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研究
正常圧水頭症のシャント術適応における脳酸素摂取率測定の有用性
著者: 美馬達夫1 森貴久1 梶田健1 中城登仁1 長久公彦1 森惟明1
所属機関: 1高知医科大学脳神経外科
ページ範囲:P.711 - P.716
文献購入ページに移動AdamsとHakimが,正常圧水頭症(以下NPH)の病態に対しシャント術が劇的な効果を示すことを報告し1),老人性痴呆と診断された患者群のなかに治療可能な痴呆(treatable dementia)が存在することを示し大きな注目を浴びたが,その後世界中での追試の結果,原因が不明な特発性NPHに対しては,シャント術の有効率は約20-30%と低く,10-50%という少なからぬ合併症が起こることがわかってきた6).高齢者社会が急速に進行する現在,CTやMRIで脳室拡大を伴う症例に日常診療で遭遇することは稀ではなく,また,痴呆,歩行障害,尿失禁というNPHに見られる症状は,高齢者ならいわば当たり前のように持っている症状である.こういった状況下で,シャント手術で治療可能なNPH症例を術前に高率に診断する検査法を確立することは,極めて重要な今日的課題である.
われわれは,これまで,脳梗塞の85症例の脳酸素摂取率(oxygen extraction fraction,以下OEF)および心拍出量を測定してきたが,これらの中には,OEFと心拍出量の両方あるいはどちらか一方が著明に亢進している症例があり,OEFあるいは心拍出量が脳血流の低下した病態を代償するために亢進する機序が働いている可能性も示唆された.一方,これまでの報告で,続発性および特発性のNPHの病態において,脳血流量の低下が認められ,シャント術の有効症例では脳血流量が術後有意に増加するが,無効症例ではほとんど変化しないことが知られている2,3).しかし,脳血流量の手術前後の変化は有意であっても,脳血流量の術前の絶対値でシャント術の有効症例を選別することは困難である.われわれは,上述したOEFおよび心拍出量が,NPH病態で生じている脳血流低下を代償する機序として作動している可能性があると考え,これら2つの因子が,シャント術の有効症例を術前に高率に選び出す指標となるか否かを検討した.
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