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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科26巻1号

1998年01月発行

雑誌目次

まずは種蒔きから始めよう

著者: 溝井和夫

ページ範囲:P.5 - P.6

5年程前,Ausman教授の手術見学のためシカゴに半年程滞在する機会を得たが,当時,彼の施設にはガンマナイフも血管内治療グループも無いため,何でも手術オンリーの方針であった.脳動脈瘤や脳動静脈奇形の塞栓術などとんでもない,あれは合併症の山を築くだけだと豪語していたものである.脳神経外科医にとって,自分の領域を侵触されるのは死活問題であり,彼の気持ちは良く理解できた.old-fashionだが,生粋の外科医だなと思いつつ帰国した.それから2年後,師匠豹変す!仙台でのコングレスに招待された際の彼の話は全く別人かと思うぐらい変化していた.De-brun教授を招聘した後,血管内手術症例が急増していると言う.脳動静脈奇形に対する術前塞栓術はエキスパートがやれば非常に有効であると言う.lowest risks andhighest benefitsだよと言う.このようなAusman教授のエピソードを例に挙げるまでもなく,時代は,切らない外科,低侵襲の治療を目指す趨勢にある.コンピューター技術や工学系技術がさらに順調に発展すれば,将来,ロボットが手術支援どころか手術指導あるいは術者にとって変わるかもしれない?
 しかし,私も含め,ほとんどの脳神経外科医は手術にあこがれてこの道に入って来たであろう.われわれの多くは手術場にいる時が一番幸せな人種に違いない.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Petroclival meningiomaの治療—anterior petrosal approachとガンマナイフを用いて

著者: 嘉山孝正

ページ範囲:P.8 - P.17

I.はじめに
 Petroclival meningiomaの治療は各種手術アプローチの開拓により格段と進歩したが,morbi-dityに関しては未だ満足すべき治療成績を得ることが困難である.本稿ではpetroclival menin-giomaに対する一般的な手術アプローチとしてのanterior petrosal approachを解説するとともに,著者が現在行っているcontemporaryな治療法,即ち,術前に摘出範囲を決定し,その計画に則り手術を行い,併せてガンマナイフを用いる方法およびその結果を述べる.

研究

脳動脈瘤手術中意図的一時血行遮断後脳虚血—多変量解析による危険因子の検討

著者: 井川房夫 ,   木矢克造 ,   北岡保 ,   勇木清 ,   有田和徳 ,   栗栖薫 ,   魚住徹

ページ範囲:P.19 - P.24

I.はじめに
 脳動脈瘤手術中親動脈の一時血行遮断(以下TO:temporary vessel occlusion)は最大径15mm以上の大きな動脈瘤,広頸動脈瘤や困難な部位の動脈瘤クリッピング時には必要な手技の一つである2).われわれは脳保護物質を使用下で一時血行遮断時間が延べ40分以上の症例でも神経脱落症状を残さなかった例を経験してきた8)が,これまで意図的一時血行遮断術後脳虚血の危険因子を検討した報告は少なくTO後脳梗塞を来たす危険因子を知ることは重要である.そこで今回著者らは,自験例において術中意図的にTOを使用した症例について術後の神経脱落症状と転帰に関与した危険因子を多変量解析を用い分析し若干の知見を得たため報告する.

遊離腹直筋皮弁による頭蓋底・頭頸部腫瘍切除後の眼窩顔面部再建

著者: 韓富 ,   久徳茂雄 ,   小川豊 ,   辻裕之 ,   井上俊哉 ,   川上勝弘 ,   河本圭司

ページ範囲:P.25 - P.30

I.はじめに
 前頭蓋底に浸潤した腫瘍と頭頸部領域の癌切除後の再建には頭蓋内と鼻算副鼻腔とを完全に遮断することにより,髄液漏および髄膜炎を予防することが必要である.近年のマイクロサージャリー手技としての皮膚弁,筋(皮)弁の発展は目覚ましく,つぎつぎと頭蓋底と頭頸部腫瘍への新しいアブローチ法1)と再建手技5,9,13,16)の有用性が報告されるに伴い,これまで適応がないとされてきた部分の頭蓋底腫瘍の手術適応も拡大する傾向にある.再建材料としてはMethesら11),Drever2)の報告以来,下腹壁動静脈を茎とした腹直筋皮弁の有用性が注目されている.
 1991年9月から1996年12月の間にわれわれの形成外科,耳鼻科,脳神経外科から成る診療チームにおいて,25例の前頭蓋底と頭頸部悪性腫瘍手術を独自の切除分類を基準として(Fig.1)行い8),9例に眼窩再建を行ったが,そのうち3例に肋軟骨付き遊離腹直筋皮弁による腫瘍切除後一期的眼窩,義眼床および口蓋底再建を行った.良好な結果を得たので若干の文献的考察とともに,われわれが現在行っている再建法とその結果について報告する.

