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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科27巻3号

1999年03月発行

雑誌目次

脳神経外科と駅伝

著者: 長尾省吾

ページ範囲:P.209 - P.210

 1999年年始,いよいよ1900年代最後の年が明けた.前世紀末には,フランスあたりでは,耽美,退廃のデカダンスが時代を象徴していたようだが,今の日本は度重なる政治,経済の停滞,失速のため,不安と疲弊の中,皆すべて自信をなくし,委縮,閉居しているように感じられる.今般の経済力低下の影響は医療社会においても例外ではなく,既に本扉にも諸先生が書かれているように我々の意識変革のもと,あらゆる医療機関で抜本的見直し,整理,統合が行われようとしている.近い話,私共の病院運営委員会においては,病床稼動率,在院日数,査定率,院外処方箋率,院外よりの紹介率,医療費などが俎上にのせられ,各科吟味され,目標に達しない診療科は早急な改善が要求される.(そんなことは当たり前との声が聞こえるが…….少なくとも2,3年前はもっと緩やかであった.)また,私の在籍する国立大学においても,近未来に独立行政法人の導入が予想される.そのような医療社会構造になると,大学病院は教育,研究,診療をしておれば良いという従来の概念で運営していたのでは,社会に取り残され,やがて極めて困難な状況に至ると思われる.とにかく今社会は変わりつつある.病院は社会,患者さんの要求に応じたものに変革しなければ生き残れない.
 のっけから暗い話になってしまったが,今年の年末年始はゆっくりとテレビでスポーツ観戦をさせて頂いた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

もやもや病に対する血行再建術

著者: 宝金清博 ,   中川翼 ,   上山博康 ,   黒田敏 ,   石川達哉 ,   高橋明弘 ,   阿部弘

ページ範囲:P.211 - P.222

I.はじめに
 もやもや病に対する血行再建術には,多くの変法があり,それぞれに利点と欠点を有している1-6,8,9,11,14-20,23-27,30-32).基本的には,有効な新生血管を発生しやすい状況を人為的にもたらすのが,本手術の根本である10,25,27).したがって,どのような組織を用いて,どのような操作を加えるかにより,術式が異なる.北海道大学脳神経外科においては,過去20年間に比較的一定の術式が行われてきた4,28,29).しかし,それですら,細部を見ると,この間,主な術者も変わり,少しずつ変化してきている.大まかに分けると,間接的血行再建を主としていた時期,直接的血行再建を主としていた時期を経て,現在の複合法へ続いている.
 経年的な変遷は,経験に基づいたものであり,大きな意味がある.しかし,本論文で紹介するのは,現在,北海道大学脳神経外科において,主に小児例に対して行っている,浅側頭動脈と中大脳動脈を直接的に吻合する直接的血行再建術と,硬膜,血管,筋肉,骨膜を脳に付着させることによる間接的血行再建術を併用した,いわゆる複合血行再建術である4,8,9).様々に行われているもやもや病に対する外科的治療の試みの中で,本術式は最も複雑かつ徹底したものである.したがって,この術式が極端にinvasiveであるという批判や,あるいは,特殊な技術的経験が必要であるという意見もあり,その評価に関しては,意見の分かれるところである27).そうした問題に関する議論や特に間接的血行再建の理論的な側面は,本誌においても,松島らが,実に詳細に検討しており,参考にされたい25,27).本論文では,この複合血行再建術の外科解剖的な根拠と技術的な側面に限定して,本術式の詳細に関して述べたい.

研究

Micro-Pressure-Suction-Irrigation Systemを併用した経鼻的下垂体腺腫摘出術

著者: 阿部琢巳 ,   松本清 ,   嶋津基彦 ,   神保洋之 ,   須永茂樹 ,   土肥謙二 ,   佐々木健 ,   泉山仁 ,   大気誠道 ,   藤谷哲

ページ範囲:P.225 - P.231

I.はじめに
 Micro-pressure-suction-irrigation-system(MPSIS,Waldemar Link Co.,Hamburg,Germany)は,1982年ドイツ,ハンブルグ大学のLuedeckeらにより紹介された下垂体疾患専用の手術器具である12).Luedeckeらは,現在までに約2200例の下垂体疾患,特にその経鼻的腫瘍摘出術にMPSISを使用し,良好な結果を得ている2,3,8-10,13-18).しかし,このMPSISは現時点ではドイツの数カ所の施設で使用されているに過ぎない.今回,われわれは,この器具に改良を加え(金属タンク内に装着する日本において使用可能なinfusion bagが存在しなかったので当科で開発した.また,airpressure tubeに装着されたレギュレーターの形状を改良した),日本での使用を可能にした.1997年8月よりこのMPSISを用いて経鼻的下垂体腺腫摘出術を施行し,腫瘍摘出のみならず正常下垂体機能の温存に関しても良好な結果を得ているのでこのシステムの有用性とともに報告する.

