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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科25巻9号

1997年09月発行

雑誌目次

NO MAN ALONE

著者: 永廣信治

ページ範囲:P.775 - P.776

 1986年夏,カナダ・マッギル大学モントリオール神経研究所のルーカス山本教授のもとに留学したが,その数カ月前に先輩から1冊の本を借りた.その本のタイトルが“NO MAN ALONE”で,モントリオール神経学研究所の初代所長ワイルダー・ペンフィールド先生(1891-1976年)の自叙伝であった.有名な本なので読まれた方も多いと思うが,ペンフィールド先生の生い立ちから学生時代,卒業後神経病理学から脳神経外科へと進んだ修業時代,米国からモントリオールへの移動,神経生理学やてんかんへの取り組み,各分野の研究スタッフと資金を集め神経研究所を設立するまでの苦労と喜びなどがいきいきと描かれている.留学先の歴史を知りたいこともあって,毎晩枕もとから取り上げては眠りに落ちるまで読んだ.簡明な英語とはいえ,厚い本を読むことに慣れていなかったので渡航までに読破することができず,モントリオールまで携行して2-3カ月後に読み終えた.時差ボケのため眠れぬ夜を過ごすのには丁度良かった.本の中でペンフィールド先生が歩んだモントリオール市内のシャーブルック・ストリートやパイン・アヴェニューを現実に歩き,本に登場したセオドア・ラスムッセン先生やウィリアム・ファインデル先生と話せることに何ともいえぬ感動を覚えた.
 ペンフィールド先生は神経疾患に悩む患者を脳神経外科と神経内科共同で治療する病院と神経解剖・病理学や神経生理・生化学の基礎研究部門を同一建物内に集め,診療・研究の密接な連携をもつ神経学研究所の発想を実現し,キャップテンとしてこれらの各部門のチームワークをとり,世界に誇る神経学研究所に育てられた.その基盤にある精神がNo Man Atoneである.一人では事をなすことはできない.私が留学していた頃のモントリオール神経学研究所にもこの精神は受け継がれていた.毎日のように行われる症例検討会や勉強会に基礎・臨床の様々の分野の人達が気軽に顔を出しており,また意見を述べていた.患者から学び,臨床から基礎的研究を発想する,逆に基礎研究の成果を臨床にfeedbackするという営みがごく自然に行われていた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

側脳室内病変に対するanterior interhemispheric transcallosal approach

著者: 名取良弘 ,   福井仁士 ,   アルバート L ロートン

ページ範囲:P.777 - P.784

I.はじめに
 側脳室内病変の手術は,その存在部位により多くのアプローチが試みられてきた.すなわち側脳室前角及び体部前半部へは,前方からのanterior interhemispheric transcallosal9,19),anterior transcortical approach8,17,22),もしくはanterior frontal approach18)が,体部後半部及び三角部へは,後方からのposterior interhemispherictranscallosal1,2,5),posterior transcortical18,21),もしくはoccipital interhemispheric approach7,15,16)が,側角へは,下方からのposterior fronto-temporal transcortical6),temporal transcorticalもしくはsubtemporal approach4)あるいはtranssylvian approach10)が行われてきた.一方,最近の神経内視鏡の進歩により,側脳室のいずれの部位も経脳室鏡的に観察や生検が可能となったが,病変の全摘のためには開頭術が未だ必要なのが現状である3,13,20)
 ここでは,anterior interhemispheric transcallosalapproach(前経脳梁的到達法)に必要な側脳室および脳表静脈の解剖を述べ,このアプローチを用いて手術した側脳室内病変の臨床例からこのアプローチについて考察する.