破裂脳動脈瘤急性期手術術後の脳室ドレナージの適応について

著者: 安井敏裕 ,   坂本博昭 ,   岸廣成 ,   小宮山雅樹 ,   岩井謙育 ,   山中一浩 ,   西川節 ,   中島英樹

ページ範囲:P.31 - P.36

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤急性期手術に際し硬膜内操作を容易にするためや,術後の頭蓋内圧管理のために脳室ドレナージを挿入することがある.しかし,脳室ドレナージの挿入には,早期離床の阻害,正常圧水頭症発生率の上昇10,12),脳血管攣縮発生率の増加5),感染の危険,脳実質損傷7)などの短所もあることから,破裂脳動脈瘤急性期手術の術後には脳室ドレナージを行わないとの主張もある3).著者らもこの主張にもとづき1988年頃から破裂脳動脈瘤急性期手術の術後にはなるべく脳室ドレナージを用いないようにしてきた.その結果,特に問題となった症例がなかったことから1990年からは術前に脳室拡大が見られた症例においても術後は脳室ドレナージなしで管理をする方針としてきた.しかし,中には術後急性期(2週間以内)に水頭症による意識障害のために脳室ドレナージの挿入をせざるを得なくなった症例も経験した.今回これらの症例を報告し,破裂脳動脈瘤急性期手術術後における脳室ドレナージ挿入の適応について考察する.

イヌ脳血管攣縮モデルにおけるニカルジピン徐放剤の有効性

著者: 川島明次 ,   糟谷英俊 ,   塩川和彦 ,   宮島誠 ,   井沢正博 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.37 - P.43

I.目的
 くも膜下出血に対して早期クリッピングが一般的になった今日,くも膜下出血後脳血管攣縮は予後を決定する大きな因子といえる.このため脳血管攣縮の治療法として様々な薬剤が用いられてきたが,この際,投与方法は有用性を論じる際に重要な要因となる.全身投与であれば効果は弱く,攣縮血管への動注では持続投与は出来ず,手技も繁雑となる.髄腔内投与の場合,効果は期待できるが,くも膜下出血術後,脳槽内にカテーテルを留置し,1-2週間持続して薬剤を投与し続けることは感染等,合併症の危険が大きく,術後管理に難渋することがしばしばである.そこで,われわれは髄腔内に留置できる徐放剤に注目した.
 これまで,われわれはパパベリン徐放剤を開発し,その有用性を報告してきたが16),今回,髄腔内投与が臨床的に有効との報告がある15)ニカルジピンを用いて徐放剤を開発し,これによる脳血管攣縮発生予防効果を,イヌくも膜下出血モデルを用いて検討した.本実験の有効性が明らかとなれば,その投与は手術中の1回で済み,本法は臨床的に有用な治療方法となる可能性が高いと考えられた.

症例

両側椎骨動脈の異常走行によりmyelopathyを来たした1例

著者: 西浦司 ,   藤原賢次郎 ,   半田明 ,   後藤正樹 ,   津野和幸 ,   石光宏

ページ範囲:P.45 - P.50

I.はじめに
 椎骨動脈には先天奇形あるいは走行異常が稀にみられるが,通常,臨床症状を引き起こすことはなく,臨床的意義は少ない.今回われわれは,両側椎骨動脈の走行異常により上位頸髄が両側より圧迫されてmyelopathyを来たした極めて稀な症例を経験し,椎骨動脈の転位により症状の改善をみた.本稿では,本病態の臨床症状ならびに神経放射線学的特徴を報告するとともに,その発症メカニズムについて考察したので併せて報告する.

トルコ鞍部に発生した頭蓋内原発T細胞型悪性リンパ腫の1例

著者: 榊原陽太郎 ,   松澤源志 ,   田口芳雄 ,   関野宏明 ,   品川俊人 ,   阿部光文 ,   田所衛

ページ範囲:P.53 - P.58

I.はじめに
 免疫抑制剤の使用が不可欠な臓器移植患者やAIDS患者などの増加に伴い,頭蓋内原発悪性リンパ腫の頻度は上昇してきている2).免疫組織学的には,これらの大多数はB細胞型で,T細胞型は非常に稀である2,7)
 われわれは,トルコ鞍部に発生し広範な骨破壊を示したT細胞型悪性リンパ腫を経験した.頭蓋底部リンパ腫は,大部分が転移性3,11)で,自験例のような原発性は極めて稀であり,術前得られたMR面像を中心に本例を呈示し,その画像所見および臨床症状の特徴について若干の文献的考察を加えて報告する.

