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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科27巻12号

1999年12月発行

雑誌目次

“Controversial”

著者: 鈴木重晴

ページ範囲:P.1068 - P.1069

 たとえば深部脳動脈瘤手術のアプローチや脳血管攣縮の病態考察及び治療法など,一つ脳神経外科領域だけに限っても異論が多く論争の的とされる問題は多い.こういった異論の生じる原因には,問題の実態が充分解明されていないこともあるが,論じる人の立場即ち研究上の視点の相違,各自の研究結果及び経験の多寡による場合も少なくない.しかし,医学上の異論にはその根底に「病を治す」という共通の目標が存在するため,如何に白熱した論争が交わされようとも決して度を越す程の感情移入までには至らないのが一般的のようである.
 一方,人間の社会生活においては異論に満ちた問題は枚挙に暇がない程多い.そして,これらの場合には名誉,財産,宗教,政治さらには個々の人間にとって究極の課題ともいえる生命自体にも及ぶものもあり,論争の程度は軽重両極端に及び,最悪の場合には殺人や戦争などといった事態にまで至ることも稀ではない.

連載 脳神経外科と分子生物学

神経免疫—脳腫瘍に対する免疫治療の現況と展望

著者: 貴島晴彦 ,   清水恵司

ページ範囲:P.1071 - P.1077

I.はじめに
 悪性腫瘍に対する免疫療法は,生態に本来存在する腫瘍拒絶機構を活性化させることにより抗腫瘍効果を期待するという点で,放射線療法や化学療法とは異なる.脳内においても免疫学的な腫瘍拒絶機構が少なからず存在しなければ脳腫瘍に対する免疫治療は成り立たない.元来脳脊髄腔は,①血液脳関門(BBB)の存在により他の全身臓器から隔てられている,②リンパ系組織が存在しない,③主要組織[適合]遺伝子複合体(MHC)の発現が低いことなどから,免疫学的特殊部位(im-munological privileged site)として取り扱われてきた7).しかし近年,①活性型T細胞が中枢神経系(CNS)内でも免疫監視機構を担っている,②ある種のグリア細胞は反応性にCNSの免疫を活性化させる,などが示されたことより,CNSにおいても免疫反応が生じる可能性が示唆されてきた31).また悪性脳腫瘍でも,①腫瘍特異抗原が存在する,②新生血管が増生しBBBが破綻している,③各種免疫担当細胞が腫瘍内あるいは腫瘍周囲に浸潤していることより,脳内における免疫反応の存在が示唆されている.これらのことから,脳腫瘍に対する免疫治療は大いに期待され,他の全身悪性腫瘍と同様に様々な免疫学的治療が試みられてきた.しかしながら現段階では,免疫療法はそれらに対し満足な結果を示したとはいえない.本稿では,脳内における腫瘍免疫反応,主に悪性グリオーマに対して行われてきた免疫療法について総説し,さらに今後の可能性について考えてみたい.

総説

ステントを併用した血管形成術

著者: 滝和郎 ,   川口健司 ,   村尾健一

ページ範囲:P.1079 - P.1090

I.はじめに
 近年,脳神経外科領域における血管内手術が急速に進歩している.その中でも最近になって発達してきたのが,頭頸部領域,特に頸動脈狭窄症に対するステント留置による血管拡張術である.これまでは頭頸部動脈狭窄症に対してバルーンによる経皮的血管拡張percutaneous transluminal an-gioplasty(PTA)が行われていたが,石灰化を伴う硬化性病変に対しては十分な拡張が得られないことが多く,また解離や再狭窄を来たす頻度も高かったため,外科的にバイパス術や頸動脈内膜剥離術carotid endarterectomy(CEA)が行われることが多かった.特に頸動脈狭窄症ではNASCET(North American Symptomatic Carotid Endarte-rectomy Trial),ECST(European Carotid Sur-gery Trial),ACAS(Asymptomatic CarotidAtherosclerosis Study)などのrandomized studyでCEAの有効性が確立されているため9,10,31),バルーンPTAは主に手術リスクの高い症例に行われてきた.一方,心臓の冠動脈狭窄症や四肢の末梢血管狭窄症においてバルーンPTAは第1選択の治療法として既に確立しているが,頭頸部と同様の理由で外科的バイパス術を必要とすることが多かった.このためバルーンPTAに代わる方法としてステント留置による血管拡張術が冠動脈,四肢血管領域で開発され,良好な成績が得られることがわかった.このような状況を背景として頭頸部動脈狭窄症に対してもステント留置が行われるようになり,良好な初期成績が報告され30),CEAより優れた治療成績を報告する施設もある18,24,35,\45,47).このようなことからステントの出現はこれまでの治療方針に大きな変化をもたらすものと考えられる.本稿では頸動脈狭窄症を中心とした頭頸部動脈狭窄症に対するステント留置手技の実際と自験例の治療成績について述べ,適応,合併症,再狭窄,特に頸動脈狭窄症ではCEAとの比較について考察する.

