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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科27巻1号

1999年01月発行

雑誌目次

統合化の潮流

著者: 柴田家門

ページ範囲:P.6 - P.7

 平成10年8月30日から9月5日までベルリンで開かれた国際核医学会議に出席し,この期間に近隣2国を訪れる機会があった.今回最も強く印象づけられたのが『ヨーロッパの統合』が急速に進んでいることであった.入りくんだ地形の中に,警備兵が常駐していた国境線の検問所の柵が取り払われていた.なんのチェックもなしに自由に,かつての国境線を越えられる現状はすでに統一欧州連合圏が動き出していることを目の当たりに感じさせた.通貨の統合も年内には行われるといわれているが確実に行われるであろうと思われる.
 東西ドイツの統合からほぼ10年を経た今回,ベルリン市内でまず感じたことは一見して,かつての壁を境として町並みの景色がちがう(これは主としてビルの古さ,汚さによるものときづいたが)ことと,旧東ドイツ地区全地域にビル建設・土木工事が盛んに行われていることであった.4日間のドイツ滞在で統一ドイツが着実に再生しつつあるのを感じた.

連載 脳神経外科と分子生物学

脳腫瘍の遺伝子治療,生物学的療法

著者: 岡田秀穂 ,   吉田純

ページ範囲:P.9 - P.17

I.はじめに
 「遺伝子治療」とは,特定の遺伝子を細胞に導入し発現させて,疾患の治療に役立てることであり,がん抑制遺伝子など,疾患において欠損あるいは変異を起こしている遺伝子を修復する,いわば遺伝子自体の治療から,細胞が本来あまり発現していない遺伝子を導入,過剰発現させて生体における抗がん反応をより有効に惹起しようとするものも含む.前者の「遺伝子の治療」としては,遺伝子導入技術によりがんに関連する異常遺伝子を補正することによってがん細胞を正常化させる戦略がありうる.しかしながら,実際の発がんの過程には複数の遺伝子による多段階の異常が重なっており,ひとつの遺伝子をターゲットにして“補正”したところで治療が成功するとは考えられにくく,そのような戦略によって化学療法感受性が高められたりアポトーシスの誘導が見られると言っても,100%のがん細胞に遺伝子を導入することは現段階では不可能である以上,実際の浸潤性腫瘍の治療のためにはもう一工夫を要する.後者,つまり広義の「遺伝子導入法を用いた治療法」としては,免疫学的遺伝子治療や,自殺遺伝子による治療を含む.
 遺伝子治療の発展にとって最も重要な要素のひとつは,遺伝子導入に用いる方法論としてのベクターの開発であり,もう一つ重要なことは,どのような遺伝子を導入するかである.現在可能な方法での遺伝子導入効率には限界があるので,導入した遺伝子の作用によって引き起こされる生体反応をうまく利用してがん組織が有効に退縮するよう,広い生物学的な知識のもとに治療がデザインされなければならない.その意味では遺伝子治療は,生物学的治療のひとつの側面であると言っても過言ではない.1991年にADA欠損症に対する遺伝子治療で幕をあけたヒトの遺伝子治療プロトコールは米国を中心に現在まで200以上にものぼるが,一方で,期待したほどの治療効果が得られず,今一度基礎研究をしっかり固めてから臨床応用に移るべきともいわれている.

研究

椎骨脳底動脈系の血管病変に起因したと考えられた外転神経麻痺の4症例

著者: 中西欣弥 ,   赤井文治 ,   種子田護 ,   中尾雄三

ページ範囲:P.19 - P.23

I.はじめに
 外転神経麻痺の原因として血管障害・脳動脈瘤・外傷・腫瘍・糖尿病・髄膜炎など様々な疾患がある7)が,椎骨脳底動脈系の血管病変が外転神経麻痺の原因となることは一般的には知られていない.一方で,解離性椎骨動脈瘤に,外転神経麻痺を高率に合併したとの報告がある5).そこでわれわれは外転神経麻痺を認めた症例の脳血管撮影所見,特に椎骨脳底動脈系に着目し,外転神経麻痺の原因について検討したので報告する.

