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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科28巻1号

2000年01月発行

雑誌目次

“EBM”と患者のアイデンティティー

著者: 太田富雄

ページ範囲:P.6 - P.7

はじめに
 世界は今や時間的・空間的に一つとなり,科学文明の爛熟期に入った感がある.しかしその反面,哲学・倫理など,人間性に関する人文系の学問と実践は忘却の彼方に追いやられてしまった.最近、気がかりな二、三のことについて,私見を述べたい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

前交通動脈瘤の手術

著者: 佐野公俊

ページ範囲:P.9 - P.16

I.はじめに
 前交通動脈動脈瘤の手術はpterional approachとinterhemispheric approachが一般的であるが,今回はpterional approachについて述べる.
 pterional approachの利点1-3)は,くも膜下出血例の急性期手術においてくも膜下腔の広範な開放と可及的血腫除去が可能なこと,嗅神経の損傷が少ない点,また早期に同側の前大脳動脈や両側の中枢側動脈が確保できる点などがあげられる.欠点としては,高位前交通動脈では脳の圧排が強く,ときとしてgyrus rectusの一部切除を必要とする場合がある.両側A1, A2及び前交通動脈の5本の血管が密集する部位であり,動脈瘤と諸血管の位置関係が場合によっては理解しにくいことがある.また高位(2cm以上),後方向き動脈瘤では,視野内では処理が困難なこともある.これらに観点をおいた前交通動脈(Acom)動脈瘤へのpterional approachについて述べる.

研究

Three-dimensional CT Angiography(3D-CTA)の頭蓋底静脈描出能の検討—subtemporal approachへの利用

著者: 鈴木泰篤 ,   松本清

ページ範囲:P.17 - P.22

I.はじめに
 近年脳動脈瘤の診断などを中心に頭蓋内動脈系の検索にthree-dimensional computed tomogra-phy angiography(3D-CTA)が広く用いられるようになった11-13).それに伴い同時に描出される静脈系の判読のための知識も必要となっているが,正常の静脈とそのバリエーションに関して述べた報告はほとんどない5).一方,頭蓋内の手術を行う場合,頭蓋内静脈系のバリエーションを充分理解し,各症例でその走行を正確に把握しておくことはきわめて重要である.今回われわれはinfe-rior temporal veinの検索に3D-CTAを用い,その描出能とバリエーションをdigital subtractionangiography(DSA)と比較し検討した.subtem-poral approachに関係する静脈系検索への3D-CTAの利用について考察し報告する.

MRI分類に基づくてんかん手術の効果

著者: 藤井正美 ,   秋村龍夫 ,   久保田尚 ,   安田浩章 ,   伊藤治英 ,   林隆 ,   西河美希 ,   緒方博子

ページ範囲:P.23 - P.29

I.はじめに
 わが国のてんかん患者総数は約100万人と推定され,そのうち約20万人は薬剤の効なく苦しんでいる難治性てんかんの症例と報告されている28).これらのうち,海馬硬化を主体とする内側型側頭葉てんかん(MTLE)に対しては,内側側頭葉切除術により68%で発作消失,改善24%,不変8%と良好な結果が得られている6).しかしMTLE以外のてんかん症例に対しては種々の手術法が用いられてはいるが,てんかん焦点の組織学的多彩性のため手術効果は様々である6)
 一方,近年頭蓋内脳波記録およびMRIなどの画像診断の進歩に伴い,焦点部位が正確に同定できるようになり,MTLE以外のてんかん症例においても病巣切除術や焦点皮質切除術などによる外科治療成績が向上している.さらに術前診断に加え,Morrel1ら20)が開発した軟膜下皮質多切術(MST)の実験的および臨床的有効性が報告されるようになり8,10,11,21,23,26),広範囲に焦点を有する症例や運動野,言語野などの切除困難な部位に焦点を持つ症例に対しても,手術が行われ,手術適応の範囲は以前より拡大している.
 このような背景を踏まえ,今回われわれはMTLE以外のてんかん症例を術前のMRI所見より3つの群に分類し,それらの症例に外科治療を施行しその効果につき検討したので報告する.

3D-CTAによる内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤とInfundibular Dilatationの鑑別診断

著者: 久保田司 ,   丹羽潤 ,   谷川原徹哉 ,   千葉昌彦 ,   秋山幸功 ,   稲村茂

ページ範囲:P.31 - P.39

I.はじめに
 近年magnetic resonance angiography(以下MRAと略)での脳血管スクリーニング検査の普及などに伴い,無症候性の血管隆起を発見する機会が増えている.なかでも内頸動脈-後.交通動脈分岐部(以下IC-PCと略)はinfundibular dilata-tion(以下IDと略)の好発部位であり,動脈瘤との鑑別が必要となる.digital subtraction angio-graphy(以下DSAと略)でも動脈瘤かIDかの鑑別が困難なIC-PCの血管隆起を,three-dimen-sional CT angiography(以下3D-CTAと略)の撮影方法を工夫して鑑別したので報告する.

