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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科27巻5号

1999年05月発行

雑誌目次

アカウンタビリティ

著者: 榊三郎

ページ範囲:P.404 - P.405

 先日,深部脳腫瘍の手術に手術用ナビゲーターの力を借り,それなりに満足の行く手術を行うことが出来た.少し前まで,手術用ナビゲーターなど私には不用であり,術者は当然のことながら手術のオリエンテーションは頭の中にしっかりと叩きこまれているもので,術者の摂子の先には目がついていると豪語していた.それが何時のまにかナビゲーターを重宝している自分に可笑しくなった.
 振返ってみると,私の脳神経外科医としての生活もずいぶん長くなった.優れた手術手技を備えた脳神経外科医の道をめざし努力してきたつもりだ。今日の脳神経外科手術手技の発展は目を見張るものがあるが,それは一朝一夕に成ったものではなく,その間には幾つかの節目があったように思う.若い頃,手術の勉強のために幾つもの手術書を読みあさった.しかし,当時の手術書は図説が貧弱で解剖書の助けを借りても,なかなか手術の手順を立体的に身体で憶えることは難しく,勢い先輩の手術をみて,手術のコツを盗まなければならなかった.今のようにテレビモニターもない時代であり,余程きれいな手術でなければ,実際の手術における解剖学を理解することは困難であった.丁度その頃,Kempe先生のOperative Neurosurgeryが出版され,まさに目からウロコが落ちたような思いで,刻々と変る術野のリアルな図をみながら説明文を読み,自信を深めた.すぐれた外科医の手術記録には必ず正確な術野が図示されているのを思いだし,これは外科医の修練の秘訣であると肝に銘じた.この事は,今日においても変りないものだと思う.その後,テクノロジーの開発に伴い,数知れない精細な診断,治療機器が導入され,手術もその恩恵に与る事となった.鮮明で明るい手術用マイクロスコープ,ファインな手術器具も安全な手術には欠かすことができない.ビデオの普及で名手の手術を何度でも見ることができる.名人芸としての手術は勿論残るとしても,脳外科医の一般的な手術レベルの向上には多大な貢献をしたと言えよう.ナビゲーターを用いて三次元の像によるオリエンテーションのもとでの手術が日常茶飯事となり,内視鏡や術中の画像診断の力を借りての手術など,安全かつ完全な手術が比較的容易となった.

総説

三叉神経鞘腫

著者: 吉田一成 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.407 - P.416

I.はじめに
 三叉神経鞘腫(trigeminal neurinoma:TN)は,発生母地である三叉神経の解剖学特徴により,その発育・進展様式は極めて多彩であり,様々な臨床像を呈する.摘出術が治療の第一選択であるが,発育様式の多様性ゆえに,外科的治療戦略は複雑である.本稿では,これまでに報告された約400例1,21,23-43,45-76,78-92,94)と自験例を解析し,三叉神経鞘腫(TN)の臨床像と治療戦略を解説する.

研究

コラゲナーゼ脳内出血モデルにおける局所脳血流量の検討

著者: 米澤泰司 ,   橋本宏之 ,   榊寿右

ページ範囲:P.419 - P.425

I.はじめに
 現在においても脳内出血に関しては未知な部分が多く残されており,その治療,特に急性期,慢性期を問わず手術適応に関しては依然議論の多いところである.133Xe,SPECT,及びPETを用いた臨床例での検討によると,脳内出血時には多様な脳循環代謝障害が出現していると報告されている6,8,23,28,29).しかしながら,確立された脳内出血モデルがなく,基礎的研究がほとんどなされていないのが現状である.そこでわれわれは,コラゲナーゼラット脳内出血モデルを用いて,脳内出血の超急性期から慢性期にわたる局所脳血流量の経時的変化を調べることにより,脳循環動態を明らかにすることを目的として実験を行った.

