icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科27巻10号

1999年10月発行

雑誌目次

「出会い」と「環境」

著者: 佐々木富男

ページ範囲:P.868 - P.869

 昨年8月に群馬大学へ赴任し,多くの新たな人達と出会い,新たな環境で働いている.今まで言葉を交わしたことのない人達と一緒に働くのであるから,互いの理解を深める為にできるだけ話をするようにしている.そうした折りにふと自分の人生を振り返り,特別優秀でもない自分が比較的順調な人生を歩んでこれたのはなぜだろうと考えると,多くの素晴らしい人達と出会えた故であり,良い環境で働くことができた故であろうと思う.
 熱意と才能と努力が人間にとって基本的に重要な要素であると思うが,人との出会いと巡り合わせも人生を左右する大変に重要な要因であると思える.人が一生のうちで巡り会い,親交を結ぶことのできるのは,たかだか数百人に過ぎないのではないだろうか.地球上には何十億という人達が生活しているが,我々は一生で数百人の人達としか深いつき合いをすることができないのである.ごく限られた人達としか知り合えないのであるから,どれだけ多くの素晴らしい人達と出会うことができるかによって幸せな人生を送ることができるか否かが決まるように思う.人は本を読むことによって感銘を受け,限られた人との出会いを補うことができるが,直接出会い言葉を交わした人から受ける感銘にはかなわないように思う.若い人達はできるだけ交際範囲を広げて数多くの素晴らしい人達と出会い,刺激と感銘を受けるようにしてもらいたい.人との出会いも受け身ではいけない.自ら積極的に行動することによって輪を広げなければならない.感銘を与えてくれる,落ち込んでいる時に前向きな助言を字えてくれる,困った時に助けてくれる,自分が知らないところで支援していてくれるのは,出会い親交を結んだ人達である.私ももうすこし若い時に,幅広い人脈を持つ事の重要性に気がついておれば,また違った人生になっていたように思う.しかし,私自身は幸いにも多くの素晴らしい人達に巡り会えたと思っている.東京大学の同門の先生方以外にも,多くの他大学出身の先生方から励まされ,注意され,教えられ,支えられてきた.米国への留学も人生の転機となった.Kassell教授と出会い,故Charles Drake教授,Ladislau Steiner教授,John Jane教授,Bryce Weir教授,ほか多くの人達と親交を結ぶことができた.彼らには,脳神経外科の知識よりも,人は如何に生きるべきか,リーダーたるものは如何にあるべきか,といった点について多くの事を教えていただいた.若い人達は世界の人達と知り合って輪を広げ,その人達から刺激を受け,自らの人間形成に役立ててほしい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頭蓋頸椎移行部のInstrumentation

著者: 高安正和 ,   吉田純

ページ範囲:P.871 - P.881

I.はじめに
 頭蓋頸椎移行部は解剖・機能の特殊性から不安定性を来たしやすく,この部の手術にあたっては,病変の切除よりも固定術が大きなウェイトを占めることが多い(Table 1).最近は従来の移植骨とワイヤーを用いた固定術に加え,さまざまなspinal instrumentationが利用できるようになり,術後早期より強固な固定性が得られるため早期離床が可能で,術後の外固定の期間も短縮できるようになってきた.この際,頭蓋頸椎移行部のin-strumentationは他の部に比べ種類も多く複雑なため,それぞれの特徴をよく理解し最適な方法を選択することが重要となる.ここでは頭蓋頸椎移行部の解剖と,instrumentationを中心とした固定術について手術手技の点から概説する.

研究

頭部剃毛と術後頭蓋内感染症発生率の検討—全頭部剃毛は必要か?

