文献詳細
文献概要
解剖を中心とした脳神経手術手技
Anterior Transpetrosal Approach
著者: 河瀬斌1
所属機関: 1慶應義塾大学医学部脳神経外科
ページ範囲:P.304 - P.313
文献購入ページに移動I.歴史と適応
経錐体法(transpetrosal approach)は歴史的に経迷路法を拡大した拡大中頭蓋窩法21)が基盤となり,耳鼻科領域より小脳橋角部腫瘍の手術法として発展した4,22).1977年頃より脳神経外科が参加することにより,この方法は斜台腫瘍にも適応されるようになった1,2).しかし当初は聴力を温存することは考えていなかった.1985年頃から錐体を選択的に削除し聴力を温存しようとする2つの方法,すなわちanterior transpetrosal approach6,9)(ATP)とTrautman三角経由によるpresigmoidtranspetrosal approach3,5)が生まれた.前者は聴器のない錐体先端部を中頭蓋窩側より削除する方法,後者は聴器より後方のTrautman三角部をより後頭蓋窩側より削除する方法である.両方の適応の相違は前者が斜台上部腫瘍や脳底動脈本幹動脈を対象としているのに対し,後者は斜台下部および椎骨動脈合流部以下の椎骨動脈を対象としている点にある.ATP法の特徴は1)聴力保存のほか,2)傍鞍部への展開が容易,3)Labbe静脈損傷が少ないこと,4)顔面神経より前方に直接侵入するため顔面神経麻痺や致命的下部脳神経損傷が少ない,5)テント動脈を離断できるため腫瘍出血が少ないなどの利点がある10,14).その適応疾患はpetroclival meningioma(特に三叉神経内側にat-tachを持つ例),三叉神経鞘腫(特にdummbell型),prepontine epidermoid,側方進展chor-doma,脳底動脈本幹動脈瘤(特に後方向き),橋海綿状血管腫などである.そのkey holeから見える範囲は前方はMeckel腔と内頸動脈C5,後方は内耳道・聴神経,上方は動眼神経,下方は斜台中央部,内方は脳底動脈である.この範囲に腫瘍基部が収まっていれば,腫瘍がより大きくとも摘出できる(Fig.1).
経錐体法(transpetrosal approach)は歴史的に経迷路法を拡大した拡大中頭蓋窩法21)が基盤となり,耳鼻科領域より小脳橋角部腫瘍の手術法として発展した4,22).1977年頃より脳神経外科が参加することにより,この方法は斜台腫瘍にも適応されるようになった1,2).しかし当初は聴力を温存することは考えていなかった.1985年頃から錐体を選択的に削除し聴力を温存しようとする2つの方法,すなわちanterior transpetrosal approach6,9)(ATP)とTrautman三角経由によるpresigmoidtranspetrosal approach3,5)が生まれた.前者は聴器のない錐体先端部を中頭蓋窩側より削除する方法,後者は聴器より後方のTrautman三角部をより後頭蓋窩側より削除する方法である.両方の適応の相違は前者が斜台上部腫瘍や脳底動脈本幹動脈を対象としているのに対し,後者は斜台下部および椎骨動脈合流部以下の椎骨動脈を対象としている点にある.ATP法の特徴は1)聴力保存のほか,2)傍鞍部への展開が容易,3)Labbe静脈損傷が少ないこと,4)顔面神経より前方に直接侵入するため顔面神経麻痺や致命的下部脳神経損傷が少ない,5)テント動脈を離断できるため腫瘍出血が少ないなどの利点がある10,14).その適応疾患はpetroclival meningioma(特に三叉神経内側にat-tachを持つ例),三叉神経鞘腫(特にdummbell型),prepontine epidermoid,側方進展chor-doma,脳底動脈本幹動脈瘤(特に後方向き),橋海綿状血管腫などである.そのkey holeから見える範囲は前方はMeckel腔と内頸動脈C5,後方は内耳道・聴神経,上方は動眼神経,下方は斜台中央部,内方は脳底動脈である.この範囲に腫瘍基部が収まっていれば,腫瘍がより大きくとも摘出できる(Fig.1).
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