icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科26巻8号

1998年08月発行

雑誌目次

98 AANS Annual Meetingに参加して

著者: 島克司

ページ範囲:P.654 - P.655

 4月25日から30日まで米国ペンシルバニア市で開催された1998 AANS(TheAmerican Association Neurological Surgeons)Annual Meetingに久しぶりに参加する機会を得た.相変わらず辞書のようなコンパクトなプログラム集同様に学会の運営,演題の内容ともに実に洗練された学会であった.周知のように,1931年TheHarvey Cushing Societyとして発足以来,66回を数える今回もLaws会長の言を待つまでもなく,その印象は間違いなく“something for everybody”な,世界で最も教育的で国際的な脳神経外科学会であった.
 今回も例年同様演題数は非常に厳選されていて,特別講演,モーニングセミナーなどを除いた一般演題は,口演131題,ポスター476題に過ぎない.昨年の第56回日本脳神経外科学会総会の採用演題総数1336題とは比べ物にならない.この相違には様々な原因が考えられる.最大の要因は,AANSではup-to-dateな情報をcontinu-ing educationとして伝えることに重点をおいてきたのに対して,わが国では各施設の研究業績の発表が中心になってきたことにある.この背景には近年よく話題にのぼる日米の脳神経外科の実態の相違がある.日本の脳神経外科専門医数は,昨年4,500人を越え人口対比では米国の約2倍になった.

連載 脳神経外科と分子生物学

てんかん遺伝子研究

著者: 山川和弘

ページ範囲:P.657 - P.665

I.はじめに
 遺伝子工学的技術の進歩やヒトゲノムプロジェクトの進捗に伴い疾患原因遺伝子の単離同定のスピードは加速しており,その波は神経精神疾患にも押し寄せている.神経精神疾患の原因遺伝子の単離とその機能の解析は,それらの疾患の診断や治療に役立つばかりでなく,記憶,学習や感情の変化といった脳の基本的な機能の分子レベルでの解明にも寄与するものと思われる.本稿では,てんかんを例に取り上げ,その原因遺伝子研究の現況と展望について解説する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

第3脳室及び鞍上部病変に対するAnterior Interhemispheric Approach

著者: 藤津和彦

ページ範囲:P.667 - P.677

I.はじめに
 通常の(anterior)interhemispheric approachに用いられる開頭は前頭洞の開放を避けてやや高めに行われるいわゆるhigh frontalのcraniotomyである.この部位には通常,前頭蓋底から数えて一番目と二番目のbridging veinが存在し,いずれも大きく重要なものである.しかし,幸いこの2つの静脈の間には十分の距離があり,しかも開頭は丁度この2つの静脈の間で行われることが多い.したがってinterhemispheric approachを行うに十分な空間を確保でき,脳梁体部前半部に垂直に進入できる.しかしながら第3脳室への距離はやや長くなり,最も問題な点は第3脳室底に対して接線方向の術野を得ることが不可能であることである.視交叉下面や下垂体柄の確認はできない.開頭をやや低めに行って第3脳室に前極から進入するtrans-lamina terminalis approachは第3脳室内に進入する方法としては理に適っている.しかし,中途半端に低い開頭を行うと丁度第一番目のbridging veinが妨げとなることが多く,この静脈の切断と長時間の脳の圧排はしばしばcon-tusional hemorrhageの原因となる5).積極的に前頭洞を開蓋し,低いinterhemispheric approachを行えば一番目のbridging veinよりも低く進入でき,視交叉下面や下垂体柄の直視下術野も確保しやすくなる.周知の如く,第3脳室底は頭蓋底に対して30°程の角度を保っているので,前述の如き低いアプローチでも第3脳室底に対して垂直方向の術野も十分に得られる.
 前頭洞の開放の方法にはいくつか工夫があり,又,supraorbital barの除去範囲も必ずしも側方に広く行う必要はない.鼻骨を正中離断して鼻腔上半分をtransspeptalに進入すれば,さらに低いアプローチとなる.筆者が行っているこれらのアプローチの工夫を紹介し,加えて嗅神経温存の工夫に関しても述べる.

