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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科27巻2号

1999年02月発行

雑誌目次

机上の空論

著者: 佐藤修

ページ範囲:P.108 - P.109

 広辞苑によると「机上の空論」とは“実際とかけ離れた無益な議論”とある.
 また同辞典によると早くも平安時代にすでに「ツクヱ」なる記載があると紹介され,さらに「書を読み,字を書くのに用いる台」と説明されている.しかし,ここで語ろうというのは昨今の我々の机の実体または有用性についてである.いうまでもなくわが国の国土は狭い.従って住宅事情はもとより,仕事場で与えられるスペースも決して広いとは言えず机の上の広さも十分とは言えない.その上最近の事情はどうであろうか.

連載 脳神経外科と分子生物学

脳血管障害の分子生物学

著者: 桐野高明

ページ範囲:P.111 - P.118

I.はじめに
 分子生物学的な研究方法は疾患の分子レベルでの解明にきわめて強力である.特にその疾患が単一遺伝子によるものであったり,ある蛋白分子によるものである場合に,すなわち少数の要素に還元できる場合に圧倒的な力を示してきた.また,分子生物学には恐るべき一般化の力がある.『細菌で見つかった現象は象でも起きる』と言われるように,重要な生物学的現象であれば,進化の早期から保存されていて生物一般に認められる場合が多い.分子生物学の分析と一般化の力のおかげで,それぞれの研究領域に特有の手法というものは無くなってしまったように思える.遺伝子操作技術の進歩により動物個体の遺伝子の一部を変化させたり消失させたりして,人工的な遺伝子疾患を作成することも可能となった.その結果,分子から細胞を越えて動物個体に至る全体に分子生物学的な手法が使えるようになったことも病態の研究にとって特筆するべきことであろう.このような技術は逆に病気のヒトに応用することも理論的には可能である.
 脳血管障害のようにきわめて臨床的で複雑な病態においても,分子生物学的研究法による新しい知見が急速に蓄積されつつある.そしてrecom-binat human tissue plasminogen activator(t-PA)の成功のように分子生物学が無ければ存在し得なかった新しい治療法も現実に現れてきている.現状においては,まだ分子生物学は分析の学であり,脳血管障害の治療に実際に役に立つ成果は多くはないが,将来においては計り知れない利益を与えてくれるものと期待される.

研究

グリオーマ細胞に対するビタミンK2の増殖抑制効果に関する研究

著者: 孫連坤 ,   吉井與志彦 ,   宮城航一 ,   石田昭彦

ページ範囲:P.119 - P.125

I.はじめに
 これまでの悪性腫瘍治療の研究で,腫瘍細胞を色々な操作によって正常細胞に分化誘導する試みは,白血病では既に臨床応用まで行っている12).しかし,その他の癌5)では実験的な研究のみであった.グリオーマ治療研究に於いても,神経成長因子10),プロスタグランジンD7),レチノイン酸8)等の分化誘導物質を使った実験報告がなされているが,臨床応用には至っていない.
 ビタミン剤を用いた分化誘導の研究は,重篤な副作用が少ない点で多く試みられている.例えば,活性型ビタミンD3(以下ビタミンD3と略)が骨髄性白血病細胞を単球/マクロファージ系細胞に分化誘導して治療効果を得たという報告1)や,乳癌9),ヒト骨肉腫細胞26)及び脳腫瘍細胞4,18)等にも,ビタミンD3の分化誘導及び腫瘍増殖抑制効果を検討した実験報告が見られる.他にビタミンB12も肺癌細胞に対して分化誘導効果を持っている21).このように,ビタミン剤の分化誘導効果や腫瘍増殖抑制効果は今後,種々のビタミン剤で検討されていくものと思われる.

頭蓋内胚腫の臨床的検討—再発および腫瘍増殖能との関連性について

著者: 國塩勝三 ,   松本健五 ,   古田知久 ,   大本堯史

ページ範囲:P.127 - P.132

I.はじめに
 頭蓋内原発germ cell tumor(GCT)は,松果体・鞍上部に好発し男児に多くみられ15),なかでもgerminomaは放射線治療が有効で比較的予後良好な疾患である2,3,9,10,17,19).一方では,遅発性放射線障害の合併,局所再発や髄液播種を認めることがあり,照射方法,化学療法との併用などの治療方針が問題となる.GCTの治療として,放射線の副作用,特に正常下垂体機能の保存のため,PE(paraplatin, etoposide)またはICE(cis-platin, etoposide, ifomide)療法を先行し,24Gyの放射線治療を行う方法が厚生省小児悪性脳腫瘍治療研究班による多施設共同研究プロトコールとして提唱されており10-16),このような治療法が定着しつつある.
 今回,当科にてこれまで経験したgerminoma30例の臨床所見,治療,再発,予後などに関して検討を行い,今後の治療指針決定のための参考資料とした.さらに,MIB-1モノクローナル抗体7)を用いた免疫組織化学的方法にて腫瘍の増殖能を検索し,再発との関連性について検討を加えた.