研究

未破裂脳動脈瘤の術前スコアリングと手術合併症

著者: 松本勝美 ,   赤木功人 ,   安部倉信 ,   前田泰孝 ,   加藤天美 ,   甲村英二 ,   早川徹

ページ範囲:P.785 - P.790

I.はじめに
 近年脳ドックの実施や,頭痛,めまいなどの精査でMRIが施行される機会が増加し,未破裂脳動脈瘤が発見されるケースが多くなった.脳ドックではNakagawaらによると受診者全体の6.5%に未破裂脳動脈瘤を認める15).くも膜下出血の家族歴のある受診者のスクリーニングでは発見率は9.3-20%にもなる16,18).また剖検例では0.8-12.6%に未破裂脳動脈瘤が認められ,決して少ない疾患ではない8,13,26).しかしながら発見された未破裂脳動脈瘤の対処については手術適応を含め一定した見解がない.未破裂脳動脈瘤のdecision analysisによると手術適応,特に手術すべき年齢は手術成績により大きく変化する2).手術の危険性についてはmorbidity,mor—talityとも最近の報告ではかなり改善しているが,依然morbidityについては2-6.5%と比較的高い率となっている4,12,19,24).一方この手術合併症を来たす原因として,年齢,動脈瘤の大きさ,部位や基礎疾患などが個々に検討されているが,実際はこれらの多くの要素が多方面で関与し合併症を誘引すると考えられる.今回,経過観察例,手術例および合併症を来たした症例について多方面の要素をスコアリングし,手術適応の決定ならびに手術合併症の予測が可能かどうかをretrospectiveに検討した.

内頸動脈血栓内膜剥離術術後評価の手段としてTranscranial Doppler法による微小塞栓検索の有用性

著者: 秋山義典 ,   善本晴子 ,   長束一行 ,   戸高健臣 ,   野村素弘 ,   澤田元司 ,   森本将史 ,   小島昭雄 ,   橋本信夫

ページ範囲:P.791 - P.794

I.はじめに
 近年,頸部頸動脈狭窄病変由来の微小塞栓を,trans—carnial Doppler(以下TCD)により同側中大脳動脈の血流波形を記録することにより,chirp音を伴った異常波形(high intensity transient signat, HITS)として検出できることが報告されている2,5-11).われわれも,TCDによる微小塞栓の検索から,微小塞栓の検出と頸部頸動脈狭窄病変を原因とする脳卒中発生が密接に関連していることを報告した1).高度頸部頸動脈狭窄病変に対する外科的治療である内頸動脈血栓内膜剥離術(以下CEA)は,狭窄部の粥腫を切除することにより,脳血流を改善し,病変部が塞栓源となる危険性を取り除くことが目的である.今回われわれは,CEAの塞栓発生防止効果を判定するために,TCDによる微小塞栓の検索を術前及び術後に施行しその結果につき検討したので報告する.

開頭手術時の頭皮創一次閉鎖に対する組織伸展法の応用

著者: 大西清 ,   丸山優 ,   澤泉雅之 ,   岩平佳子 ,   清木義勝

ページ範囲:P.795 - P.800

I.はじめに
 頭皮は,一次的に縫合閉鎖できる欠損の大きさに制限があり,その処理に苦慮する症例もしばしば経験する.これら症例では,帽状腱膜下の広範囲剥離や帽状腱膜の切開などにより創縁を伸展し創の閉鎖を試みるが,その効果には限界がある.われわれは,開頭手術における創の閉鎖に,組織伸展法を併用したintra-operative expan—sionにより頭皮を伸展し,一次的な縫合閉鎖をはかり良好な結果を得ている.手技の概要に代表例を供覧して報告する.

症例

Encephalo-duro-arterio-synangiosis(EDAS)により血管新生のみられた高齢者類モヤモヤ病の1例

著者: 加賀明彦 ,   中野俊久 ,   堀重昭 ,   上田徹 ,   磯野光夫 ,   笠井直人

ページ範囲:P.803 - P.807

I.はじめに
 虚血性脳血管障害に対する血行再建術としては,小児のモヤモヤ病に対しては,encephalo-duro-arte—rio-synangiosis(EDAS)やencephalo-myo-synangiosis(EMS)などの間接的血行再建術(間接法)の価値が確立されてきている20).一方,成人に対しては,浅側頭動脈—中大脳動脈吻合術(STA-MCA吻合術)を主体とする直耳接吻合術(直接法)が普及し,間接法は行われることが少なく,その評価も定まっていない3,9-10).われわれは直接法が困難と思われた高齢者の類モヤモヤ病に対して,EDASを行ったところ,好結果が得られた1例を経験したので報告する.

