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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科27巻8号

1999年08月発行

雑誌目次

教育改革と脳機能開発(その2)

著者: 栗栖薫

ページ範囲:P.696 - P.697

 1995年10月10日発行の本誌の「扉」に同上の題目にて私見を述べさせて頂いた.早いもので既に丸4年が経過した.まさに「光陰矢の如し」である.
 この間大学を含め,社会的にも,私個人的にも大きな変革があった.安全神話の崩壊,経済の落ち込みと回復遅延,当たり前と思っていたものが当たり前でない社会となってきている.そのような中にあって,われわれは脳神経外科医師として,あるいは教官として,研究者としてどのように切り抜け,展開していかなければならないか?自問の毎日である.

解剖を中心とした脳神経手術手技

内視鏡下経鼻的下垂体手術—解剖と手術手技

著者: 森田明夫

ページ範囲:P.699 - P.710

I.はじめに
 19世紀末以降脳下垂体腫瘍に対する様々な手術アプローチが開発されてきたが2),現在最も安全で確実な手術手技として確立しているのは,1960年代にハーディーが改良し術中透視を用いた経鼻中隔的経蝶形骨洞アプローチである5).1980年代,様々な医療分野においてビデオモニターを用いた内視鏡手術が進歩し,特に耳鼻咽喉科領域においては現在殆どの副鼻腔手術は内視鏡下に行われるようになった13).その経緯を受けて,近年下垂体手術においても内視鏡を用いてアプローチし手術を行う機会が増加してきている1,7,8,).下垂体手術において内視鏡を使用する方法には,①アプローチの段階から内視鏡を用い経鼻腔的に蝶形骨洞に到達し下垂体手術を行う方法9),②アプローチは経鼻中隔法(通常のハーデイー法)を用い蝶形骨洞に入った後,内視鏡を用いる方法,または内視鏡を顕微鏡手術の補助として用いる場合がある7).著者は1996年より内視鏡を用いた①のタイプの下垂体アプローチを用いているので,この方法において重要な解剖学的ポイント,手術のコツ,陥りやすい問題点について解説する.

研究

正常圧水頭症のシャント術適応における脳酸素摂取率測定の有用性

著者: 美馬達夫 ,   森貴久 ,   梶田健 ,   中城登仁 ,   長久公彦 ,   森惟明

ページ範囲:P.711 - P.716

I.はじめに
 AdamsとHakimが,正常圧水頭症(以下NPH)の病態に対しシャント術が劇的な効果を示すことを報告し1),老人性痴呆と診断された患者群のなかに治療可能な痴呆(treatable dementia)が存在することを示し大きな注目を浴びたが,その後世界中での追試の結果,原因が不明な特発性NPHに対しては,シャント術の有効率は約20-30%と低く,10-50%という少なからぬ合併症が起こることがわかってきた6).高齢者社会が急速に進行する現在,CTやMRIで脳室拡大を伴う症例に日常診療で遭遇することは稀ではなく,また,痴呆,歩行障害,尿失禁というNPHに見られる症状は,高齢者ならいわば当たり前のように持っている症状である.こういった状況下で,シャント手術で治療可能なNPH症例を術前に高率に診断する検査法を確立することは,極めて重要な今日的課題である.
 われわれは,これまで,脳梗塞の85症例の脳酸素摂取率(oxygen extraction fraction,以下OEF)および心拍出量を測定してきたが,これらの中には,OEFと心拍出量の両方あるいはどちらか一方が著明に亢進している症例があり,OEFあるいは心拍出量が脳血流の低下した病態を代償するために亢進する機序が働いている可能性も示唆された.一方,これまでの報告で,続発性および特発性のNPHの病態において,脳血流量の低下が認められ,シャント術の有効症例では脳血流量が術後有意に増加するが,無効症例ではほとんど変化しないことが知られている2,3).しかし,脳血流量の手術前後の変化は有意であっても,脳血流量の術前の絶対値でシャント術の有効症例を選別することは困難である.われわれは,上述したOEFおよび心拍出量が,NPH病態で生じている脳血流低下を代償する機序として作動している可能性があると考え,これら2つの因子が,シャント術の有効症例を術前に高率に選び出す指標となるか否かを検討した.

外減圧術後の頭蓋形成術前後における脳血流量変動に関する検討—Xe-CTを用いて

著者: 前川正義 ,   粟屋栄 ,   寺本明

ページ範囲:P.717 - P.722

I.はじめに
 頭蓋内圧のコントロール目的で急性期外減圧術を施された症例の中には,慢性期頭蓋形成術後に意識レベルの改善または活動性の上昇を認める場合がある3,5,9,10).慢性期頭蓋形成術が頭蓋内環境に及ぼす影響を,キセノンCT(以下,Xe-CT)を用いて測定した頭蓋形成術前後の安静時脳血流量(以下,CBF)をパラメータに検討した.

