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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科25巻8号

1997年08月発行

雑誌目次

Hands-on workshopについて思うこと

著者: 中川洋

ページ範囲:P.679 - P.680

 外科医のtrainingは,いつの時代でも大きな課題である.特にmicroneurosurgeonの訓練にはどこの訓練施設でも頭を悩ましていると思う.1971年私はNew YorkのMount Sinai HospitalにBostonからresidentとして移動したが,その頃Prof.MalisはChairmanになったばかりでmicrosurgeryを精力的に押し進めているところであった.毎年microsurgical training courseが鼠や兎を使用して行われ,米国の各地からも外国からも多くの医師が参加していた.われわれresidentは手術の前夜遅くMi—crosurgical Labで鼠の腹部を開き癒着した腹部大動脈と下大静脈のsharp dissectionを出血させずに遂行することに挑戦していたのを今でも思い出す.そして手術室でチャンスが与えられた時に自分のmicrosurgical techniqueを発揮してStaffに認められれば,その後どんどん手術をさせてもらえた.その頃からProf.MalisはTVによるcommunication systemを自分のofficeとNeuroradiologyと手術室にそなえつけていて,Prof.Huangとのdiscussion及びresidentの訓練に最大限に利用していた.私のmicrosurgeryもProf. Malisの優しいが厳しい低音の“天の声”を聞きながら少しずつ修得していたと思っている.
 米国でのneurosurgical residencyは,少数精鋭主義であり大学病院でも1年に2人か1人のresidentしか採用しないので5年間のtrainingの間は多忙を極め大変な数の症例を担当することになる.それでもresidentの契約は1年毎なので態度や仕事ぶりの悪いresidentは米国人でもそのプログラムから追い出され,再びneurosurgeryの正式な訓練を続けられなくなる.このような厳しいresidencyを無事終了後2年間のcninical practiceを経て初めて専門医試験(口頭)を受験する資格が与えられる.日本の専門医受験資格とは未だかなり差があると考えられる.又米国では医療訴訟が多いのでprivate caseでは,staff surgeonとresidentの関係が微妙であり,residentの能力に応じて手術を手伝わせstaffが責任をとることになる.しかしCity Hospital,Generan Hospital,VA Hospital等ではresidentがstaffの指導のもとに全面的に手術を行い手術手技の修練を行う.このように若い外科医のtrainingは,海の向こうでも色々の問題をかかえているが,Chairmanはtrainingの充実を計るように最大限の努力をしているし,またプログラムの内容や質を厳密に審査する委員会もある.近年Hands日on workshopが盛んになり,北米の主要な脳神経外科学会であるAANSやCNSの前2日間に必ずskunl baseやspinan surgeryのpractical courseが組み込まれている.全米各地でもHands−on courseが頻回に開催されていて,講習費用がかなり高額にもかかわらず盛会のようである.

総説

傍鞍部腫瘍の解剖と手術選択

著者: 河瀬斌

ページ範囲:P.681 - P.688

I.はじめに
 トルコ鞍および傍鞍部には脳神経,内頸動脈,海綿静脈洞,下垂体とそれらを包む髄膜,そして蝶形骨があり,複雑な構造を形成している.したがってここに発生する良性腫瘍は神経鞘腫,髄膜腫,血管腫,脊索腫および下垂体腺腫の進展など多くの種類がある.これらは画像上一見同じような位置にあるようにみえるが実際には腫瘍の種類によって周囲の構造物と全く異なった解剖学的関係にある.この点を理解することは,より適切な手術法の選択をする上で最も重要である.ここではそのpathological anatomyと,それにしたがった手術法の選択について述べる.

