icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科26巻10号

1998年10月発行

雑誌目次

医学教育ビッグバン

著者: 田渕和雄

ページ範囲:P.858 - P.859

 余りにも盛り沢山な改革案が提出されたことによって,現在わが国の大学が直面している事態の深刻さと改革の難しさとが図らずも浮き彫りにされた感がある.先日大学審議会から,「21世紀の大学像と今後の改革方策について—競争的環境の中で個性が輝く大学—」,との魅力的な表題で174頁に及ぶ中間報告が出された.堅い話になりそうだが,少し辛抱して頂くことにして,この中では以下の4つの大学改革の基本理念が示されている.すなわち,1.課題探求能力の育成—教育研究の質の向上,2.教育研究システムの柔構造化—大学の自律性の確保,3.責任ある意志決定と実行-組織運営体制の整備,4.多元的な評価システムの確立—大学の個性化と教育研究の不断の改善,である.これら各基本理念については,現状の問題点や具体的な改革方策が示されているが,些か業界用語的表現が散見され,読み終えるのに可成りの努力を要したのは,筆者ひとりに止まらないのではなかろうか.翻って,今回の改革案の提出を,われわれに身近な医学部・医科大学での医学教育制度に対する思い切った改革への契機としたいものである.昨今,わが国の行政改革のひとつとして国立大学の独立行政法人化が真剣に論議されているが,国立大学付属病院も例外ではない.どのような改革が行われるにせよ,制度の面からは競争的環境の整備と悪平等の是正,それに加えてわれわれ働く側のより一層の自助努力への意識改革が不可欠となろう.ところで,全国の医学部・医科大学学生の定員数については,ここ10年来その見直しが認識されながらも,いまだ全体の定員数の削減目標には到達し得ていないように見受けられる.こと医学教育制度ひとつを考えても課題は山積しているが,長期的展望のもと思い切った改革が,今こそ真剣に模索されなければならないのではなかろうか.今回提唱された4つの基本理念のうち,筆者は特に,“2.教育研究システムの柔構造化”に大きな関心がある.大学審議会報告は現状の問題点として,硬直した教育システムのため,社会の変化・多様なニーズに,大学が自律的に対応できないことを挙げている.

連載 脳神経外科と分子生物学

神経移植・再生療法の現状と展望—細胞工学,分子生物学的手法の応用

著者: 伊達勲 ,   大本尭史

ページ範囲:P.860 - P.872

I.はじめに
 種々の神経疾患に対する神経移植・再生療法は,神経科学の中でも最も新しい分野の一つであり,近年の細胞工学,分子生物学的手法の応用によってさらに発展の期待がもたれている.神経移植という方法が,神経疾患の治療法として研究され始めたのは,パーキンソン病に対してであり,その後,ハンチントン病,アルツハイマー病などの神経変性疾患,癌性疼痛,脊髄損傷,脳虚血,てんかん,性腺機能低下症など種々の神経疾患に対して,神経移植を用いた治療法の研究が行われてきている33,46,70).本稿では,神経移植・再生療法の現状と将来の展望について,特に細胞工学・分子生物学的手法をどのように応用して行くことが期待されるかを交えながらまとめる.なお,広い神経移植・再生の分野を全て包含するのは紙面の都合上も困難であるので,最もこれまで研究が進み,臨床応用も行われてきたパーキンソン病に対する神経移植を中心にまとめていき,他の神経疾患については種々の神経疾患に対する神経移植・再生療法として最後に述べることにする.