脳底動脈巨大動脈瘤に対する親動脈閉塞術のモデル解析—瘤内の血流停滞を目的としたバイパス術の併用効果

著者: 長澤史朗 ,   川端信司 ,   川西昌浩 ,   山口和伸 ,   多田裕一 ,   太田富雄

ページ範囲:P.723 - P.728

I.緒言
 顕微鏡手術あるいは血管内手術が発達した今日でも,脳底動脈巨大動脈瘤に対する直達術は困難な場合が多く6,16,18),瘤内血栓化を目的とした親動脈閉塞術が次善の治療法として施行されている2,3,5,7,23).しかしながらこの治療法にもいくつかの解決すべき問題がある.
 第一の問題は,閉塞術に由来する脳虚血の予知である.この目的のためにバルーンを用いた親動脈閉塞試験が行われている.また側副血行路の形態から,少なくとも1本の後交通動脈の内径が1mm以上あれば安全であるという臨床結果17),あるいは後大脳動脈—上小脳動脈間の脳底動脈閉塞療法では1本の後交通動脈の内径が1.25mm以上,また両側椎骨動脈の閉塞療法では1.54mm以上が必要という実験結果10)が報告されている.第二の問題は,閉塞術が施行できても,瘤内血栓化が不十分なため塞栓症や動脈瘤の増大・破裂を来たす可能性である4,6,19,22).これに関して動脈瘤の血栓化に影響する2本の後交通動脈の内径比が0.60以上の場合には血栓化が期待でき1),また内径比0.60は瘤内血流半減期でおおよそ15秒に相当するとされている13).しかしながら形態的条件で決定される内径比を増加させることは不可能であるため,血栓化が困難と予測される低い内径比を有する症例への対策が問題であった.これに対して,後交通動脈の細い側の後大脳動脈に頭蓋内外バイパス路を設置すれば,内径比の増加に類似した血行動態的変化が得られると予想される.

脳神経外科領域におけるMRSA感染予防—ムピロシン軟膏の鼻腔内塗布の効果

著者: 丹羽潤 ,   吉川修身 ,   谷川原徹哉 ,   久保田司 ,   千葉昌彦 ,   三上毅 ,   岡真一

ページ範囲:P.729 - P.733

I.はじめに
 ここ数年来メチシリンに耐性を示す黄色ブドウ球菌methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)によるMRSA感染症の院内流行は大きな問題となっている.市立函館病院では院内感染対策委員会を設置してその予防に務めているが,意識障害を有し臥床状態の患者が多い脳外科病棟ではその対策に苦慮している.近年MRSA感染の重要な要因は鼻腔内に保菌されたMRSAであり2),ムピロシン軟膏(バクトロバン軟膏®)を鼻腔内に塗布することでこれを除菌することが可能であると報告されている8)
 今回脳神経外科病棟に入院し,MRSAを保菌していない患者の鼻腔内にムピロシン軟膏を塗布し,MRSAの保菌を予防できるかどうか検討したので報告する.

DynamicCTを用いた急性期脳梗塞患者の予後予測

著者: 長久公彦 ,   森貴久 ,   上田博弓 ,   大畠義憲 ,   曽我部紘一郎 ,   森惟明

ページ範囲:P.735 - P.741

I.はじめに
 脳血流を測定する方法にpositron emissiontomography(PET),single photon emissioncomputed tomography(SPECT),magnetic reso-nance imaging(MRI),Xe-CTなどがあるが,すべての施設で測定が可能なわけではない.したがって,脳血流を簡便に評価できる方法があれば,一般病院で急性期脳梗塞の治療を行う上で非常に役に立つ.そこで,CT装置があれば簡単に施行できるdynamic computed tomography(D-CT)7)を用いて脳血流状態を推測できないかと考えた.CTで大きな低吸収域がまだ出現していない急性期脳梗塞患者に対してD-CTを施行し,その時間濃度曲線(time-density-curve:TDC)の特徴と予後との関係を調べることで,来院時TDCから予後を予測できないか検討した.

