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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科26巻5号

1998年05月発行

雑誌目次

私のパソコン歴

著者: 山下純宏

ページ範囲:P.382 - P.383

 私が初めてパソコンと出会ったのは,1984年4月のことである.京都大学脳神経外科の約5000例の脳腫瘍患者の追跡調査のデータを管理するために,初めてNECのPC9801Eというパソコンを購入した.丁度オペレーティングシステムの主流がMSDOSになった頃である.最初に使用したデータベースソフトはdBASE IIであり,まもなくinformixに乗り換えた.データ入力には苦労したものの,それまでに集積したデータが信頼性の高いものであったので,データベースとして活用すれば,学会抄録などもアイデアさえ湧けば,瞬時に作成することができるようになった.「記憶」と「計算」の能力に関する限り,コンピュータは人間以上であることを身もって実感した.
 まるっきりのその道の素人だったので,当然のことながら頻繁にトラブルが発生した.コンピュータに詳しい,理学部動物学教室で助手をしていたHさんにたまたま出会うことができた.陽気で親切な方で,何となく馬が合ってほとんど毎月1回くらいの割合で彼の研究室を訪ね,最新のテクニックについて親しく教えてもらった.私が電話でSOSを発すると,理学部からの約2キロの道を自分のバイクで出張サービスしてくれたこともあった.Hさんは専門が爬虫類の研究で,毎年夏休みには中国やボルネオへトカゲ狩りに出かけた.古びた木造の研究室の廊下には,フォルマリンに漬けられたトカゲの標本が所狭しと置かれていた.私が中国旅行から帰った時に,「中国の旅行案内書を貸しましょうか」というと,「いや,僕はトカゲ取りに行くので,観光には興味ありまん」と断わられたことが印象に残っている.Hさんのお蔭で,割合に早い時期から比較的抵抗感なくコンピュータに親しむことができたことをいつも感謝している.

連載 脳神経外科と分子生物学

神経細胞を中心とした脳の分子生物学

著者: 影山龍一郎

ページ範囲:P.385 - P.390

I.はじめに
 神経細胞の分子生物学というのは非常に幅広い分野を含み,限られた誌面および筆者の限られた知識ではとても網羅しきれない.読者の多くは脳の再建ということに興味を持たれていることと思うので,ここでは主として神経細胞はどのようなメカニズムで生まれてくるのか,すなわち神経細胞の分化過程の分子機構を中心に概説したい.
 脊椎動物の神経初期発生では,外胚葉から分化した神経板の両側が盛り上がり(神経ひだ),神経管の形成がおこる.この神経管はやがて中枢神経系へと分化する.一方,神経ひだの先端にある神経堤細胞からは末梢神経系が形成されていく.初期の神経系は比較的均一な神経前駆細胞からなっているが,前後(頭尾)軸や背腹軸に沿って異なった性格を獲得し,やがて多様性に富んだニューロンへと分化していく.すなわち,神経発生過程は,外胚葉から神経板・神経管ができる過程,前後軸や背腹軸に沿って異なった性質を獲得する過程,さらに神経前駆細胞からニューロンやグリア細胞へ分化する過程に大きく分類することができる.最近,これらの過程が分子のレベルで徐々に解き明かされてきた.脊椎動物で明らかになった分子機構について述べてみたい.