肩甲挙筋などの関与した痙性斜頸に対する末梢神経遮断術—頸髄神経前枝を含めた神経遮断

著者: 平孝臣 ,   光山哲滝 ,   岡見修哉 ,   米山琢 ,   今村強 ,   伊関洋 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.25 - P.31

I.はじめに
 痙性斜頸のうち錐体外路性といわれるものは,頸部の筋肉が種々の組み合わせで異常収縮をおこして症状を呈する3,9,15).最も一般的な型は一側の胸鎖乳突筋と対側の板状筋などの項部筋の収縮による水平性斜頸(horizontal torticollis)であり,このような場合には副神経の胸鎖乳突筋枝とC1からC6の頸髄神経後枝の末梢神経遮断術により症状は著明に改善することが知られている1-4,21).これに対して,頭部が側屈したり肩の挙上を呈する痙性斜頸(rotatory type, laterocollis)では一側の半棘筋や板状筋ばかりでなく,しばしば脊髄神経の前枝によって支配される肩甲挙筋や斜角筋が関与しており14,22),理論的には従来の脊髄神経後枝の遮断では解決できない.筆者らはこれまでに13症例で従来の選択的末梢神経遮断術を行ってきたが,このうち3症例で肩甲挙筋など脊髄神経前枝が支配する筋の異常収縮による症状を認めた.このような例への治療はいまだ確立されておらず,頸髄神経前枝の支配筋に対する選択的神経遮断の報告も見られない.今回これらの筋肉の異常収縮を緩和し痙性斜頸の症状を改善する目的で頸髄神経前枝の選択的末梢神経遮断を加えることによって良好な結果が得られたので報告する.

Frameless Navigation System(StealthStationTM)によるImage-guided Neurosurgeryの経験

著者: 森岡隆人 ,   西尾俊嗣 ,   池崎清信 ,   名取良弘 ,   稲村孝紀 ,   村谷浩 ,   村石光輝 ,   久田圭 ,   三原太 ,   松島俊夫 ,   福井仁士

ページ範囲:P.33 - P.40

I.はじめに
 コンピューター画像解析装置を応用したnavi-gation systemの発達により,手術中にreal-timeに操作位置を画像上で把握できるようになり,安全かつ確実な脳外科手術が可能となってきた.navigationのルーツは定位脳手術にあるが6),この方法は画像の撮像も,手術もフレームをつけたまま行うので,患者の負担も大きく,煩雑である.しかし,フレームの代わりに,頭皮上に小さなマーカーをいくつか装着して座標系の基準とするframeless navigation systemが開発され21,23),今後navigation systemの主流になるものと期待されている.
 frameless navigation systemに用いる位置計測にはさまざまなものがあるが,現在のところ,機械式,磁気式,光学式の3方法が精度がよいことから用いられている21).機械式は自由度のある多関節を持つアームの先端にpointerがあり,各関節の曲がり角をエンコーダで計測することによりpointerの位置を求めるものであるが5,11,18,19,24,25),アームの操作が煩雑であり,場所によってはアームが届かないことがあるのが難点である.磁気式は術野外に置いた複数のコイルで磁場を交互に発生し,pointerに取り付けたセンサーで磁場強度を感知し,位置を計測するものである9).術野近くの磁性体の影響を受けるので,頭部固定装置もカーボンなどの非磁性体のものを用いなければならない.一方,光学式はpointerに取り付けた光学マーカーをカメラで捉えてその位置を計測するものである22)

パーソナルコンピュータを用いた神経心理学的検査の試み

著者: 前島伸一郎 ,   駒井則彦 ,   中井國雄 ,   大浦義典 ,   中川真里 ,   板倉徹 ,   増尾修 ,   山家弘雄 ,   沖田竜二 ,   尾崎文教 ,   森脇宏

