性リンパ腫の1症例を経験したので考察と共に報告する.

一過性に画像学的軽快をみたanaplastic astrocytomaの1例

著者: 鈴木謙介 ,   鶴嶋英夫 ,   吉井与志彦 ,   山田雄三 ,   坪井康次 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.661 - P.664

I.はじめに
 脳神経外科領域の疾患で感染,外傷,脳血管障害等は経過上画像学的に軽快を認めることがある.しかしneoplasmのなかでもgliomaの場合には手術,化学療法,放射線療法等の治療なしで画像上軽快を示すことは通常考えにくい.今回steroid theraphyとosmothera—phyのみで造影範囲が一過性に縮小したanaplasticastrocytomaの症例を呈示し,その興味深い病態について考察を加えた.

腎と脳に同時発症した乳児malignant rhabdoid tumorの1例

著者: 森実飛鳥 ,   中原一郎 ,   高橋潤 ,   石川正恒 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.665 - P.669

I.はじめに
 malignant rhabdoid tumor(以下MRTと略)は小児の腎と頭蓋内に好発する悪性度の高い腫瘍である.われわれは乳児の腎と頭蓋内に同時期に発生したMRTの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

読者からの手紙

FisherのCT分類をめぐって

著者: 井出冬章 ,   臼井雅昭

ページ範囲:P.672 - P.672

 Fisherによるくも膜下出血のCT分類1)は今までに広く使用されているが,特にgroup 4については誤って解釈され使用されていることが少なくない.
 Group 4は“diffuse or no subarachnoid blood,butwith intracerebral or intraventricular clots”と表現される群である.原論文を見れば明らかだが,Fisherはこの“diffuse”という単語を,group 2でも使っているように,「(厚い血腫を形成することなく)拡散した」出血を表現するのに用いている.したがって,group 4は「くも膜下出血は拡散しているか認められないが,脳内あるいは脳室内血腫を伴う」群となる.したがって,脳内出血や脳室内出血があっても,“diffuse”と言えない厚いくも膜下出血があればgroup 4ではなくgroup 3である.すなわち,group 4はgroup 1,2のsubgroupであると考えてもよい.実際,原論文では,厚いくも膜下出血に前頭葉内血腫を伴った症例,第3,第4脳室の鋳型状血腫を伴った症例など全てgroup 3である.本来group 3とすべき症例が脳内出血や脳室内出血があるためにgroup4と分類されていることが少なからずあるのを筆者らは経験している.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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