icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科27巻9号

1999年09月発行

雑誌目次

『多すぎる学会』

著者: 渡辺高志

ページ範囲:P.784 - P.785

 毎週のように,脳神経外科に関連する全国規模の学会,研究会,シンポジウムが日本のどこかで開かれている.各地方,各教室あるいは各施設内の研究会,セミナーを含めると,さらに多くなる.それぞれの発表を拝聴してみると,勉強になることも多く,おおいに参加を推奨できる.実際,各会において,会場は多くの参会者でいっぱいである.日進月歩の時代において,他に遅れまいとして勉強し続ける脳神経外科医の熱い心を感じる.少しでも多くの知識を吸収して,日常の診療に役立て,新たな論文を書くための糧にしているのである.このような力が,この日進月歩の時代を造っているのである.しかし一方,同じ演者によるほとんど同じ内容の発表を違ったいくつかの会で聞くこともしばしばである.毎年続けて新しい有意義な仕事を成し遂げることは至難の業であろう.20年前,ドイツのヴィスバーデンで行われた神経放射線学会で,会場でたまたまお会いした佐野圭司先生が,観光に行きたそうにしていた私に「良い発表はかならず論文になります.」と言われたことを思い出す.
 ところで,これらの会の運営は,教室あるいは施設内の会を除き,ほとんどすべての会が企業の寄付で成り立っている.小さな研究会では,会費はなくすべてを企業が負担している場合も多い.大きな学会でも,会費の割合は低く,企業からの寄付に頼っている.ホテルを使うため高い会場費,外国から等のたくさんの招待者,豪勢な懇親会等を賄うために,その会の事務局は企業に寄付をお願いする.企業側からすれば,純粋な寄付である場合もあろうが,投資の面も強い.これらは,回り回って医療費を確実に引き上げている.こういう構図こそが,社会における諸悪の根源である.医師のための医師による会である.参加者の会費で会を運営しなければならないことは当然である.公的な場所を会場に選べば良いし,招待者も多くしないようにし,懇親会もできるだけ質素にするべきである.会の運営もその種の企業にまかせずに,自らで行えば,かなり節約できるだろう.おそらく,そうしても運営費は不足するはずであるので,その分は参会費を値上げして,補うしかないであろう,それでも会の運営費が足りなければ,その会がおもしろくないかあるいは必要がないのである.赤字が続くような会は存在価値がないことを示しているのである.寄付をまったく否定しているのではなく,寄付する側と寄付を利用する側との間に第3者を入れ,関係を完全に断つことが必要である.寄付の配分を第3者が決めることで,寄付する側との関係をなくすることができる.

総説

神経幹細胞の生物学的特徴とその治療への応用

著者: 内田耕一 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.787 - P.797

I.はじめに
 哺乳類の神経系には,1012個もの多種多様な細胞が存在する.これほどの膨大な数の不均一な細胞により構成される神経系も,その発生の始まりは1個の受精卵でしかない.この受精卵が,本来の意味での幹細胞である.この幹細胞が,神経幹細胞や血液幹細胞のような各組織を構成する“組織幹細胞”となり,複雑に分化した個体を創り出していくものと考えられる.現時点でこの“組織幹細胞”の存在が明らかになっているものは,神経,造血器,皮膚,小腸腺上皮である.これらの組織には,比較的生存期間が短く,最終分化した成熟細胞を供給し得る未分化細胞集団が存在することが実験的に証明されている.これらの未分化細胞集団は,個体発生の初期のみならず成熟個体にも存在する.成熟個体におけるこの“組織幹細胞”の存在意義は,組織障害に際して損傷細胞を補填し修復することにある.しかしながら中枢神経系は,この神経幹細胞が充分に機能できる環境にないために,完全な機能修復に至らないことが殆どである.そこで,分子生物学的手法,細胞工学技術を駆使して,この神経幹細胞の生物学的特徴を理解し,神経幹細胞が充分機能できる環境を整えることが,その治療への応用を考える上で極めて重要である.本稿においては,この神経幹細胞の概念,生物学的特徴についてわれわれの研究データをまじえてレビューし,さらに脳内移植治療への応用の可能性についても紹介する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

