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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科27巻6号

1999年06月発行

雑誌目次

雑感

著者: 山本勇夫

ページ範囲:P.496 - P.497

 近年学問が益々専門化,細分化し,自分の専門領域以外はほとんど理解できないものとなり,ややもする“専門バカ”に甘んじる風潮があることも否めません.われわれ医師も社会的責任が大きくなるにつれ,このような細分化された知識や知性のみでは対応が困難な時代になってきているのも事実です.そこで20世紀も終わろうとしている現在,学問の専門化,細分化と同時に,統合,融合を真剣に考え,専門分野のみに閉じこもる時代ではないという意識改革も必要ではないでしょうか.
 まず教育制度からして,大学入試のために高校入学,いや時には中学時代から学生を文系と,理系に分け,大多数の学生はその時点で文系は理数科目を,理系は国語や,社会科などから遠ざかるようになります.また医学部へ入学すると,6年間の教育内容が年々専門教育にウエイトがかかり,その分教養課程が圧縮されているのが現状です.今回われわれの大学で発生した手術患者の取り違え事故はいくつかの不注意が重なったことも原因の1つですが,医療の原点である“全人的医療”を軽視する傾向があったことが,この事故の要因として大きく関与していたことを深く反省しております.その意味で昨年10月大学審議会から報告された「21世紀の大学像と今後の改革方策について」で述べられている“学問のすそ野を広げ,様々な角度から物事を見ることのできる能力や,自主的・総合的に考え,適格に判断する能力,豊かな人間性を養い,自分の知識や人生を社会との関係で位置づけることのできる人材を育てる”という教養教育の充実を,今回の反省をふまえ,横浜から発進しなければならない義務を感じております.

総説

脳梗塞とアポトーシス

著者: 寳子丸稔

ページ範囲:P.499 - P.504

I.アポトーシスとは
 細胞死にはネクローシスnecrosisとアポトーシスapoptosisがある.ネクローシスは細胞外の環境の変化が細胞の生存のための許容範囲を超えておこるもので,細胞膜の破壊および細胞質の流出が起こる受動的なプロセスである.一方,アポトーシスは細胞外の環境の変化が許容範囲内であっても,外部からのシグナル等により細胞に内在するメカニズムで自ら死にいたらしめるものである.この内在するメカニズムにはエネルギーを必要とし,アポトーシスは能動的なプロセスである.実際,アポトーシスのあるものでは新たな遺伝子発現(すなわち新たな蛋白合成)を必要とし,cycloheximideやactinomycin Dなどの蛋白合成阻害剤やRNA合成阻害剤によりアポトーシスは抑制されるのである26)
 アポトーシスの語は木や花から葉や花弁が落ちることを意味するギリシヤ語であるが,これはアポトーシスが正常な組織から必要がなくなった細胞が脱落する正常なプロセスであることに由来する.アポトーシスではDNAが切断され細胞質および核の濃縮がおこり最終的にマクロファージにより貪食され除去される.この切断されたDNA(通常,約180bpの整数倍の長さのバンドとしてladderのように認められる)を検出したり,濃縮されたり分断された核を観察することによりアポトーシスが同定できる.しかしながら,アポトーシスに陥った細胞は数時間以内に貧食され除去されるために検出が困難であり,このことが,近年までアポトーシスが注目されなかった大きな原因の一つである26)

解剖を中心とした脳神経手術手技

頭蓋底悪性腫瘍の手術

著者: 齋藤清 ,   吉田純 ,   高橋正克 ,   長谷川隆 ,   福田慶三

ページ範囲:P.505 - P.514

I.はじめに
 頭蓋底手術の進歩により,頭蓋底に進展した頭頸部悪性腫瘍に対する根治手術が可能となった3,7,8,11-13,15-18).ここでは錐体骨・後頭蓋窩腫瘍は除き,頻度の高い鼻副鼻腔と眼窩原発悪性腫瘍に対する頭蓋底合併根治切除術について解説する.
 癌に対する根治手術の基本はtumor-free mar-ginを含めた一塊切除である.このためには,耳鼻科・形成外科・口腔外科などの協力による多科合同手術が必要となる.術前に多科合同カンファレンスを行い,手術方法について十分検討することが重要である.