研究

傍矢状部白質—脳梁—基底核損傷:びまん性軸索損傷に伴う痙性片麻痺の画像所見

著者: 益澤秀明 ,   久保俊朗 ,   金沢至 ,   神谷博 ,   中村紀夫

ページ範囲:P.689 - P.694

I.はじめに
 びまん性軸索損傷diffuse axonal injury(DAI)は痙性片麻痺/四肢麻痺を合併しやすい8,11).責任病変として,Jennetら8)は深部白質病変を示唆し,益澤11)は傍矢状部白質の剪断損傷(いわゆるgliding contusion)が痙性片麻痺と関連することを指摘した.われわれはDAI 100症例でCT/MRI所見を仔細に検討した結果,傍矢状部白質損傷のみならず,脳梁損傷,基底核部損傷を含めた所見が痙性片麻痺と密接に関連していることを見出した12,13)ので報告する.

破裂椎骨動脈瘤に対するproximal clipping術後評価における三次元CT血管造影法(3D-CTA)の有用性

著者: 田原重志 ,   池田幸穂 ,   野手洋治 ,   寺本明 ,   諌山和男 ,   高木亮 ,   隈崎達夫

ページ範囲:P.695 - P.700

I.はじめに
 近年,らせんCTを用いた3次元CT血管造影(3D—CTA)は頭蓋内血管病変の診断・評価に優れた検査法として認識されつつある.特に,最近では画像精度が向上し,その臨床的有用性が強調されている.今回われわれは,neck clipping不可能であった破裂椎骨動脈瘤に対しproximal clippingを行い,その手術前後において3D-CTAを行い,動脈瘤の消退および,椎骨脳底動脈系の血行動態の変化につき脳血管撮影と比較して評価を行ったところ,興味ある知見を得たので,若干の文献的考察を加え報告する.

成人慢性硬膜下血腫の血腫外膜および硬膜の組織学的検討

著者: 田中輝彦 ,   藤本俊一 ,   斎藤和子 ,   貝森光大

ページ範囲:P.701 - P.705

I.はじめに
 成人慢性硬膜下血腫(以下本症)はVirchow16)以来多くの説があるけれども,未だその成因が明らかにされてはいない.これ迄の組織学的研究の多くは主に血腫外膜についてのものであった9-11,18).しかし,血腫外膜への血流の大部分は硬膜由来であり13),本症の組織学的研究はどうしても硬膜と外膜を一緒に検討する必要があると考える.われわれはこれ迄本症にステロイド療法を行ってきた14)が,手術を必要とする症例も少なからず存在した.手術時には硬膜と外膜を一塊として採取し,両者の関連や外膜の性状等につき組織学的に検討したので,その結果を報告する.

頸部頸動脈狭窄病変由来の微小塞栓発生に影響を及ぼす因子の検討

著者: 秋山義典 ,   善本晴子 ,   長束一行 ,   戸高健臣 ,   野村素弘 ,   澤田元司 ,   森本将史 ,   橋本信夫

ページ範囲:P.707 - P.712

I.はじめに
 1982年にAaslidらにより開発されたTranscranial Doppmer法(以下TCD)により,頭蓋骨を介して頭蓋内主要血管の血流を測定することが可能となった1).更に,in vitroでの実験や動物実験にて,粒子性塞栓子がchirp音を伴った異常波形(high intensity transient sig—nal,HITS)として検出できることが報告された9,13).この方法を用いて頸部頸動脈狭窄病変由来の微小塞栓を,同側中大脳動脈の血流波形を記録することにより検出しようとする試みがなされている3,10,11,14,17,19).われわれも,TCDによる微小塞栓の検索から,微小塞栓の検出と頸部頸動脈狭窄病変を原因とする脳卒中発生が密接に関連していることを報告した2).この結果にもとづき,今回われわれは,微小塞栓発生に影響を及ほす因子につき検討したので報告する.