研究

Three-dimensional CT Angiography(3D-CTA)の頭蓋底静脈系描出能の検討—pterional approach,anterior temporal approachへの利用

著者: 鈴木泰篤 ,   松本清

ページ範囲:P.1091 - P.1096

I.はじめに
 頭蓋内の手術を行うにあたり,頭蓋内静脈系のバリエーションを充分理解し,各症例でその走行を正確に把握しておくことはきわめて重要である.今回われわれは頭蓋底静脈系の検索にthree-dimensional CT angiography(以下3D-CTA)を用い,その描出能とバリエーションをdigital sub-traction angiography(以下DSA)と比較し検討した.これによりpterional approachやanteriortemporal approach13)における静脈検索に対し若干の知見を得たので報告する.

Expanded Polytetrafluoroethylene人工硬膜使用時の新しい髄液漏予防手技Mesh and Glue法—耐圧性を改善したMAGスプレー法とその有効性に関する基礎的検討

著者: 永田和哉 ,   塩原洋司 ,   小林裕幸 ,   柴富志治 ,   柳沢章 ,   丸山昭二

ページ範囲:P.1097 - P.1103

I.はじめに
 97年春にWHOの勧告7)を受けて,厚生省がヒト乾燥硬膜の使用の禁止を決めて以来2),脳外科手術後の硬膜欠損に対してはexpanded polytetra-fluoroethylene(ePTFE)人工硬膜(Gore-Tex Dura Substitute®;WL Gore & Associates,Flagstaff,Arlz.,U.S.A.)を使用せざるを得なくなった.しかしながら本材料は生体組織との親和性に乏しく,縫合部からの髄液漏れが問題となるケースがある.単純な縫合部へのフィブリン糊の塗布では本問題は解決しなかったことから,われわれは吸収性のメッシュを利用した新しい縫合部のシール法としてMesh and Glue法(MAG法)を開発した4)
 本法は先に報告したように4),吸収性のメッシュにあらかじめフィブリノゲン液を浸潤させ,縫合部に貼付した後にトロンビン液をかけ,メッシュの形に沿ったフィブリンを形成させるものである.われわれの施設では1997年6月に本法を臨床に応用して以来,これまでに100例以上のケースにMAG法を行い,術後の髄液漏予防法としての本法の有効性を確認するに至った.

機能的MRIによるヒト脳嗅覚中枢の検出

著者: 椎野顯彦 ,   森田恭生 ,   井藤隆太 ,   鈴木幹男 ,   松田昌之 ,   半田讓二

ページ範囲:P.1105 - P.1110

I.はじめに
 脳機能イメージングのなかでもfunctiomal MRI(fMRI)は,positron emission tomography(PET)に比べて経済的で放射線の影響も考慮せずにすむことから,手軽にくり返し行える検査として普及してきた.近年,超高速MRIの技術の進歩とともにエコープレナー法(EPI)が簡単に使えるようになり,時間分解能や検査時間が改善された.BOLD(Blood Oxygenation Level Depen-dent)法は,酸化ヘモグロビンの増加に伴う信号強度の変化を利用して脳の機能を調べる方法であるが,これはいわば局所磁場の不均一性に依存している.頭蓋底に近い領域は,副鼻腔と脳実質との間に極端な磁化率の違いのあることから,BOLDを検出しようとすると無信号領域や歪みの問題がでてくる.このため脳の頭蓋底部付近のBOLDの検出は困難であり,通常のfMRの手法では賦活領域を描出できない.今回われわれは,このsusceptibilityの問題を克服すべく嗅覚刺激に対する中枢の反応をfMRを用いて検討したので報告する.

脳神経外科手術のデジタル記録

著者: 宝金清博 ,   黒田敏 ,   阿部弘 ,   瀧川修吾 ,   斎藤久寿

ページ範囲:P.1111 - P.1118

I.はじめに
 医療記録は,単なる備忘録ではなく,医学教育,医学研究の重要な基礎データである上医療記録の中でも,手術記録は,最も視覚的かつ特殊なものである.その歴史は,術者自身の手による手書きの手術記録に始まり,術中写真に発展し,現在では,日本の多くの脳神経外科施設において,手術ビデオが記録として残されている.これに加えて,最近では,手術ビデオからの手術写真(静止画像)の出力が盛んに行われ,これが,手術記録上に添付される機会も増えてきている.
 こうした中で,multimediaの発達により,画像記録のデジタル化が急速に進んでいる.脳神経外科領域でも,すでに,MRI, CT scanなどの診断用画像はすでに完全にデジタル化されており,デジタル化は,手術記録にまで拡大しつつある1,4)しかし,こうした手術記録におけるデジタル化の意味と問題点が外科医の側から整理されたことはなく,現時点での評価は今後の展望の意味からも重要である.ただ,一般的な撮影条件下での検討は,あまり意味がないように思われる.特に,脳神経外科領域では,マクロの手術から手術顕微鏡を用いたマイクロの手術まで,光学的にも複雑かつ特殊な作業行程が多く,しかも,顕微鏡下での撮影は,後述するように極めて特殊な条件が重なり,理論的な方法のみでは,検討しにくい領域である.また,光量の少ない生体の深部の強拡大という光学的条件を実験的に構成することは困難であり,臨床での検討が必要である.今回,ハイビジョン,デジタルカメラ,デジタルビデオを中心とした手術の様々なデジタル記録の手法を試み,検討したのでこれを報告する.

