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連載 脳神経外科と分子生物学
脳腫瘍の遺伝子治療,生物学的療法
著者: 岡田秀穂12 吉田純2
所属機関: 1ピッツバーグ大学メディカルセンター脳神経外科 2名古屋大学脳神経外科
ページ範囲:P.9 - P.17
文献購入ページに移動「遺伝子治療」とは,特定の遺伝子を細胞に導入し発現させて,疾患の治療に役立てることであり,がん抑制遺伝子など,疾患において欠損あるいは変異を起こしている遺伝子を修復する,いわば遺伝子自体の治療から,細胞が本来あまり発現していない遺伝子を導入,過剰発現させて生体における抗がん反応をより有効に惹起しようとするものも含む.前者の「遺伝子の治療」としては,遺伝子導入技術によりがんに関連する異常遺伝子を補正することによってがん細胞を正常化させる戦略がありうる.しかしながら,実際の発がんの過程には複数の遺伝子による多段階の異常が重なっており,ひとつの遺伝子をターゲットにして“補正”したところで治療が成功するとは考えられにくく,そのような戦略によって化学療法感受性が高められたりアポトーシスの誘導が見られると言っても,100%のがん細胞に遺伝子を導入することは現段階では不可能である以上,実際の浸潤性腫瘍の治療のためにはもう一工夫を要する.後者,つまり広義の「遺伝子導入法を用いた治療法」としては,免疫学的遺伝子治療や,自殺遺伝子による治療を含む.
遺伝子治療の発展にとって最も重要な要素のひとつは,遺伝子導入に用いる方法論としてのベクターの開発であり,もう一つ重要なことは,どのような遺伝子を導入するかである.現在可能な方法での遺伝子導入効率には限界があるので,導入した遺伝子の作用によって引き起こされる生体反応をうまく利用してがん組織が有効に退縮するよう,広い生物学的な知識のもとに治療がデザインされなければならない.その意味では遺伝子治療は,生物学的治療のひとつの側面であると言っても過言ではない.1991年にADA欠損症に対する遺伝子治療で幕をあけたヒトの遺伝子治療プロトコールは米国を中心に現在まで200以上にものぼるが,一方で,期待したほどの治療効果が得られず,今一度基礎研究をしっかり固めてから臨床応用に移るべきともいわれている.
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