研究

70歳以上の高齢者の未破裂動脈瘤の手術適応と問題点

著者: 丹羽潤 ,   谷川原徹哉 ,   久保田司 ,   千葉昌彦 ,   秋山幸功 ,   稲村茂

ページ範囲:P.517 - P.523

I.はじめに
 1997年5月に日本脳ドック学会から出された脳ドックのガイドラインでは70歳以上の高齢者の未破裂脳動脈瘤を手術することは積極的に勧められていない2).1996年までわれわれの施設でも70歳以上の未破裂脳動脈瘤の手術適応は本人の意思に任せてきた.しかし高齢であるとの理由で手術せずに外来で経過観察していた未破裂脳動脈瘤の76歳女性が,脳動脈瘤が発見された8カ月後の1996年5月に重度のくも膜下出血で搬入されるという非常に苦い経験をした.それ以来当科では70歳以上の未破裂脳動脈瘤でも重篤な基礎疾患あるいは高度の脳血管障害の既往を有しない場合には根治術を考慮すべきであるという方針を取ってきた.
 今回市立函館病院脳神経外科で経験した70歳以上の未破裂脳動脈瘤18例の予後から,高齢者の未破裂脳動脈瘤の手術適応と問題点について検討したので報告する.

チタンミニプレートを用いた椎弓形成術の手術手技と長期経過観察—椎弓切除との比較

著者: 岩倉昌岐 ,   山元一樹 ,   長嶋達也 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.525 - P.531

I.はじめに
 脊髄疾患の手術においては,後方到達法が一般的であるが,椎弓切除に伴う種々の問題点が指摘されている1-5,7-12).われわれは椎弓切除を行った症例において,長期経過観察中の椎体変形や,再手術施行時の硬膜外肉芽組織形成による癒着によって手術が困難となった症例を数例経験したため,1992年より,悪性腫瘍等の外減圧を要する症例を除く全例に対して,チタンミニプレートを用いた椎弓形成術を施行し,術後の固定性と再手術時の容易さの点で良好な結果を得たので報告する.

von Hippel-Lindau病に伴う脊髄血管芽腫の検討

著者: 中嶋裕之 ,   徳永浩司 ,   田宮隆 ,   松本健五 ,   大本尭史 ,   古田知久

ページ範囲:P.533 - P.540

I.はじめに
 脊髄血管芽腫は脊髄腫瘍の約5%とされ,比較的まれな腫瘍であるが,MRI上Gd-DTPAにより強く増強され,tumor cystを伴うことが多く,signal void,血管写上の濃染像などより診断は比較的容易であり,治療は腫瘍の全摘出により通常良好な結果が得られる6)
 しかし,常染色体優性遺伝疾患であるvon Hip-pel-Lindau病(VHL病)の脊髄病変として表れる場合,多発性の有無,網膜血管芽腫,腎細胞癌,副腎褐色細胞腫,腎および膵臓の嚢腫などの他臓器の病変の有無についても注意を払うことが必要であり,治療に際しても,脊髄病変の摘出のみでは終わらず,内科,眼科,泌尿器科などと連携して定期的に検査を行うことが必要となる.また,患者から遺伝学的な相談を受けることもあり,VHL病に合併する脊髄血管芽腫については特別な配慮が必要である.

Dysembryoplastic Neuroepithelial Tumor(DNT)の病理像—難治性てんかん手術5例における検討

著者: 浅野英司 ,   鈴木博義 ,   社本博 ,   大槻泰介 ,   吉本高志

ページ範囲:P.541 - P.547

I.はじめに
 Dysembryoplastic Neuroepithelial Tumor(DNT)は,1988年にDaumas-Duportが新しい臨床病理学的見地から定義した胎生期発達異常を基盤とする良性脳腫瘍である4)
 臨床的には,若年発症の難治てんかん患者の大脳皮質に好発し,手術により良好な発作予後が期待できるとされている.DNTは放射線化学療法を不要とするため,他のグリオーマとの鑑別は必須と考えられている4,11)

症例

結節性硬化症に合併し17年後に急速な再発増大をみたSubependymal Giant Cell Astrocytoma(SGCA)の1手術例

著者: 川崎史朗 ,   山本祐司 ,   角南典生 ,   須賀正和 ,   大朏祐治

ページ範囲:P.550 - P.556

I.はじめに
 結節性硬化症の3.7-17%に脳腫瘍が合併し,そのほとんどがsubependymal giant cell astrocy-toma(SGCA)である2).その発症経過の特徴および細胞起源については議論の多いところであるが,germinal matrix cellと同様な多分化能をもつ細胞の増殖が推測されている6,9,11,14,15).今回われわれは部分摘出術を行い経過観察していたところ17年後に急速な再発増大を認め,全摘出術を行った46歳男性のSGCAを経験した.そこで初回と今回の摘出標本を免疫組織学的に対比検討したところ腫瘍細胞の染色性に異同を認めた.自験例は成人発症のSGCAで本腫瘍の発症経過や細胞起源について考察するのに貴重な症例と思われたので報告する.