脳神経外科における経皮的気管切開術—9症例の経験

著者: 横田英典 ,   篠田宗次 ,   増澤紀男 ,   河野正樹 ,   加藤正哉 ,   鈴川正之

ページ範囲:P.133 - P.138

I.はじめに
 脳神経外科領域においては遷延性意識障害,それに引き続き生じる難治性肺炎などにより気管切開術を余儀なくされることが多い.一般に気管切開術は,外科的に気管を露出し直視下にカニュレイションする方法で,手術室あるいは病棟のICUにおいて施行されている.
 経皮的気管切開術(以下PDTと略す)は1985年にCiagliaらにより初めて報告された気管切開術の手術法の一つで2),報告者により若干方法が異なるものの5,14),簡便さの故に世界的に広く普及しつつあるようである.

Supratentorial Astrocytoma Grade IIの治療成績

著者: 松本健五 ,   安倍友康 ,   寺田欣矢 ,   田渕章 ,   足立吉陽 ,   水松真一郎 ,   小野恭裕 ,   田宮隆 ,   大本堯史 ,   古田知久

ページ範囲:P.139 - P.145

I.はじめに
 星細胞腫(astrocytoma)は形態学的によく分化し異型性に乏しいため,組織学的には良性グリオーマとして位置づけられている.しかし,いかによく分化し増殖速度が緩やかであっても,多くは脳実質を浸潤性に発育するため手術による全摘出が困難であり,経過中にしばしば悪性転化を来たすことなどから,臨床的には良性とは言い難い場合も多い6,12).また,発症年齢,発生部位が広範で,その生物学的性状も症例により大きく異なることなどから,治療に関しては統一された見解がないのが現状である13,17).その要因として,星細胞腫は全体としては脳腫瘍の中で比較的高頻度を占めるにも関わらず,臨床上の諸因子,組織診断などにより母集団を均一化すると,なかなか評価するに足る十分な症例数が得られないことなどが考えられる7,16)
 従来行われてきた治療は,経過観察から手術・放射線・化学療法の集学的治療まで,報告により様々であり3,6),その予後決定因子として,年齢,手術摘出度,術前performance statusがいずれの報告でもあげられている5,17,19,26).総じてWHO分類のgrade Iの場合は手術のみで経過観察,grade IIの場合,全摘出例は経過観察,残存例は放射線を追加というのが最も一般的のようであるが1,21),放射線治療の有効性に関しては,いまだ意見は大きく分かれている12,13,26)

80歳以上の高齢者破裂脳動脈瘤に対するPlatinum Coilを用いた血管内治療

著者: 杉浦康仁 ,   平松久弥 ,   宮本恒彦 ,   竹原誠也 ,   赤嶺壮一 ,   角谷和夫 ,   篠原義賢 ,   大石晴之 ,   檜前薫

ページ範囲:P.147 - P.154

I.はじめに
 近年,人口の高齢化に伴い高齢者破裂脳動脈瘤に遭遇する機会が増えてきている.しかし,80歳以上の高齢者では直達術による侵襲が高いため実際に外科的治療のなされる率は極めて少なく10),その取り扱いに苦慮しているのが現状である.一方,脳動脈瘤に対してplatinum coilを用いた血管内治療が盛んに行われ良好な結果が得られてきているが1-3,5,13,20,23),この手技は直達術と比べ侵襲が少なく全身状態不良例にも適している.われわれは,80歳以上の高齢者破裂脳動脈瘤に対してもこの血管内治療を可能な限り行ってきたが,現時点で比較的良好な成果が得られている。高齢者脳動脈瘤を対象とした血管内治療のまとまった報告はなく,今回,80歳以上の破裂脳動脈瘤に対するplatinum coilを用いた血管内治療の有用性,適応,問題点につき検討し報告する.

症例

三次元CT血管造影法(3D-CTA)にて出血源を診断し得た急性硬膜下血腫の1例

著者: 木下良正 ,   町多賀雄 ,   佐藤義男 ,   矢羽田時良 ,   三宅悦夫

ページ範囲:P.157 - P.161

I.はじめに
 三次元CT血管造影法(3D-CTA)は従来の脳血管撮影に比してわずかな侵襲で頭蓋内血管を描出することができ,特に.未破裂動脈瘤の検出や狭窄性病変の検索に威力を発揮している1).最近のヘリカルCTの発達,コンピュータの発達によりごく短時間に良好な3次元画像の再構成が可能になり,頭蓋内血管障害の診断に有用で脳血管撮影とともに重要な位置になりつつあるのが現状である1).特に緊急を要する患者の診断において出血源の検索では簡便,短時間に頭蓋内動脈および静脈を描出できる点で不可欠な検査法となりうると考えられる10).今回,われわれは高齢者の急性硬膜下血腫の出血源の検索にこの3D-CTAを使用し,本方法が頭部外傷患者の緊急診療に有用であったので症例報告する.

