国立大学もいよいよ法人化の方針が固められた.以前からくすぶっていた大学附属病院の法人化や民間移管の話も再燃しており病院の改革が迫られている.
戦後の日本は先人の努力により未曾有の復興と経済的発展を遂げた.しかし最近,勢いに乗り実質を伴わないで膨らんだ部分がついに破綻してしまった.気が付いてみると,先人の汗の結晶である蓄えも使い果たし,資源のない日本が欧米の先進国とまがりなりにも肩を並べる唯一の原動力であった日本人の誠実さと勤勉さもいつのまにか失われていた.幾ら頑張ってもどうにもならない空しさと,程々やっていても食べていけるという無気力を生む2大要素が深く浸透していた.日本の医学も経済と同じ道を歩んできたといえる.戦後,瞬く間に西欧に追いつき,今やわが国では殆どの全ての人が,世界でトップクラスの医療を受けることが可能になってきている.しかし,発展してきた現代の先進医療は以前と比較にならないほど費用と人手がかかる.当然,経済破綻の影響を受けることになり今や風雨にさらされている.更に悪いことには,医療の世界でも先人が示してくれた誠実さと勤勉さが失われ医療の本質が崩れ始めている.筆者の知る某大学附属病院では,一日千秋の思いで入院を待っている患者さんがたくさんあるにもかかわらず,過去十年間,常に70から80のベットが使用されないで空いたままになっている.手術場の看護婦さんは手術が進行中にもかかわらず4時半になるとさっさと帰ってしまう.後は看護婦の器械だし介助のないまま医師だけで手術をすることになる.重症患者や緊急手術があっても夕方5時以降や休日祭日には技師さんがレントゲン写真を撮りに来てくれない.例外的なこととはいえ’最近,ある大学附属病院では患者さんを取り違えた手術がなされた−日本の医療の中心的役割を果たすべき大学附属病院で,少なくとも先進国ではあり得ないことが起こっている.
雑誌目次
Neurological Surgery 脳神経外科27巻4号
1999年04月発行
雑誌目次
扉
大学附属病院の行方
著者: 生塩之敬
ページ範囲:P.300 - P.301
総説
難治性てんかんの外科治療—実験てんかんからのアプローチ
著者: 田中達也 , 橋詰清隆 , 中井啓文 , 国本雅之 , 高野勝信 , 程塚明
ページ範囲:P.303 - P.316
I.はじめに
てんかんは,ギリシャ・ローマ時代から記載のある古い疾病であるが,近代的な抗てんかん薬の治療により,多くの症例で発作のコントロールが得られるようになってきた.しかし,てんかん患者の10-15%を占めている難治性のてんかんは,未だに治療法が確立できない難病で,長期にわたって繰り返す発作により,知能障害や性格変化を来たし,悲惨なquality of lifeに陥ってしまうことが多い.このため,難治性てんかんの外科治療が注目されるようになってきた.Engel Jr.の国際統計によると6),難治性てんかん症例の手術による発作消失率は,側頭葉内側型てんかんでは約7割,側頭葉外のてんかん手術では約5割と,比較的良い成績が報告されている.しかし,われわれが経験した手術症例の中にも,術後に発作改善が得られても依然として発作が続いている難治例も決して少なくない40,42,47-49).
少量の興奮性アミノ酸を実験動物の脳内に局所注入すると,てんかん発作が誘発されることが報告されている1,3,7,11,12,15,16,18,21,24,25,29,31,33,35,39,41,43,44,53,55,58,59).さらに,中華料理を食べた後に,Chinese restaurant syndromeが起こること26)や貝毒を持つムール貝を食べた後にけいれん発作が起こること7)などが報告されてから,臨床においても興奮性アミノ酸が注目されるようになった.われわれは,微量のカイニン酸を実験動物の扁桃核内に局注することにより,難治性複雑部分発作のモデルが34,38),大脳皮質の感覚運動領野内に微量注入すると皮質焦点発作のモデルが56)できることを報告してきた.これらのモデルを用いて,難治性てんかんの機序の解明及びてんかん手術の有効性について基礎的なアプローチを行ってきたので,これまでに得られた結果を中心に報告する.