ページ範囲:P.41 - P.47

I.はじめに
 高齢化社会を迎え,痴呆性老人の増加が社会問題となりつつある.痴呆性疾患の早期発見,診断には神経心理学的検査が不可欠であるが,検査には時間を要し,また専門的な手続きを要するため,日常の臨床では敬遠されがちである.
 近年,欧米ではパーソナルコンピュータを用いた神経心理学的検査の試みがなされている1,3,6,11,12,16)が,本邦での報告はきわめて少ない14).また,コンピュータを用いた神経心理学的検査が,従来の神経心理学的検査の成績を反映しうるものかどうかも明らかではない.

症例

不完全Clippingおよび塞栓術後に再度Neck Clippingを行った内頸動脈瘤の1例

著者: 藤村直子 ,   広畑優 ,   安陪等思 ,   徳富孝志 ,   重森稔

ページ範囲:P.49 - P.54

I.はじめに
 近年,破裂脳動脈瘤の急性期例に対してもde-tachable coilを用いた血管内手術が行われるようになり,良好な成績が報告されている4,5,9,10,12,13)が,動脈瘤の完全な塞栓が不可能な症例も存在する.このような場合,急性期にドームのみを塞栓した場合でも手術待機中の再破裂のリスクを低下させることができる.その上で慢性期に完全なネッククリッピング術を行うという利点がある5)
 しかし不完全な塞栓術後にネッククリッピング術を行うことは技術的に非常な困難を伴う症例もあることが報告されている1,6,8).今回われわれはコイルによる不完全閉塞後にネッククリッピング術を試み,種々の技術的な困難さを痛感したため,手術手技上の問題点や治療方針についての考察を加えて報告する.

鼻副鼻腔より眼窩及び頭蓋内に連続する腫瘤を形成した成人T細胞白血病の1例

著者: 林健太郎 ,   案田岳夫 ,   安永暁生 ,   柴田尚武 ,   貞森直樹 ,   岸川正大 ,   津田暢夫

ページ範囲:P.55 - P.59

I.はじめに
 ATLとはHTLV-I感染により引き起こされるT細胞の白血病・リンパ腫である.ATLはさまざまな発症形態をとり,臨床症状も複雑であり,診断が困難なことがある.今回われわれは臨床的に進行性鼻疽lethal midline granulomaとして発症し眼窩,頭蓋内に進展したATLの症例を経験したので報告する.

内頸動脈高度狭窄と脳内出血を合併したNeurofibromatosis Type 1の1例

著者: 藤本憲太 ,   下村隆英 ,   奥村嘉也

ページ範囲:P.61 - P.65

I.はじめに
 Neurofibromatosis Type 1(NF1)は遺伝性の中胚葉及び外胚葉系の形成異常を来たす神経皮膚症候群の一つで,多発性神経線維腫,骨病変を合併することが知られており,稀ながら脳血管障害の合併例も報告されている3,4,6,10-15,17,18,20,22).今回われわれは,NF1に合併した片側内頸動脈高度狭窄とそれに伴う側副血行路の破綻により脳内出血を来たしたと考えられる1例を経験したので報告する.

頭皮下腫瘤を形成した多発性骨髄腫の1例—腫瘍診断におけるDural Tail Signの意義について

著者: 中居康展 ,   谷中清之 ,   井口雅博 ,   藤田桂史 ,   成島淨 ,   目黒琴生 ,   土井幹雄 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.67 - P.71

I.はじめに
 多発性骨髄腫は骨髄の形質細胞が腫瘍性に増殖し,免疫グロブリンの異常や骨変化を来たす疾患である.その骨変化は,一般的に頭蓋骨・脊椎骨・肋骨・骨盤にX線写真上punched out lesionと表現される骨融解性の変化として認められるが,孤立性の腫瘤を形成することは稀である.今回われわれは,孤立性の頭皮下腫瘤を形成し,画像上dural tail signを呈し髄膜腫と鑑別を要した多発性骨髄腫の1例を経験したので,画像診断におけるdural tail signの意義について若干の文献的考察を加え報告する.

