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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科26巻6号

1998年06月発行

雑誌目次

十一面観音像

著者: 伊東洋

ページ範囲:P.466 - P.467

 数年前,ある学会で松江を訪れた時,K教授とM教授のお誘いで近隣の美術館と寺見物に同行させて戴いた.田舎道を車で走ること数十分,かなりの山懐まで走ったような気がする.行く先は足立美術館で個人の収集品としては借景の庭園とともに,すばらしいものであった.さらに安来の天台宗の寺として栄えた清水寺に廻った.私にとって,その後の「変化観音」に興味を持たせるに十分な寺であった.しかし,肝心な十一面観音像はこの寺が作ったと思われる高い台座の上にあり,観音像の顔も細かい部分を見てまわることは不可能であったが,その容姿は珍しく男性的な像で如何にも出雲の血の流れを感じさせるものがあった.K教授は折角の面相が能く見えないためがっかりされたようであった.このような手合いの保存,展示はよくあることで,文化財を知ってもらうことの意義はさらさら持ち合わせていない.(あるいは取り決められた防火保持のためかもしれないが)この場所で初めてK教授から十一面に関して面相の意義を教えて戴いたが観音像が怒りの面も,慈悲の面もあり,「心経」に「後頭部のそれは(一個の面相)善悪衆生をみで怪笑?し悪を改めて道に向かわしめる」との意味の記述もあるが,十一面観音像の持つ仏面の冠の豊かな意味に興味をそそられた.井上靖氏によれば十一面観音像は「超人的な崇高さと人間的なものが一つの像に刻まれるが故に心を引かれる」という.

連載 脳神経外科と分子生物学

発癌の分子生物学

著者: 田渕和雄 ,   福山幸三

ページ範囲:P.468 - P.476

I.はじめに
 細胞の癌化には,通常複数の遺伝子異常の蓄積が必要である.遺伝子異常を来たす原因は,大きく環境因子と宿主因子とに分類される.環境因子には化学物質,放射線,ウィルスなどがあり,宿主因子としては遺伝的背景や免疫低下状態などがあげられる.細胞の生存に必須の複数の遺伝子に異常が生じることが必要条件だが,さらに宿主の免疫監視機構をくぐり抜けて,癌細胞は増殖する.発癌に関与する様々な遺伝子の機能が解明されるに従って,それらが一方でアポトーシスを制御していることがわかってきた.代表的ながん抑制遺伝子であるp53遺伝子の詳しい機能が判明してくるとともに,アポトーシスとも関連していくつかの腫瘍の発癌メカニズムが次第に明らかになってきた.本稿では脳腫瘍の発癌とアポトーシスの分子機構について,最近の知見を中心に概説する.

総説

脳動脈瘤手術における血流一時遮断—特にその許容時間に関する考察

著者: 溝井和夫

ページ範囲:P.477 - P.489

I.はじめに
 脳動脈瘤手術に血流一時遮断をルーチンに用いたのはPool71)が最初とされている.わが国では鈴木が動脈瘤の安全な手術のためには血流一時遮断が必須の手技であると主張し,精力的な発表を行ってきた94,95,97,98).現在,脳動脈瘤の手術において血流一時遮断を意図的に使用(elective use)する術者が増えて来たが,虚血障害や血管損傷の合併を恐れて極力使用をさける方針の術者も多い.このように血流一時遮断の使用頻度は術者のポリシーによって異るが,巨大動脈瘤など手術困難な動脈瘤に対しては必須の手技と思われる.脳の虚血耐性は側副血行路,脳血流の自動調節機能,血液レオロジー,脳の圧排などの症例毎に異る因子のために大きな個人差がみられる.したがって,多くの場合,血流一時遮断の許容時間を術前に予知することは困難である.本稿では血流一時遮断の最大の問題点である許容時間に関してこれまでどのような研究,報告がなされてきたか,自験データも含めて概括するとともに,今後の検討課題を整理したい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Volumegraphによる静脈の描出—脳腫瘍手術のNavigation System

