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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科26巻7号

1998年07月発行

雑誌目次

山にむかいて

著者: 大江千廣

ページ範囲:P.558 - P.559

 身近にいつも山の姿があるのはいいことだ.「ふるさとの山にむかいて言うことなし.ふるさとの山は有り難きかな」という石川啄木のことばはあまりにも有名だが,それはまさに誰もが心にもつ思いを簡明,優雅に述べているからではないか.
 私がこの30年間お世話になった群馬大学は“水と緑のまち”前橋にあり,利根川がながれ,緑の木々の豊かな街である.そして街全体は上毛の山々に囲まれている.大学の屋上に出て眺めてみると大学のキャンパスは赤城山のなだらかな裾野に在るといってよいし,赤城山の西には小野子山,子持山という小高い山が榛名山につらなっている.さらに,榛名山に続いてギザギザの妙義山,少し離れて秩父の山々が見える(このなかの,御巣鷹山は日航機の大惨事で知られている.あの時にわれわれの仲間であった,T先生を失ったという悲しい思い出もあるのだが).これらの山のさらに遠くには西から東へ,浅間山,白根山,谷川連峰などが眺見される.

連載 脳神経外科と分子生物学

血液脳関門の分子生物学

著者: 祖父江和哉 ,   浅井清文 ,   加藤泰治 ,   勝屋弘忠

ページ範囲:P.561 - P.569

I.はじめに
 血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)は脳の恒常性を維持する機構として,大変重要である.脳は他の臓器よりもさらに微妙に,血中物質の移行や物理・化学的な変化をコントロールされる必要がある.そのためBBBにおいては物質の移行が強く制限されると同時に,必要な物質は速やかに輸送されるシステムがいくつも存在しており,これらの構造・機能を総称する概念としてBBBは位置付けられる.
 歴史的には,1885年にEhrlichがいくつかの色素を経静脈的に投与すると,他の臓器とは違い脳は染色されないことを発見したのがBBBの始まりである21).1913年には,Goldmannが静脈内に投与した色素は脳に移行しないのに対し,髄腔内へ投与すると脳へ移行することを観察し30),さらに1969年にBrightmanらはホースラディシュペルオキシダーゼ(HRP)およびLa(OH)3を髄腔内に投与したところ,これらのトレーサーはアストロサイトの足突起間隙および毛細血管の基底膜は通過するが,内皮細胞間のタイトジャンクションは超えないことを発見し8),物質の移行を制限しているのは毛細血管内皮細胞であることを明らかにした.その後,様々なBBBに関する研究が進められてきた.

総説

グリオーマとフリーラジカル

著者: 吉井與志彦

ページ範囲:P.571 - P.581

I.はじめに
 近年のグリオーマ研究に分子生物学的手法が導入され,それによる新たな知見は,グリオーマ腫瘍細胞が持つ生命体の複雑さ・巧妙さを思い知らされる.まだ全てが解明されていないにせよ,実際のグリオーマ治療が,それらの複雑さに対応したものがほとんどないだけに,大きな乖離を感じさせる.グリオーマが発生学的にneural tubeの極く初期の,種々の細胞に分化するmultipoten-tialityを持っているglioblastが起源であれば,同一の腫瘍組織の中で存在する,形態・分子生物学的heterogeneityや腫瘍細胞内に存在(発現)する多くの自己保存の因子や因子間の相互作用のメカニズムが,必要に応じて活発になってくるのも理解出来よう.ただ,それら機能が腫瘍に於いても正常に作用しているのか,腫瘍性に異常に作用しているのかが問題ではある.このような理解も含めて,これまでの研究成果を概観し,現在取り組んでいるテーマ(ラジカル作用)について報告する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Transsphenoidal-transtuberculum Sellae Approach—主として鞍隔膜上部腫瘍に対して