乳児松果体部matignant rhabdoid tumorの1例

著者: 宇都宮昭裕 ,   白根礼造 ,   昆博之 ,   吉本高志

ページ範囲:P.809 - P.813

I.はじめに
 乳児期発症の中枢神経系腫瘍は稀であり,かつ同時期に発生する悪性脳腫瘍は,年長児と比べ治療は難渋し,予後も不良である2,4,7).今回われわれは,乳児期松果体部に発生した脳腫瘍に手術,化学療法を施行し一過性の腫瘍縮小効果を得たが,その後間もなくして,急速な腫瘍再増大を来たした症例を経験した.その臨床経過,病理組織所見から中枢神経系発生のrhabdoid tumorと診断した.同疾患は乳幼児期に発生する極めて悪性経過をたどる腫瘍であり,近年欧米からの報告が相次いでいる5,6,9-11).しかし,本邦からの報告はわれわれが渉猟し得た中で1例のみであるため13),同疾患について若干の文献的考察を加え報告する.

興味あるMRI所見を呈した気管支非定型的カルチノイド多発性脳転移の1例

著者: 近貴志 ,   原直行 ,   蘇牧 ,   高橋均

ページ範囲:P.815 - P.818

I.はじめに
 カルチノイドは,良性の経過をとることが多いとされているが,“potentially malignant”であり,多発性に転移したものの予後は不良である.今回われわれは,MRIで興味ある所見を呈し,剖検にて診断が確定したbronchial atypical carcinoidの1例を経験したのでここに報告する.

Neurocutaneous Melanosis with Intracranial Malignant Melanoma in an Adult:a case report

著者: ,   ,   ,  

ページ範囲:P.819 - P.822

 A 65—year-old female with congenital giant, hairy and pigmented nevus developed sudden onset of headache and consciousness disturbance.CT scan revealed a high density mass in the right temporal subcortical region.The high density area suggested hematoma.A right temporal craniotomy was performed.Hemorrhage was observed in a black colored tumor.Histologically, the tumor was malignant melanoma, while the skin tumor was be—nign intradermal nevi.This patient was diagnosed as neurocutaneous melanosis.Neurocutaneous mela—nosis belongs to unusual congenital syndrome, and an adult case is very rare.To our knowledge this is the oldest patient to be reported with this disease.

運動野神経膠腫摘出におけるawake craniotomyとdirect corticat stimulationによる術中functional brain mapping

著者: 隈部俊宏 ,   中里信和 ,   佐藤清貴 ,   日向野修一 ,   高橋昭喜 ,   園田順彦 ,   川岸潤 ,   吉本高志

ページ範囲:P.823 - P.828

I.はじめに
 神経膠腫の治療において手術摘出率は有意にその生命予後に相関する.しかし,言語野,感覚野,運動野及び錐体路といったeloquent areaに位置するか,もしくは近接する神経膠腫に対して,機能予後を考慮しない摘出術を行うことはできない17).患者のperformance statusを高いレベルで維持したままで生存期間を延長するためには,機能を持った領域を正確に同定した上での可及的摘出術を行う必要がある.
 今回,26歳男性の右運動野神経膠腫症例に対して,propofolを用いたawake craniotomyを行い,directcortical stimulationにより運動野,感覚野の詳細なmappingを作成した上腫瘍が顔面の運動野の皮質から皮質下に存在することを同定した上で可及的摘出術を行った結果,術後一過性左顔面神経麻痺の出現を認めるのみで経過した.運動野神経膠腫摘出において本手技は極めて有用と思われ,本症例の麻酔及び手術方法に関して報告する.

血管内手術で治療した破裂脳動脈瘤の1剖検例

著者: 太田原康成 ,   菅原孝行 ,   関博文 ,   藤村幹 ,   富地信和

ページ範囲:P.829 - P.833

I.はじめに
 脳動脈瘤に対するクリッピング術に代わって塞栓術で治療しようとする試みは,古くはMullan6)により報告され種々の塞栓物質,塞栓方法が発表されてきている.中でもGuglielmiら3,4)が1991年に発表したdetachablecoilは,血管内腔より使用できる画期的なもので,現在その臨床応用が広く行われつつある.しかしこの治療法は,動物実験では治療後の治癒過程を検討されてはいるが,臨床症例での病理学的検討は十分なされているとは言えない.
 われわれの施設では,開頭手術が困難と考えられる高齢者や重症者に限って,detachable coilを用いた脳動脈瘤の塞栓術を行っているが,今回くも膜下出血で発症しcoil塞栓術を施行後,全身合併症で死亡した1例を剖検する機会を得たので,その病理学的所見を報告し,文献的考察を加える.

