icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科28巻2号

2000年02月発行

雑誌目次

モンテ・クリスト伯

著者: 飯塚秀明

ページ範囲:P.104 - P.105

 私立医科大学に勤務し教育職としての給料を受けている身であるから,学生の教育は当然のことながら最優先の仕事である。学生の講義や臨床実習などを担当するようになってから10年近くなるが,恥ずかしいことに,教育のやり方,技法たるものを学んだことがない身であるので,これまで試行錯誤の連続で現在もそうである.
 学生に興味を持たせる意味で,講義中に,卑近な譬え話しや,自身の苦労を話すことがある.ここ3年ほど,意識障害のテーマでの臨床講義をしているが,そのなかでLocked in症候群を説明するときに,アレクサンドルデュマの“The Count of Monte Cristo”の話をしている.Noirtier de Villefort老人は卒中のために身動きできない状態となるが,瞬きにより自分の意志を伝え,意に沿わぬ息子の検事総長に一泡ふかせる描写があることは良く知られている.PlumとPosnerの名著,“The Diagnosis ofStupor and Coma”のなかにも引用されているのは周知のことと思う.この話をしてもこれまで学生の反応は全くない,今年もそうであったが,学生にこの小説を読んだことがあるか尋ねてみると一人もいない.小説自体は,岩波文庫で7巻ほどになる長編だったと思うが,子供向けの“巌窟王”の名を言っても,ほとんどの学生が知らない.現在の教育システムでは,受験のため,暗記,詰め込み,ガリ勉に,多感な青春の2〜3年を費やすことになり,長編小説を読む時間などはないのであろう.

解剖を中心とした脳神経手術手技

不随意運動症の病態と定位脳手術

著者: 富田享 ,   大本尭史

ページ範囲:P.107 - P.125

I.はじめに
 定位脳手術が適応となる不随意運動症は,大脳基底核および視床において錐体外路系神経回路網のどこかに異常を来たし,その結果として惹起された“hyperkinetic state”(振戦,固縮,バリズム,ジストニア,ヒヨレア等)であり,final commonpathwayとしての視床に対する破壊術が治療の中心であった.ところが,Laitinenの報告37)以来,脱抑制という概念で“hypokinetic state”(パーキンソン病の無動,姿勢保持障害等)にも適応が広がり,淡蒼球内節,視床下核が注目されるようになった.これらの手術の理論的背景として,De-Longら12)の大脳基底核を中心とする錐体外路系神経回路網の仮説(Fig.1)は,疾患の病態を理解する上で極めて有用である.本稿においては,主に不随意運動症に関連した大脳基底核の線維連絡を中心に定位脳手術について概説する.

研究

三叉神経痛に対するMicrovascular Decompressionにおける三叉神経根Mapping

著者: 畑山徹 ,   真鍋宏 ,   長谷川聖子 ,   馬場祥子 ,   関谷徹治

ページ範囲:P.127 - P.134

I.はじめに
 現在,三叉神経痛に対する治療としては,mi-crovascular decompression(MVD)が優れた手術法としてほぼ確立されているが1,4,6-8),頭蓋内の三叉神経根において,臨床的に疼痛を生じている分枝の走行と,実際に圧迫されている部位の関連性については,これまで電気生理学的にほとんど検討されていない13).また,難治性の再発例や圧迫血管が見つからない症例に対しては,三叉神経根のrhizotomyが選択されることがあるが,角膜潰瘍予防のため第1枝を温存するselective rhizo-tomyの範囲を「神経根尾側の半分から3分の2」といった従来の目測による方法2,11,15)で決定した場合には,切断範囲が不正確となり,術後も神経痛が残存してしまう可能性がある.そこでわれわれは,三叉神経痛に対する手術において,三叉神経根を電気刺激し,逆行性に伝導する神経活動電位を顔面から記録することによって神経根のmappingを行い,圧迫部位における分枝の同定,およびrhizotomyの範囲決定を行ったので報告する.

