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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科27巻7号

1999年07月発行

雑誌目次

インパクトファクター

著者: 石井鐐二

ページ範囲:P.602 - P.603

 インパクトファクター(impact factor)という言葉を耳にすることが多くなった.これは,アメリカのInstitute for Scientific Information(ISI)から年1回刊行されているJournal Citation Reports(JCR)に記載されている雑誌の評価尺度である.1997年度版では約5000誌の引用データをもとに作られ,実に膨大なデータベースから算出されている.ある雑誌がどのくらいのインパクトを持つ論文を掲載しているかは,その雑誌に載った論文が引用された回数で評価できるのではないかというのが基本的な考え方である.ただし,総引用回数では数多く論文を載せている大規模雑誌の方が小規模雑誌より有利になるので,総引用回数を総掲載論文数で割ったもの,つまり掲載された論文の平均引用回数で評価しようというものである.各年のインパクトファクターの算出にはその直前の2年間の発表論文数が用いられる.たとえば,神経科学分野で最も高い評価を受けている雑誌の一つであるNeuronは,1997年度版では1995年と1996年の2年間の総引用回数8306,総掲載論文数525から,インパクトファクターは8306/525=15.821と算出される.
 1997年度版での順位ベスト・ファイブは,Annu Rev Biochem 40.782, Nat Genet38.854, Annu Rev Immunol 37.796, Cell 37.297, Nat Med 28.114となっている.雑誌の評価が時代によって変化してきているが,90年代に入ってからの特色としてNature(27.368)とその姉妹誌である第2位のNat Genet,第5位のNat Medの進出があり,総合科学雑誌としてのNatureへの関心の高さが分かる.また,原著論文に比較してレビュー誌が上位にあるのも特徴である.脳神経外科領域ではどうか.思いつくままに,1997年度版から挙げてみると,J Neurosurg 2.999, Neurosurgery1.113, Surg Neurol 0.328, Acta Neurochir 0.623, Neurochirurgie 0.388といったことになる.昨年秋の札幌での脳神経外科学会総会で,機関誌編集長の山浦晶教授が,Neurologia medico-chirurgicaも対象雑誌としての審査を受けており,インパクトファクターへの道が開かれようとしていると報告されていた.間もなくJCRに記載されるようになるものと思われるが,あまり高い値は期待できないのかも知れない.というのも,1997年度版JCRにおいて日本の雑誌133誌のうち1以上のものは18誌にすぎない.しかも,最高がJ Phys Soc Jpn2.025で第698位である.ちなみに,日本眼科学会の英文誌Jpn J Ophthalmolは0.348で第3683位である.一方,インパクトファクターの値が高いほどその分野に与える影響が大きく,良質な論文を多数掲載している雑誌であると一般的に考えられているが,いくつか問題点も指摘されている.これらを列記すると,1)2年間のデータのみから算川することの妥当性,2)レビュー誌が高値となる傾向,3)収載誌の多いアメリカに有利なこと,4)簡単に人手できる文献を引用する傾向,5)引用されていることは流行を反映し,必ずしも重要さを反映しないこと,6)方法論に関わる論文は引用されやすいこと,7)自己引用の問題等々である.

総説

皮質形成異常(Cortical Dysplasia),特に限局性皮質形成異常(Focal Cortical Dysplasia)とてんかん

著者: 森岡隆人 ,   西尾俊嗣 ,   福井仁士

ページ範囲:P.605 - P.615

I.いとぐち
 限局性の脳異常(focal lesion)によるてんかんの頻度はてんかん全体の15-25%を占めるが,最近の神経画像診断技術,とくにMRIの進歩と普及により,てんかん患者で粗大な脳異常はもちろん限局性の微細な脳異常が発見される機会が増えてきた.このような限局性異常の中で神経細胞の生成・移動障害に起因する大脳皮質形成異常(異形成)cortical dysplasia(CD)は,MRIによって灰白質,白質の区別がはっきりとつくようになり,手術や病理解剖を待たずに臨床的に診断することが可能となった.さらに本疾患はしばしば難治性てんかんの原因となっていることが明らかになり,最近のMRI検査や手術摘出組織検索によると,CDは難治性てんかんの原因の20-45%に達するという.
 このような脳皮質形成過程の異常による先天性の病変であるCDには,その異常が大脳全体に及ぶものから,ここで述べるfocal cortical dyspla-sia(FCD)のように皮質の一部に限局するものまでが含まれる.このFCDは,1971年のTaylorらによる手術例の報告以来,外科的治療の成績が優れたてんかん原性病変として強い関心が寄せられている40-44,60).本稿ではてんかん原性域としての大脳の限局性異常,とくにFCDを中心に臨床像,画像所見,病理像の特徴を呈示するとともに,最近の知見をreviewし,いくつかの問題点につき論述する.

