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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科26巻2号

1998年02月発行

雑誌目次

未来医療技術と倫理

著者: 寺尾榮夫

ページ範囲:P.99 - P.100

 政治の倫理,企業の倫理,医の倫理と最近倫理がしきりに話題になるのは反倫理的人間が多くなったせいだろうか.いや医の倫理に関する限り,倫理感の欠如した医師が急激に増えているのではない.医学,生物学の進歩の結果登場してきた最先端の診断や治療技術をそのまま実際に適用してよいものかどうか従来の常識と倫理規範では簡単に判断できかねるようなことが多くなってきたのである.現在全国80の医科大学や大病院では学内,院内倫理委員会がもうけられており,新しい技術,治療法が医療の現場に導入されるときにはこの委員会でその適否が検討されている.しかし,一施設での限られた人材での検討では当然能力に限界があり討論される内容は新治療法の導入,人体材料を用いる研究が患者に不利益をあたえないか?危険はないか?説明は十分か?など技術的な面の検討が主になってしまう.脳死を人の死と認めるべきか?などより高度な問題の検討は到底一大学では結論は出し得ない.そこで医学部,医科大学倫理委員会連絡懇談会という全国規模の会が年2回の割で開催され,全国各大学の倫理委員会のメンバーが集まり医学倫理問題が討議されている.脳死の問題があるためか脳神経外科医が倫理委員会のメンバーに選出されることが多く,この懇談会でも多くの脳神経外科の先生方にお会いできた.

総説

顔面痙攣の病態と手術

著者: 永廣信治

ページ範囲:P.101 - P.111

I.はじめに
 顔面痙攣は,一側の顔面神経支配筋に同期して発作性,間代性の不随意筋収縮がみられる疾患である.1960年代にGardner(1962)は顔面痙攣患者の後頭蓋窩開頭による観察から,顔面神経のroot exit zone(REZ)での脳血管や動脈瘤による圧迫が本症の原因であり,手術により治癒可能であることを報告した8).Jannettaらは多くの顔面痙攣患者に顔面神経を圧迫する頭蓋内血管の減圧手術(microvascular decompression, MVD)を行い,すぐれた手術成績を報告した17,18).本邦では近藤20,21),福島7)らによりこの手術が開始された.現在では世界中の多くの施設でMVD手術が行われ良い成績が報告されている2-4,9,12,13,37,38,41)
 しかし,顔面痙攣の病態については,主として電気生理学的な知見から論じられてきたが,まだ完全には解明されていない.また顔面痙攣は生活上に苦痛や支障をもたらすものの,生命に危険を及ぼすことはない機能的疾患である.したがって手術では合併症なく完璧に痙攣を消失させることが要求されるが,やはり一定の率で不成功例や再発例が存在する.この総説では,これまでの電気生理学的知見から考えられている顔面痙攣の病態,圧迫血管の診断,手術手技,手術成績などを中心に述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

末梢神経の外科—胸郭出口症候群,手根管症候群に対する外科治療

著者: 花北順哉

ページ範囲:P.113 - P.122

I.はじめに
 末梢神経に対する外科は,大きく分けて,外傷性末梢神経障害,絞扼性末梢神経障害,末梢神経腫瘍の三つの病態を対象としている.欧米の脳神経外科施設では,これらの病変に対する手術は従来から脳神経外科手術のかなりの割合を占めており,例えば絞扼性末梢神経障害に対する手術のみでも,脳神経外科で行われる全手術例の10-25%に達するとの報告もみられる6).一方,これに対して,わが国ではこれら末梢神経障害に対する脳神経外科医の関心は極めて低く,ごく限られた施設で行われているにすぎない.「脳神経外科」が,その創設時において,「脳,脊髄,末梢神経に関する外科」であることが明記されているにもかかわらず,従来までのわが国での脳神経外科の対象があまりにも頭蓋内病変のみに偏り過ぎていた点は否めない.近年,脊椎・脊髄疾患に興味をいだく脳神経外科医がわが国において,徐々に増加しつつあることは喜ばしいことであるが,神経系統を障害する疾患を,頭の先から足の先までトータルに観察し,的確な診断能力,治療能力を養うといった観点から,脊椎・脊髄にとどまらず,さらに末梢神経疾患に対するわが国脳神経外科医の関心,経験を増加させることが是非とも必要であると考える.当科では14年前の開設以来,脊椎・脊髄疾患に対して積極的に取り組んでおり,約2000例の手術症例を経験した.しかしながら,残念なことに,末梢神経疾患に対する手術例は未だ91例と少数である.外傷性末梢神経障害と末梢神経腫瘍に対する手術経験はいずれも数例のみであるために,本稿では比較的多数例を経験した絞扼性末梢神経障害に対する外科治療につき述べる.

