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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科26巻11号

1998年11月発行

雑誌目次

人は死して髑髏を残す

著者: 松本清

ページ範囲:P.954 - P.955

 第2次世界大戦が終わって半世紀がたつのにこの間世界のどこかで争いが絶えない.その多くは宗教を異にするゆえの争いごとである.このような戦争が終わってしばらくして,あの戦争の意味は何であったかと考えてみると人は何も見出せない馬鹿馬鹿しい気持ちにとらわれるであろう.しかし人間はおろかにもこの宗教がらみの争いを2000年以上も続けているのが現実の歴史であり,将来も又続けるのであろう.
 欧米のキリスト教では人は死ぬと魂は昇天し,遺体は完全に物体に変わると考えているらしい.映画などでみる葬儀では遺族や友人が棺にひとつまみの土をかけて,すぐに立ち去り,棺の埋葬は墓堀人にまかせて終了する.仏教徒である私にはそれが習慣とはいえ,埋葬が終わるまでそれを見つめるのが礼儀ではないかと思ってしまうのは,日本ではすべて火葬にして骨拾いの儀式があるからであろうか.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Functional Hemispherectomy

著者: 吉峰俊樹 ,   ,   加藤天美 ,   新居康夫 ,   丸野元彦 ,   早川徹

ページ範囲:P.956 - P.968

I.はじめに
 大脳半球切除術cerebral hemispherectomyは当初,グリオーマが大脳半球に広範に浸潤した片麻痺患者に対し根治をめざして行われたものである(Fig.1A)8,23).一時は注目されたが合併症が多いうえ,結局は早期の腫瘍再発を免れないことがわかり1930-40年代にはかえりみられなくなった31).その後,てんかんをともなった乳幼児片麻痺患者の1例に応用されたが25),Krynauwが12例の経験をまとめて有用性を報告するにおよび21),てんかんの外科治療法として脚光を浴びるようになった.しかし,手術時間が長く,出血量が多いこと4),髄液吸収障害にもとづく水頭症を来たしやすいことに加え,術後4-20年の長期間を経て重篤でときに致死的な合併症である脳表ヘモジデリン沈着症superficial cerebral hemosi-derosisを高率に(25-35%)来たすことが明らかとなった22,31).その原因として半球切除後の大きな硬膜下腔への持続性の微量出血が指摘され27),これを防止するための工夫がなされてきた1,6,31,44)
 その一つが前頭葉と頭頂身との一部および後頭葉を残して大脳半球中心部と側頭葉のみを切除し(subtotal hemispherectomy),残した脳は深部白質を吸引除去して機能的に離断する方法である(Fig.1B)31,38-40).本手術は神経連絡の面では大脳半球全体を離断したことになるため,機能的大脳半球切除術functional hemispherectomyと呼ばれ,大脳半球を実際に切除する解剖学的大脳半球切除術anatomical hemispherectomyと区別されている38,40),また大脳半球の皮質のみを切除し,脳室壁に沿った白質は温存する変法も報告されている(大脳半球皮質切除術hemidecorticationまたはhemidecorticectonly)5).いずれも,脳表ヘモジデリン沈着症の発生は少ないが5,31,40),なお手術侵襲が大きいことから,さらに脳切除範囲を減らし,かつ一側大脳半球皮質を線維連絡の面で完全に離断する術式が考案された.半球線維路遮断術hemispherical deafferentation32)あるいは大脳半球切截術cerebral hemispherotomy41)と呼ばれている(Fig.1C).これらも広い意味で機能的大脳半球切除の範疇にいれられている5,12,32,41).解剖学的および機能的大脳半球切除術およびその変法をFig.1およびTable1に示す.