総説

機能的脳三次元画像

著者: 柴田家門

ページ範囲:P.391 - P.400

I.はじめに
 中枢神経疾患における現代医学の診断学はめざましい進歩をとげた.この発展の根幹をなしたのが,1972年開発のCTスキャンである6).CTスキャンの登場以前の中枢神経疾患に対する診断学はCT画像の出現により大変革を来たし飛躍的な進歩をとげた.脳組織,脊髄はもとより全身の各臓器が解剖学的に明瞭に画像として直視できることは診断医学の画期的な進歩であった.このCTの出現は医療工学の急速な発展をもたらし,1980年代には第二の画像革命であるMRIの発明につながった.しかし,このMRIの素地はすでに1946年にPurdelとBlockにより発見された核磁気共鳴現象が母体となっており,1980年代に生体組織のプロトンNMRが断層画像として表示されたものである.このCT,MRIは代表的な静止画像として各種脳神経疾患の形態的病変を二次元画像として明瞭に描出・解明した.さらに1990年代に入り,CTとMRIのハードの高速化への改良による動画的画像化と三次元ソフトの付加が急速に進んでいる19).MRIにおいては機能化を目指してfunctional MRI開発の試みが最近の2-3年多施設から報告されている1,33,34)
 脳組織を解剖学的に明瞭に描出するCT,MRI画像は医学情報として極めて詳細なデータを与えてくれる.しかし,両画像は本質的には静止画像であって,高次機能を有する脳細胞の様々な機能変化を画像上に表示するにはいまだ至っていない.機能的画像の代表とされるものはSPECT,PETであるが,機能画像として期待され登場したPETは,10数年を経た今日でも経済的物理的諸問題から,一部の施設での使用に限られており,一般臨床医学に広く普及するまでには至っていないのが現状である.一方,いま一つの機能画像であるSPECTは,めざましい改良により機能的画像診断機器として期待できるものとなった.3検出器型SPECT装置の開発と高性能コンピュータの改良により,きわめて高速スキャンが可能となり,かつデータの収集・解析能力の飛躍的進歩により脳循環・代謝を検索する機能的画像診断機器として,あらためて注目されてきた.著者らは機能的脳三次元画像の作成を目的として,最新の高速スキャン性能をもつ脳SPECTデータを最大限利用し,かつ様々な脳病態に対応して高速スキャン・プロトコールによりデータ収集・解析を行い,汎用可視化ソフトウエア・ApplicationVisualization System Medical Viewer(AVS-MV,K.G.T.社)を利用して三次元脳SPECT画像の作成を報告してきた1,15,16,18,21,23-27,32).そこで,現在脳神経領域で広く使用されている画像診断機器につき,総括と将来展望を述べてみたい.

症例

Trigeminal Neuralgia Caused by the Metastasis of Malignant Lymphoma to the Trigeminal Nerve:a case report

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.401 - P.405

 The authors cared for a patient suffering from left trigeminal neuralgia who had systemic malignantlymphoma which had been treated with chemotherapy. The lesion of the left trigeminal nerve was not de-tected by brain CT scans or by the magnetic resonance images made at the onset of trigeminal neuralgia.However, metastasis to the left trigeminal nerve root was disclosed 6 months after the onset of the syste-mic lymphoma. Open biopsy confirmed lymphomatous involvement of the left trigeminal nerve root.

側脳室に多房性嚢腫を形成した乳児奇形腫と考えられた1例

著者: 鈴木一郎 ,   吉田康子 ,   白根礼造 ,   吉本高志

ページ範囲:P.407 - P.412

I.はじめに
 乳児期の脳腫瘍の頻度は全脳腫瘍の1%未満を占めるに過ぎず3,12),さらにDi Roccoらの国際小児脳神経学会の乳児期脳腫瘍の統計では頭蓋内奇形腫は5%である2).また,乳児頭蓋内奇形腫は正中線上に巨大な実質成分の腫瘤を形成するのが特徴であるが,今回われわれは,側脳室内に多房性嚢腫を形成した乳児頭蓋内奇形腫と考えられた1手術例を経験したので報告する.

V-Pシャント術10年を経て腹腔管が膀胱を穿通し髄膜炎を来たした1例

著者: 上田祐司 ,   柿野俊介 ,   橋本治 ,   井本勝彦

ページ範囲:P.413 - P.416

I.はじめに
 脳室腹腔短絡術は脳外科手術のうちでも手術機会の多いものである.しかし,その手術手技の容易さの割に比較的多くのトラブルを来たすことがしられている.そのなかでも手術から数年が経過し,完治と判断された後に起こってくる合併症は,発見の遅れることもあり十分な注意が必要と思われる.
 今回われわれは,手術後10年を経て腹腔管が尿道口より露出し,髄膜炎を来たした症例を経験したため報告する.

頭部右回転時のみ両側椎骨動脈閉塞性変化を認めたBow Hunter's Strokeの1例

著者: 篠原直樹 ,   河野兼久 ,   武田定典 ,   大田信介 ,   榊三郎

ページ範囲:P.417 - P.422

I.はじめに
 頭位変換により頭蓋外椎骨動脈が閉塞され椎骨脳底動脈循環不全症を来たすことが知られている2,4-7,13-15,17-20).今回われわれは,頭位変換時の眩暈と失神発作を主訴として来院し,両側椎骨動脈撮影において正中位では異常は認めず,頭部右回転により両側椎骨動脈が同時に高度狭窄を来たし,椎骨脳底動脈循環不全症を呈した1例を経験したので,その発生機序および外科的治療法について文献的考察を加え報告する.