研究

高齢者未破裂脳動脈瘤の治療方針

著者: 安井敏裕 ,   坂本博昭 ,   岸廣成 ,   小宮山雅樹 ,   岩井謙育 ,   山中一浩 ,   西川節 ,   中島英樹

ページ範囲:P.679 - P.684

I.はじめに
 確実に高齢化社会に向かっている日本では,非侵襲的なMRIの普及にともない,高齢者の未破裂脳動脈瘤(以下,未破裂瘤)症例が発見される機会が増加している.しかし,これら高齢者未破裂瘤症例の治療に関して一定の方針がないのが現状である.一般に未破裂瘤の手術的治療は70歳以下を対象とすることが多い18).しかし,今後,健康で日常生活動作の自立した高齢者人口が増加してくる状況において70歳という年齢で手術適応なしとすることには問題があると思われる.今回,70歳以上で発見された未破裂瘤の自験例を分析し,その治療方針につき検討する.

脳神経外科領域における自己血輸血と自己血漿から作成したフィブリン糊の有用性と問題点

著者: 湯山隆次 ,   三島一彦 ,   藤巻高光 ,   鈴木一郎 ,   佐々木富男 ,   上野博夫 ,   柴田洋一 ,   桐野高明

ページ範囲:P.685 - P.690

I.はじめに
 一定量以上の出血を伴う手術には何らかの手段の輸血が不可欠であるが,同種血輸血には輸血後肝炎,HIV(human immunodeficiency virus)感染,GVHD(graft versus host disease),溶血免疫反応などの危険を伴う.特にHIV感染に関しては,国内に於いて輸血後感染が報告され社会問題にもなっている.また未確認微生物感染症の恐れもある.それらの危険を回避するために,近年自己血輸血を導入する施設は増加している.
 しかし,脳神経外科領域での活用は,緊急手術の多さや自己血輸血に対する意識の問題,準備血液量の設定の困難,大量の血液準備量の必要性等があり遅れている.しかしながら,近年凍結保存が導入されてから,大量の貯血が可能となり,保存期間も半永久となった.今後症例数は増加するものと思われ,標準的な手順の作成が望まれる.

被膜形成を伴う血腫へ進展する急性硬膜下血腫の検討

著者: 奥村嘉也 ,   下村隆英 ,   朴永銖

ページ範囲:P.691 - P.698

I.はじめに
 急性硬膜下血腫(ASDH)からいわゆる慢性硬膜下血腫様の血腫への進展例の存在は一般に認識されてはいるが7,8,13),臨床上これを経験することは少なく,文献的にも数件の報告が渉猟できるのみである6,16-18,23).その正確な頻度は不明であるが,ASDH保存的治療群に限定しても本経過は9-10%に過ぎない3,17).そのため,本病態の検討が十分になされたとは言えず,特に,どのようなASDH例が本経過をとるのか,また,本経過で進展形成された血腫を慢性硬膜下血腫とする診断は妥当なのか等の疑問は未だ解決されていない.
 今回,われわれは過去13年間に集積した10症例から,本経過例の特徴点につき検討したところ,本病態に関する若干の知見の集積をみたので報告する.

経錐体骨到達法を行う上で注意すべき静脈路—術後の静脈環流障害を予防するために

著者: 山上岩男 ,   平井伸治 ,   山浦晶 ,   小野純一

ページ範囲:P.699 - P.707

I.はじめに
 頭蓋底手術法のひとつである経錐体骨到達法transpetrosal approach(以下TPA)を用いることにより,斜台部や脳幹腹側の病変に対する手術が比較的安全に行えるようになっだ3,6,15,18,19).一般に頭蓋底手術にともない血管性合併症は5-18%に発生する2,16,24).しかし血管性合併症の原因は,ほとんど動脈性であると考えられ,静脈性合併症は注目されることが少なかった2,3,16,18,24).TPAについても,静脈性合併症を来たしにくいことが特徴とされ3,6,15,19,23),合併症予防の観点から,静脈について検討した報告は稀である4,7,20).digital subtraction angiography(DSA)装置のなかった頃,われわれはTPAにより静脈性梗塞を来たした1例を経験し,TPAによる静脈環流障害の重要性に気づいた.静脈性合併症を予防するため,現在われわれはTPAによる手術を予定している症例には,術前にDSAを用いた静脈路の検討を行っている.TPAでは,上錐体静脈洞横断・中頭蓋底硬膜やテントの切開・S状静脈洞圧排などが行われることから,上錐体静脈洞・横静脈洞・S状静脈洞(以下STS)合流部付近の静脈路が重要と考えられる.今回はTPAによる静脈性梗塞の1例を報告し,15例のDSAによる脳血管写を用いて,TPAを行う上で注意すべきSTS合流部付近の静脈路の特徴について検討した.