研究

5-fluoro-2'deoxyuridine(FdUrd)の髄腔内治療への応用に関する研究—髄腔内治療の可能性に関してin vivoでの検討

著者: 中川秀光 ,   山田正信 ,   福島正和 ,   清水恵司 ,   池中一裕

ページ範囲:P.873 - P.879

I.はじめに
 5-fluoro-2'-deoxyuridine(FdUrd)は,5-fluo-rouracil(5-FU)の活性代謝物であり,それ自体極めて強い抗腫瘍活性を有し,米国では大腸癌の肝転移に対する治療薬として肝動注療法としてのみ使用されている公知の化合物である7,8,15).かつて,FdUrdは転移性脳腫瘍に対する臨床応用はあるものの,いずれも静脈内投与での極少数例による成績で治療効果も確定するに至っていない5).このFdUrdは生体内でthymidine kinase(TK)によって代謝を受けintracellular monophosphatederivativeである5-fluoro-2'-deoxyuridine-5'-monophosphate(FdUMP)に変換されるとともにメチレンテトラヒドロ葉酸とともにDNA合成のkey enzymeであるthymidylate synthaseとter-nary complexを形成することにより,これを阻害してcytotoxicityを発現する2-4,6,14).一方FdUrdはthymidine phosphorylase(TPase)により5-FUへ異化されることからFdUrdの抗腫瘍効果の減弱に働き,また一部はfluoro-β-alanineに変換され神経毒性を引き起こす12,13,17)

神経膠腫の悪性度別での201TlClの集積動態の差異—Dynamic SPECTを用いた検討

著者: 周郷延雄 ,   大石仁志 ,   黒木貴夫 ,   大塚隆嗣 ,   狩野利之 ,   御任明利 ,   清木義勝 ,   柴田家門

ページ範囲:P.881 - P.887

I.はじめに
 201Thallium chloride(201TlCl)は,single-pho-ton emission computed tomography(SPECT)上,脳腫瘍への選択的な集積を示し,その集積程度は腫瘍代謝を反映するとされる1,3,5,8-12,14,15,18,19,21,22).神経膠腫においては,悪性度に伴って201TlClが高集積を示す傾向にあり,鑑別診断上,有用と考えられている3,8,9,11,12,14,15,18).しかし,実際には,gliomaの悪性度を201TlClの集積程度のみで明確に分けることができない症例が存在することも事実であり,未だ一般臨床において充分な情報を得られるまでに至っていないと考えられる.
 今回,われわれは,短時間データ収集によるdynamic SPECTを用いて,神経膠腫の各悪性度別での201TlClの経時的な集積動態を比較し,その臨床的有用性を検討したので報告する.

中枢神経系原発性悪性リンパ腫に対するHigh Dose Methotrexate(MTX)-CHOP併用療法(M-CHOP療法)の試み

著者: 松本健五 ,   前田八州彦 ,   小野恭裕 ,   田宮隆 ,   古田知久 ,   大本尭史

ページ範囲:P.889 - P.895

I.はじめに
 中枢神経系原発性悪性リンパ腫は従来稀な疾患とされていたが,近年症例数の増加が指摘されており,頭蓋内腫瘍の鑑別診断において重要な位置を占めつつある2,7).本疾患は著明な放射線感受性を示すことより,治療はこれまで放射線療法を中心として行われてきた.しかしながら,放射線療法のみでは通常短期間で再発し長期生存が得られないことが多く1,15),放射線療法に加えて種々の化学療法の試みがなされている5,6,9,11,20,24).そのなかで,メトトレキセート(MTX)大量療法は,近年様々な投与法で応用され,良好な成績も報告されている2,6,8).一方,標準的な治療法であるCHOP(cyclophosphamide,adriamycin,vincris-tine,prednisone)療法の効果について評価は一定しておらず3,10,24),われわれが1971年から1995年の間に経験した悪性リンパ腫32例の検討結果では16),初期療法においてCHOP施行例の中間生存値が38カ月と他の化学療法に比べ最も良好であったものの,長期効果は満足できるものではなかった.以上の観点から,1995年より当科では中枢神経系原発性悪性リンパ腫に対し,CHOP療法とLeukovonin(LV)救援によるMTX大量投与の併用(M-CHOP)療法を第一選択として治療を行っている.今回その治療効果と安全性について検討したので文献的考察を加え報告する.

