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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科28巻11号

2000年11月発行

文献概要

総説

三叉神経痛

著者: 大野喜久郎1

所属機関: 1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科認知行動医学系専攻脳行動病態学講座脳神経機能外科学分野

ページ範囲:P.939 - P.950

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I.はじめに
 疼痛は,他人にはわからず,またその程度を客観的に計る厳密な方法もない.しかし,人間にとってあらゆる悩みの中で最もつらく忌避すべきものである.疼痛には異常を示す警告という側面があるが,この三叉神経痛に関しては,多くの場合,そのような利点は全く認められず,拷問ともいえる苦痛以外のなにものでもない.患者の中には,「私はなにも悪いことはしていないのになぜこのような苦痛を与えられねばならないのでしょう」と訴える人もいる.そして,疼痛発作を繰り返すうちに,次の発作がいつ来るかと恐れるようになり,それを思うたびに不安にかられるようになる.また,口を動かすことによる痛みのために食事も思うようにとれず,仕事にも支障をきたすようになる.三叉神経痛の手術を世界的に広めたJannettaの三叉神経痛に関する仕事について書かれたSheltonの著書「ある脳神経外科医の闘い(森惟明訳)」42)には,「あんたにゃ分からないでしょうよ,あの痛みは.まわりからみれば,普段と変わらない様子にみえる.本人だけですよ,あの痛さを知っているのは….」と自殺まで考えた一人の三叉神経痛の患者が,微小血管減圧術(MVD)によって治癒し,正常な生活に戻ってゆく話が紹介されており,これを読むと三叉神経痛の典型的な症状と経過,患者の心理および適切な治療法の有効性,さらには真に画期的な治療法を確立することの偉大さが伝わってくる.一方,近年は以前と違ってかなり啓蒙されてはきたものの,いまだに歯科医にて何本か抜歯された後,はじめて診断が下されることがあるのも事実である.
 このように,大多数の患者では生命を直接脅かすことのない痛みとはいえ,三叉神経痛は人間の生存意欲にまで影響を及ぼしうる疾患である.そして,適切な治療を行うことにより,何も失うものもなく,全く元の生活に戻ることが可能な疾患である.それゆえ,三叉神経痛は,まず正しく診断することが重要といえる.本稿では,MVDなどの脳神経外科治療の対象となる三叉神経痛に限って,これまでの知見をもとに,症候の特徴,画像診断,治療法,治療成績について概説する.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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