末梢性顔面神経麻痺の再建術—半側舌下神経顔面神経端側吻合術および大耳介神経移植術

著者: 澤村豊 ,   浅岡克行

ページ範囲:P.799 - P.806

I.はじめに
 頭蓋底外科の発達によって,それまで到達が困難であった深部の病変や手術不能とされていた後頭蓋窩や頭蓋底を広範に侵す病変の治療が可能となってきた.しかし一方で,このような手術の最中に脳神経が損傷される,また場合によっては,手術の目的に従って意図的に切断されるために,術後に機能障害を残すことは,依然として少なくない.なかでも,顔面神経麻痺は,咀嚼や飲水などの機能障害や,著しい顔貌の変形を来たすため,患者の精神的苦痛は計り知れないものがある.これは同時に,術後の社会復帰にも大きな障壁となるため,傷害された顔面運動筋の機能再建は極めて重要な意義がある.

研究

内頸動脈傍床突起動脈瘤の手術成績と留意点—顕微鏡手術と血管内手術との適応に関する考察

著者: 長澤史朗 ,   川端信司 ,   出口潤 ,   黒岩輝壮 ,   太田富雄 ,   津田永明

ページ範囲:P.809 - P.816

I.はじめに
 無症候性の傍床突起内頸動脈動脈瘤の増加につれて,顕微鏡手術例も増加している12,14,17).この部位の動脈瘤は変化に富んだ解剖構築に囲まれているため,他の部位のそれと比較して手術は一般に困難である.しかし解剖学的変化とそれに由来する手術の困難度,予想される合併症と対処法などについては既に多くの報告があり2,5,7,9,10,21-23,26),術前にこれらの点を検討することにより顕微鏡手術の成績を向上させることができると考えられる.
 一方,血管内手術による動脈瘤内コイル塞栓術(以下血管内手術と略す)は近年著しく普及してきた.この部位の動脈瘤は彎曲部に存在し,また術中の塞栓操作のみならず手術終了後もサイホン部内頸動脈の複雑で大きな血流の影響を受ける.このため他の部位とは別の困難要素があり20,25),またより長期的な追跡が不可欠とされている.しかし血管内手術は血管外の頭蓋底構築の変化に影響されにくいため,この部位の動脈瘤の治療に適しているとも考えられ,最近その治療例が増加している6,20,24,25)

頸部内頸動脈狭窄性病変に対する自己拡張型ステント(Wallstent®)を併用した経皮的血管形成術の経験と問題点

著者: 荒川芳輝 ,   石井暁 ,   上野泰 ,   菊田健一郎 ,   善積秀幸 ,   後藤泰伸 ,   西崎順也 ,   森本将史 ,   佐藤徹 ,   光藤和明 ,   山形専

ページ範囲:P.817 - P.823

I.はじめに
 近年,血管内治療として頸部内頸動脈狭窄性病変に経皮的血管形成術(percutaneous transluminalangioplasty:PTA)が行われつつあるが,PTAだけでは十分な拡張が得られなかったり,PTA時の塞栓症,再狭窄等の問題がある8,9,11,13,18,21,23).また頸部頸動脈狭窄性病変に対しては頸動脈血栓内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)が有用性を認められた治療法として存在している4,5,16).こうした中,血管内治療においては,冠血管の狭窄性病変におけるステント併用PTAの有用性が認められ6),頸部内頸動脈狭窄性病変に対してもステント併用PTAの報告がなされている3,17,22)
 今回われわれは頸部内頸動脈狭窄性病変に対して自己拡張型ステントを併用した経皮的血管形成術を行い良好な結果を得たので,その初期成績,合併症,再狭窄率について文献的考察を加え報告する.