著明な頭蓋内・外伸展を示した新生児頭蓋筋膜炎の1例

著者: 野口修 ,   黒岩雅哉 ,   木暮修治 ,   河野徳雄 ,   吉田カツ江 ,   坐間朗 ,   田村勝

ページ範囲:P.163 - P.169

I.はじめに
 1980年LauerとEnzingerは乳児の頭蓋に好発する良性腫瘍性病変をcranial fasciitis of child-hood(以後CFCと記す)としてnodular fasciitis(以後NFと記す)から分離し,新たな疾患概念として提唱した14).これは成人に好発するNFと類似する線維芽細胞増殖が主体でその中に炎症細胞浸潤などを認める組織像を呈するが,頭蓋骨骨膜や頭皮深部筋層より発生し,急速に増大する稀な疾患である.
 今回われわれは出生時より頭部に巨大な腫瘤を認め,硬膜及び硬膜下腔まで伸展するCFCの1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

ガンマナイフ治療が奏功した顔面神経鞘腫の2例

著者: 長谷川俊典 ,   小林達也 ,   木田義久 ,   田中孝幸 ,   吉田和雄 ,   大須賀浩二

ページ範囲:P.171 - P.175

I.はじめに
 神経鞘腫は全脳腫瘍のうち約8%を占めるが,大多数が聴神経に発生し,顔面神経に発生することは稀である3,5,9,13,14).従来は顔面神経鞘腫に対し外科的治療が行われてきたが,術後重度の顔面神経麻痺を来すことが多かった.
 今回われわれは顔面神経鞘腫2例に対しガンマナイフ治療を行い良好な結果を得たので報告する.

PICA Communicating Arteryに発生した多発性動脈瘤の1例

著者: 藤原和則 ,   藺藤順 ,   金山重明

ページ範囲:P.177 - P.182

I.はじめに
 後下小脳動脈(PICA)の形態はバリエーションに富み,全体の32%で一側のPICAの低形成が,また4%では欠損が見られる1).このような場合,一側のPICAからvermisを越えてarterial bridgeを形成し,communicating vesselとして対側へ還流していることが珍しくない.Hlavinら5)は,そのarterial bridgeに発生した動脈瘤を“aneurysmof the PICA communicating artery”と呼び,初めて報告している.今回われわれが経験した1例は同血管に発生した動脈瘤としては3例目であるが,多発例としては初めての報告であり,興味深いと思われたので報告する.

経皮的血管形成術中の完全閉塞に対してステントを用いて再開通しえた頸部内頸動脈狭窄症の1例

著者: 松本茂男 ,   吉田真三 ,   中澤和智 ,   姜裕 ,   織田祥史 ,   川本未知

ページ範囲:P.183 - P.187

I.はじめに
 頸部内頸動脈狭窄症に対する頸動脈血栓内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)の有効性と安全性はすでに確立されているといってよいが,狭窄部位が高位に及んだり,全身状態が不良な症例など外科的処置が困難な場合は経皮的血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty;PTA)が選択される.われわれはPTA操作中にかえって内膜剥離による完全閉塞を来たしたため,ステント留置(stenting)によって再開通しえた1例を経験した.症例を呈示し,治療上の問題点について検討したので報告する.

内頸動脈による視神経圧迫—Decompressionにて視野障害改善の得られた1症例

著者: 内野正文 ,   根本匡章 ,   大塚隆嗣 ,   倉光徹 ,   磯部裕

ページ範囲:P.189 - P.194

I.はじめに
 視力低下や視野欠損を主症状とする視神経障害の原因としては,下垂体腫瘍を初めとする視交叉近傍の腫瘍,動脈瘤などが代表的である.その中に稀ではあるが動脈硬化により蛇行拡張した内頸動脈が視神経を直接圧迫し視神経障害を来たすことも知られている.しかし,従来この診断は容易ではない上,治療法も未だに確立したものがなく,したがって手術成績も良好ではなかった.われわれはMRIや脳血管写に工夫を加えこれを診断し,視神経管開放術を施行,視野障害改善の得られた1症例を経験したので報告する.

ケタミン注入療法の著効した脊髄・脊椎領域における難治性疼痛の2症例

著者: 松田和郎 ,   松村明 ,   榎本貴夫 ,   能勢忠男 ,   須賀昭彦 ,   宮部雅幸 ,   豊岡秀訓

ページ範囲:P.195 - P.200

I.はじめに
 ペインクリニックの領域において,近年ではN-methyl-D-aspartate受容体拮抗薬であるケタミンの神経因性の難治性疼痛に対する有効性が認識され始めている.今回われわれは,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服や局所神経ブロックが無効あるいは効果不十分であった脊髄・脊椎領域疾患の2症例を経験し,これらの難治性疼痛に対してケタミン注入療法を施行したところ著効をみた.これらの症例について疼痛の病態およびケタミンの作用機序について考察し報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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