慢性腎不全患者における被殻出血の検討

著者: 鶴嶋英夫 ,   亀崎高夫 ,   山部日出子 ,   目黒琴生 ,   大橋教良 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.897 - P.901

I.はじめに
 近年,技術や患者管理法の進歩により血液透析患者の長期生存が可能になっている7).これに伴い血液透析患者に発症する他疾患の合併も問題になっている.合併症の中には外科治療を必要とするものもあるが,現在では全身状態や諸検査成績が一定の条件を満たせば手術を行うのが一般的見解である8,10).血液透析患者の死亡原因の第2位が脳血管障害であることを考えると7),脳神経外科的には脳内血腫が問題になる.しかし血液透析患者の脳内血腫に対する治療及びその治療成績はいまだ明確でない.
 今回,われわれは2つの施設(筑波メディカルセンター病院:TMC,茨城西南医療センター病院:SMC)に他施設から紹介された慢性腎不全治療中の脳内血腫患者とSMCで慢性腎不全治療中に発症した脳内血腫患者のうち被殻出血(以後PH)に関してその治療成績をまとめ一般的高血圧性脳内血腫(被殻出血)の治療成績と比較してre-trospectiveに検討した.

症例

慢性硬膜下血腫に生じたサルモネラ硬膜下膿瘍の1例

著者: 韓正訓 ,   金澤源 ,   宮市功典 ,   林下浩士 ,   松尾吉郎 ,   重本達弘 ,   吉村高尚 ,   鍛冶有登 ,   月岡一馬 ,   鵜飼卓 ,   西川節 ,   山中一浩

ページ範囲:P.903 - P.907

I.はじめに
 硬膜下膿瘍は,全頭蓋内感染症の10-20%,あるいは脳膿瘍の1/4-1/5の頻度でみられ,近年その予後は頭部CTやMRI等による早期診断と抗生物質の発達により改善してきている.
 一方,慢性硬膜下血腫に転移性に感染が波及して生じたいわゆる“infected subdural hematoma(ISH)”は極めて稀である3,4,10,11,15,17,19)
 今回,われわれは骨髄異形成症候群の治療中に起こった慢性硬膜下血腫にSalmonella enteritidisが血行性感染したと考えられた症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

悪性Gliomaと他臓器悪性腫瘍重複例の検討

著者: 林拓郎 ,   広瀬雄一 ,   左合正周 ,   村上秀樹 ,   小島勝

ページ範囲:P.909 - P.915

I.はじめに
 近年,悪性腫瘍の医療成績の向上に伴い,重複癌の報告も散見されるようになった.しかし,悪性gliomaと他臓器悪性腫瘍との重複例は稀とされており,その臨床的特徴などの検討は充分にされていない.今回われわれは当院で加療した悪性gliomaと他臓器悪性腫瘍との重複例に対し,画像所見,臨床経過につき検討を行い,その治療を行う上で有意義と思われる知見を得たので報告する.

MRI拡散強調画像により術前診断が可能であった硬膜内伸展を示したDiploic Epidermoidの1例

著者: 稲垣徹 ,   齋藤孝次 ,   奥山徹 ,   平野亮 ,   高橋明 ,   稲村茂

ページ範囲:P.917 - P.921

I.はじめに
 MRI拡散強調画像は,生体内の水分子の拡散運動を画像化させたもので,近年脳梗塞超急性期症例に対する早期診断にその有用性が報告されている4,6,13).一方で,脳腫瘍性病変については報告例が少なく未だ検討段階である.しかし,類上皮腫についてはその有用性が報告されている.今回われわれは頭頂骨から硬膜内にかけ発生した板間層類上皮腫(diploic epidermoid)の手術例を経験し,その術前診断にMRI拡散強調画像が有効であったため,考察を加え報告する.

視床下部過誤腫の部分摘出が有効であった笑い発作

著者: 渡辺尚志 ,   榎本貴夫 ,   上村和也 ,   伴野悠士 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.923 - P.928

I.はじめに
 笑い発作は稀な病態であり,てんかんのうちこの発作を起こすものは0.32%以下とされている4).視床下部過誤腫に伴う笑い発作は薬物治療によるコントロールは奏効しないことが多い2,5,6,11).そのため外科的治療に踏み切られ良好な結果が得られたという報告も散見される10,13)が,位置的にhigh-riskであり,合併症の報告もある15).今回われわれは,合併症を回避するために部分摘出にとどめられたが,術後には笑い発作が起こらなくなった1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