ゴアテックス®人工硬膜の縫合固定法に関する実験的研究—髄液漏を防ぐための工夫

著者: 山村浩司 ,   坂田勝巳 ,   山本勇夫

ページ範囲:P.825 - P.829

I.はじめに
 本邦では乾燥死体硬膜の使用が全面的に禁止され,これに代わりゴアテックス®人工硬膜(Expanded Polytetrafluoroethylene sheet,以下ePTFE)が普及している.しかし,ePTFEは収縮性が無いため,縫合針によりできた針穴がそのまま残ることから術後に髄液漏を生じることがある4).そこで今回われわれはどのような縫合固定法がもっとも髄液漏を予防できるかを実験的に検討した.

喫煙が未破裂脳動脈瘤の発生およびくも膜下出血の発症におよぼす影響

著者: 松本勝美 ,   赤木功人 ,   安部倉信 ,   大川元久 ,   田崎修 ,   押野悟

ページ範囲:P.831 - P.835

I.はじめに
 喫煙は血管の動脈硬化を促進し脳卒中のリスクを増加させる2,14,17,21).なかでも喫煙とくも膜下出血との関連性はmeta analysisでみると脳出血や脳梗塞に比べさらに強く,喫煙者のくも膜下出血の発症は非喫煙者の29倍となる14).Weir(1998)らのcooperative studyでは,喫煙者のくも膜下出血の発症率の上昇に加え,発症率と喫煙量が比例し,脳血管攣縮を合併する率が非喫煙者にくらべより高いという結果になった20).一方,くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤がどう形成され破裂するかについては,hemodynamic factorや,中膜欠損,高血圧の影響など複数の要因が提唱されている7,11,18)が,喫煙がどう影響するかのメカニズムについてはいまだに解明されていない.また喫煙が動脈瘤の形成に関与するのか,破裂に関与するのかも明確ではない.今回くも膜下出血例および未破裂脳動脈瘤症例について,脳ドック受診者で動脈瘤が否定された症例をコントロールとし喫煙率の違いについて調査した.本研究の結果について喫煙が動脈瘤の形成や破裂に及ぼす影響について文献的考察を加え検討した.

症例

抗結核剤内服中に発症し,髄膜腫様の画像所見を呈した頭蓋内結核腫の1例

著者: 新堂敦 ,   本田千穂 ,   馬場義美

ページ範囲:P.837 - P.841

I.はじめに
 頭蓋内結核腫は,多くは肺結核からの血行性感染により主に脳底槽や脳実質内に形成される2,12).今回われわれは,抗結核剤内服中に発症し,画像・術中所見にて髄膜腫様を呈した頭蓋内結核腫の症例を経験したが,このような形状を呈するものは稀である.症例を提示するとともに,その形成機序,画像所見,鑑別点等を若干の文献的考察を加え報告する.

脳表部Clear Cell Ependymomaの1例

著者: 藤本憲太 ,   大西英之 ,   越前直樹 ,   井田裕己 ,   金本幸秀 ,   本山靖 ,   辻本正彦 ,   竹村潔

ページ範囲:P.843 - P.846

I.はじめに
 Ependymomaは通常,脳室周囲のependymalcellもしくはsubependymal cellから発生すると考えられている2,7,8,10).通常脳室周囲に存在するが,テント上の例は脳実質内に発育する傾向があるといわれている9).しかし,脳表に露出して存在することは非常に稀である4).今回われわれは脳表に存在し,大きな嚢胞を伴ったclear cellependymomaを経験したので,その病理所見,発生起源について若干の考察を加え報告する.

Marfan症候群に併発した仙骨部Meningeal Cystの1例

著者: 土居浩 ,   桜井茂樹 ,   井田正博 ,   楚良繁雄 ,   朝本俊司 ,   杉山弘行

ページ範囲:P.847 - P.850

I.はじめに
 最近本邦でも脊髄の嚢胞性病変の分類で,me-ningeal cystの概念が普及しつつあり,またMRIの普及で容易に診断できるようになっている,今回は結合織に異常があることが指摘されているMarfan症候群に合併する仙骨部meningeal cystの手術例を経験したので文献的考察を加え報告する.