症例

Interventional MRIを用いた定位的脳内血腫吸引術の有効性について

著者: 寺尾亨 ,   橋本卓雄 ,   小山勉 ,   石橋敏寛 ,   森田琢 ,   原田潤太 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.41 - P.45

I.はじめに
 定位的脳内血腫吸引術は1978年,Backlundら2)により施行されたCTガイド下での報告に始まる.この手術方法は局所麻酔下による頭蓋骨穿頭で施行され,全身麻酔の合併症の予防および患者の外科的侵襲の軽減という点で優れた方法である.しかし従来の定位的脳内血腫吸引術では,実際に血腫の吸引過程をリアルタイムに評価できないため,多量の残存血腫が存在したり血腫を吸引し過ぎ再出血を来たす.可能性がある3).またCTガイド下では骨によるアーチファクトにより間脳下垂体部や脳幹部を含む後頭蓋窩領域などは明瞭な画像を獲得されず,また術者,患者ともに放射線被爆を受けねばならない.今回,われわれはこれらの欠点を改良するためinterventional MRI(以下,I-MRIと略)を用い定値的脳内血腫吸引術を考案した.この手術方法は,MR-fluoroscopy(以下,MR-Fと略)を利用することでほぼリアルタイムに血腫の吸引過程をモニターで観察することを可能とした.よって手術を安全かつ確実に施行でき,術中の残存血腫に対し容易にtrajectoryを変更することで広範囲での血腫の吸引を可能としたため,その手術方法を中心に報告する.

保存的治療にて改善した非出血性両側性椎骨動脈解離性動脈瘤の1例—特に動脈瘤様膨隆の一過性拡張について

著者: 篠山隆司 ,   頃末和良

ページ範囲:P.47 - P.51

I.はじめに
 脳虚血で発症した頭蓋内椎骨動脈解離性動脈瘤の病態および自然経過が近年解明されつつあるが,その予後,治療法については未だ一定の見解が得られていない.われわれは右ワレンベルグ症候群にて発症した両側椎骨動脈解離性動脈瘤に対して保存的治療を施行し,脳血管撮影上動脈瘤様膨隆が一過性に拡大した後縮小した症例を経験した.椎骨動脈解離性動脈瘤の自然経過を考える上で興味ある症例と考えられたため,文献的考察を加えて報告する.

非外傷性頭蓋内内頸動脈解離性動脈瘤3症例の経験

著者: 玉野吉範 ,   氏家弘 ,   佐々木久里 ,   井澤正博 ,   佐藤和栄 ,   堀智勝

ページ範囲:P.53 - P.59

I.はじめに
 頭蓋内解離性動脈瘤の報告例は近年,脳血管撮影検査やmagnetic resonance images(MRI)の普及によって増加傾向にある29).しかし,その報告例の多くは椎骨脳底動脈系のものであり5,22,23,31),頭蓋内内頸動脈系に関しては症例報告のみである8,10,13,14,16,18-20,26-28,30,33)
 今回われわれは,頭蓋内内頸動脈解離性動脈瘤を3例経験したので文献的考察と共に,その発生要因について流体力学的に検討を加え報告する.

中大脳動脈解離性動脈瘤の1例

著者: 仁村太郎 ,   奥達也 ,   成田徳雄 ,   樋口紘

ページ範囲:P.61 - P.65

I.はじめに
 近年,頭蓋内解離性動脈瘤に対する関心が高まり,本邦を中心に多数の報告がなされている9-11).その多くは椎骨脳底動脈系の動脈瘤であるが,内頸動脈系についての報告は少なく10,11),特に中大脳動脈解離性動脈瘤の報告は10例にも満たない1-3,5-8).今回,われわれは脳内出血で発症し,脳血管撮影,術中所見を経て確定診断に至った中大脳動脈解離性動脈瘤を経験したので文献的考察を加えて報告する.

短期間に頻回の出血をくり返したChoriocarcinomaの1手術例

著者: 櫻田香 ,   嘉山孝正 ,   川上圭太 ,   斎野真 ,   佐藤慎哉

ページ範囲:P.67 - P.72

I.はじめに
 脳原発choriocarcinomaは易出血性であり,その出血により時に腫瘍出血死を来たすことは良く知られている.しかし,その発生頻度は極めて低いため,病態に関する理解は今もって不十分である.今回われわれは経過中数回の出血を繰り返しながらも,良好な経過を呈しているchoriocarci-nomaの1手術例を経験したので,本腫瘍の手術タイミングを中心に文献的考察を加えて報告する.