症例

三叉神経障害で発症した静脈血管腫による小脳出血の1例

著者: 林田修 ,   山下哲男 ,   長光勉 ,   安田浩章 ,   亀井敏昭

ページ範囲:P.233 - P.236

I.はじめに
 静脈血管腫のnatural history特に出血率についての報告は8%から43%と幅はあるものの概して高く2,4,7),しかも後頭蓋窩にあるとその率が上昇するとの報告が多い3,5,6,8)
 しかしながら1991年Garner等による静脈血管腫のnatural historyに関する100例のシリーズでの報告では出血率は0.22%/年と低率で,しかも後頭蓋窩に存在することでその出血率は増加しないと結論づけており,議論のあるところである1)

くも膜下出血で発症した頭蓋頸椎移行部硬膜動静脈奇形の2例

著者: 英賢一郎 ,   森川篤憲 ,   田代晴彦 ,   山中学

ページ範囲:P.237 - P.241

I.はじめに
 硬膜動静脈奇形は下部頸椎から上部腰椎に好発し,進行または動揺する脊髄症状を呈することが特徴で,出血で発症することは極めて稀である.また頸椎に存在することも稀である6,10).しかし高位頸椎から頭蓋頸椎移行部にくも膜下出血の原因となる硬膜動静脈奇形(または硬膜動静脈シャント)が存在することがこれまで文献上数例報告されている5).今回この稀な疾患を続けて2例経験し,治療に苦労したため若干の文献的考察を加えて報告する.

乳児頭蓋内Primitive Neuroectodermal Tumorの1例

著者: 吉里公夫 ,   吉岡進 ,   玉井友治 ,   辻浩一 ,   西尾俊嗣

ページ範囲:P.243 - P.248

I.はじめに
 Primitive neuroectodermal tumor(PNET)は1973年にHartとEarlにより若年者の大脳に発生した未分化な神経外胚葉細胞からなる腫瘍に対してはじめて使用された用語である11).1983年にRorkeはこの“PNET”という用語をテント上腫瘍のみでなく,その局在や部分的な腫瘍細胞の分化方向などに関係なく未分化な腫瘍細胞からなる種種の腫瘍すべてに対して使用することを提唱した26).さらに1986年,Dehnerは“central”と“pe-ripheral”PNETという概念を提唱しているが4),後者のperipheral PNETには後腹膜などに発生するneuroblastomaやEwing肉腫などが含まれている.このように“PNET”という用語は中枢神経系のみでなく末梢神経系の腫瘍などをも含む包括的な概念となり,小児腫瘍を診断し分類する上で混乱を招く用語となった.1993年のWHO分類や1995年の日本における脳腫瘍取扱い規約では,PNETを小脳以外に発生した組織学的に髄芽腫と類似した腫瘍と規定しているが,いずれのsmall-cell embryonal tumorも臨床的には多少の違いはあるが悪性の経過をとることが多く,小児腫瘍の中では重要な位置を占めるものである.ここでは頭蓋内に主座をおく“PNET”の乳児例を報告し,その臨床上および組織学的な問題点につき考察する.

塞栓術中に痙攣発作と一過性皮質盲を来たした小脳AVMの1例—脳血管内手術に伴う出血性合併症とまぎらわしかった症候性一過性造影剤漏出

著者: 中居康展 ,   兵頭明夫 ,   岡崎匡雄 ,   柴田靖 ,   松丸祐司 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.249 - P.253

I.はじめに
 脳血管造影に伴う皮質盲は非イオン性造影剤が使用されるようになって極めて稀な合併症となった.今回われわれは,脳血管内手術中に出血性合併症と判断が困難であった痙攣発作と一過性皮質盲を呈した小脳AVMの1例を経験した.本例における特徴的な画像所見を含め,若干の文献的考察を加えて報告する.

外来透析療法中に瘤内塞栓術を施行した未破裂中大脳動脈瘤の1例

著者: 中嶋剛 ,   江面正幸 ,   高橋明 ,   吉本高志

ページ範囲:P.255 - P.259

I.はじめに
 1991年,脳動脈瘤の治療にGugliemi detach-able coil(GDC)が用いられるようになって以来4,5),開頭術では治療の適応外とされてきた症例に対しても,瘤内塞栓術により積極的に治療を行うことが可能となってきている.今回われわれは,透析療法を受けている慢性腎不全の患者に対して,GDCを用いた瘤内塞栓術を施行した1例を経験したので報告する.