研究

錐体テント部硬膜動静脈奇形に対する導出静脈(洞)閉塞術

著者: 伊藤昌徳 ,   園川忠雄 ,   三科秀人 ,   飯塚有応 ,   佐藤潔

ページ範囲:P.123 - P.133

I.はじめに
 硬膜動静脈奇形は頭蓋内動静脈奇形の10-15%にすぎず,比較的まれな疾患である1,2).これまで,さまざまな治療が試みられてきたが,最近では外科的治療には余り注目されず,血管内手術を選択することが一般的である2,12,13).しかし,経動脈的血管内塞栓術のみでは再発が多く,治癒率は50%とされ15,16),静脈洞を含めた硬膜動静脈奇形の摘出術はSundtら17)によって5%のmajormorbididy and mortalityがあることが報告されている.このようなことから,経静脈的血管内塞栓術が好んで選択される傾向にある.しかし,経静脈的塞栓術が技術的に困難であったり,静脈洞の閉塞や奇形のため経静脈的アプローチが不可能な症例がある14,16,21).今回,著者らは血管内手術で治癒せしめることができなかった3例の錐体テント部硬膜動静脈奇形に対して摘出術よりも外科的侵襲性の低い導出静脈(洞)閉塞術(draining veinclipping)を施行し,満足すべき結果を得た.本手術法の適応,術前血管内栓塞術の役割,術中モニターリング,手術の実際について検討を加えたので報告する.

くも膜下出血発症15日目以後に発現したDIND症例の検討

著者: 富永二郎 ,   下田雅美 ,   小田真理 ,   侭田佳明 ,   柴田將良 ,   松前光紀 ,   大井静雄 ,   津金隆一

ページ範囲:P.135 - P.140

I.緒言
 脳動脈瘤破裂に伴うくも膜下出血(SAH)後の症候性脳血管攣縮(DIND)の大多数は,SAH発症後14日目以内に発現することが多いとされている18,24).しかし,時にSAH発症後15日目以後に思わぬDINDの発現に遭遇することもある.今回,著者らはこれらのDIND患者を臨床的に検討し,その病態に関して考察した.

海馬硬化症のMRI診断—FLAIR(fluid attenuated inversion recovery)法の有用性

著者: 森岡隆人 ,   西尾俊嗣 ,   三原太 ,   村石光輝 ,   久田圭 ,   蓮尾金博 ,   福井仁士

ページ範囲:P.143 - P.150

I.はじめに
 難治性の側頭葉てんかんで,側頭葉切除術をうけた患者の50-70%の海馬には神経細胞の脱落とgliosis(海馬硬化症)がみられる24,32,33,38,44).この病変に対するMRI所見としては,病側海馬の萎縮(hippocampal atrophy:HA)と信号強度の変化(T2強調像での高信号,abnormally high T2 sig-nals:HT2S)があげられている3,4,15,20,24-28,41,42).さらに,HAはアンモン角の神経細胞の脱落の程度に6-29),HT2Sは神経細胞の脱落に加えてgliosisの程度に相関するとされている3,28,29,43).このようなMRI所見はそのてんかん焦点の側方性の判定に有用であるが,海馬硬化の程度は軽度のgliosisから広範囲なgliosisと神経細胞の脱落まで様々であり32),特に硬化所見が海馬の灰白質に限られる時には,MRIで見逃されることもある6,7,26).したがって,報告されているMRIによる海馬硬化の診断率は30%5,28)から70-91%4,18,21,24,26)とまちまちである.
 FLAIR法(fluid attenuated inversion recoverysequence)は,自由水の信号を抑制したT2強調画像が得られるMRIの撮像法の一種で,T2強調画像の高い病変描出能を残しながら,T1強調画像に似た画像である.したがって,神経解剖が把握しやすく9,10,16,17,37),種々の中枢神経疾患でその有用性が指摘されているが39),てんかん焦点の診断に関する報告は少ない2,23,39).われわれは,FLAIR法を側頭葉てんかん症例に適応し,従来の撮像法の画像と比較した.その結果本法は側頭葉てんかんに対する外科的治療の適応を判断する上で極めて有用な撮像法であると思われたので報告する.

症例

レックリングハウゼン氏病に合併したくも膜下出血2例の報告—多発性脳動脈瘤に脳動静脈奇形を合併した1例と前交通動脈動脈瘤の1例

著者: 雄山博文 ,   中根藤七 ,   半田隆 ,   水谷信孝 ,   池田公 ,   井上繁雄 ,   渋谷正人 ,   土井昭成

ページ範囲:P.151 - P.156

I.はじめに
 von Recklinghausen氏病(neurofibrnmatosistype I)は神経皮膚症候群(neurocutaneous syn-drome)の一種で,第17染色体に異常のある常染色体優性遺伝疾患であり,1/3000の頻度でみられる19).このvon Recklinghausen氏病は主として,neurofibroma, café-au-lait spot, glial tumor,meningioma等の発生に示されるように外胚葉系の異常を示すが,その他,骨形成異常,腎嚢胞,膵嚢胞の発生に示されるように中胚葉系の異常も示す15).この中胚葉系の異常に属するものには血管病変もあるが,これは比較的稀である2,12,14,20).中枢神経系の血管障害の中では脳梗塞が多いが,今回われわれは稀なくも膜下出血の2例を経験したので,考察と共に報告する.