研究
腰仙部手術における馬尾神経機能温存のための術中モニタリング
著者: 畑山徹 , 関谷徹治 , 大熊洋揮 , 嶋村則人 , 鈴木重晴 , 四ッ柳高敏 , 長利伸一
ページ範囲:P.317 - P.322
I.はじめに
潜在性二分脊椎に伴う腰仙部脂肪腫の摘出術や,脊髄披裂に対する修復術などにおいては,機能が残存している神経組織をいかに損傷させることなく手術を行うかが最も重要な問題となる.そのため,術野において電気生理学的に神経組織を同定する方法が,これまでにも数多く報告されてきた1,2,4-8,10).しかし,多くの方法を併用した場合,確かにモニタリングの精度は向上するが,それに伴って操作が煩雑となるため,必要かつ十分な情報を得るべくモニタリング方法を取捨選択する必要性が生じてくる.また,脊髄披裂に際しては,感染予防のため緊急手術となることが少なくないため1),実施にあたっての即応性も求められる.そこでわれわれは,下肢の運動筋ならびに肛門括約筋からの誘発筋電図記録を中心に行い,腰仙部手術において実用的となるモニタリング方法について検討した.
難治性慢性硬膜下血腫に対するOmmaya CSF Reservoirの留置治療
著者: 佐藤雅春 , 岩月幸一 , 秋山智洋 , 正名好之 , 吉峰俊樹 , 早川徹
ページ範囲:P.323 - P.328
I.はじめに
慢性硬膜下血腫の術後再発には少なからず遭遇するが,再発症例のなかでも特に背景に基礎疾患として脳萎縮などがあり血腫腔の縮小に長期間を要すると考えられる症例や,全身的な疾患が存在する症例などは治療に難渋することが多い.われわれはこのような難治症例に対して,OmmayaCSF reservoirを用いて治療を行い,良好な結果を得たので報告する.
症例
肝癌の硬膜転移により発症した慢性硬膜下血腫に急性硬膜外血腫を合併した1例
著者: 遠藤賢 , 浜野正昭 , 渡辺邦彦 , 若井晋
ページ範囲:P.331 - P.334
I.はじめに
悪性腫瘍の硬膜転移による非外傷性頭蓋内血腫の多くは硬膜下血腫で,硬膜外血腫の発生は非常に稀であり,これまでに文献上2例2,16)が報告されているにすぎない.著者らは肝癌の治療中に硬膜転移巣が出血源と思われる非外傷性硬膜下血腫に急性硬膜外血腫を合併した極めて稀な1例を経験した.このような合併血腫症例の報告は文献を渉猟し得た限りでは見あたらなかったので血腫の発生病態について検討した結果を報告する.
脳実質,脳室内に多発性嚢胞を来たしたNeurocysticercosisの1例
著者: 波多野武人 , 塚原徹也 , 荒木加寿美 , 川上理 , 後藤和生 , 岡本英一
ページ範囲:P.335 - P.339
I.はじめに
脳有鈎嚢虫症は,本邦では非常に稀な疾患である.今回,われわれは第四脳室内嚢胞により再増悪を来たした脳有鈎嚢虫症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
Supreme Anterior Communicating Arteryを合併した両側末梢性前大脳動脈瘤の1例
著者: 川俣光 , 鈴木泰篤 , 松本浩明 , 小澤宏史 , 松本清
ページ範囲:P.341 - P.346
I.はじめに
前交通動脈より末梢に発生する脳動脈瘤は末梢性前大脳動脈瘤(distal anterior cerebral arteryaneurysm,以下DACA)とよばれ,azygos ante-rior cerebral arteryをはじめとする前大脳動脈の破格を伴うことが多い10).また脳動脈瘤の発生原因を考察する場合にしばしば取り上げられる特異な脳動脈瘤でもある13,15).一方,多発性脳動脈瘤のなかで両側対称性に存在するものに対し,Bigelowらはsymmetrical bilateral intracranialaneurysmという範疇を提唱している3).今回われわれは,supreme anterior communicating artery(以下SACom)15)を伴いpericallosal arteryとcal-losomarginal artery分岐部に発生した両側対称性の末梢性前大脳動脈瘤(bilateral distal anteriorcerebral artery aneurysm,以下BDACA)を経験した.DACAのなかでもBDACAは稀と思われ,文献的考察を加えて報告する.
転移性頭蓋骨腫瘍の3例
著者: 新田武弘 , 片岡大治 , 平井収
ページ範囲:P.347 - P.352
I.はじめに
近年の悪性腫瘍に対する治療技術の進歩に伴い転移性骨腫瘍は増加しているが,脊椎,肋骨,長管骨,骨盤などに比べると頭蓋骨転移の頻度は低い16).常にその存在を意識しておけば診断は困難ではないが,原発巣より転移巣が先に見つかることも多いので10,13,15),全体の診断治療計画をたてるのは容易ではない.著者らは肺,肝臓,腎臓を原発とした転移性頭蓋骨腫瘍の3例を経験し,診断治療上の問題について検討を加える.