著者: 伊関洋 ,   土肥健純 ,   高倉公朋 ,   岩原誠

ページ範囲:P.491 - P.499

I.はじめに
 定位脳手術は1905年Holesley-Clerkにより創始され,1946年にSpiegelとWysisにより機能比的脳神経外科手術を目的とするヒト用の定位脳手術システムが開発された.
 この定位脳手術がニューロナビゲーションのルーツである.MRIやCTの進歩によって精細な三次元的イメージング(volumetric imaging)が普及し,種々の三次元計測・三次元画像処理が可能になるにつれて,定位脳手術において術前に画像上でターゲットとアプローチを決定する作業は「画像空間(あるいは仮想空間)における三次元的手術計画・手術戦略情報の編成」という概念に止揚した.また定位脳手術の手技自体も「手術ナビゲーション」,すなわち実際の患者に対して位置的に対応付けされた画像を用いて手術を誘導する方法として捉え直され,様々に発展しつつある.特に,画像情報を縦横に利用するナビゲーション手術,またリアルな三次元画像を使った具体的で詳細な手術シミュレーション・プランニングが,手術の現場で真に役立つためには,外科医の新しい目としての機能が必要かつ重要なことである.この新しい目は,外科医が手術対象物をしっかり確認し・観察するための「目」を提供すると同時に手術中に手術を誘導(ナビゲーション)するための情報を「目」の情報と統合して提供する必要がある.この実現には,術中に画像で適切に誘導するだけではなく,コンピコータ上に生成されるイメージ空間を介し,手術スタッフが双方向的(インタラクティブ)に医療情報を共有するバーチャル・リァリティー(VR)技術も,今後一層重要な手法となる.手術ナビゲーション技術は,手術部位を単に観察するだけでなく,手術計画図やCT像などを手術部位と直接対比しつつ参照すること(増強現実:augmented reality)を可能にする.術者は術中いに常時,今操作している位置が本当に計画した通りの箇所であるかどうか,計画した通りに操作が進行しているかどうか,などを確認する必要があるが,手術ナビゲーション技術はこの作業を経験や勘に頼らず客観的に一定の精度で支援するものである.

研究

くも膜下出血後の低Na血症—Cerebral Salt Wasting SyndromeとSIADH

著者: 小笠原邦昭 ,   木内博之 ,   長嶺義秀 ,   甲州啓二 ,   藤原悟

ページ範囲:P.501 - P.505

I.はじめに
 くも膜下出血後の低Na血症は臨床の場でよく経験される合併症の一つである.この発生機序としては,希釈性低Na血症を来たすADH分泌異常症候群(SIADH)と低張性脱水を来たすcerebralsalt wasting syndromeの2者の報告がある2-6,10-12).両者は病態および治療法が相反し,またくも膜下出血の転帰に影響を及ぼす4,6,11)ため速やかな鑑別を要する.今回われわれは,くも膜下出血術後におけるSIADHおよびcerebral saltwasting syndromeの発症率,発症時期,臨床的鑑別法につき検討した.

くも膜下出血重症度分類としてのJapan Coma Scale—重症度分類の決め方について

著者: 高木清 ,   青木誠 ,   石井映幸 ,   永島幸枝 ,   成田考而 ,   中込忠好 ,   田村晃 ,   安井信之 ,   波出石弘 ,   種子田護 ,   佐野圭司

ページ範囲:P.509 - P.515

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出(SAH)の重症度を評価する主な目的は,予後を予測して手術適応の有無を判断することにある.手術後の予後を改善する目的で,カルシウム拮抗薬,clot re-moval,induced hypertensionなど様々な治療が試みられ1,5,9,11,16,19,22,24),SAHの予後は確実に改善してきているが,1980年以降はplateauに達している21)
 SAHの予後をさらに向上させるために現在も新しい試みがなされているが,限られた数の症例から治療効果を正しく評価するためには症例群を重症度別に階層化することが重要である.その前提として重症度分類の各grade間で予後に差があることが絶対的な必要条件であるが,これまで提唱されてきた多くの重症度分類2,7,8,15,23).にはいくつかの不備が指摘されている.その主な点はgradeが異なるのに予後に差が認められない部分があることと4,6),同じ症例が評価者によって異なったgradeに分類されるという2点である13,14).この2点は,grading scaleの目的を考えたとき致命的な欠陥である.

