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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科26巻12号

1998年12月発行

雑誌目次

情報伝達の難しさ

著者: 関野宏明

ページ範囲:P.1040 - P.1041

 脳ドックが人々の間で一般的なものになり、いわゆる無症候性脳血管障害についての相談を受けることが珍しくなくなってきた.これは一方ではhelical CTやMRI撮像法などhard, soft両面での診断技法の進歩,他方では高齢人口の増加とともに目立ってきた痴呆にだけはなりたくない,早めに予防できないかという人々の切実な願いにもよるのであろう.ところで,脳ドックを受けようとする人は健康人である.検査で何がわかり何が分からないのか限界を知り,もし異常が発見された場合にはどのような対処の方法があるのか知り,十分検討する時間的ゆとりがあり,それらを承知した上で,つまり十分なインフォームド・コンセントが成り立ったうえで検査を受けているはずである.病院の説明書をみてもその辺のことは十分に記載されている.ところが,たとえば未破裂動脈瘤が発見されて脳血管撮影や手術を勧められたがどうしたものかといって,second opinionを求めて来院するcaseは決して少なくない.その中にはどうしても不安でしかたがないという人がかなりあり,なぜなのかよく聞いてみると説明書は読んだし十分説明も受けたが,自分には関係ないだろう,自分は健康だからそれを証明してもらうために検査を受けたといった答えが返ってくる。
 時間的ゆとりのある場合でもこうであるから,ましてや緊急の場面では医療情報がどれくらい正しく患者さんやその家族に伝わっているのか,はなはだ心配になってくる。京都大学総合診療部の福井次矢教授は,医療情報伝達についての講演の中で,患者に医療情報を正しく伝えることの難しさに言及し「外来診療後10〜80分の時点で,患者は伝えられた情報の40%の内容しか思い出せない,それから,60%の患者は聞いた内容を誤って理解しているという報告がある」と述べている1)

連載 脳神経外科と分子生物学

神経系に関わる遺伝性疾患研究の現状と展望

著者: 辻省次

ページ範囲:P.1043 - P.1054

I.はじめに
 神経系をおかす疾患の病因を解明しようとしたときに,従来は,主として病理学,生化学などの研究を基盤として病因解明のための研究が行われてきたが,病因の解明がなされていない神経疾患が数多く残されていた.ところが,1980年代になって,分子遺伝学的な研究手法が導入され,疾患の責任遺伝子が相次いで発見されるようになり,神経疾患の病態機序を分子レベルで合理的に解明することが可能になった.本稿では,神経疾患の遺伝子研究がもたらしたパラダイムシフトが神経疾患の理解にどのようなインパクトを与えたかを紹介し,今後の展望について考察してみたい.

総説

脳腫瘍とサイトカイン

著者: 倉津純一

ページ範囲:P.1055 - P.1064

I.はじめに
 サイトカインは免疫反応,造血反応,炎症反応をはじめとするいわゆる生体防御だけでなく神経系や内分泌系の生体の重要な機能も調節している生理活性因子である.またサイトカインに関する知見はあらゆる病態の研究に及び,脳腫瘍や脳血管障害,変性疾患,感染症など幅広い脳疾患の病態解明にも重要である.10数年前までは培養上清中の活性物質として証明されただけのサイトカインのほとんどが,その構造決定から遺伝子工学による大量生産の途が開かれた結果,今や臨床の現場に不可欠のものとなった.ここでは脳腫瘍に関して各種サイトカインのかかわりと臨床的意義,サイトカイン遺伝子療法まで最近の報告を中心に解説したい.

研究

皮質下出血の出血原因からみた手術適応

著者: 中山義也 ,   田中彰 ,   吉永真也 ,   上野恭司

ページ範囲:P.1067 - P.1074

I.はじめに
 大脳皮質下出血の原因として,高血圧の頻度は319)-453)%と,他の部位の脳出血に比べ低い.これは脳動静脈奇形(AVM)や脳動脈瘤,脳腫瘍,出血性性素因など多くの原因があるためと思われる.原因不明の特発性のものは129)-273)%と報告されているが,この中には血腫量が少なくても出血原因検索の目的で手術が行われることもあり7),その手術適応が問題となる.われわれは,皮質下出血の原因病変,再出血の有無および長期予後について調査し,その手術適応を検討した.