血管内手術にて根治し得た破裂舌動脈瘤の1例

著者: 斎野真 ,   赤坂雅弘 ,   中島雅央 ,   嘉山孝正 ,   近藤礼 ,   長畑守雄 ,   細矢貴亮 ,   山口昴一

ページ範囲:P.835 - P.839

I.はじめに
 外頸動脈系に発生する動脈瘤は稀であり,特に舌動脈の動脈瘤はこれまで4例の報告を認めるのみである2,4,14,16).今回,われわれは下顎部腫脹にて発症した破裂舌動脈瘤の1例に対して発症直後に血管撮影を施行し,同時に血管内手術により動脈瘤の流入動脈を塞栓し得たので文献的考察を加え報告する.

特発性硬膜下血腫の3例

著者: 小松洋治 ,   上村和也 ,   安田貢 ,   柴田智行 ,   小林栄喜 ,   牧豊 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.841 - P.845

I.はじめに
 急性硬膜下血腫の多くは,外傷による架橋静脈の破綻や脳挫傷からの出血により形成される.しかし,外傷以外の原因もみられ,脳動脈瘤・脳動静脈奇形・もやもや病などの血管障害や,髄膜腫・転移性脳腫瘍などの腫瘍性の出血が報告されている5,11,16).また,明らかな原因疾患なく,皮質動脈よりの出血を生じる急性硬膜下血腫もみられ,急性特発性硬膜下血腫と呼ばれている15)
 急性特発性硬膜下血腫の発症の機序や臨床像については未解明な点もある.自験3例に文献的検討をくわえて報告する.

動眼神経麻痺で発症した海綿静脈洞部dermoid cystの1例

著者: 仲川和彦 ,   大野喜久郎 ,   野尻武子 ,   平川公義

ページ範囲:P.847 - P.851

I.はじめに
 頭蓋内dermoid cystは,胎生3-4週の神経管形成時の閉鎖不全に起因する先天性脳腫瘍であり1,5,8,10),その頻度は日本脳腫瘍統計によれば,0.2%と稀な腫瘍である12).さらに,頭蓋内テント上dermoid cystに関しては臨床的検討を加えたいくつかの報告はあるものの,海綿静脈洞部に発生したdermoid cystの報告例は極めて稀である3,7-9).最近,動眼神経麻痺で発症し,海綿静脈洞壁より発生したと考えられた傍トルコ鞍部dermoidcystの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

Choroid plexus carcinomaの1例

著者: 荒木加寿美 ,   青木友和 ,   高橋潤 ,   野崎和彦 ,   永田泉 ,   菊池晴彦 ,   横山瑞香 ,   服部春夫 ,   秋山祐一 ,   久保田優 ,   横溝大

ページ範囲:P.853 - P.857

I.はじめに
 Choroid plexus tumor(以下CPT)は,小児脳腫瘍でも稀で,全脳腫瘍中1-3%を占める10).その中でもchoroid plexus carcinoma(以下CPC)はさらに稀であり,わが国では1969-1987年の間に14歳以下でわずか10例(全脳腫瘍中0.2%)が報告されているにすぎない7).CPCの主な好発部位は,側脳室に50%,第4脳室に37%,第3脳室に9%であり6),7割が2歳迄に発症する3).また,この腫瘍は非常に易出血性で,全摘出が困難であること,くも膜下播種を起こすことなどから,平均生存率が9カ月と,これ迄,比較的治療困難な疾患であるとされてきた3).しかし,最近では,化学療法や放射線療法,あるいは積極的な摘出術の結果,平均生存期間が延び,機能的予後も良いという報告が散見される2,4,5,8)
 最近,われわれが経験した1歳の女児のCPCの症例を,若干の文献的考察を加え報告する.