頭皮縫合におけるGalea Suturing法の有用性

著者: 末武敬司 ,   上出廷治 ,   百田洋之 ,   岡真一 ,   朴浩哲 ,   南田善弘 ,   端和夫

ページ範囲:P.427 - P.430

I.はじめに
 脳神経外科手術後に皮膚切開線に沿った脱毛が生じることは稀なことではない.美容上の問題は比較的軽視されがちであるが,患者にとって大きな精神的負担となることが多い.特に最近は脳ドックが盛んに行われるようになり,無症状の疾患に対して予防的な手術治療が行われてきている.特にこのような場合には患者の機能的な面ばかりでなく,美容上の観点からも障害を残さない手術が要求される時代になってきたと思われる.
 そこでわれわれは創近傍部脱毛の予防に対し,galea suturing法を行い,良好な結果を得ることができたので報告する.

成人慢性硬膜下血腫症例の硬膜及び血腫外膜の血管構築について—組織学的研究

著者: 田中輝彦 ,   貝森光大

ページ範囲:P.431 - P.436

I.はじめに
 成人の慢性硬膜下血腫(以下本症)は,Virchow(1857)13)以来多数の研究にもかかわらず,その本態は未だ不明であり,動物実験でも本症の完全なモデルは作成されてはいない3,14).本症の肉眼的特徴は,正常な硬膜と脳表の間に存在し,厚い外膜と薄い内膜に包まれ,主として流動性内容を有する血腫である4).組織学的特徴は外膜内に必ず巨大な毛細血管様血管が存在することであり,macrocapillary(MC)14),sinusoidal channel lay-er3,4),giant capillary6)などと呼ばれている.
 私共は本症の外膜と硬膜の血管構築について検討したのでその結果を報告する.

Functional MRIを用いた脳腫瘍術前の脳機能マッピング—経頭蓋磁気刺激および術中マッピングとの対比

著者: 上之郷眞木雄 ,   森川実 ,   石丸英樹 ,   越智誠 ,   鬼塚正成 ,   白川靖 ,   高橋治城 ,   柴田尚武

ページ範囲:P.437 - P.444

1.はじめに
 中心溝近傍に存在する腫瘍性病変に関して,術前にその解剖学的局在を明確にしておくことは,安全かつ的確な手術において有用であり,func-tional magnetic resonance imaging(fMRI)を用いた非侵襲的画像検査が術前の機能マッピングとして試みられている1,7).一方,transcranial magne-tic stimulation(TCS)はベットサイドにおいて簡便かつ無侵襲に四肢の筋運動誘発が可能であり,術前の運動中枢マッピングへの応用も検討されている9).前者は神経活動負荷にともなう過剰なオキシヘモグロビンの増加,即ち血流の増加を捉えることで,機能局在を間接的に把握する方法である11).後者では磁気刺激によって脳内に生じた誘導電流が神経細胞を刺激し,その支配の筋運動が誘発されることで,直接的に機能局在の決定が可能である3).しかし刺激用コイルと頭皮面接線との角度の影響など刺激手技によってマーキングに誤差を生じる危険性を有している.今回はfMRIおよびTCSによって得られた術前運動野同定所見を比較検討し,一部症例では術中所見とも対比しfMRIおよびTCSを用いた術前の運動野マッピングについて,その意義および問題点を報告した.

症例

頸動脈の硬膜枝から主に造影されたGlioblastomaの1症例

著者: 奥山徹 ,   齋藤孝次 ,   平野亮 ,   高橋明 ,   稲垣徹 ,   稲村茂 ,   中里洋一

ページ範囲:P.447 - P.452

I.はじめに
 髄内腫瘍であるglioblastomaが硬膜に浸潤することが知られている9-11)が,硬膜動脈から造影される症例は非常に稀2-6,8-10)である.今回,われわれは脳血管撮影で外頸動脈の中硬膜動脈と副硬膜動脈から主に造影され,あたかも髄膜腫を思わせる所見を呈したglioblastomaの症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