Ruptureを繰り返したDermoid Cystの1例

著者: 隅田昌之 ,   田口治義 ,   黒木一彦

ページ範囲:P.261 - P.266

I.はじめに
 頭蓋内dermoidはMR時代の今日でも稀な腫瘍である.時に髄液腔にruptureして様々な症状を呈することが知られているが,その正確な予後は知られていない.今回は5年間経過観察している間にruptureを繰り返し,痙攣,水頭症を併発した稀な1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

組織型の変化を生じ,V-P Shuntを介して腹腔内転移を来たしたGerminomaの1例

著者: 内野正文 ,   根本匡章 ,   大塚隆嗣 ,   清木義勝 ,   柴田家門

ページ範囲:P.269 - P.274

I.はじめに
 松果体腫瘍は水頭症を合併することが多く,通常最初にV-P shunt術などの短絡術が行われるのが一般的であった.そのためシャントチューブを経由した松果体腫瘍の神経管外転移が増加する傾向が見られている.
 今回われわれは松果体部germinomaが,シャントチューブを介して腹腔内転移を来たし,その際組織学的変化を生じたと思われる希な症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

興味ある画像所見を示した頭蓋骨線維性骨異形成の1例

著者: 欅篤 ,   鍋島祥男 ,   別所啓伸 ,   宇治敬浩 ,   樋口一志 ,   佐藤岳史 ,   森本雅徳 ,   森惟明

ページ範囲:P.275 - P.279

I.はじめに
 線維性骨異形成(fibrous dysplasia,以下FDと略)は慢性的に骨及び線維性組織が異常増殖を起こし,骨皮質の萎縮と骨髄の線維性の置換を来たす原因不明の骨形成異常である.今回,私達は51歳男性にみられた前額部と前頭部のFDにおいて,2ヵ所の病変部が神経放射線学的検査上異なる興味ある所見を呈したので報告する.

橋原発Medulloblastomaの1例

著者: 永井睦 ,   中山荘太郎 ,   楠浩 ,   佐々木司 ,   山田量三

ページ範囲:P.281 - P.285

I.はじめに
 橋発生のmedulloblastomaは稀といわれている.本邦の脳腫瘍統計ではmedulloblastomaのうち橋もしくは延髄発生のものは0.6%である9).世界的にみると,橋発生のmedulloblastomaに関する報告は渉猟し得た限りでは4例を一括してまとめている1報告だけである(組織診断はprimi-tive neuroectodermal tumor(PNET)であるが)1).本邦の発生率から推察すると,ある程度の報告例は期待されるのだが実際に症例報告されている例は殆どない.今回われわれは報告例が少ない稀な橋原発のmedulloblastomaを経験したので若干の文献的考察を加え,報告する.

報告記

第11回国際生体磁気学会報告

著者: 中里信和

ページ範囲:P.267 - P.268

 第11回国際生体磁気学会(11th InternationalConference on Biomagnetism)は,1998年8月28日から9月2日の6日間にわたり仙台国際センターで開催された.本学会は生体磁気に関する理工系と医学生理学系の研究者が一堂に会するユニークな会として発展した.共同会長を東京電機大学小谷誠学長と,東北大学脳神経外科の吉本高志教授がつとめ,大会運営は東北大学脳神経外科医局スタッフがあたった.脳神経外科関連のトピックスとしては,脳磁図,経皮磁気刺激,機能的MRIなどが含まれるが,計測装置や信号源解析モデルも重要なテーマである.
 開会直前に台風接近と洪水というハプニングがあったが,参加者総数はこれまで最多の500名を超える規模であった.活発な討論と和やかなソーシャルプログラムで,無事大会を終了させることができた.

歴史探訪

腦はなぜ腦と書くのか

著者: 朝倉哲彦

ページ範囲:P.287 - P.290

I.はじめに
 われわれ脳神経外科医の診療や研究の対象である腦はなぜ腦と書くのだろうか.昔からそう決まっていると言えばそれまでの事だが考察を加えてみる価値があると思う.
 腦は脳とも書くが,その成分は三つに分けられる.月と巛またはツ,それに囱または凶である.このようにそれぞれの成分が意味を持っていてその組み合わせが腦または脳を表わしているのだ.

読者からの手紙

グリオブラストーマの在宅末期医療

著者: 田島正孝

ページ範囲:P.291 - P.291

 悪性腫瘍の在宅末期医療の症例は増えつつあり,平成10年の日本脳神経外科学会総会での演題区分でも在宅医療が取り上げられている.グリオブラストーマの2症例の在宅末期医療を行ったので今回は病院の脳神経外科医がどのように対応したらいいのかについて述べたい.
 2症例とも,在宅医療中に脳ヘルニアによる患側の動眼神経麻痺とチェーンストーク呼吸を生じた.一人は自宅でもう一人は病院で死亡した.私は在宅医療を始める場合には,症状が悪化した場合に最後まで自宅でするのか,病院に入院かをあらかじめ決めておくようにしている.しかし,肺炎や消化管出血を生じた場合は積極的に入院治療を勧めている.病院の脳神経外科医は24時間いつでも再入院できるような体制を作るべきである.2例とも脳圧亢進による脳ヘルニアの呼吸麻痺で死亡した.病院の脳神経外科医は脳ヘルニアの病態について在宅医療を行う医師や介護人に対し,十分に時間をかけて丁寧に説明すべきである.在宅医療を行う医師は脳腫瘍をほとんど診たことがないからである.またてんかんの発作についても,主治医や介護人に自宅での処置の方法も含め十分に説明する必要がある1).けいれん発作は抗痙攣剤を内服していても,何時起こっても不思議でないと説明し,発作が起こった時には,気道の確保を行い,割り箸にガーゼを巻いたような物は使用しないように説明すべきである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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