脳神経外科手術における感覚と手術操作間ギャップの分析

著者: 加藤天美 ,   平田雅之 ,   吉峰俊樹 ,   山村進一 ,   岸野文郎 ,   早川徹

ページ範囲:P.517 - P.522

I.はじめに
 脳神経外科における顕微鏡下手術では,術者は術野を直接見るのではなく,術野の拡大映像が呈示される.また,手術操作は器具を通して遠隔的に行われる.これは一種のバーチャルリアリティー(VR)環境とも考えうるが,外科医の感覚と操作間のギャップにより,操作の動揺や術野方向感覚の喪失がもたらされる.これまで,このようなギャップを克服することが臨床修練の一環とみなされてきた.今後,ナビゲータ下手術などVR化が進むにつれ1,2,10)ギャップは質的に変化しつつ拡大すると考えられる.本研究では私たちが開発した脳手術ナビゲータ「CANS Navigator」3,4,6)を用いて種々のVR環境下で術野ファントムにおける到達過程を記録,比較分析し,術者の空間認識と手術操作間のギャップの解明を試み,ついでこのギャップを改善しうる適切なインターフェイスの考案を試みた.

症例

多発性脳動脈瘤を伴った両側Infraoptic Course of ACAの1例

著者: 小倉憲一 ,   長谷川顕士 ,   小林勉 ,   河野充夫 ,   本道洋昭

ページ範囲:P.525 - P.530

I.はじめに
 眼動脈分岐部付近の内頸動脈(ICA)より分岐し視神経の下方を横走した後,視交叉の前方を上行して前交通動脈(A-com)部に至る血管奇形は非常に稀で,infraoptic course of ACA,anomalousbranch of the ICA,carotid ACA anastomosisなどと呼ばれている42)
 今回われわれは,この血管奇形に多発性脳動脈瘤を合併した1例を経験したので,前大脳動脈(ACA)のA1部との解剖学的関係,脳動脈瘤との合併を中心に文献的考察を加え報告する.

浅側頭動脈-中大脳動脈血管吻合術の手術適応決定におけるPositron Emission Tomographyの有用性

著者: 玉野吉範 ,   臼田頼仁 ,   氏家弘 ,   井澤正博 ,   石井賢二 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.532 - P.538

I.はじめに
 脳虚血に対する代表的な血行再建術には頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)と浅側頭動脈-中大脳動脈血管吻合術(superior tempo-ral artery-middle cerebral artery:STA-MCAanastomosis)とがあるが,国際的なrandomizedstudyによって内科的治療群に対する有効性は,前者3,12)では肯定されたが後者18,19)では否定された.
 CEAとSTA-MCA anastomosisの大きな相違は,後者では吻合経が細く供給される血流量が少ないことそしてembolic sourceを摘出しないことであるが,この相違が国際共同研究の結果の差を招いたと考えられる.しかし,CEAが脳虚血に対して予防効果を持つという結果は,虚血領域が十分小さい範囲であれば,STA-MCA anasto-mosisによって脳虚血の予防が期待できるということを保証している.もし虚血領域が言語野や運動野という小さな範囲に限局して発生した場合,理論上STA-MCA anastomosisによる血行再建術は有効であると考えられる.このようなcriticalareaに限局した脳虚血は稀であるが,側頭葉などの比較的神経脱落症状を呈さない脳梗塞に合併して不完全脳虚血がcritical areaに発生することは時々経験する.われわれは,このような完成脳梗塞に伴ったcritical areaの不完全脳虚血例に対してSTA-MCA anastomosisを施行し臨床症状の改善を認めたので報告する.

外傷性脊髄空洞症における治療法—Thecoperitoneal Shuntについて

著者: 鈴木伸一 ,   千葉康洋 ,   日高聖 ,   西村敏 ,   野地雅人

ページ範囲:P.541 - P.546

I.はじめに
 脊髄空洞症に対して,現在まで種々の治療法が試みられその成因に見合った治療が確立されつつある.このうち外傷性脊髄空洞症に対しては,syringo-subarachnoid shunt(S-S shunt)やsyrin-go-peritoneal shunt(S-P shunt)が,試みられ成果をあげてきた4,6,9,14).しかし,これらのシャントシステムでも症状の改善を認めない症例がある15).これは,外傷性空洞症が複数の成因機序より形成されているためと思われる.そこでVeng-sarkar21)やVassilouthisら20)が報告したthecope-ritoneal shuntを造設し画像上の改善と症状の軽減がみられた1例を経験した.これは,Ball andDayanの仮説やWilliamsの仮説によるメカニズムに着目したものであり,シャントシステムの利点と有効性を空洞症の成因に照らしあわせながら,若干の文献考察をまじえて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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