小脳テントより発生したmesenchymal chondrosarcomaの1例

著者: 若林礼浩 ,   児玉万典 ,   山下正憲 ,   永冨裕文

ページ範囲:P.59 - P.64

I.はじめに
 頭蓋内発生するchondrosarcomaは,全脳腫瘍の0.1-0.2%とまれな疾患である2,4,15).とくに,mesenchymal chondrosarcomaは,最も未分化で局所再発をくりかえし,予後不良である3,5,7).この治療法に関しては,できるだけ外科的に摘出するしかなく,放射線療法や化学療法は効果がないとされている10,13)
 今回,われわれは,小脳テントに発生したmesenchymal chondrosarcomaを経験したので治療法を中心に文献的考察を加え報告する.

Diffuse idiopathic skeletal hyperostosisに伴った頸椎前縦靱帯骨化症による嚥下障害を来たした2例

著者: 水野順一 ,   中川洋 ,   磯部正則

ページ範囲:P.67 - P.72

I.はじめに
 1950年ForestierとRotes-Querol5)が脊椎の強直を来たす特殊な病態として,強直性脊椎骨肥厚症(ankylosing hyperostosis of the spine)を報告した.本疾患は前縦靱帯の高度の石灰化または骨化を特徴とし,変形性脊椎症に伴った椎体前面に形成された骨棘や強直性脊椎炎との鑑別が重要である.1970年代Resnickら12-14)は脊椎以外の骨格系にもこの骨化素因が脊椎病変と合併したり,また単独に存在し,骨化を生じることを確認し,diffuse idiopathic skeletal hyperostosis(DISH)として命名した.この臨床病理学的概念は現在でも用いられており,数椎体におよぶ椎体前面の石灰化または骨化,病変部位の椎間板腔の比較的良好な保持,仙陽関節部の異所性骨化等が代表的なレントゲン学的特徴として定義づけられている.
 今回われわれはDISHの頸椎前縦靱帯骨化により嚥下困難を来たした患者に対し外科的に治療し,良好な結果を得られたので文献的考察を加えて報告する.

モヤモヤ病に合併した末梢動脈瘤に対しplatinum coilを用いて血管内治療を行った1例

著者: 杉浦康仁 ,   松澤裕次

ページ範囲:P.73 - P.77

I.はじめに
 モヤモヤ病に合併する脳動脈瘤は,Willis動脈輪に発生する主幹動脈瘤とモヤモヤ血管あるいは側副血行路に発生する末梢動脈瘤に大別されるが6),いずれも主要な出血源とされている1,5,8).これらに対する外科的治療は諸家により報告されているが1,3,5,8,12,14,15),モヤモヤ病特有の循環動態のため一般に困難であり9,12),特に末梢動脈瘤に関してはアプローチの困難性もあってその直達手術の報告は極めて少なく3,5,8,12,14,15)一定した治療方針が得られていないのが現状である.一方,直達手術困難な脳動脈瘤に対してplatinum coilによる血管内治療が最近盛んに行われるようになり2,4,10,16),その有用性が認められてきている.今回,脳内出血にて発症した前脈絡動脈動脈瘤に対しplatinum coilを用いて瘤内閉塞を行ったモヤモヤ病の1例を経験した.モヤモヤ病に合併した末梢動脈瘤に対する血管内治療の報告は今だかつてなく,この手技の適応と有用性につき考察を加え報告する.

脳室腹腔短絡管によるS字結腸穿通—気脳症で発症した1例

著者: 刈部博 ,   石橋安彦

ページ範囲:P.79 - P.82

I.はじめに
 脳室腹腔短絡術(以下V-P shunt)の腹腔側合併症として,shunt tubeの閉塞・屈曲・離脱,腹腔内嚢胞形成,腹水貯留,腸閉塞,臓器穿通等の報告がある.腸管穿通はこれまでに50余例が報告されており,その多くはshunt tubeを介した上行感染による髄膜炎,腸管穿通による腹部症状,短絡管閉塞による頭蓋内圧亢進症状で発症するとされる1-16)
 今回われわれは,V-P shuntを施行して3年後に腹側チューブによるS字結腸穿通を来たし,気脳症で発症した稀な1例を経験したので報告する.本症例では繰り返し施行した腹部単純写において,発症6カ月前より腹側シャントチューブ先端が固定しているのが確認されており,腸管穿通の機序を考える上で,また補助診断として有用と考えられたので若干の考察を加える.