出血にて発症した非外傷性頭皮動静脈瘻の1例

著者: 黒木一彦 ,   田口治義 ,   隅田昌之 ,   江口国輝 ,   斉藤裕次

ページ範囲:P.851 - P.853

I.はじめに
 頭皮動静脈奇形・瘻は稀な疾患で,脳動静脈奇形の約20分の1の程度に過ぎない.拍動性の腫瘤・耳鳴で発症することが多く,出血にて発症した報告は非常に少ない.治療法も症例が少ないため,流入動脈のligation4,8),外科的切除5),endo-vascular surgery7,10),それらの組み合わせ1,6),など報告されているが,確立されてはいない.われわれは出血を伴った症例に対し,頸部外頸動脈を頸部にて一時的に遮断し,外科的切除のみで満足できる結果が得られたので報告する.

読者からの手紙

読者からの手紙/青木信彦氏への回答

著者: 青木信彦 ,   奥村嘉也

ページ範囲:P.854 - P.855

 最近の貴誌における奥村らの硬膜下血腫の論文(奥村嘉也,他:被膜形成を伴う血腫へ進展する急性硬膜下血腫の検討.脳外26:691-698,1998)を興味深く拝読いたしました.著者らは考察の中で“本進展血腫の慢性硬膜下血腫診断は全く否定されるべきものではないと考えられた”と述べています.その主たる根拠として“新鮮血腫を疑わせる正常形態を示す赤血球が多数存在していた”としています.しかし,以下の点でこの血腫を慢性硬膜下血腫とすることに賛成できません.まず,高吸収域から低吸収域に変化することによって増大するCT所見は,著者らも認めているようにコロイド浸透圧などを主因とする髄液の血腫内流入と考えられ,被膜からの出血の関与はあってもわずかなものであります.次に,著者らの述べている“内膜の確認しえたものは症例1のみであったが,ドレナージから髄液の流出するものはなく”と記載していますが,術中にクモ膜を穿破しないかぎり,内膜はなくとも髄液は流出しません.やはり,著者らの症例の多くには内膜が存在していないと考えられます.そして“進展血腫は受傷14-28(平均20.4日)後に形成された”という経過は慢性硬膜下出血とするにはあまりにも早期過ぎます.
 著者らも以上の点を考慮して“本進展血腫の慢性硬膜下血腫診断は全く否定されるべきものではないと考えられた”という控えめな表現を用いていますが,このような臨床像は慢性硬膜下血腫とは異なるものであり,私どもが主張してきました“symptomatic subacute subdural hemtoma”という病態に一致するものです.この病態は放胃されますと,その後に通常の慢性硬膜下上IIL腫になるものと考えていますが,私たちは亜急性期(4週間以内)に治療を必要とする症状を呈するという意味で注目してまいりました.そして,私どもは“symptomatic subacute subdural hematoma”という病態を急性硬膜下血腫や慢性硬膜下血腫とは異なるclinical entityとして位置づけて対応する必要のあることを強調してきたつもりです.著者らのさらなる検討を期待するとともに,多くの読者が決してまれではないこの特異な病態の存在に注目していただきたいと思います.

報告記

「第19回国際脳循環代謝シンポジウム」報告記—apoptosisか,necrosisか,それだけが問題なのか

著者: 阿部康二

ページ範囲:P.856 - P.857

国際会議の概要
 1961年より国際脳循環代謝学会の主催で2年に一度世界各国で開催されてきた国際脳循環代謝シンポジウムは,1999年で第19回目にあたり,6月13-17日の5日間にわたってデンマーク国コペンハーゲン市のベラセンター(写真1)でOlafB.Paulson教授をConference Chairmanとして開催された.
 脳卒中と老年痴呆の基礎的臨床的研究者が集まり,これまでの学問研究の成果を討議し,将来的な学問の発展と治療法確立のための礎とすることを目的として開催された本国際会議は,脳血管障害による神経細胞障害や老年痴呆の基礎的および臨床的研究のための国際シンポジウムとしては世界最大で,すでに国際的評価は確立している.今回も世界35カ国から867演題が応募された.ヨーロッパで行われたためか,その内訳はヨーロッパからが40%,31%が北米,27%が日本を中心としたアジアからのものであった.最終的に839演題が採択された.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?