上小脳動脈marginal branchに発生した破裂動脈瘤の1例

著者: 平井収 ,   片岡大治 ,   新田武弘

ページ範囲:P.157 - P.161

I.はじめに
 セルジンガー法による選択的脳血管撮影が一般化して後頭蓋窩動脈瘤の検出率が増加したとはいえ,各小脳動脈末梢部の動脈瘤はまれである.著者らは上小脳動脈瘤のなかでもさらに頻度の少ない,外側皮質枝であるmarginal branchに発生してくも膜下出血で発症した症例を経験した.治療上の問題点を文献的考察を含めて報告する.

上小脳動脈末梢部紡錘状動脈瘤の1例

著者: 福井伸二 ,   南田善弘 ,   久保田司 ,   小助川治 ,   稲葉憲一

ページ範囲:P.163 - P.167

I.はじめに
 脳動脈瘤の中で上小脳動脈末梢部に発生するものは比較的まれで,47例が報告されているにすぎない1,4-6,8-10,13,14,16,19-21).その中でもfusiformtypeのものは極めてまれである.今回われわれは,くも膜下出血で発症したfusiform typeの上小脳動脈末梢部動脈瘤を急性期に手術し,良好な結果を得られたので報告するとともに,その発生機序について考察を加える.

斜台部脊索腫摘出における神経内視鏡とneuronavigatorの有用性

著者: 宮城敦 ,   前田浩治 ,   菅原武仁

ページ範囲:P.169 - P.175

I.はじめに
 頭蓋底外科手術の手術成績は,最近著しく向上しているが,斜台部脊索腫の手術はいまだにchallengeableな手術であり,全摘が困難なことが多い.脊索腫の予後は,初回の手術で決まるといっても過言ではなく1),いかに全摘がうまくなされるかにかかっている.今回われわれは,神経内視鏡,neuronavigationを併用しながら,摘出しえた症例を経験したので,若干の文献を加えここに報告する.

2つの副鼻腔と交通していた外傷性脳内気脳症の1例

著者: 若本寛起 ,   宮崎宏道 ,   林拓郎 ,   島本佳憲 ,   石山直巳

ページ範囲:P.177 - P.181

I.はじめに
 一般に外傷性気脳症は骨と硬膜に亀裂部が存在し,その部を介して空気が頭蓋内に侵入してくる病態であるが,空気が脳実質内に限局する脳内気脳症は,さらに特異な条件がそろって初めて生じる病態と考えられており8,9),その報告例も少ない1,4,6,10,13,14).今回われわれは脳内気脳症の経過観察中に,急激に脳内およびくも膜下腔に空気が大量に流入した症例を経験し,手術所見から気腫腔が2箇所の副鼻腔と交通している所見を得たので,この稀なる脳内気脳症の病態につき,若干の検討を加え報告する.

報告記

ベルリン国際コンピュータ外科学会(ISCAS)

著者: 小林英津子

ページ範囲:P.182 - P.183

 1997年6月25日-6月28日まで,ドイツのベルリンでCAR '97(Computer Assisted Radiol-ogy)の第11回国際シンポジウムと展示がICC(International Congress Center)で開催された.国際コンピュータ外科学会,International So-ciety for Computer Aided Surgery(ISCAS)は,現在の先端工学技術と手術治療との融合を目指し,CARとのJoint Meetingとして開催された.
 CARのオープニングセッションはATMを利用しベルリン市内の2箇所の病院と学会会場を結び,手術中継を行った.これは立体眼鏡により三次元で手術室の様子を見ることができた.三次元映像による中継はオープニングセッションのみだったが,学会の前日に行われたチュートリアルでも手術中継が,またISCASのオープニングセッションにおいてもISDNを利用した遠隔会議が行われ,遠隔医療への第一歩を会場の人々へ体感させることのねらい,また講演を面白く分かりやすくしようという意識が感じられ興味深かった.

二分脊椎の医学・医療に関する学術集会—第14回日本二分脊椎研究会・国際二分脊椎シンポジウム(3のII)

著者: 大井静雄

ページ範囲:P.184 - P.185

 二分脊椎の医学の発展には,病態の解明や新しい診断・治療法の開発等に関する医学研究と,それを実践する現場の医療の両者が限りなく融合していくことが不可欠である.この観点に立って,「二分脊椎の医学研究と実践医療」を主眼に,本年,国内国外の医学研究者,医療従事者,そして患者・家族を対象とした,2つの大きな学術集会が開催された.ひとつは,第14回日本二分脊椎研究会(1997年7月3日,東京大手町サンケイ会館),もうひとつは,国際二分脊椎シンポジウム(3のII)(1997年9月28-30日,神戸国際会議場)である.両者は,二分脊椎の医学を同一の観点でとり上げながらも,前者は,今世紀の二分脊椎研究の歩みから21世紀の課題,さらには本邦における二分脊椎医療の全国ネットワークを,また後者は,国際的レベルで,二分脊椎の医学,医療を学童期・思春期に絞って討論したところに特徴がある.両学術集会の成果は,二分脊椎の医学の今後の発展に重要な布石となるものと考えられ,ここに紹介する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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