症例

非外傷性中大脳動脈解離性動脈瘤の診断と治療

著者: 阿美古征生 ,   岡村知實 ,   黒川泰 ,   池田典生 ,   出口誠 ,   渡辺浩策

ページ範囲:P.743 - P.749

I.はじめに
 非外傷性頭蓋内解離性動脈瘤(DA)は椎骨脳底動脈系に多く,内頸動脈系に少ないと報告されている16).一般に,DAの診断は脳血管撮影における特徴的な所見1,8),MRI検査での壁内血腫の同定5)や剖検により行われている.内頸動脈系DAは脳梗塞症状で発症し16),脳血管撮影所見も狭窄や閉塞を示す症例が多いので,その診断に苦慮することがある.最近,われわれは2例の中大脳動脈DAを経験したので,症例を提示してその診断や治療における問題点を検討し報告する.また,いままでの報告例をreviewしてその特徴を明らかにする.

脳出血で発症した結核性血管炎が原因と考えられる類もやもや病の1症例

著者: 中山義也 ,   田中彰 ,   長坂進 ,   生井晴彦

ページ範囲:P.751 - P.755

I.はじめに
 「類もやもや病」は,脳血管撮影において,「もやもや病」の診断基準は満たさないが,それに見られる“もやもや血管”と区別し得ない異常血管網を認めるものと定義されている15).その原因疾患として,脳動脈硬化症,放射線照射,頭部外傷,再生不良性貧血,血管奇形などと共に,結核性血管炎もあげられている.結核性髄膜炎では,脳底部の炎症がその近傍の脳主幹動脈に波及して血管炎を起こし,それが血管の閉塞や狭窄を惹起して7),脳梗塞を起こすが,脳出血を起こすことは少ない.今回,結核性血管炎による“もやもや血管”の破綻に因ると思われる脳出血を経験したので,その発生機序や「もやもや病」における脳出血との違いについて考察を加える.

血管内塞栓療法で治療した特発性血小板減少性紫斑病を合併した破裂中大脳動脈瘤の1例

著者: 岩崎真樹 ,   江面正幸 ,   高橋明 ,   吉本高志

ページ範囲:P.757 - P.761

I.はじめに
 1991年,Guglielmi detachable coil(GDC)が発表されて以来,瘤内塞栓療法が破裂動脈瘤に対する治療の選択肢の一つと考えられるようになった.現在のところ,開頭術に特に問題のない症例は外科的に治療することが原則になっているが,高齢やpoor gradeの理由で血管内治療を施行する症例も増加している3,4).今回われわれは急性期に十分な血小板輸血の確保が困難だったために血管内治療を選択し,良好な予後を得た症例を経験したので報告する.

頻回の出血を繰り返したと思われるMixed Vascular Malformationの1小児例

著者: 高橋俊栄 ,   上之原広司 ,   高橋昇 ,   鈴木晋介 ,   鈴木博義 ,   荒井啓晶 ,   西野晶子 ,   桜井芳明

ページ範囲:P.763 - P.768

I.緒言
  脳血管奇形(cerebrovascular malformation:CVM)は,組織学的に,arteriovenous malforma-tion(AVM),cavernous angioma(CA),venousangioma(venou malformation:VM)およびin-tracerebral capillar telangiectasia(ICT)の4型に分類されてきた10,15).しかし,これらの4型のいずれに分類すべきか困難であったり,同一症例で2つ以上のCVMが隣接して認められたとする報告が散見される1,2,4,5,8-14,17-20).われわれは,頻回の出血を繰り返したCVMで,組織学的にVMとICTの混在した稀な1例を経験したので報告する.

報告記

第5回日韓友好脳卒中の外科会議—The 5th JKFC

著者: 長嶺義秀

ページ範囲:P.772 - P.773

 第5回日韓友好脳卒中の外科会議(The 5thJapanese and Korean Friendship Conference onSurgery for Cerebral Stroke)は1999年5月22日,韓国済州(Cheju)島で開催された.会長は国立ソウル大学のDae-Hee Han教授である.前回は3年前,東北大学吉本高志教授会長のもとに仙台で開催された2).本来であれば昨年開催される予定であったが,諸事情で延期され,今回の開催となった.済州島は韓国のハワイとも呼ばれる風光明媚な韓国屈指の観光リゾート地である.友好会議は済州市にあるCheju Grand Hotelで行われた(写真1).
 会議前日,まだ日没まで間のある夕刻7時,ホテル中庭にてwelcome receptionが華やかに幕を開け,参加する先生方が一堂に顔を合わせる最初の機会となった.芝生の上のテーブルには韓国自慢の料理が所狭しと並べられた.小生は5年前のPusanでの本会議にはじめて参加したが1),静かに幕を開けたPusanでの会議の印象とは対照的で,会議全般を通じて,新聞等で伝えられた韓国の経済危機を少しも感じさせないものであった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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