頸動脈血栓内膜摘除術術中に施行したBalloon Dilatation後の血栓内膜の肉眼的,病理組織学的検討

著者: 西田正博 ,   島健 ,   岡田芳和 ,   山根冠児 ,   畠山尚志 ,   山中千恵 ,   豊田章宏 ,   西田俊博

ページ範囲:P.1075 - P.1082

I.はじめに
 頭蓋外頸動脈の狭窄性病変に対する血栓内膜摘除術(Carotid Endarterectomy,以下CEA)は欧米でのrandomized study等の結果,70%以上狭窄のsymptomatic例,60%以上の狭窄の認められるasymptomatic例に於いて本手術の有効性が認められ,積極的に手術が行われるようになってきた.一方,最近の血管内手術法の普及,カテーテル等材質の進歩,高解像度DSAの導入等に伴い,頸動脈病変に対してもpercutaneous transluminalballoon angioplasty(PTA)が行われるようになりつつある.確かに低侵襲ではあるが未だこの術式の有効性,安全性の確立には至っておらず,再狭窄の問題,血栓遊離による脳塞栓の可能性も危惧されている2,5,11,13,21).また,頸動脈を含めPTAによる血管拡張の機序,血管壁の変化等について,実際の施行時や施行後の病理組織で検討した報告は少なく4,15),適応についても確立されていないのが現状である.今回われわれはCEAの術中に頸動脈狭窄部のballoon dilatationを行い,その後摘出した.血栓内膜の肉眼的,病理組織学的検討から,PTAの有効性,危険性等について考察を加え報告する.

頸椎頸髄損傷における超高速三次元CT(UF-3D-CT)の有用性

著者: 西川節 ,   坂本博昭 ,   岸廣成 ,   韓正訓 ,   北野昌平 ,   安非敏裕 ,   小宮山雅樹 ,   岩井謙育 ,   山中一浩 ,   中島英樹

ページ範囲:P.1083 - P.1087

I.はじめに
 近年,コンピュータによる画像解析技術の進歩によって,CTなどで撮影した画像を三次元的に描出し病変部をさらに詳しく表現することが容易かつ正確にできるようになった4,5,8,10,11).一方,全く新しい世代のCTとして超高速CT(ultrafastelectron beam CT)も開発され臨床応用されている1,2).Ultrafast electron beam CTは,Boydらによって1979年に開発され1983年に実用化された装置であり,電子銃から出た電子線が電磁石によってまげられ患者の周囲に配置されたタングステンリングにあたりこれからX線を発生させることにより,撮影を行う装置である(Fig.1)1).したがって機械的に管球を回転させる必要がなく撮影時間が飛躍的に短縮された.
 頸椎頸髄損傷は,患者の全身状態が不安定であるとともに,早急に診断をつけて治療計画をたてる必要がある.そこで頸椎頸髄損傷にultrafastdectron beam CTを用いてより早く,そして,コンピューターel画像解析システムを用いて三次元CT画像(UF-3D-CT)を作成することによって正確に診断し,治療に役立てることを試みた.

症例

Levodopa Effective Parkinsonism Associated with Aqueductal Stenosis:a case report and review of the literature

著者: ,   ,   ,   ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.1089 - P.1092

 A case of aqueductal stenosis(AS)associated with marked parkinsonism is described.A ventriculoperi-toneal(V-P)shunt was performed in an 18-year-old female because of hydrocephalus associated with non-neoplastic aqueductal stenosis.The patient developed acute parkinsonism with Parinaud's sign after theshunt revision.
 She had a marked response to levodopa and the parkinsonism improved.Subsequently, levodopa therapywas gradually discontinued without any manifestation of parkinsonism.
The pathophysiology of this type of parkinsonism probably involved presynaptic dopaminergic dysfunc-tion. However, the etiology of this complication has not been confirmed.