研究

閉塞性脳血管障害に対する初診時3D-CTAngiographyの有用性

著者: 前川正義 ,   粟屋栄 ,   寺本明

ページ範囲:P.617 - P.623

I.はじめに
 MRIの検査時間が短縮されたとは言え,体内金属の有無を含め,詳しく患者の状況を把握しえていない初診においては5),急な意識障害,片麻痺,失語などで発症した頭蓋内疾患が疑われる症例に対しては,まずCTが施行されることが一般的である.
 発症後間もない脳梗塞は,初診時のCTではその確定診断となる低吸収域を認めることは少なく,半日あるいは一日あいだをあけてのCTやMRIの再検にて確定診断に至ることも実際の診療現場においては少なくない.

症候性ラトケ嚢胞の臨床検討

著者: 欅篤 ,   金永進 ,   鍋島祥男

ページ範囲:P.625 - P.631

I.はじめに
 トルコ鞍内に生じる上皮性嚢胞はラトケ嚢胞(Rathke cleft cyst,以下RCCと略)と呼ばれ,胎生期におけるRathke pouchの遺残より発生すると考えられている。そして正常人でも剖検時11-22%の頻度で認められるとの報告がある15,16,18).一方,その嚢胞の増大により下垂体や視交叉を圧迫し種々の臨床症状を呈する症候性RCCは稀とされていたが近年,CTスキャンやMRの普及に伴いその報告例は増加し9,12,19),決して稀な疾患とはいえない.しかしながら,個々の症例報告が散見されるのみで,多数例の長期にわたる経過を追跡した報告は少ない.
 今回,われわれは過去10年間に1施設で経験し,手術により病理組織診断の確立された症候性RCC 12症例につきCTならびにMRI所見,臨床症状,手術アプローチ,そして再発例につき検討を加えて報告する.

症例

Ruptured Persistent Primitive Hypoglossal Artery(PPHA)Aneurysmの1手術例

著者: 澤村淳 ,   上山博康 ,   小林延光 ,   牧野憲一 ,   滝澤克己 ,   安田宏 ,   高村春雄

ページ範囲:P.633 - P.638

I.はじめに
 遺残性原始舌下動脈は遺残性原始動脈の中でも稀有な存在であり,これまで破裂遺残性原始舌下動脈瘤の報告は過去に9例しかなく本邦では4例の報告があるにすぎない.脳血管造影で確認された遺残性原始舌下動脈自体もこれまで100例程を認めるにすぎない.遺残性原始舌下動脈は通常,頸部(普通第1,第2頸椎の高さ)内頸動脈から出て舌下神経管を通り脳底動脈の最も近位側で交通する.同側の椎骨動脈は,しばしば形成不全を示す.今回,破裂遺残性原始舌下動脈瘤の症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Fenestrated Basilar Artery Aneurysmの1手術例

著者: 小林正和 ,   鈴木倫保 ,   佐藤直也 ,   大間々真一 ,   太田原康成 ,   和田司 ,   小川彰

ページ範囲:P.639 - P.643

I.はじめに
 椎骨脳底動脈領域の血管異常については,遺残動脈,重複,窓形成などが知られているが,これらの血管異常と,脳動脈瘤,脳動静脈奇形との合併の報告も散見される1-5,8-14).今回われわれは,椎骨脳底動脈窓形成部に,脳動脈瘤を合併した稀な症例を経験し,直達手術にて良好な結果が得られたので,文献的考察を加え報告する.

椎骨動脈環椎部型窓形成による脊髄圧迫にて後頭神経痛を来たした1例

著者: 金景成 ,   水成隆之 ,   小林士郎 ,   石井新哉 ,   寺本明

ページ範囲:P.645 - P.650

I.はじめに
 椎骨動脈環椎部型窓形成(以下fenestrated VAと略す)は,一般的に脳血管撮影上1-2%に存在する胎生期遺残血管であり5,11-14),症状を呈することは極めて稀である.今回われわれはfene-strated VAによる脊髄圧迫にて後頭神経痛を来たし,その後症状が自然消失した症例を経験したため若干の文献的考察を加え報告する.

くも膜嚢腫に先天性頭蓋骨欠損を伴った1例

著者: 槌田昌平 ,   景山敏明

ページ範囲:P.653 - P.658

I.はじめに
 くも膜嚢腫は中頭蓋窩に好発し,中頭蓋窩の拡大,特に側頭骨の菲薄化・突出を伴うことが多いが,今回われわれは,中頭蓋窩くも膜嚢腫に先天的な頭蓋骨欠損を伴った稀な症例を経験したので,発生機序・治療に関する考察を加えて報告する.