静脈麻酔薬Propofolによる定位脳手術

著者: 福多真史 ,   亀山茂樹 ,   川口正 ,   山下慎也 ,   田中隆一

ページ範囲:P.709 - P.715

I.はじめに
 Propofol(Diprivan® ZENECA)は静脈麻酔薬の1つであり,作用時間がきわめて短く,反復投与でも体内蓄積性が少ないことから,手術時間が長い脳神経外科手術の全身麻酔でも広く用いられるようになってきた14,18,19,21).われわれはこのpropofolの薬理学的特徴を利用し,不随意運動に対する定位脳手術の際にwake-upテストを行うことによって,少しでも患者の苦痛を軽減するよう試みてきた7).今回propofolによる静脈麻酔を用いて定位脳手術を施行した症例をretrospectiveに調査し,その有用性について検討した.
 また,パーキンソン病患者においてpropofolの静脈内投与により,一時的に振戦が止まったという報告1)や,術中L-DOPAを服用していないにも関わらず,術前のL-DOPA誘発ジスキネジア(dopa-induced dyskinesia,以下DIDと略す)と同じような不随意運動を生じたという報告9)が散見される.われわれの症例においても,このようなpropofolの抗パーキンソン効果について検討し,その作用機序について考察する.

症例

腰椎正中部に発生したSynovial Cystの1例

著者: 中山敏 ,   藤野英世 ,   猪森茂雄 ,   周藤高 ,   馬杉則彦 ,   桑原武夫

ページ範囲:P.717 - P.722

I.はじめに
 脊椎のsynovial cystは比較的稀な疾患であり,通常は椎間関節より発生するため,脊椎管背外側に位置することが多い2,5).今回われわれは,脊椎管背側正中部に発生したsynovial cystの1例を経験したので若干の文献的考察を考加えて報告する.

転移性脳腫瘍による多房性慢性脳内血腫の1剖検例

著者: 若本寛起 ,   宮崎宏道 ,   林拓郎 ,   稲葉真 ,   石山直巳 ,   赤坂喜清

ページ範囲:P.723 - P.728

I.はじめに
 慢性脳内血腫の報告例は文献上散見されるが,多くは慢性期に発見されて手術を施行されている例であり,初回出血時より長期経過を報告した例は少ない.今回われわれは基底核部脳内出血にて発症し,途中まで血腫は吸収傾向を示しながら,その後増大傾向を示し,さらには急激に血腫が多房性に巨大化した症例を経験した.剖検の結果より,肺癌が原発である転移性脳腫瘍からの出血であることが確認された.転移性脳腫瘍が原因の慢性脳内血腫は稀であり,さらに多房性の血腫も稀な病態であることから,経過及び剖検所見を中心に,若干の文献的考察を加え報告する.

第4脳室内出血で発症した後下小脳動脈分枝Choroidal Arteryの脳動脈瘤—2例報告

著者: 姉川繁敬 ,   林隆士 ,   鳥越隆一郎 ,   東岡宏明 ,   友清誠 ,   小笠原哲三

ページ範囲:P.729 - P.735

I.はじめに
 後下小脳動脈(PICA)の分枝である脈絡叢動脈(ChA)に発生する動脈瘤は極めて稀であり,渉猟し得た範囲では,現在までに浦西らによる1例が報告されているにすぎない13).われわれは,第4脳室内出血で発症し,ChAに発生した脳動脈瘤2例を経験し,手術を施行し双方共に良好な結果を得た.ChAの発生・解剖と脳動脈瘤の出現に関して若干の検討を加えたので報告する.

多発性骨髄腫治療中に急激な増大を呈した神経膠芽腫の1例

著者: 園田順彦 ,   隈部俊宏 ,   梅澤邦彦 ,   清水宏明 ,   村川康子 ,   金丸龍之介 ,   吉本高志

ページ範囲:P.737 - P.741

I.はじめに
 多発性骨髄腫は他の悪性腫瘍を合併しやすいことが知られているが7),神経膠腫と多発性骨髄腫の重複腫瘍は非常に報告が少ない.今回われわれは多発性骨髄腫の治療中に,急速な増大を呈した神経膠芽腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

急性硬膜下血腫で発症した髄膜腫の1例

著者: 清水純 ,   田澤俊明 ,   松本容秋 ,   片野てい子 ,   秋葉弥一 ,   黒岩俊彦

ページ範囲:P.743 - P.747

I.はじめに
 良性腫瘍である髄膜腫は,徐々に発育し,次第に腫瘤としての症状を呈して発症することが一般的である.しかし,血管に富む髄膜腫からの出血も稀に起こりうる21).われわれは,急性硬膜下血腫で発症した髄膜腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?