著者: 天野敏之 ,   稲村孝紀 ,   伊野波諭 ,   庄野禎久 ,   池崎清信 ,   松島俊夫 ,   溝口順子 ,   福井仁士

ページ範囲:P.883 - P.888

I.はじめに
 すべての外科手術の合併症に創部感染がある.脳神経外科手術において創感染は頭蓋内感染へと進展し,髄膜炎・脳炎を併発する可能性があり,今までの報告では脳外科手術の術後頭蓋内感染症発生率は0.5-5%である2,5,7,8,14,17-19)
 創感染の発生を予防する目的で手術直前に全頭部剃毛を行う施設は少なくないが,全頭部剃毛によってどの程度創感染が抑制されるかについては明らかな根拠はない.手術器具や術後管理技術の進歩により神経学的合併症の発生率は減少し,脳神経外科手術を受けた患者の在院日数は短くなる傾向がある.退院した患者が毛髪を失ったために社会復帰をためらう場合も多く,特に女性では一旦失った毛髪が伸びそろうには少なくとも1年間はかかるので社会生活を送る上での障害となることが多い.今回われわれは,開頭・穿頭術前における毛髪の全頭部剃毛が術後創感染予防にどの程度有効なのかを,部分剃毛で手術を行った症例と術後頭蓋内感染症の発生率を比較し検討した.

症例

MRAによって偽腔の進展範囲が確定した外傷性内頸動脈解離の1例

著者: 奥地一夫 ,   永田清 ,   藤岡政行 ,   前田裕仁 ,   横田浩 ,   西岡利和 ,   籠島忠

ページ範囲:P.889 - P.894

I.はじめに
 解離性動脈瘤(DA)は従来,脳血管撮影を用いて診断されてきた1,10).しかし,血管内腔のみの形態的画像検査である血管撮影は血管壁の質的診断には充分な検査とはいえない.そのため,MRIを用いてDAをより正確に診断する検討がなされている2-6,8,9,11).最近経験した外傷性頭蓋外内頸動脈解離において脳血管撮影で偽腔の存在を疑わせる所見が乱流に伴う造影剤のpoolingであり,MRAを用いて正確な解離の進展範囲を診断できた1例を経験したので報告する.

横静脈洞と交通する先天性頭皮動静脈奇形の1例

著者: 西浦司 ,   西田あゆみ ,   半田明 ,   後藤正樹 ,   津野和幸 ,   石光宏

ページ範囲:P.895 - P.901

I.はじめに
 頭皮の動静脈奇形(AVM)は,特徴的な外観により古くから知られているが,比較的稀な疾患である.なかでも頭蓋内と交通する先天性頭皮AVMは極めて稀で,これまでに3例の報告がみられるのみである3,5).われわれは,頭蓋内硬膜静脈洞と交通する先天性頭皮AVMを経験したので報告する.

頸部内頸動脈狭窄に対するCarotid Endarterectomy(CEA)後に縫合糸断裂により生じた巨大仮性動脈瘤の1治験例

著者: 濱田真輝 ,   水谷徹 ,   三木啓全 ,   北原功雄

ページ範囲:P.903 - P.908

I.はじめに
 内頸動脈狭窄に対する頸部内頸動脈内膜剥離術(以下CEA)は以前よりその術中,術後の種々の合併症が報告されている.われわれは,CEA施行後1週間と,極めて早期に生じた巨大な仮性動脈瘤(以下PA)をバルーンカテーテルにより出血をコントロールしながら切除し得た1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

Spinal Epidural Varices

著者: ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.911 - P.913

 A 16-year-old male experienced a sudden attack of back pain while walking through the corridor ofschool which required emergent hospitalization. Except for the back pain, no neurological symptoms werenoted. Magnetic resonance(MR)imaging indicated an angiopathy-like flow void in the epidural region at Th 3-5 which seemed to explain the patient's back pain. Thoracic laminectomy at Th 3-5 and resectionof the affected site were performed. Pathologically, the resected lesion only had a dilated normal vein andno findings indicating vascular deformity. The patient's outcome was good and no relapse of pain hasoccurred for about 2 years since the Operation. Although some authors have reported vascular deformity with spinal epidural hemorrhage or varices with lumbar hernia of the intervertebral disc, there is no report concerning spinal epidural varices with pain only1-5). The present case seemed to be a rare event and is re-ported here.