症例

小石灰化病変が突如急速増大を示した小児天幕上上衣腫の1例

著者: 大脇和浩 ,   谷島健生 ,   吉益倫夫 ,   北條俊太郎 ,   藤巻高光 ,   桐野高明

ページ範囲:P.713 - P.718

I.はじめに
 今回われわれは定期的に経過観察していたCTスキャン上の小さな石灰化病変が急速に増大し,病理組織学的に上衣腫と診断された興味ある小児の1例を経験した.石灰化像とgliomaの関連,急速増大した機序及びテント上・上衣腫の臨床的特徴に関し若干の考察を加え,報告する.

外眼筋麻痺で発症した中頭蓋窩くも膜嚢胞の1手術例

著者: 酒見久哲 ,   清田満 ,   露無松平 ,   直江伸行

ページ範囲:P.721 - P.725

I.はじめに
 中頭蓋窩くも膜嚢胞は,頭蓋変形,眼球突出,頭蓋内圧亢進症状,痙攣発作,巣症状,精神発達遅延などの症状を呈することが知られており,また無症状で偶然発見される例も多い.われわれは,外眼筋麻痺で発症した中頭蓋窩くも膜嚢胞の1例を経験し,本患者に対し嚢胞切除術を行い,良好な結果を得たので文献的考察を含め,報告する.

STA-MCA吻合術後消失したと思われる,特発性中大脳動脈閉塞症に合併した脳動脈瘤の1症例

著者: 高橋誠 ,   藤本司 ,   鈴木龍太 ,   浅井潤一郎 ,   三代貴康 ,   保格宏務

ページ範囲:P.727 - P.732

I.はじめに
 モヤモヤ病の側副血管には血流負荷によると考えられる動脈瘤が生ずることは広く知られている10).またモヤモヤ病に合併した末梢性動脈瘤は親血管への血流負荷の変化でしばしば自然消失する8)
 今回われわれは脳虚血発作で発症し,経過観察中に脳底部異常血管網の小動脈瘤が短期間で増大を来たした特発性中大脳動脈閉塞症の症例を経験した.さらに浅側頭動脈—中大脳動脈吻合術後短期間で動脈瘤の消失をみた.動脈瘤の消失は血管吻合術後に親血管である脳底部異常血管網への血流負荷が減少したためと考えられたので,特発性中大脳動脈閉塞症に関する文献的考察を加え報告する.

経静脈的塞栓術中に脳内に造影剤のextravasationを招いた海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 荒木加寿美 ,   中原一郎 ,   滝和郎 ,   坂井信幸 ,   入江恵子 ,   井坂文章 ,   大脇久敬 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.733 - P.738

I.はじめに
 硬膜動静脈瘻の頭蓋内出血のrisk factorとしてのcortical venous drainageはよく知られているが1-3,5-8,11),海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻で頭蓋内出血をおこす頻度は比較的稀とされている1,5).今回,われわれは鉤静脈を介して嗅静脈へ流出するcortical venous drainageよりの脳内出血と思われる所見を呈し,経静脈的塞栓術中にも同じ部位へのextravasationを来たした症例を経験した.硬膜動静脈瘻におけるcortical venous drainageの意義,及び経静脈的塞栓術を行うにあたり,cortical venous drainageをまず塞栓することが肝要であることの重要性を改めて認識したので文献的考察を加えて報告する.

血管内塞栓術により治療したガレン大静脈瘤の1例

著者: 川口務 ,   河野輝昭 ,   風川清 ,   本間輝章 ,   金子好郎 ,   小泉徹 ,   堂坂朗弘

ページ範囲:P.739 - P.743

I.はじめに
 ガレン大静脈瘤は治療困難な血管奇形のひとつである.われわれはコイルを用い経動脈血管内塞栓術を施行したガレン大静脈瘤を経験したので文献的考察を加え報告する.

上位頸椎硬膜内に発生したxanthogranulomaの1例

著者: 雄山博文 ,   池田公 ,   井上繁雄 ,   勝又次男 ,   村上栄 ,   土井昭成

ページ範囲:P.745 - P.748

I.はじめに
 Xanthogranulomaはその大半が皮膚にできるとされ,残り数%が眼,中枢神経系等,その他の部位に発生するといわれている2,3,5,6,12,16,22).中枢神経系の中でもその大半は,脈絡叢や小脳テントなど頭蓋内に生じ,脊椎にできる例は極めて稀である5,6,16,19,23).われわれは頸椎硬膜内に発生したxanthogranulomaの稀な1例を経験したので考察と共に報告する.