MRI脳灌流画像(Perfusion Weighted Imaging:PI)による慢性期閉塞性脳血管障害の循環動態の評価

著者: 佐々木祐典 ,   古明地孝宏 ,   鈴木進 ,   斉藤孝次

ページ範囲:P.1121 - P.1126

I.はじめに
 近年のMRIの技術的進歩にともなって,echoplanar(EPI)法をはじめとした高速撮影法の実用化により,MRIによって形態学的変化だけではなく,循環動態も評価することが可能になってきた5,8).MRI脳灌流画像(PI)はGd-DTPAのようなMRI用外因性造影剤を経静脈的にボーラス注入することで,脳血管内を通過する際に生じる血管内外での磁化率の違いを生じさせ,局所磁場を不均一になることに起因する一過性の信号低下をT2*強調画像で連続的に撮像する方法である.この信号の動態変化を解析することで脳循環動態を評価することが可能となる8,10)
 今回われわれは,PIを用いて脳梗塞に陥っていない非壊死部の脳組織の循環動態を評価し,SPECTと比較したので報告する.

症例

蝶形骨洞粘液嚢腫の1例

著者: 藤本憲太 ,   下村隆英 ,   奥村嘉也

ページ範囲:P.1129 - P.1132

I.はじめに
 蝶形骨洞感染性疾患は比較的まれで,多くは他の副鼻腔炎からの炎症の波及により起こる2).一般には耳鼻咽喉科医によって治療されることが多いが,頭痛等の訴えが多く,脳神経外科にて頭蓋底部病変として発見されることもある.われわれは頭蓋底を広範に破壊した蝶形骨洞粘液嚢腫の1例を経験したので報告する.

脳室内出血にて発症した横-S状静脈洞硬膜動静脈瘻の1例

著者: 川口務 ,   河野輝昭 ,   金子好郎 ,   堤正則 ,   大井川秀聡 ,   風川清

ページ範囲:P.1133 - P.1138

I.はじめに
 横・S状静脈洞硬膜動静脈瘻(以下TS-DAVF)は,耳鳴りや頭痛などの軽微な症状で発症するものから,脳内出血を来たす重篤なものまで存在する2).われわれは比較的稀な脳室内出血で発症したTS-DAVFを経験した.症例を呈示しその臨床症状,循環動態,治療方法について検討する.

脳実質内より発生した天幕上上衣腫の1例

著者: 斎藤太一 ,   沖修一 ,   三上貴司 ,   川本行彦 ,   山口智 ,   桒本健太郎 ,   林雄三

ページ範囲:P.1139 - P.1144

I.はじめに
 上衣腫は脳室壁の上衣細胞から発生し,脳室近傍の白質あるいは脳室内へ進展する場合が多く,また頭蓋内に認められる上衣腫の約2/3がテント下に発生すると言われている2,6,10,11).今回われわれは脳室系との連続性を認めず,テント上で左頭頂葉の脳実質内より発生したと考えられる上衣腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋内圧亢進により描出されなかった上位頸椎部硬膜動静脈奇形の1例*

著者: 野中政宏 ,   田中祥弘 ,   金本幸秀

ページ範囲:P.1145 - P.1150

I.はじめに
 上位頸椎部の硬膜動静脈奇形は比較的まれな疾患である.しかし近年,画像診断の進歩により,その報告が散見される2-4,7-9,12,13,15-17)
 今回,発症時の脳血管造影では描出されず,再検査にて診断されたくも膜下出血で発症した上位頸椎部硬膜動静脈奇形の1例を経験したので,その特徴につき若干の文献的考察を加えて報告する.

報告記

第11回国際脳浮腫シンポジウムに参加して

著者: 黒岩俊彦 ,   伊藤梅男

ページ範囲:P.1152 - P.1153

 1999年6月6日より10日まで英国北部タイン河畔の町ニューキャッスルに於いて第11回国際脳浮腫会議“Oedema 99, The Eleventh International Symposiumon Brain Edema and Mechanisms of Cellular Injury”が開催された.
 主催はニューキャッスル総合病院脳外科・神経科学部長A.David Mendelow教授であった.1965年に第1回国際脳浮腫会議がウイーンで開催されてより34年,アメリカ,ヨーロッパ,日本で順次開催されてきた会議は前回1996年の米国サンディエゴ会議を経て今回初めて英国で開催された.会場となったニューキャッスル近郊のGosforth Swallow Hotelに参加者は宿泊し,そこがシンポジウム会場となった.6日夕方のOpening Cere-monyに引き続きGraham Teasdale教授による“HeadInjures:past, present and future”と題する基調講演でシンポジウムははじまり,翌3日間に70題の口演,81題のポスター発表が行われた.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第27巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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