研究

悪性脳腫瘍の髄腔内播種に対する5-fluoro-2'-deoxyuridine(FdUrd)による髄腔内治療—臨床応用とその効果

著者: 中川秀光 ,   山田正信 ,   前田暢彦 ,   岩月幸一 ,   都築貴 ,   平山東 ,   山本弘志 ,   池中一裕

ページ範囲:P.969 - P.977

I.はじめに
 癌性髄膜炎の予後は悪く,現在一般に行われている治療として,脳室内に留置したtubeとそれに連結したOmmaya reservoirを皮下に設置して,それを経皮的に穿刺してmethotrexate(MTX)単独9,22,30,32,33)あるいはcytosine arabino-side(Ara-C)8,17,28)やthio-TEPA31)31との併用で髄腔内に投与され治療される.また放射線治療も併用されることが多い.そのMTXによる髄腔内治療の副作用は時に投与時の不快感や痙攣などの早期副作用から遅発性神経毒性が報告されている.さらにOmmaya reservoirからのMTX等の注入治療の場合,亜急性の神経毒性のために癌性髄膜炎は抑制されてもperformance statusは悪化してベッドでの臥床を余儀なくされることがあり,また慢性毒性のためにCTやMRI上で高度の脳萎縮を認めるような状況をよく経験する23).このMTXの神経毒性を防ぎかつより効果的な方法を求めてMTX 1mgの少量を12時間ごとに反復投与する方法25),あるいは筆者らの脳室-腰部髄腔内潅流化学療法が試みられている18).また,MTXは耐性を獲得し易いことや,もともとMTX抵抗性の腫瘍も存在することより,新しい神経毒性が低く,かつ強い抗腫瘍効果を持つ抗癌剤が出現することが切に望まれている.我々は,5-fluorouracil(5-FU)誘導体である5-fluoro-2'-deoxyuridine(FdUrd)が神経毒性が極めて低く,抗腫瘍効果が強いことをin vitroおよびin vivoで報告するとともにFdUrdの代謝と異化を司るthymidine kinase(TK)とthymidine phosphory-lase(TPase)の両key enzymeの活性バランスを腫瘍と正常組織で検討し,悪性腫瘍の髄腔内播種例に対して有効な治療薬となりうる可能性を得た19,20,35).ここではそれらの基礎研究の結果より倫理委員会の許諾を得て施行した臨床結果について報告する.

“Prone-Oblique” Positionによる胸・腰・仙椎レベルの手術

著者: 新島京 ,  

ページ範囲:P.979 - P.983

I.はじめに
 胸椎から仙椎までのレベルの病変に対する後方アプローチによる手術は,ほとんど例外なく肘膝位または腹臥位で行われている6,8).上位胸椎レベルに限っては,稀に坐位を用いる場合もあるが一般的ではない.肘膝位や腹臥位では,真っ直ぐな脊柱を左右両方向から対称的に観察,アプローチできる利点がある。また肘膝位では椎間が広がり,幾分thecaを露出し易い.他方,術野が高くなり,着座して行うマイクロサージャリーには不向きである7).更には,胸腹部の圧迫が問題となる場合や1-3,9,10),合併病変によって胸腹部を下にする体位が不可能な場合もある.
 脊髄脊椎のマイクロサージャリーを行う上での肘膝位や腹臥位の問題点を改善する目的で,筆者らは,Malis3)の推奨するprone-oblique position(P-O)下の後方アプローチを試み4,5),良好な結果を得ている.

一過性健忘を伴った軽症頭部外傷患者におけるFLAIR法MRI所見

著者: 若本寛起 ,   宮崎宏道 ,   稲葉真 ,   石山直巳 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.985 - P.990

I.はじめに
 軽症頭部外傷患者が一過性の健忘症状のみを訴えて来院することは稀ながらあるが,多くは画像診断にて異常を認めず,症状も一過性であることから,脳に器質的傷害がないものと理解されることが多い.このような患者の病態については,従来のCTやMRIでは病巣が捉えにくく,剖検例も得にくいことから,あまり検討されてはいなかった.一方,最近の画像診断の進歩によって,いままで検出できなかった頭蓋内病変が画像的に描出されるようになってきた.今回われわれは一過性の健忘症状を呈した軽症頭部外傷患者にMRIのFLAIR法を施行したところ,従来の画像診断では確認し得なかった所見が検出されたので,これらの臨床的意義について検討を加えた.

脳卒中はいつ発症するか?—時間的および行動的要因について

著者: 亀井一郎 ,   大林慎始 ,   中川真里 ,   西林宏起 ,   桑田俊和 ,   兵谷源八 ,   薮本充雄 ,   栗山剛 ,   板倉徹 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.991 - P.998

I.はじめに
 脳血管障害に対する診断技術および治療方法の進歩が10年も経てば隔世の感がある一方で,その疫学や予防医学がそれらと歩調を合わせて進んできたかというと必ずしもそうはいえない.社会生活上のストレスが増加し,自然環境の急激な変化がみられ,生活様式や食生活も日々変化して行く今日ならびに近未来において,疫学や予防医学に関する学問も必ず進歩して行くものと思われる.
 一般的に脳出血は活動しているときに多く発症し,脳梗塞については睡眠中ないし起床時にその発症に気づくことが多いとされているが,現在までのところこの点について詳しく検討された報告は必ずしも多くはない.