歴史探訪

明治期ドイツ医学の導入とスクリバ博士の遺産

著者: 永井政勝

ページ範囲:P.859 - P.863

I.はじめに
 明治期のいわゆるお雇い外国人による医学教育は,明治4年にミュラー(Müller,外科医)およびホフマン(Hoffmann,内科医)の二人が新政府のはじめての正式招聘によって来日したことに始まるが9),その後内科医ベルツ(Erwin von Baeltz)が明治9年から26年間の永きにわたって東京大学で教鞭を取り,やや遅れて(明治14年)来日した外科医のスクリバ(Julius Karl Scriba)も20年間医学教育にたずさわったことによってドイツ医学の真の導入と定着が行われたことは広く知られており,両ドイツ人教師の功績が高く評価されているところである.この中ベルツについては多くの研究がなされ,業績に関する報告や伝記なども多数見られる.これに対してスクリバに関してはある程度の記録は見られるものの6,12)未だ知られていない部分も多く,詳細な研究は少ないと言わざるを得ない.ベルツは多くの学術論文を自ら発表し,さらに有名な日記を遺しているのに対して,スクリバについては学術論文は弟子が記述したものが多く,また手紙・日記のたぐいも残されていないことによると思われる.筆者はたまたまスクリバの蔵書が日本医科大学図書館に保存されていることを知り,これを手がかりとして東京大学在任中のスクリバの業績,ひいては明治期におけるドイツ医学導入に果たした役割,さらには後世への遺産について考え,評価することを試みた.

報告記

第6回国際脳血管攣縮カンファランス(6th International Conference on Cerebral Vasospasm)印象記

著者: 伊達勲 ,   小野成紀

ページ範囲:P.864 - P.865

 原則的には3年毎に開かれるこの会は,前回のカナダでのmeetingからはや4年経過しており,今回はWest—mead HospitalのDorsch先生主催の下で,初の南半球,オーストラリアでの開催となった.会場はシドニーの中心部ハイドパークに面した,シェラトンオンザパークで,1997年5月11日から5月15日の5日間,1-3会場に分かれて活発な議論が交わされた.日本では新緑のこの時期,シドニー市街を見渡せば,通りには紅葉しつつある楓,露店商の軒先に並ぶ厚手のコートなどが秋の到来を感じさせていた.
 シドニーはイギリス軍がオーストラリア植民地建設を目的に最初に入植した場所で,当初は鬱蒼とユーカリの森が茂る丘陵地であったそうである.約200年後の今日では,高層ビルが立ち並びモダンなオペラハウスや世界でも指おりの美港,シドニー湾を擁する南半球一の大都市である.その一方で,シドニー市街には王立植物園,クイーンビクトリアビルディングや,当時の町並みを彷彿とさせる赤茶けた砂岩でできたイギリス風の建築物がいたるところで見られるのも,まだこの国が歴史の浅い証であるようにも見受けられた.

読者からの手紙

脳室ドレナージチューブの皮下通し

著者: 高野尚治

ページ範囲:P.866 - P.866

 極く簡単なことなのですが,脳室ドレナージ(CVD)チューブを留置する際に,これまでは,尖刃メスとモスキート鉗子を使いチューブの皮下通しを行っていました.欠点としては,頭皮を切ってチューブ刺入部で糸固定することと,皮下通しが短いために,チューブ固定が緩いとチューブ周囲から髄液漏れとなり,固定がきついとチューブを閉塞させてしまいました.また皮下通しが短いこともありチューブを介しての感染を心配して早めの抜去,入れ替えを行っていました.またCVDをしている患者の安静を保てず,頭の挙上などでチューブが抜けてしまうこともありました.そこで最近では,比較的長期のCVD留置が予測される例では,皮下通しにZIMMER® SNYDER HEMOVACセットに入っている穿刺針を使っています.端のネジ部にチューブをさして糸固定すれば抜けません.針は13cm程の長さにて十分な距離の皮下通しをすることができます.頭皮刺入部を切らないので,チューブ周囲からの髄液漏れはなく,チユーブ固定をするだけです.針で皮下を通すためにチューブが10余cm間でタイトに固定されており,CVDの管理中に不注意に抜ける心配がありません.長く皮下通しをできるために,感染の危険が減るものと思います.例外的ですが,CVDチューブを入れ替えずに10カ月が経過する症例があります.結核性髄膜炎で水頭症を併発しCVDを留置しました.急性期にはCVDチューブの詰まりもあり,3回の入れ替えを繰り返しました.髄液からの排菌も無くなり,髄液性状も良くなったのですが,結核性肉芽腫がCT scan検査の度に頭蓋底部に広がっていきます.水頭症に対してシャント術を行うわけにゆかず,4度目のCVD留置から10カ月経ちますが,髄液に細菌感染を認めていません.
 この貴重な本を完訳された落合亮一先生ほか訳者の皆様に敬意を表します.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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