皮質聾を呈した成人出血型もやもや病の1例

著者: 若林礼浩 ,   中野俊久 ,   磯野光夫 ,   堀重昭

ページ範囲:P.915 - P.919

I.はじめに
 皮質聾は側頭葉病変が両側に生じてはじめて発症するため4,7,8)稀な病態であるが,CTが普及して以来,次々と報告されてきている2,3,7,8,10,11,12).皮質聾の原因となる頭蓋内疾患は脳血管障害がほとんどであるが,脳出血例に比べて脳梗塞例が多く7,9,10,12),脳出血に伴った症例は現在までに6例しか報告がない2,3,5,8,11,12)・われわれはもやもや病で両側側頭葉皮質下出血を来たし,皮質聾を呈した症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

テント上手術に合併したテント下出血例の検討

著者: 冨井雅人 ,   中島真人 ,   池内聡 ,   長谷川譲 ,   小川武希 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.921 - P.925

I.はじめに
 脳神経外科手術の最も忌むべき合併症の一つとして術後出血がある.このうち手術野もしくはその近傍に発生するものは合理的理由が考慮されるが,術野から遠隔部に発生するものについては明確な理由が見当たらない.
 今回われわれは,テント上手術に合併してテント下出血を発生した3症例を経験したので発生機序に対する考察を中心に報告する.

解離性椎骨動脈瘤の破裂により動静脈瘻を来たした神経線維腫症の1例

著者: 三平剛志 ,   湯上春樹 ,   住井利寿 ,   新山一秀 ,   赤井文治 ,   種子田護

ページ範囲:P.927 - P.931

I.はじめに
 神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1)は第17染色体に異常のある常染色体優性遺伝性疾患であり,neurofibromaやcafé-au-lait spotなど主に外胚葉系の異常のほか,血管病変など中胚葉系の異常も合併することが知られている4,11).脳血管病変では閉塞性変化が大部分であるが動脈瘤や動静脈奇形(瘻)の報告も散見される.今回われわれは,くも膜下出血を来たした神経線維腫症の患者において解離性椎骨動脈瘤を認め,血管内手術中に動脈瘤の破裂により動静脈瘻となった症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

Persistent Primitive Olfactory Arteryの5例

著者: 金子高久 ,   末武敬司 ,   新谷俊幸 ,   竹田正之

ページ範囲:P.933 - P.939

I.はじめに
 前大脳動脈の走行異常であるpersistent primi-tive olfactory arteryの5症例を経験した.この血管奇形は非常に稀で報告例は少ない.既報のものを加え,文献的考察をし,その臨床的特徴を報告する.

症候性脳血管攣縮を伴う未治療破裂脳動脈瘤の血管内治療

著者: 森実飛鳥 ,   中原一郎 ,   坂井信幸 ,   柳本広二 ,   秋山義典 ,   酒井秀樹 ,   東登志夫 ,   名村尚武 ,   高橋淳 ,   西崎順也 ,   石澤錠二 ,   間中浩 ,   林直樹 ,   永田泉 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.941 - P.946

I.はじめに
 くも膜下出血後の脳血管攣縮には,3H療法,Ca拮抗剤の投与,塩酸パパベリンの動注,血管形成術などの治療が行われる.しかし,これらは破裂脳動脈瘤が未治療の場合,再破裂の危険性を高めるものであり,対応に苦慮することが多い.
 われわれは,そのような2症例において,急性期に血管内治療を行ったので考察を加えて報告する.