Pterional ApproachによるClipping術後,対側小脳梗塞を来たした2症例

著者: 遠藤聖 ,   御任明利 ,   狩野利之 ,   三瓶建二 ,   長尾建樹 ,   清木義勝 ,   柴田家門

ページ範囲:P.659 - P.665

I.はじめに
 開頭術後,開頭術野より離れた部位に出血あるいは梗塞性病変を来たす稀な合併症の報告がある.その中でも特に,テント上の開頭術後に対側小脳に梗塞巣を生じる症例が時にみられる.今回われわれは,pterional approachによる開頭クリッピング術後,対側小脳梗塞を来たした2症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

蝶形骨に発生した巨細胞腫の1例

著者: 柿澤幸成 ,   田中雄一郎 ,   高沢尚能 ,   大屋房一 ,   多田剛 ,   京島和彦 ,   小林茂昭

ページ範囲:P.667 - P.672

I.はじめに
 巨細胞腫は全骨腫瘍の3-7%の頻度であり,好発部位は大腿骨遠位,脛骨近位,橈骨遠位などの長管骨骨端部で90%を占める.頭蓋骨に原発する頻度は1-3%で3,5),その過半数は蝶形骨に発生し,次いで側頭骨,前頭骨,後頭骨,円蓋部などに生じる2,3,5-9,12,16,17,19-21,25,27).発症年齢は20-40歳台が多く女性にやや多い傾向がある3,5,26).蝶形骨を主座とする巨細胞腫はこれまでに70数例の報告があるものの,その治療法の詳細は確立されていない.頭蓋骨に原発した場合全摘出は困難で,放射線療法や化学療法の追加が必要である1-9,12,16,17,19-21,25-27).われわれは蝶形骨原発巨細胞腫例で摘出術と放射線治療にもかかわらず急速に増大し初期治療に難渋したものの,その後良好な経過が得られた1例を経験した.その画像所見と治療経過について若干の考察を加え報告する.

第3脳室後半部に発生した乳児脈絡叢乳頭腫の1例

著者: 津本智幸 ,   中井易二 ,   上松右二 ,   中井國雄 ,   板倉徹

ページ範囲:P.673 - P.678

I.はじめに
 脈絡叢乳頭腫は全脳腫瘍の約0.5%14)を占める比較的稀な腫瘍である.また乳児においてはほとんどが側脳室に発生し,第3脳室に発生するものはきわめて稀である.
 本稿では生後4カ月に健康診断で発見され,全摘出術を施行した第3脳室後半部脈絡叢乳頭腫の乳児例を報告し,そのmagnetic resonance image(MRI)上の特徴を述べ考察する.

医療問題

脳神経外科診療における公費医療費負担制度

著者: 稲村孝紀 ,   栗山泰子 ,   森岡隆人 ,   福井仁士

ページ範囲:P.680 - P.683

1.はじめに
 現在の日本における医療は,国民皆保険制度の下で患者に一定の自己負担分を課して運用されている.通常の保険診療の他に,特定の疾患・患者に対する公費負担制度があり,自己負担分の全額または一部が公費負担される.脳神経外科診療ではこの公費負担制度の対象となる疾患が少なくないにもかかわらず,診療を行う側は必ずしも熟知していないようである.
 発病時に患者がこれらの特殊な公費負担制度を知っていることは少なく,これらの制度を知らずに診療を受けてしまうことも少なくない.これらの公費負担制度は事前に届け出ておかなければ給付が受けられず,事後に発病した日までさかのぼって給付を受けることができないので,事後にこの制度を知った患者から苦情を受けることもある.特に小児疾患や身体障害者となる疾患を対象とするわれわれ脳神経外科医はこの制度を理解し,対象となる患者やその家族に情報を提供する義務もあると考えられる.

報告記

ニューオリンズアメリカ脳神経外科学会

著者: 本郷一博 ,   小林茂昭

ページ範囲:P.684 - P.685

 1999年4月24日から29日まで,Russell L. Travis会長(写真中央)のもとNew Orleansにて第67回米国脳神経外科学会(AANS)が開催された.24日のopening receptionに続き,学術部門は25日から5日間に渡り開催されたが,演題は,plenary session 13題,口演112題,ポスター561題であった.ポスターの数は以前より多くなったが,口演の数は相変わらず少なめに制限され,一つの演題に比較的十分な時間が与えられていた.日本の学会総会と異なり,一つのテーマに関して多くの演題が選ばれることはなく,一つの発表の時間を十分とっているのが,AANSの特徴でもある.口演では,日本からの発表は少なかったが,今回,plenary sessionで帝京大学の中込先生がhead shaking methodを用いての脳血管攣縮予防の有効性を発表された.本会には,諸外国からの参加者も多いが,ポスターを含めると日本からの演題は46題採用されており,そのアクティビテでは高く評価される.
 AANSのプログラムの中では,例年,早朝から行われるbreakfast seminarが重要な位置を占めており,今回も毎日20あまりのテーマで行われた.6時45分からの朝食のあと7時30分から,それぞれ3-4名のパネリストの発表に続き,熱心な質疑応答が行われ,2時間という時間が短く感じられるほどであった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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