Crushing Head Injuryの検討

著者: 沢内聡 ,   結城研司 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.557 - P.561

I.はじめに
 頭部外傷発生の力学的機序は,動的衝撃力(dynamic loading)と静的圧縮力(static loading)に分類される2).後者により発生する“押しつぶし損傷”crushing head injuryの臨床的頻度は低いが,頭部外傷の発生機序として重要であると考える.われわれの経験したcrushing head injury症例を呈示し,若干の考察をくわえ報告する.

自然経過を捕えることができた静脈洞血栓症を伴う硬膜動静脈瘻の1例

著者: 若本寛起 ,   宮崎宏道 ,   篠田淳男 ,   稲葉真 ,   石山直巳

ページ範囲:P.563 - P.568

I.はじめに
 硬膜動静脈瘻(以下DAVF)の成因,病態については,今までにも複数の説が唱えられ,各々の説を支持する症例報告も散見されるが,未だ包括的な結論は出ていない.今回われわれは横・S状静脈洞血栓症患者の経過観察中に,静脈洞の再開通と同時にDAVFの新生を認め,さらにその後,静脈洞血栓症の再発と同時にDAVFの増大を偶然にも画像的に確認することができた1例を経験した.今までにDAVFの発生前後の長期自然経過を報告した例は少なく,DAVFの発生機序,及び静脈洞血栓症との因果関係を知る上でも貴重な症例と考え,若干の文献的考察を加え報告する.

特異な画像を示した微小嚢胞性髄膜腫の1例

著者: 塩屋斉 ,   菊地顕次 ,   須田良孝 ,   進藤健次郎 ,   南條博

ページ範囲:P.569 - P.575

I.はじめに
 髄膜腫の多くはCTで診断されるが低吸収域を示すことは少ない.また組織学的に微小嚢胞変性を示した報告は非常に稀で,WHO脳腫瘍組織分類第2版(1993)5)では亜型の1つとして微小嚢胞性髄膜腫と定義している.今回,特異な画像を示し術前診断が困難であった微小嚢胞性髄膜腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

外傷により内頸動脈C1-2部に全周性に生じた解離性動脈瘤の1例

著者: 松本吉史 ,   太田文人 ,   河井裕幸 ,   山本佳昭 ,   永瀬章博 ,   妹尾裕孝 ,   森竹浩三

ページ範囲:P.577 - P.582

I.はじめに
 頸動脈動脈解離は以前は非常に少ないと言われていたが,その概念の普及と診断技術の進歩により症例数は増加している7).頸動脈の中でも総頸動脈近傍での解離が多く,頭蓋内の内頸動脈に外傷により生じる解離性動脈瘤の報告は少ない.また,これらの外傷性解離性内頸動脈瘤は血管の閉塞による虚血症状で発症することが多く,破裂してくも膜下出血(SAH)にて発症する硬膜内内頸動脈の解離性動脈瘤の報告は極めて稀である1).
今回われわれは閉鎖性頭部外傷後,内頸動脈C1-2部に全周性に生じた頭蓋内外傷性解離性内頸動脈瘤を経験した.この症例はSAHをくり返した.出血で発症したこのような動脈瘤の報告はなく,その診断,治療法の問題点について検討した.

鉄筋による頭蓋底穿通の後に発生した外傷性前大脳動脈動脈瘤の1例

著者: 中井啓文 ,   川田佳克 ,   田村康夫 ,   田中達也 ,   程塚明 ,   橋詰清隆 ,   東松琢朗 ,   松井玲子 ,   岩切裕昌

ページ範囲:P.583 - P.589

I.はじめに
 穿通性頭部外傷は戦時下に多く,一般市民生活には比較的稀な外傷である20).今回,建築現場の鉄筋による頭蓋底穿通の後に発生した外傷性脳動脈瘤の1例を経験したので報告する.