脳浮腫が発症原因となった外傷性亜急性硬膜下血腫の1例

著者: 西尾雅実 ,   赤木功人 ,   安部倉信 ,   前田泰孝 ,   松本勝美

ページ範囲:P.425 - P.429

I.はじめに
 外傷性亜急性硬膜下血腫は,受傷後の急性硬膜下血腫による症状が軽度で保存的治療をされているうちに,亜急性期に最も予後に影響する症状が出現したり,神経症状が悪化したりする硬膜下血腫とされており4,8,11),その亜急性期における発症原因は,森永ら11),唐澤ら4)によると硬膜下血腫部の増大による脳への圧迫の増強と考えられている.一方,この発症原因に関して,硬膜下血腫部の増大ではなく,同側の大脳半球の浮腫が発症原因となった本疾患が1例報告されている2).われわれも,血腫側の大脳半球浮腫が発症原因となり,緊急開頭外減圧術によく反応した症例を経験し,本疾患の病態と手術法を考える上で興味ある症例と考えられたので若干の文献的考察を加えて報告する.

左頭頂葉梗塞で生じた失行性失書(Apractic Agraphia)の特徴を有する書字障害

著者: 前島伸一郎 ,   山家弘雄 ,   増尾修 ,   桑田俊和 ,   尾崎文教 ,   森脇宏

ページ範囲:P.431 - P.437

I.はじめに
 失行性失書は文字の形態を完成するために必要な字画・筆順が記録された運動プログラムが障害されたもので3),書字動作は極めて緩慢であるが,内言語障害は認められず1),手本が示された場合であっても書字運動パターンの障害によって逐次書きをされたり自己修正がみられるのが特徴である.しかし,実際は書字のみの障害ではなく図形の模写にも障害があり,書字には直線や曲線といった構成成分自体の歪みも目立つという報告1,4,15,18)や,文字形熊に関する知識や文字形態の想起も障害されていたという報告5)があり,その書字障害の特徴は多彩である.欧米における失行性失書の報告例は多いが,本邦での報告は少ない.今回,われわれは優位半球頭頂葉病変で失行性失書の特徴を有する書字障害を呈した脳梗塞の1例を経験したので報告する.

眼窩尖端症候群を呈したRhinocerebral Mucormycosisの1例

著者: 梅村淳 ,   鈴鹿知直

ページ範囲:P.439 - P.442

I.はじめに
 Rhinocerebral mucormycosisは副鼻腔内に発生し,頭蓋内外へ急速伸展する真菌感染症である.今回われわれは,眼窩尖端症候群で発症し,術前診断を行えず予後不良の転帰をとった本症の1例を経験したので,その診断,治療について文献的考察とともに報告する.

免疫抑制状態に合併したEpstein-Barr Virus Associated Malignant Lymphomaの1例

著者: 稲村孝紀 ,   西尾俊嗣 ,   松角宏一郎 ,   長藤宏司 ,   池崎清信 ,   森岡隆人 ,   福井仁士

ページ範囲:P.443 - P.447

I.はじめに
 免疫不全状態にある患者にはしばしば悪性リンパ腫が合併する1,5,6).免疫不全には,先天性免疫不全症,臓器移植に際しての免疫抑制療法によって生じる免疫不全症,腫瘍等に対する化学療法に合併する免疫不全症,そしてAquired ImmunoDeficiency Syndrome(AIDS)などが含まれる7).欧米ではAIDS患者が多いため,これに伴う悪性リンパ腫に遭遇する機会も多いが,日本ではAIDS症例が少ないため,脳神経外科医が免疫不全に伴う悪性リンパ腫に遭遇する頻度は少ない.しかしながら,日本でも移植医療は活発に行われており,今後免疫抑制剤を使用する機会はさらに増加すると思われる.今回われわれは,骨髄移植に際する免疫抑制療法によって生じた悪性リンパ腫の症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

陳旧性側頭葉内出血に伴う内側側頭葉てんかん—形態学的にDual Pathologyを認めなかった2例

著者: 森岡隆人 ,   西尾俊嗣 ,   久田圭 ,   村石光輝 ,   石橋秀昭 ,   真谷幸介 ,   大府正治 ,   福井仁士

ページ範囲:P.449 - P.456

I.はじめに
 血管奇形であれ外傷であれ側頭葉内の出血が難治性側頭葉てんかんの原囚となることはよく知られている2,5,15)が,この病態について詳細に記載した報告はない.われわれは陳旧性の側頭葉内出血に関連して難治性側頭葉てんかんを起こすようになった2例において,慢性硬膜下電極記録と病理組織学的検査によりその病態を検討したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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