両側内頸動脈形成不全の1例

著者: 藤本憲太 ,   大西英之 ,   越前直樹 ,   井田裕己 ,   金本幸秀 ,   本山靖

ページ範囲:P.1093 - P.1095

I.はじめに
 両側内頸動脈が眼動脈分岐後に消失し,脳底動脈より後交通動脈を介して前大脳動脈及び中大脳動脈が造影される1例を経験したので,その3-di-nlensional computed tomography angiography(3D-CTA),脳血管撮影像を提示する.

6年間の経過観察中に腫瘍径の増大したDysembryoplastic Neuroepithelial Tumorの1例

著者: 山口成仁 ,   大西寛明 ,   立花修 ,   長谷川光宏 ,   江守巧

ページ範囲:P.1097 - P.1101

I.はじめに
 若年者の難治性てんかんで画像上cystic lesionを示す疾患には,くも膜嚢胞,脳梗塞,poren-cephalyなどの非腫瘍性病変とlow-grade glioma,ganglioglioma,dysembryoplastic neuroepithelialtumor(DNT)などの腫瘍性病変がある2,7,9,13,15).一方,CT又はMRIのみの情報では必ずしもこれらの病変の鑑別が容易でない場合もある7,10,11).今回われわれは当初くも膜嚢胞および脳梗塞と診断され,6年の経過で腫瘍径の増大したDNTの1症例を経験したので報告する.

中大脳動脈再開通後に認めた脳動脈瘤の2例

著者: 林健太郎 ,   高橋伸明 ,   古市将司 ,   吉岡努 ,   柴田尚武

ページ範囲:P.1103 - P.1107

I.はじめに
 カテーテルと血管撮影機器の発達や手技の上達にともない,急性期脳主幹動脈閉塞に対する血栓溶解療法や血管拡張術は益々広がりつつある.今回われわれは中大脳動脈再開通後に,開通前には見られなかった動脈瘤を認めた2例を経験した.急性期動脈閉塞に対して血管内手術を施行するにあたり,注意を喚起する症例と思われたので報告する.

Brown-Séquard型神経症状にて発症した胸髄くも膜嚢胞の1例

著者: 津本智幸 ,   今栄信治 ,   尾崎文教 ,   中井國雄 ,   板倉徹

ページ範囲:P.1109 - P.1114

I.はじめに
 脊髄くも膜嚢胞は比較的稀な疾患で,他の脊髄疾患と同様に両下肢麻痺・感覚障害にて発症してくる報告がほとんどである.今回われわれはBrown-Séquard型神経症状にて発症した胸髄くも膜嚢胞の1例を経験したので若干の考察を加えて報告する.

歴史探訪

自己血輸血の歴史と脳神経外科

著者: 永井政勝

ページ範囲:P.1117 - P.1122

I.はじめに
 近年,輸血医療の変貌は著しく,また血液事業をめぐる行政の動きも激しい.前者は医療技術の長足の進歩と疾病構造の変化によるものであり,後者は薬害エイズ事件を発端とする安全性の問題と,少子高齢社会にともなう献血人口の減少をめぐる問題が主体をなす.このための対応の中,輸血用血液の使用量を減少させる方策として,適正使用基準7)の確立と自己血輸血の応用がある.とくに1997年4月より輸血医療に対するインフォームド・コンセントが保健医療上義務付けられて以来,多くの医療機関で自己血輸血の施行頻度が高まって来た.さらに1997年5月に発生した輸血用血液によるHIV感染第1号の報告が,これに拍車をかけた傾向がうかがえる11)
 筆者は自己血輸血の歴史をたどる時,その発端が脳神経外科手術と深い関連を持つことを知り興味を覚えた.現在の自己血輸血の主体は貯血式と呼ばれるものであり,回収式と希釈式が補助的な役割を果たしているが,貯血式自己血輸血の第一例が脳神経外科手術におけるものであり,また回収式の第一例もHarvey Cushingのもとで行われた手術であることを知り,驚きであった.ここにその歴史を紹介し,現在の輸血医療問題との関連についても検討を行いたい.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第26巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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