Myelopathyを呈した小脳テントDural AVFの1例

著者: 山口智 ,   沖修一 ,   三上貴司 ,   川本行彦 ,   桒本健太郎 ,   斎藤太一

ページ範囲:P.73 - P.78

I.はじめに
 頭蓋内硬膜動静脈瘻(頭蓋内dural AVF)は75%-86%が海綿静脈洞か横・S状静脈洞部に発生し,小脳テントに発生するものは全頭蓋内du-ral AVFの3-8.4%を占めるにすぎない1,7).今回,われわれはmyelopathyを呈した小脳テントdural AVFの稀な1例を経験したので,臨床経過,画像所見などを報告し,過去の報告例と併せて検討する.

化膿性頸椎炎の診断と治療—4症例の報告

著者: 西川節 ,   坂本博昭 ,   岸廣成 ,   安井敏裕 ,   小宮山雅樹 ,   岩井謙育 ,   北野昌平 ,   山中一浩 ,   中島英樹 ,   韓正訓

ページ範囲:P.81 - P.87

I.はじめに
 脊椎感染症は,椎体の感染(vertebral osteo-nlyelitis),椎間板の感染(discitis)にわけられるが,多くは同時に侵されるため,spondylitisあるいはspondylodiscitisと呼ばれる8,11).MRIが普及した最近でも高齢化社会の到来に伴って病態は複雑化しており,脊椎炎の診断と治療に迷う機会は,かならずしも減少しているとは思われない1-3,6-8,12,14,19).脊椎炎の多くは胸腰椎にみられ,頸椎炎は稀である1,2,4,8,13,15,19).頸椎炎の4例を経験したので,その臨床的特徴,診断,治療方法と最近の脊椎炎における知見について考察する.

Transcortical Transchoroidal-fissure Approachを用いた後大脳動脈動脈瘤(P2)の1例

著者: 細井和貴 ,   冨田洋司 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.89 - P.93

I.はじめに
 後大脳動脈動脈瘤は発生頻度が少ないため,一般の脳外科医にとって遭遇する機会が少なく,治療困難な動脈瘤の1つである.
 迂回槽への到達法は従来の到達法として側頭下到達法2,11,12)が多く用いられているが,側頭葉圧排が過度になる傾向がある.transcortical trans-choroidal-fissure approach4,5)は側頭葉圧排が比較的少なく,広い術野を確保できる優れた到達法だと思われるが,この部の動脈瘤は脳深部に位置し解剖学的に複雑であり,脳血管写のみでは周囲組織との関係を把握することは熟練を要すると思われる.

読者からの手紙

クーハン(ベビーキャリー)からの乳児転落事故

著者: 坂井恭治 ,   筒井巧

ページ範囲:P.95 - P.95

 クーハンからの転落事故が国民生活センターから最近,集計報告された1).クーハン(couffin)とはフランス語に由来し,「ベビーキャリー」とか「キャリーバッグ」などとも呼ばれる生後4カ月未満の乳児を入れる持ち手のついた大きな篭で,乳児を連れて外出する際に使われることが多い.同センターによると7年間に44件の事故が寄せられ,うち頭蓋骨骨折が7件であった.当院でもこの1年半の間に,クーハンからの転落事故による乳児の頭蓋骨骨折を2例経験した.このことより,同センターからの報告は氷山の一角と思われる.
 当院の症例は生後31日と65日の乳児で,クーハンからの転落で頭蓋骨骨折を起こし,1例は外傷性くも膜下出血も伴っていたため入院を必要とした(図1).事故の状況は,2例とも父親が乳児を運んでいる途中,持ち手を替えようとしてバランスを崩し,クーハンが傾いて乳児が転落したというものであった.残念なことに,2例目の母親は事故の1週間前に育児教室で,小児科医師からクーハンからの転落事故について話を聞いたばかりで注意していたが,このことが父親には伝わっていなかった.クーハンに乳児を乗せた場合,相当の重量になるため実際には父親が持つことが多い.父親にも同用具の危険性を周知させることが必要と痛感した.また,クーハンを製造する側にも転落を防止する構造上の改善,販売する際の使用上の注意の徹底が強く望まれる.最近,当院では育児教室に加え,小児科外来に同センターからのパンフレットを掲示し,保護者への注意を行っている.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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