血管内手術により消失させ得た外傷性中硬膜動脈偽性動脈瘤の1例

著者: 奥村裕之 ,   天神博志 ,   上田聖

ページ範囲:P.929 - P.933

I.はじめに
 交通外傷による急性硬膜外血腫とそれに対する血腫除去術後に,外傷性中硬膜動脈偽性動脈瘤の発生を認めた1例に対して,開頭術を用いず血管内手術によって治療を行い動脈瘤を消失させ得た.本疾患はその頻度の少なさから見逃されやすく注意を要する.本症例では出血を繰返しながら硬膜外血腫が緩徐に増大してきたと思われるが,神経学的脱落症状の発現前にそれを未然に防ぎ得た.それに対する治療として,血管内手術は,侵襲が少なく患者に対する負担も軽いが,その反面,再開通の可能性もあり,反復した治療も必要となり得る.
 われわれは,本症例を血管内手術のみによって完治させ得たことから,同疾患に対する治療として,考慮されるべき一つの選択肢となりうるものと考える.

Azygos anterior cerebral arteryを伴ったlarge distal anterior cerebral artery aneurysmの1例

著者: 鈴木泰篤 ,   川俣光 ,   松本浩明 ,   国井紀彦 ,   松本清

ページ範囲:P.935 - P.941

I.はじめに
 末梢性前大脳動脈瘤(distal anterior cerehral ar-tery aneurysm,以下DACAA)は全脳動脈瘤の5%前後を占めると言われ9),azygos anterior cere-bral artery(以下azygos ACA)をはじめとする前大脳動脈の異常を伴うことが多い1).発生部位は脳梁膝部付近に多く,これより末梢部の脳梁周囲動脈や脳梁辺縁動脈には少ない19).また大型の動脈瘤の報告は少なく,そのほとんどが脳梁膝部付近に発生している.今回われわれはazygos ACAの終末部のsupracallosal portionに発生したlargeaneurysmの1症例を経験した.脳梁膝部より末梢に発生したlarge aneurysmやgiant aneurysmは稀と考えられたので,その発生機序および手術手技につき若干の考察を加えて報告する.

報告記

第3回日独合同脳神経外科会議

著者: 松谷雅生

ページ範囲:P.944 - P.945

 第3回日独合同脳神経外科会議(会長:Samii教授と阿部弘教授)は,6月12日から16日の間,Hannover市で開かれているドイツ脳神経外科学会のプログラムに組み込まれて行われた.薫風さわやかな新緑の候,大戦後に再建された静かなたたずまいの都市,最も美しいドイツ語が話される地域,申し分ない環境の中で会議が始まった.日本からは,阿部弘教授(会長),福井仁士教授(次期会長),高倉公朋教授,早川徹教授,吉本高志教授など,日本脳神経外科学会幹部の方々をはじめとして,10名余の教授,10名余の病院部長,20名余の助教授・講師の方々を含めて,100余名が参加した.日本国内学会の合い間をぬってこのように多数の日本人が参加したのは,重要なドイツ脳神経外科学会の1部を日本との交流の時間にあてて下さったSamii会長の好意にむくいるため,阿部弘教授がドイツ留学経験者を中心に全国に広く参加を呼びかけられた成果である.Samii教授は日本から参加したわれわれに深大な謝意を表せられた.
 ドイツ脳神経外科学会のプログラム構成の中心は,国の内外からの招待講演で構成するgeneralscientific sessionで,午前10時30分から午後1時まで他の会場を閉鎖して行った.今回採り上げられた主題は“Image-guided neurosurgery”,“Mo-dulation and plasticity in the CNS”,“Novel trea-ment concepts”,および“Neuromonitoring”であった.最近のトピックスを集中して勉強する企画であり,生涯教育の目的に適うものであった.日独合同会議には6月15日があてられた.当日は,午前,午後ともに5会場の内の4会場が,夕刻からはボスタ7討論の他に2会場で口演が行われた.選ばれた主題は,“Neuronavigation”,“Neuromonitoring”,“Tumor Surgery and Neuro−oncology”,“Aneurysms”,“Microsurgery.videoPresentation”,および“Novel Tools and SurgicalTechniques”であり,日本からの発表はポスターも含めて72題であった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?