腫瘍内出血を伴った頭蓋咽頭腫の1例

著者: 石井圭亮 ,   磯野光夫 ,   堀重昭 ,   金馬義平 ,   森照明

ページ範囲:P.73 - P.77

I.はじめに
 頭蓋咽頭腫からの出血の頻度は非常に稀であるが,今回われわれは,腫瘍内出血により下垂体卒中様症状で発症した頭蓋咽頭腫の1例を経験した,本例の臨床経過,画像所見は興味深く,文献的考察を加えて報告する.

吃様症状を呈した脳梁梗塞の1例

著者: 津本智幸 ,   西岡和哉 ,   中北和夫 ,   林靖二 ,   前島伸一郎

ページ範囲:P.79 - P.83

I.はじめに
 吃音(stuttering)とはICD-1018)において「単音,音節,単語を頻繁に繰り返したり,長くのばすことによって特徴づけられる話し方,あるいは話のリズミカルな流れをさえぎる,頻繁な口ごもりや休止によって特徴づけられる話し方」と定義されている.幼児期に発症する発達性吃音(develop-mental stuttering)は一般に知られているが,吃音の既往歴を持たず,成人になってから脳血管障害などの脳病変によって起こってくるものは吃様症状・吃症状(acquired stuttering)などと呼ばれ,比較的稀である.またその責任病変や発現機序については未だに一定の見解を得ない.今回われわれは脳梗塞によって発症し,種々の検査から脳梁が責任病変と考えられた1例を経験したので若干の考察を加えて報告する.

Carbamazepineによる低Na血症

著者: 稲村孝紀 ,   久場博司 ,   森岡隆人 ,   村谷浩 ,   村石光輝 ,   久田圭 ,   福井仁士

ページ範囲:P.85 - P.87

I.はじめに
 Carbamazepine(CBZ:商品名テグレトール)は抗けいれん剤や三叉神経痛・頑痛症などの疼痛発作抑制剤として使用する頻度が多い.CBZの副作用としてめまい・立ち眩み・集中力低下はしばしば経験する.しかしCBZはsyndrome of inap-propriate antidiuretic hormone(SIADH)を生じうる薬剤でもある.1980年代まではCBZによる低Na血症の報告が散見されるが4,5,9,10),最近ではその報告はほとんどない.今回われわれはCBZが原因となった低Na血症の2例を経験したので報告する.

腎摘出後10年以上を経て脳転移した腎細胞癌の2例

著者: 黒木一彦 ,   田口治義 ,   隅田昌之 ,   台丸裕 ,   恩田純

ページ範囲:P.89 - P.93

I.はじめに
 腎細胞癌の脳転移は3.9-9.7%と報告されている1,4,6)が,腎摘出後平均3年で診断されている.10年以上経て脳へ転移した症例は非常に稀である.われわれは腎摘出後12年,15年を経て脳転移した2症例を経験したので報告する.

前方スクリュー固定および後方固定を同時施行した軸椎歯突起骨折の2例

著者: 鈴木文夫 ,   中島正之 ,   松田昌之 ,   田中俊樹 ,   松村憲一 ,   小山素麿

ページ範囲:P.95 - P.100

I.はじめに
 軸椎歯突起骨折の治療の選択は骨折のタイプと転位の程度によってなされるが,年齢や合併損傷なども重要で,個々の症例にあわせた治療法の選択が重要である11,13)
 最近当施設においても転位の強い2例の軸椎骨折を経験した.1例ではハローベストによる固定にも関わらず不安定性が持続したため,他の1例は来院時に既に外傷後8週経過していたため,両症例とも手術による内固定を施行した.手術法としては一期的に前方スクリュー固定と後方環軸椎椎弓間固定を併用した方法を用いた.各症例を呈示し,今回施行した方法について他の手術法と比較検討する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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