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連載 脳神経外科と分子生物学
神経免疫—脳腫瘍に対する免疫治療の現況と展望
著者: 貴島晴彦12 清水恵司2
所属機関: 1神戸掖済会病院脳神経外科 2大阪大学大学院医学系研究科神経機能制御外科学講座
ページ範囲:P.1071 - P.1077
文献購入ページに移動悪性腫瘍に対する免疫療法は,生態に本来存在する腫瘍拒絶機構を活性化させることにより抗腫瘍効果を期待するという点で,放射線療法や化学療法とは異なる.脳内においても免疫学的な腫瘍拒絶機構が少なからず存在しなければ脳腫瘍に対する免疫治療は成り立たない.元来脳脊髄腔は,①血液脳関門(BBB)の存在により他の全身臓器から隔てられている,②リンパ系組織が存在しない,③主要組織[適合]遺伝子複合体(MHC)の発現が低いことなどから,免疫学的特殊部位(im-munological privileged site)として取り扱われてきた7).しかし近年,①活性型T細胞が中枢神経系(CNS)内でも免疫監視機構を担っている,②ある種のグリア細胞は反応性にCNSの免疫を活性化させる,などが示されたことより,CNSにおいても免疫反応が生じる可能性が示唆されてきた31).また悪性脳腫瘍でも,①腫瘍特異抗原が存在する,②新生血管が増生しBBBが破綻している,③各種免疫担当細胞が腫瘍内あるいは腫瘍周囲に浸潤していることより,脳内における免疫反応の存在が示唆されている.これらのことから,脳腫瘍に対する免疫治療は大いに期待され,他の全身悪性腫瘍と同様に様々な免疫学的治療が試みられてきた.しかしながら現段階では,免疫療法はそれらに対し満足な結果を示したとはいえない.本稿では,脳内における腫瘍免疫反応,主に悪性グリオーマに対して行われてきた免疫療法について総説し,さらに今後の可能性について考えてみたい.
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