術中早期に脳腫脹を来たした頭蓋内巨大Hemangiopericytomaの2例

著者: 陶山大輔 ,   坂井春男 ,   北島具秀 ,   上久保毅 ,   清水純 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.453 - P.457

I.はじめに
 頭蓋内hemangiopericytomaは非常に血管に富んだ腫瘍として知られており,出血が多量で摘出を中止した例や術中に死亡した例が報告されている4,5).今回われわれが経験した2例は,出血ではなく術中早期の脳腫脹が原因で手術を中断した例である.しかし,その後の脳腫脹に対するbar-biturate療法と,再手術に際しての術前放射線療法により,両症例ともに良好な結果が得られたので,これらの症例に認められた脳腫脹の機序と,hemangiopericytomaに対する術前放射線療法の有効性について報告する.

長期生存を認める大脳半球原発Neuroblastomaの1例

著者: 高石吉將 ,   桑村圭一 ,   上川秀士 ,   澤秀樹 ,   穀内隆 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.459 - P.463

I.はじめに
 大脳半球原発neuroblastomaは10歳以下の小児に好発し,発生頻度は,原発性脳腫瘍の0.2%とされ,その予後は不良で,大多数の症例は短期間で再発している4,6-8).今回,われわれは10歳時に発症し二期的に手術を行い,放射線療法,化学療法を行わず,8年8カ月を経過した現在,再発を認めていないneuroblastomaの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

長期間第XIII因子低下を示した小児頭蓋内出血の1例

著者: 中島正之 ,   中澤拓也 ,   松田昌之 ,   半田譲二 ,   速水雅向 ,   宮本義久 ,   太田茂

ページ範囲:P.465 - P.468

I.はじめに
 血液凝固第XIII因子は凝固最終段階で形成されるfibrinの安定化に関与する因子である.先天性第XIII因子欠乏症は1960年Duckerら2)により最初に報告され,これまで200例程度の報告しかみられない稀な疾患である7).その約25%に頭蓋内出血を生じ,しばしば死因となることが知られている2,4).他の血液凝固因子欠乏症と異なり出血時間,血小板数,全血凝固時間,プロトロンビン時間(PT),部分トロンボプラスチン時間(APTT),トロンビン時間などは正常で,術前診断が困難な場合がある.今回,長時間第XIII因子活性値の低下を示し,先天性第XIII因子欠乏症に伴う頭蓋内出血との鑑別を要した小児例を経験したので文献的考察を加え報告する.

再開通した脳皮質静脈血栓症の1例

著者: 若本寛起 ,   宮崎宏道 ,   稲葉真 ,   石山直巳

ページ範囲:P.469 - P.473

I.はじめに
 脳静脈系血栓症ではその大部分を静脈洞血栓症が占めており,この静脈洞血栓症が悪化すると皮質静脈に血栓化が進むため,皮質静脈血栓症は静脈洞血栓症に続発する二次的病態として認識されることも多い.しかし脳皮質静脈血栓症は皮質静脈に限局して発生した血栓症で,脳静脈洞血栓症に比べ稀な疾患である3,6,10).これは皮質静脈に限局した血栓症が,必ずしも臨床症状を伴わないことと6),血管撮影にて閉塞静脈を確認しにくいことなどから,確定診断がつけにくいのが原因と考えられる.今回,大脳皮質静脈に限局した血栓症が1カ月後に再開通し,神経症状が劇的に改善した興味ある症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

術前診断にDiffusion Imageが有用であった小脳橋角部Endodermal Cystの1症例

著者: 中川摂子 ,   川口正二郎 ,   阿部雅光 ,   米満伸久 ,   田渕和雄

ページ範囲:P.475 - P.480

I.はじめに
 Endodermal cystは嚢胞壁が気管上皮や腸上皮に類似する上皮からなる嚢胞であり,enteroge-nous cyst,neuroenteric cyst,bronchogenic cyst等も含む総称名で多くは脊髄前面の硬膜下腔に発生する17).小脳橋角部に発生することは稀であり,われわれが渉猟し得た範囲では現在までに10例が報告されているにすぎない5,8,9,11,12,14-16,18,21).今回小脳橋角部に局在し,組織学的にendodermal cystと診断された1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Telangiectasiaより脳内出血を来たしたRendu-Osler-Weber Diseaseの1例