開頭血腫除去を行った脳幹出血3例の経験
著者: 雄山博文 , 池田公 , 井上繁雄 , 飯塚宏 , 渋谷正人
ページ範囲:P.353 - P.358
I.はじめに
脳幹出血といえども,血腫除去により症状を改善させうることはよく知られているが,症例により改善度に差があり,その手術効果,適応についての疑問が存在することも事実である.われわれは3例の脳幹出血の直達手術を行い,うち1例で症状の著明な改善を認めた.この3例をもとに,手術時期,アプローチ,手術適応について検討したので,文献的考察も含め報告する.
脳室内出血を来たした腎細胞癌の脈絡叢転移の1例
著者: 岩月幸一 , 佐藤雅春 , 田口潤智 , 福井辰成 , 清原久和 , 吉峰俊樹 , 早川徹
ページ範囲:P.359 - P.363
I.はじめに
転移性脳腫瘍のうちで脈絡叢への孤立性転移は非常に稀である6).われわれは,2度に亘る脳室内出血の原因が,側脳室三角部への腎細胞癌の孤立性脈絡叢転移であることが手術により確認された症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
鎖骨下動脈の解離型再狭窄に対してステント留置が有効であった1例
著者: 小林英一 , 嶋崎勝典 , 下枝宣史 , 平井伸治 , 山浦晶
ページ範囲:P.365 - P.369
I.はじめに
鎖骨下動脈狭窄症は,時にsubclavian stealsyndromeを誘発する特異な病変であり,近年の血管内治療の進歩と相俟って,percutaneous trans-luminal angioplasty(PTA)による治療が積極的に行われている.しかし,症例の蓄積とともにその合併症や適応の限界も明らかになってきており3,6,8,10),特に動脈壁解離は急性閉塞の原因として重要視されている.今回われわれは,左鎖骨下動脈狭窄症に対して行ったPTAによる拡張の後5ヵ月にて動脈壁解離を伴った再狭窄が進行し,ステント留置により良好な開通をみた1例を経験した.短期の観察であるがPTAの限界とステントの有効性を示すものとして,若干の文献的考察を加えここに報告する.
橋-延髄部巨大海綿状血管腫の1手術例
著者: 菅原淳 , 大間々真一 , 鈴木倫保 , 土肥守 , 佐藤直也 , 三浦一之 , 黒田清司 , 小川彰
ページ範囲:P.371 - P.375
I.はじめに
脳幹部は解剖学的生理学的に重要な部位であり,かつてはno man's landと言われていた.近年の顕微鏡手技の向上とMRIなどの診断機器,術中モニタリングの発達により,最近では,脳幹部へ直接アプローチする手術例が多く報告されるようになってきた.しかし,脳幹部海綿状血管腫は,自然経過が明確でないため,治療法に関しては,未だ議論の分かれるところである.今回,われわれは,術中モニタリングを併用し,ほぼ全摘し得た橋-延髄移行部巨大海綿状血管腫の1手術例を経験したので,その手術適応,手術方法などについての考察を加え報告する.
初老期に発症した大脳半球間裂くも膜嚢胞の1例
著者: 苫米地正之 , 高野勝信 , 鈴木望 , 代田剛
ページ範囲:P.377 - P.381
I.はじめに
くも膜嚢胞は中頭蓋窩や後頭蓋窩に多いが,大脳半球間裂に生じることはまれである4,7).われわれは初老期に症状を発症した大脳半球間裂くも膜嚢胞を経験したので文献的考察を加えて報告する.
Lymphoplasmacyte-rich Meningiomaの3例
著者: 米山琢 , 糟谷英俊 , 久保長生 , 堀智勝
ページ範囲:P.383 - P.389
I.はじめに
meningiomaの数ある組織分類の中でlympho-plasmacyteの著明な浸潤を特徴とするlympho-plasmacyte-rich meningiomaがある.一般的にmeningiomaの組織像には炎症細胞の浸潤が認められることもあるが,それらと比較して広範囲にリンパ球や形質細胞の浸潤がみられ,臨床上polyclonal gammopathyやanemiaを伴う8).
今回われわれは,CT及びMRI上腫瘍の大きさに比し広範囲な脳浮腫を伴い,硝酸亜鉛混濁試験(ZTT)値の上昇が認められるテント上の髄膜腫を3例経験した.手術後の病理組織学的所見より,lymphoplasmacyte-rich meningiomaと診断した.
基本情報

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