著者: 加藤功 ,   澤村豊 ,   阿部弘 ,   永島雅文

ページ範囲:P.583 - P.588

I.はじめに
 Transsphenoidal approachは,トルコ鞍内から鞍上部病変に対して最も頻用される有効な方法である.このアプローチは,蝶形骨洞からトルコ鞍部への最も近い安全な到達法であり,以下のような様々な方法または変法がある.すなわち,trans-sphenoidal(sublabial1,5)またはendonasal6,10)ap-proach,transpalatal approach19),transethmoidalapproach8),transmaxillary(transantral)14)ap-proachなどである.この中で,sublabial trans-septal transsphenoidal approachが基本的で,多くの脳神経外科医にとって最も受け入れられている方法である.しかしながらこの古典的な方法では,下垂体柄前方の鞍隔膜上部病変に対して,トルコ鞍底部の骨の開窓に制限があることや正常下垂体の存在から十分な視野が得られず,必ずしも有効な方法とは言えない.このような病変に対しては,これまでtranscranial approachが適用されていたが,より非侵襲的な到達法が望まれる.そこで著者らは,通常のトルコ鞍底部の開窓に鞍結節および一部蝶形骨平面部を削除することによって,鞍隔膜上部病変に対して容易に到達可能な方法を,transsphenoidal-transtuberculum sellae ap-proachと称して1994年以降行っている.本稿では,この到達法の手術手技およびpitfallについて解剖学的考察を加えて詳述する.

研究

脳内出血急性期における動脈血中ケトン体比(AKBR)の変動

著者: 玉置智規 ,   諌山和男 ,   柴田泰史 ,   木村昭夫 ,   山本保博 ,   寺本明

ページ範囲:P.591 - P.597

I.緒言
 動脈血ケトン体比(arterial ketone body ratio:AKBR)とはアセト酢酸とβヒドロキシ酪酸の比であり,肝臓におけるミトコンドリアの酸化還元状態(redox state)を鋭敏に反映する指標とされ,その正常値は1.0以上であり,救急医学や腹部外科領域では患者の生命予後を予測する指標とされ重要視されている1).一方,脳血管障害後の肝機能障害としては薬剤性肝障害,輸血後肝炎などがよく知られているが,特異的な肝障害の存在は明らかにされていない1,11).今回われわれは脳内出血(intracerebral hemorrhage:ICH)急性期の症例においてAKBRが低値を示すことを観察したので,その臨床的意義について検討した.

運動領近傍神経膠腫症例に対する運動機能温存手術—術前の運動野同定と術中モニタリングの有用性

著者: 大上史朗 ,   久門良明 ,   河野兼久 ,   長戸重幸 ,   中川晃 ,   大田信介 ,   榊三郎 ,   楠勝介

ページ範囲:P.599 - P.606

I.はじめに
 脳腫瘍の摘出に際しては,腫瘍の摘出度ばかりでなく,術後の機能予後も考慮しなければならない.特に腫瘍がeloquent areaの近傍に存在する場合には,運動麻痺や失語症等の神経症状を悪化させないためにさまざまな注意が必要である1,6,9).術前に腫瘍の解剖学的な局在と共に隣接する脳の機能局在を明らかにし,適切な手術の到達方向や切除範囲を決定しなければならない.そのために,まず運動野や言語野の解剖学的および機能的な同定を行い,その結果を生かすためのナビゲーションシステムの使用と,さらに機能を反映し得る術中モニタリングの応用が必要となる13)
 われわれは,運動野近傍に存在した神経膠腫症例に対し,運動機能の温存を目的として,術前に神経放射線学的検査や電気生理学的検査により腫瘍と一次運動野の位置関係を同定し,手術に際しては運動誘発電位(motor evoked potential,MEP)をモニタリングしつつ腫瘍摘出を行い,良好な結果が得られたので,報告する.

