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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科27巻4号

1999年04月発行

文献概要

大学附属病院の行方

著者: 生塩之敬1

所属機関: 1熊本大学脳神経外科

ページ範囲:P.300 - P.301

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 国立大学もいよいよ法人化の方針が固められた.以前からくすぶっていた大学附属病院の法人化や民間移管の話も再燃しており病院の改革が迫られている.
 戦後の日本は先人の努力により未曾有の復興と経済的発展を遂げた.しかし最近,勢いに乗り実質を伴わないで膨らんだ部分がついに破綻してしまった.気が付いてみると,先人の汗の結晶である蓄えも使い果たし,資源のない日本が欧米の先進国とまがりなりにも肩を並べる唯一の原動力であった日本人の誠実さと勤勉さもいつのまにか失われていた.幾ら頑張ってもどうにもならない空しさと,程々やっていても食べていけるという無気力を生む2大要素が深く浸透していた.日本の医学も経済と同じ道を歩んできたといえる.戦後,瞬く間に西欧に追いつき,今やわが国では殆どの全ての人が,世界でトップクラスの医療を受けることが可能になってきている.しかし,発展してきた現代の先進医療は以前と比較にならないほど費用と人手がかかる.当然,経済破綻の影響を受けることになり今や風雨にさらされている.更に悪いことには,医療の世界でも先人が示してくれた誠実さと勤勉さが失われ医療の本質が崩れ始めている.筆者の知る某大学附属病院では,一日千秋の思いで入院を待っている患者さんがたくさんあるにもかかわらず,過去十年間,常に70から80のベットが使用されないで空いたままになっている.手術場の看護婦さんは手術が進行中にもかかわらず4時半になるとさっさと帰ってしまう.後は看護婦の器械だし介助のないまま医師だけで手術をすることになる.重症患者や緊急手術があっても夕方5時以降や休日祭日には技師さんがレントゲン写真を撮りに来てくれない.例外的なこととはいえ’最近,ある大学附属病院では患者さんを取り違えた手術がなされた−日本の医療の中心的役割を果たすべき大学附属病院で,少なくとも先進国ではあり得ないことが起こっている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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