著者: 細井和貴 ,   冨田洋司 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.483 - P.486

I.はじめに
 Rendu-Osler-Weber disease(以下ROWと略す.)は,別名hereditary hemorrhagic telangiecta-siaと言われる稀な全身性遺伝性血管形成異常症である.一方,中枢神経系には,telangiectasiaは0.04%から0.1%に剖検例では認められると報告されているがそのほとんどは無症候性であり,telangiectasiaより重篤な脳内出血を来たすことは非常に稀である.今回われわれは重篤な脳内出血にて発症し,その原因がtelangiectasiaと考えられ,Rendu-Osler-Weber diseaseと診断された10歳女子の症例を経験したので報告する.

読者からの手紙

航空機内のけいれん

著者: 北井隆平

ページ範囲:P.474 - P.474

 私事で申し訳ないが,母は7年前に破裂脳動脈瘤の手術を受け,幸いにも術後合併症もなく元気に生活している.最近,海外旅行をすることになり,航空機搭載薬剤を調べる機会があった.表1に日本航空の医師用キットの搭載薬剤一覧を示すが1),抗けいれん剤は含まれていない.海外旅行中は時差による不眠や疲労,不慣れな食事による服薬の不徹底等,けいれんの素因を有する患者にとってよい状況ではない.けいれんを誘発する条件がそろっていると言える.外来で患者より海外旅行の申し出があった場合,私などは回復を喜び,むしろ喜んで送り出してきた.もちろん,けいれんを有する者の航空機利用は制限されるべきでない.統計上,機内救急患者のうちけいれんをきたした患者は5%あると報告されている1).重積状態になった場合は緊急着陸せざるを得ないであろう.諸外国ではジアゼパムを搭載している航空会社もあるが3),本邦は抗けいれん剤は抗精神薬に分類され,管理の面から現行法上搭載は困難である4).緊急着陸のコスト($100 000)に達することもある2)と重積患者を放置した際のリスクを考えると搭載されてよい薬剤と考えられる.有効な経口薬も存在し2),緊急時のマニュアルと共に常備するのも一考ではあるまいか.最後に,航空機搭載医師用キットは医師のみが開封を許されており,日本航空の統計では94年度の国際線で82件の医師の緊急呼び出しに対し65件の医師の援助の申し出があったとのことである1)

ウィリス動脈輪閉塞症の診断基準について

著者: 小宮山雅樹

ページ範囲:P.481 - P.481

 ウィリス動脈輪閉塞症は,わが国で発見され,かつ最も多くの患者を有していますが,未だその原因は不明であります.厚生省特定疾患ウィリス動脈輪閉塞症調査研究班によりその診断基準が定められていますが,その診断基準の中の脳血管撮影所見で「頭蓋内内頸動脈終末部,前及び中大脳動脈近位部に狭窄または閉塞がみられる」の項目が曖昧であることを指摘したいと思います.つまり,(1)内頸動脈終末部,(2)前大脳動脈近位部,(3)中大脳動脈近位部の3部位のうち,すべてに狭窄または閉塞を認める必要があるのか,または1つの部位でもその診断基準を満たすのか,が曖昧であると思います.このことは,ウィリス動脈輪閉塞症調査研究班の研究報告書1)にある英文の診断基準では,
 Stellosis or occlusion at the terminal Portion ofthe internal carotid artery and at the proximalportion of the anterior and middle cerebral arter-ies.
 となっていますが,同じ研究班から出された論文2では,

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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