報告記

第12回国際脳腫瘍研究・治療カンファランス(The 12th International Conference on Brain Tumour Research and Therapy)印象記

著者: 松本健五

ページ範囲:P.84 - P.86

 第12回の本カンファランスは,1997年9月20から23日までの4日間,Londonの北西約90kmにある学問の街として名高いOxfordでDavidThomas教授の会長のもと開催された.Oxford大学は創立が1263年で,現在45のcollegeを有する総合大学となっている.Collegeそれぞれが,教会,講堂,宿舎,教室を持っているので,2km四方の大学の敷地はまるで一つの街となっている.会場と宿舎はそのなかの1870年創設のKe-ble collegeが主にあてられた.大学の建物は,全て煉瓦づくりで,歴史の重みを感じさせた.会期中は夏期休暇中で学生は見かけることなく,静かな校内をわれわれが占有していた.中庭の大木の下には野生のシクラメンが可憐な花をつけていた.Oral presentationとlectureは徒歩で数分のOxford university museumの一室一会場で行われた.Museumは1855年の創立で,世界のあらゆる貴重な動物の剥製,鉱物などが所狭しと展示されており,口演の合間に溜息まじりで眺めていた.宿舎は,学生寮でテレビも電話もない質素なものだった.ここで4日間缶詰状態で,5題の特別講演,76題の口演発表と127題のポスター展示があり,早朝から深夜まで連日活発な討論がなされた.
 ちなみに演題数208のうち臨床と基礎の比率は約3対7であった.参加者は世界各国から213名が参加した.内ヨーロッパ各国から105名,アメリカから82名,カナダその他が10名であった.日本からは,阿部教授(北大),旧中教授(新潟大),山下教授(金沢大),松谷教授(埼玉大),野村部長(国立ガンセンター),生塩教授(熊本大),田渕教授(佐賀医大),筆者と他に若手研究者を含めて26名の参加があり,日本からの発表の多くがseleded paperに選ばれたのは頼もしく感じられた.

第1回日韓脊髄外科カンファレンス

著者: 花北順哉

ページ範囲:P.88 - P.89

 平成9年9月19-20日に名古屋の国際会議場において,第1回日韓脊髄外科カンファレンスが開催されました.この会の開催は平成8年に行われた第11回日本脊髄外科研究会の際に,韓国のProf.Young-Soo Kim, Prof.Sun-Kil Choi, Prof.Jung Keun Suhから愛知医科大学脳神経外科の中川洋教授の方へ開催の申し出があり,その後数度の話し合いの結果実現の運びとなったものでした.日本から66名,韓国から64名のいずれもアクチブな脳神経外科医が集まり,エモリー大学からはHaid教授,ルイジアナ州立大学からはLec-lercq教授をゲストとしてお迎えして活発かつ友好的な論議が2日間熱心に行われました.
 メインテーマとしてはインスツルメンテーションとOPLLが取り上げられ,22題のシンポジウム演題,49題の講演演題,35題のポスター演題が発表され,いずれのセッションにおいても活発な討論が行われました.また,Haid教授からは,Spinal navigation, Leclercq教授からはRationalefor lunlbar interbody fusion technique and re-sults, Yonsei大学のKim教授からは360 degreesfixation for spondylolytic spondylolisthesis byone stage posterior approach,花北からはseveralimportant points to be considered at the spinalinstrumentation surgeryのタイトルのセミナーが行われました.脊椎・脊髄外科における韓国脳神経外科のレベルは目を見張るものがあり,欧米での十分な臨床研修を積んだ若手脳神経外科医達も多く見受けられ,韓国ではかなり欧米流の本来の脳神経外科が行われていることがよく分かりました.すなわち,脳神経外科医が,単に頭蓋内疾患のみでなく,脊髄疾患,末梢神経疾患をも十分に対象としており,例えばわが国では脳神経外科医が全くといってよいほど経験のない交感神経切除術も数百例の単位で報告されていました.また内視鏡を積極的に導入した脊椎脊髄手術や各種のインスツルメントを用いての手術などは,韓国脳神経外科の脊髄外科分野における,かなりの先進性を示していると考えられました.また,個々の施設が経験している症例数はかなりのものがあり,センター化した病院運営がなされているものと考えられました.わが国においては施設の過剰,それによる症例の分散化の弊害のために,他の分野と同様に脊髄外科領域においても臨床研究ではこのままの状況であれば十分なものが生み出されないのではないかとの危惧を強く持ちました.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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