脳動脈瘤手術におけるMRA,3D-CTAの発達と脳血管撮影の適応の変化

著者: 奥山徹 ,   齋藤孝次 ,   平野亮 ,   高橋明 ,   稲垣徹 ,   稲村茂

ページ範囲:P.607 - P.612

I.はじめに
 脳動脈瘤の診断にわれわれはmagnetic reso-nance angiogralphy(以下MRAと略)を一次screeningとして行い,さらに動脈瘤の疑いのある症例はthree-dimensional computed tomogra-phic angiography(以下3D-CTAと略)を用いて診断し,直径2.0mmを越える動脈瘤はdigitalsubtraction angiography(以下DSAと略)と同じ診断率であったことを報告してきた5,8,9).これまでは動脈瘤の診断に脳血管撮影がかかせないものであったが,このように,MRA 3D-CTAでも十分であり,ときにはこれらの検査が脳血管撮影に優れる例も報告されている2,10).このようなことから脳血管撮影を行わずに脳動脈瘤の手術を行った報告1,4,7,8)もあるが,どのような例に必要なのかさらに検討を要すると考えられる.著者らの施設では,これまでの経験をふまえ原則として1995年11月からは破裂,未破裂にかかわらずなるべくMRAと3D-CTAで診断し,DSAを行わずに手術を行っている.この期間に破裂動脈瘤61例,および未破裂動脈瘤104例計1651列の手術を行い,このうち119例がDSAを行わず,残り46例は術前DSAを行った.これら165例の脳動脈瘤について脳血管撮影の必要性について再検討し,脳血管撮影の新たな適応について考察したので報告する.

中頭蓋窩くも膜嚢胞の診断と治療—cine-MRIと脳室ファイバースコープ

著者: 上川秀士 ,   桑村圭一 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.613 - P.620

I.緒言
 近年非侵襲的な診断法,治療法が求められるようになり,くも膜嚢胞に対してもcine-MRIや神経内視鏡が臨床応用されるようになってきた13,14).ここでは最近の中頭蓋窩くも膜嚢胞症例に対する神経内視鏡手術の経験と,その術前・術後評価におけるcine-MRIの重要性について報告する.

症例

高齢者に発症した環椎低形成による脊椎管狭窄症の1手術例

著者: 野口明男 ,   原田洋一 ,   岡部慎一 ,   河野拓司 ,   鎌田健一 ,   高橋宏

ページ範囲:P.623 - P.626

I.はじめに
 頭蓋骨頸椎移行部には先天奇形も多く,環軸椎亜脱臼,頭蓋底陥入など種々の疾患で脊髄神経障害を来たす.しかしながら環椎低形成単独で神経症状を呈することは非常に稀であり,さらに高齢者発症例は見当たらない.今回われわれは,環椎低形成による高位頸髄症状を呈し,手術療法を行った高齢者例を経験したので報告する.

硬膜外麻酔後の頸部捻転にて発症した頸髄硬膜外血腫の1例

著者: 八木伸一 ,   飛騨一利 ,   岩崎喜信 ,   阿部弘 ,   秋野実 ,   斉藤久寿

ページ範囲:P.627 - P.632

I.はじめに
 脊髄硬膜外血腫は様々な原因により発生することが知られている1,2,13,17,19,23,24,27,28).今回われわれは硬膜外麻酔後と頸椎捻転により生じたと思われる頸髄硬膜外血腫の稀な1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

再発を繰り返したIntradiploic Epidermoid Cystの1例

著者: 遠藤賢 ,   渡辺直文 ,   好本裕平 ,   田中喜展 ,   若井晋

ページ範囲:P.633 - P.637

I.はじめに
 頭蓋骨に発生するintradiploic epidermoid cystは比較的まれな疾患とされている.完治には原発部位の骨および腫瘍被膜の全摘出が必要であるが,部位によっては困難なことが多い.今回著者らは前頭骨を発生母地とし,3回の摘出術を繰り返したintradiploic epidermoid cystの1例を経験したので報告する.

破裂後大脳動脈P4部動脈瘤の1例—出血発症多発脳動脈瘤治療のpitfall

著者: 伊藤宣行 ,   塩川芳昭 ,   井出勝久 ,   高橋宏 ,   山川健太 ,   斎藤勇

ページ範囲:P.639 - P.643

I.はじめに
 後大脳動脈瘤は椎骨脳底動脈領域の動脈瘤の約15%を占め11),そのほとんどは,後大脳動脈起始部より後交通動脈分岐部までのP1部,および後交通動脈分岐部より中脳後縁に至るP2部に発生しており,より末梢の後頭葉脳溝内にあたるP4部にはまれ11,19)である.今回,われわれはくも膜下出血(SAH)にて発症した破裂P4部動脈瘤症例で,合併する内頸動脈後交通動脈分岐部の未破裂動脈瘤を,破裂病変との診断のもとに急性期にclipping術を行い,術後18日目に初回血管撮影で見逃されていたP4部動脈瘤の破裂を来たした1例を経験した.本例は,動脈瘤の好発部位ではないP4部動脈瘤の再破裂が示唆され,出血発症の多発性動脈瘤の出血源同定や治療方針決定におけるpitfallと思われ,文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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