特発性血小板減少性紫斑病に合併した破裂脳動脈瘤における急性期手術例

著者: 佐々木朋宏 ,   木矢克造 ,   勇木清 ,   井川房夫 ,   岐浦禎展 ,   魚住徹

ページ範囲:P.751 - P.754

I.はじめに
 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に合併した破裂脳動脈瘤の急性期手術に際しては,早急に減少した血小板を増加させ,維持できるような対処が必要である.このようなITPに合併した脳動脈瘤急性期手術の報告は少なく過去に1例認めるのみである15).今回われわれはITPに合併した左脳底動脈上小脳動脈分岐部動脈瘤に対し,急性期手術をなし得た例を経験したので,管理を中心に文献的考察を加え報告する.

破裂を来たした既知未破裂脳動脈瘤症例

著者: 安井敏裕 ,   坂本博昭 ,   岸廣成 ,   小宮山雅樹 ,   岩井謙育 ,   山中一浩 ,   西川節 ,   中島英樹

ページ範囲:P.755 - P.762

I.はじめに
 脳ドックにより積極的に,あるいは他の脳疾患の検査中に偶然に未破裂脳動脈瘤が発見される機会が増えている.また,最近,National Institute of Neurological Disorders and Stroke(NINDS)のcommitteeから刊行された“脳血管疾患分類Ⅲ”21)でもCTまたはMRI上病変を認めながらも脳卒中発作の既往が明らかでなく,臨床的になんら神経症状を呈しない脳血管障害を無症候性脳血管障害という疾患単位として独立させ,これらに積極的に対処することを奨めている.しかし,現時点では未破裂で発見された脳動脈瘤が将来破裂するか否かの予測が不可能なため,これらの動脈瘤を開頭術や血管内手術により治療すべきかどうかに関する確たる方針を立てられないのが現状である.ここでは,すでに発見されていた未破裂脳動脈瘤が破裂した症例の報告を行い,各症例に伴う問題点について考察する.

真の“PICA communicating artery”aneurysmの1例

著者: 鵜殿弘貴 ,   白石哲也 ,   辻武寿 ,   阿部雅光 ,   田渕和雄

ページ範囲:P.763 - P.766

I.はじめに
 頭蓋内に発生する動脈瘤の中で後下小脳動脈poste—rior inferior cerebellar artery(PICA)末梢部に見られる動脈瘤は比較的稀な動脈瘤である9,11,14).一方,後下小脳動脈の走行には変異が多く,両側の後下小脳動脈を交通する側副血管の存在も認められている.1991年,Hlavin4)らは両側PICAを交通する動脈に発生した動脈瘤を“PICA communicating artery”aneurysmとして報告した.今回,われわれは両側の後下小脳動脈を交通する側副血管に発生した動脈瘤の1症例を経験したので,Hlavinの症例との比較並びにその発生機序などについて若干の文献的考察を加えて報告する.

読者からの手紙

圧可変式シャントバルブと電磁波の影響について

著者: 松本賢芳

ページ範囲:P.767 - P.767

 最近この電磁波なるものが取り上げられ,その影響などについても新聞などでも報じられている.
 携帯電話の電磁波ノイズで医療機器が誤作動したという事件が取り上げられた.その影響の重大さに気づいた関係機関が,積極的な調査に乗り出し,1996年4月中旬になって郵政省の「不要電波問題対策協議会」は,実態調査の結果を次のように発表した.現在もっとも使われているタイプの携帯電話により,調査した221医療機器のうち62パーセントに当たる138機種に,なんらかの影響が認められたとのことである1)

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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