chordoid Meningiomaの1例

著者: 梶原佳則 ,   児玉安紀 ,   堀田卓宏 ,   河野宏明 ,   谷口栄治 ,   山崎文之 ,   片山正一 ,   山根哲実

ページ範囲:P.947 - P.951

I.はじめに
 Chordoid meningiomaは,1988年にKepes9)らによって提唱され,1993年のWHO新分類でme-ningiomaの一亜型として分類されたchordomaに類似した特徴を持ったmeningiomaである.その大部分は小児例であるが,未だ文献報告は数少ない2,7,9-11,13).今回われわれはchordoid menin-giomaの成人例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

読者からの手紙

亀井一郎先生の「脳卒中はいつ発症するか?」に対する問い合わせ

著者: 黒川泰任

ページ範囲:P.940 - P.940

 「脳卒中はいつ発症するか」(脳外26:991-998,1998)という問題は,われわれ臨床家にとっては大変興味ある問題で,亀井先生の研究はきわめて有意義と存じます.発症時間や発症時の外的要因については少ないながらも報告があり,出血性病変が日中に多いなどという結果は,われわれの経験を証明していただけたものと存じます.
 その発生率が,多いか少ないかを論じている部分で,いくつか分かりにくい点があり,お教えください.

経橈骨動脈経由脳血管撮影

著者: 筑井恵美子 ,   前田佳一郎 ,   豊田富勝

ページ範囲:P.952 - P.952

 近年脳ドックの普及に伴い未破裂脳動脈瘤,無症候性脳主斡動脈狭窄の発見頻度は増加傾向にある.脳MRAの解像度が良くなってきているとはいえ,病変の正確な評価に経動脈的脳血管撮影は依然として必要とされている.従来の大腿動脈芽刺によるセルジンガー法では検査後ベッド上安静を強いられるため,検査のみのためにも入院を要すこと,臥床による腰痛や排尿障害の訴えが多いことが問題となる.この点の改善のため本誌で肘部上腕動脈よりセルジンガー法を行う方法が紹介されていたが(東保肇,他:脳外18:161-166,1990),これを経橈骨動脈経由に行う方がいくつかの点でさらに優れていると考えられたので紹介する.
 施行前にAllen testを行い手掌への側副血行が十分であることを念のため確認した.右橈骨動脈に手関節近位部でシースを挿入,セルジンガー法に準じて4Fカテーテルを上行大動脈内に挿入し,その後の操作によりカテーテル先端を目的血管に挿入しDSAによる脳血管撮影を行った.検査後シースを抜去し,用手的圧迫はなしに動脈穿刺部を径3cmの球状の消毒液に浸したガーゼで圧迫して弾性テープで固定した.

歴史探訪

学会の名称を巡って

著者: 朝倉哲彦

ページ範囲:P.953 - P.957

I.はじめに
 学問の発達・分化について伴って新しい学会が次々に生まれている.新しいものだけでなく,在来の懇話会,懇談会レベルのものが発展し,また研究会が学会へと改名されるものまで含めると膨大な数に上り,まさに百花繚乱の感である.筆者らは現役勤務中に多くの学会に所属して,勉強をさせてもらったが,これも医師になったばかりの頃から,退官の頃までを通覧すると無慮100を超すのではなかろうか.もちろん初めに入っていた学会を退会し,新しい学会へ入会するという新陳代謝を繰り返したから良いようなものの,それでも常時30くらいの会員であった.定年退官してから,多くの学会に退会届けを出して減らしているがそれでもまだ10指に余る学会の会員である.ところで現在の臨床医学の学会は①治療対象である疾患の学会,②診断の手技・方法の学会,③治療の手技・方法の学会,④診療科ひいては大学講座を連ねる学会,⑤臨床を巡る,倫理,疫学,病理などの学会に大別できよう.しかし,そこにルールや規則があるわけではないからてんで勝手に名称をつけているわけだ.それはそれで結構だが,かなり混乱を来しているのも事実だ.さらにその名称を巡って一部に対立的な見解が起こったりしている.ここで,学会の名称を巡って,少し考察を加え,将来の学会の発展・設置にいささかでも役立てたいというのが,この小文の目的だ.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?