読者からの手紙

読者からの手紙

著者: 青木信彦

ページ範囲:P.590 - P.590

 最近,貴誌に掲載された遠藤らの論文1)を興味深く読ませていただきました.著者らの主旨とはかけはなれた内容ではありますが,他の邦文論文でも同じ様な疑問がありましたので,コメントさせていただきます.著者らの考察の中で,椎骨脳底動脈解離の脳血管写所見としてintraluminlalpooling signというtermが用いられており,その出典としてAnderson et al1)と関野ら6)の論文があげられています.しかし,これらの論文にはintraluminal pooling signという言葉はみられません.確かに脳血管撮影の合併症としてのsubin-timal injectionやintramural injectionと同じ所見が解離にもみられるという表現はありますが,in-traluminal pooling signというtermはどこからきたのでしょうか.英文の論文にはありませんがimramural pooling signというtermは頸部内頸動脈解離に対して用いられています4).しかしその論文でもその出典の記載はみられません.残念ながら検索しても見つけられませんでしたが,小生の知る限りでも,本邦の論文の中にはdissectionの血管撮影所見としてintraluminal pooling signとかintramural pooling signという表現がみられています.そのオリジナルはおそらく1983年の青木の論文2)ではないかと思われます.これは本邦ではじめての非外傷性頸部内頸動脈解離の論文で,これまで使用されてきた解離性動脈瘤に対して,英語のdissectionは必ずしも動脈瘤ではないという意味で初めて解離という日本語が使用されていることと,dissection の true diagnostic signとしてintramural pooling signは解離そのものを表していると記載しています.もともと,true“diagnostic sign”というterm は Kunzeらが初めて用いたもので5),関野らは血管撮影時のintra-mural injectionに類似した所見もtrue“diagnosticsign”と言えると記載していま6).つまり,このような文献的な経緯からdissectionの脳血管撮影所見としてintramural pooling signというtermが出現したのですが,intraluminal pooling signというtermの出典は明らかではありません.lu-menが管腔という意味でしたら,dissectionの場合,停滞した造影剤は血管腔内ではなく血管壁内ですので,intraluminal pooling signという言葉は適切ではないともいえます.事実,血管腔内に造影剤の停滞する現象も知られていましてflowseparation phenomenon7)と呼ばれていますが,これはdissectionではありません.以上,頭頸部のarterial dissectionの血管{最影所見としてのin-tramural pooling signの出典を明らかにするとともに,intralumhial pooling signというtermがどこからきたのかについての疑問を述べさせていただきました.

自己血輸血について

著者: 藤巻高光 ,   鈴木一郎 ,   桐野高明 ,   柴田洋一

ページ範囲:P.591 - P.591

 自己血輸血の歴史と脳神経外科(永井政勝:脳外26:1117-1122,1998)を大変興味深く読ませていただきました.輸血学の進歩により輸血が非常に安全に行われるようになった現在でも,永井先生のご指摘のように,HIV感染症や未知のウイルス感染症の危険性は完全にはなくなったとはいえません.その意味で理論的には非常に安全な自己血輸血は注目を集めつつあります.われわれも1995年12月より予定手術において自己血輸血を採用しており本誌に報告しておりますが1),その自己血輸血の先鞭をつけたのが脳神経外科手術であることを知り,大変感銘を受けました.永井先生が考察のなかにあげておられなかった自己血輸血の利点を追加させていただきたく本letterを書いている次第です.
 貯血式の自己血輸血は多くは血球と血漿成分との分画にわけて保存されますが,血漿成分を凍結後4℃で解凍する際にクリオプレシピテートが産生されます.これは血清中のフィブリノーゲン等よりなるもので,これより自己血由来のフィブリン糊を作成することが可能です.市販のフィブリン糊はヒト血液由来の成分を含み,製造工程で安全とするための多くの工夫がなされていますが,自己血由来のフィブリン糊がより安全であることは明白です.1回の採血で10ml前後のフィブリン糊が得られ接着力も十分です.われわれは頭蓋底外科,微小血管減圧術,硬膜縫合の補助などに用いて良好な結果を得ております.「必要に応じて輸血用血液が容易に届けられる現体制に安んずることなく」(永井)自己血輸血をより普及する努力の一環として,読者諸氏に自己血輸血の利点をアピールすべく本letterを書きました.また施設単位だけではなく血液センターでも自己血輸血に対応できるようにすることにより,より多くの患者さんが本法を享受できるものと思われ,将来の血液事業に期待したいと感じるものであります.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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