症例

進行卒中の経過をとった非出血性椎骨動脈解離の急性期血管内手術例

著者: 遠藤広和 ,   嘉山孝正 ,   遠藤浩志 ,   赤坂雅弘 ,   近藤礼 ,   長畑守雄 ,   細矢貴亮 ,   山口昂一

ページ範囲:P.1001 - P.1005

I.はじめに
 椎骨脳底動脈解離は,最近本邦を中心に注目を集めている疾患の一つでその注目度と相俟って報告例も増加している1,3,11,14).しかしながら本疾患のうち,脳虚血症状,頭痛などにて発症する非出血例の治療法に関しては未だ一定の見解がない.今回,われわれは脳幹梗塞にて発症し解離が進行したために症状が増悪した椎骨脳底動脈解離に対して,急性期に血管内手術にてproximal oc-clusionを施行し良好な結果を得ることができた1例を経験したので報告するとともに,椎骨脳底動脈解離の非出血例に対する治療法を考察する.

脳室腹腔短絡術の稀な腹腔内合併症—3例報告

著者: 山村邦夫 ,   児玉治 ,   梶川博 ,   川西昌浩 ,   杉江亮 ,   梶川咸子 ,   藤井省吾 ,   住岡真也

ページ範囲:P.1007 - P.1011

I.はじめに
 脳室腹腔髄液シャント術(ventriculoperitonealCSF shunt:以下VPS)は水頭症に対して最も一般的なシャント術式である.当施設のVPS施行例のうち,その後シャントシステムの再建術や抜去術を施行した例を検討したところ,シャントシステムの機械的な閉塞や屈曲による通過障害と感染症が最も多い合併症であったが,本稿ではこれらのうち稀と思われる腹腔内髄液偽嚢胞の形成,横隔膜下膿瘍の形成,腹腔側チユーブの直腸壁への穿孔(肛門部より脱出)の3例について報告する.

保存的治療にて軽快した特発性脊髄硬膜下血腫の1例

著者: 玉野吉範 ,   岩田幸也 ,   馬場元毅 ,   井沢正博 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.1013 - P.1018

I.はじめに
 脊髄硬膜下血腫は頭部に発症する硬膜下血腫と比較して珍しい疾患である.その発症原因にはいろいろな報告があるが,特に明らかな誘因のない特発性脊髄硬膜下血種の報告例1-3,5-8,13-18,20)は少ない.今回われわれは明らかな誘因なく発症し,保存的療法にて軽快した特発性脊髄硬膜下血腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

5年の間に発生したと思われる横・S状静脈洞部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 石川敏仁 ,   糸川博 ,   前野和重 ,   佐藤光夫 ,   鈴木恭一 ,   渡部洋一 ,   佐々木達也 ,   児玉南海雄

ページ範囲:P.1019 - P.1024

I.はじめに
 硬膜動静脈瘻は,病因が不明であり治療にも難渋することの多い疾患である.その発生機序に関しては,静脈洞の血栓性閉塞に引き続いて器質化が起こる過程で後天的に形成されるという説11)や,静脈洞の閉塞とは無関係で,静脈洞壁を構成する硬膜内において動静脈シャントが形成されるという説20,21)などがあるが,未だ定説はない.
 今回われわれは,TIAの精査のために行われた初回の脳血管撮影で異常所見を認めなかったが,その5年後に脳内出血で発症し,脳血管撮影で新たに横・S状静脈洞部に硬膜動静脈瘻を認めた1例を経験したので,その成因に関して文献的考察を加え報告する.

急性硬膜下血腫の自然吸収サイン—2症例の報告より

著者: 鈴木泰篤 ,   川俣光 ,   松本浩明 ,   国井紀彦 ,   松本清

ページ範囲:P.1025 - P.1029

I.はじめに
 急性硬膜下血腫は脳挫傷や急性脳腫脹を合併しやすく予後不良となることが多い9).しかし,受傷直後にCTで認められた血腫が神経症状の急速な改善と共に数時間で消失し,手術を行うことなく治癒したとの報告が散見される4-6,8-12,14,16,17).今回われわれも同様の症例を2例経験した.過去の文献も合わせてその消失機序について考察し,予後不良例との鑑別に有用と思われるCT所見が示唆されたので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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