Cortical DysplasiaとDNTに対するてんかん外科戦略の相違について

著者: 福多真史 ,   亀山茂樹 ,   富川勝 ,   和知学 ,   笹川睦男 ,   金澤治 ,   川口正 ,   山下慎也 ,   田中隆一

ページ範囲:P.135 - P.144

I.はじめに
 近年,MRIの普及により様々なてんかん原性病変が発見される機会が多くなった1,9,10,17).その中でcortical dysplasia(CD)とdysembryoplas-tic neuroepithelial tumor(DNT)は,いずれもてんかんの原因となりうる代表的な頭蓋内病変である.てんかん外科施行例の報告が散見される1-5,8-13,17,18,20).このような頭蓋内病変を有するてんかん症例に対して発作抑制の目的で手術を施行する場合,その切除方法としては病変部のみを切除する方法,病変部周囲の発作焦点のみを切除する方法,病変部と周囲の発作焦点の両方を切除する方法の3つに主に分類される.いずれの方法を選択するかはその病変の持つてんかん原性との関わりに依存する.われわれは難治性てんかんの原因となったこの2つの頭蓋内病変の症例に対しててんかん外科を施行した症例を後方視的に分析し,異なる病変が有するてんかん原性と手術戦略の相違について考察を加えたので報告する.

脳内出血と頸部粥状動脈硬化の関連性—超音波断層法による検討

著者: 玉置智規 ,   大山健一 ,   植松正樹 ,   林靖人 ,   水成隆之 ,   寺本明

ページ範囲:P.147 - P.152

I.緒言
 動脈硬化は脳血管疾患の基盤となる重要な病態であり,大および中血管に生ずる粥状動脈硬化と小動脈に生ずる細動脈硬化に分類される。脳内出血(intracerebral hemorrhage:ICH)の発症原因は穿通枝動脈の中膜壊死に起因する微小動脈瘤が重要視されており,細動脈硬化が大きく関与し,粥状動脈硬化との関連性は無いとされている16).しかし,本邦では近年,食生活など生活習慣の急激な変化に伴い,高コレステロール血症,肥満,耐糖能異常など粥状動脈硬化の危険因子の合併率が上昇し,脳卒中の病態にも影響を与えている.すなわち,脳出血性疾患の減少や脳虚血性疾患の増加,ICHでは致死的ICHの減少,小血腫の増加,脳梗塞では皮質枝梗塞の増加である2,12,13,20)
 これら近年の脳卒中病態の変化を鑑みると,細動脈硬化症のみ関連が深いとされるICHにおいても粥状動脈硬化症の合併例は増加し,その病態に影響を与えていることが推察される.今回われわれはICHにおける粥状動脈硬化の影響を再検討するために頸部粥状動脈硬化病変を非侵襲的に評価できるとされる超音波断層法(B-mode法)を用いて検討した19)

症例

脊髄髄膜瘤修復術後に発生したSpinal Dermoid Cystの1例

著者: 岩崎真樹 ,   吉田康子 ,   白根礼造 ,   吉本高志

ページ範囲:P.155 - P.160

I.はじめに
 われわれは新生児期の脊髄髄膜瘤整復術後に遅発性にtethered cord syndromeとspinal dermoidcystを認め,外科的治療により神経学的症状が著名に改善した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Rete Mirabileを合併した先天性両側内頸動脈形成不全の1例

著者: 中岡勤 ,   菅間恒 ,   松浦浩

ページ範囲:P.161 - P.166

I.はじめに
 外来のMRI検査にて脳動脈瘤様のflow voidを認め,脳血管撮影では先天性左内頸動脈欠損,右内頸動脈低形成が存在し,外頸動脈から中硬膜動脈を栄養血管とするrete mirabileを介して,頭蓋内内頸動脈が造影されていた1症例を経験した.rete mirabileは,ヒトの発生過程では認められず,またその頻度は血管撮影10000に1例と珍しく,今までの報告は19例と少ないので,若干の文献考察を加え報告する.

下垂体腺腫の経鼻的アプローチ時に生じた外傷性頸動脈海綿静脈洞瘻に対するコイル塞栓術による1治験例

著者: 小林信介 ,   阿部琢巳 ,   古屋一 ,   土肥謙二 ,   嶋津基彦 ,   佐々木健 ,   泉山仁 ,   松本清 ,   大気誠道 ,   根本繁

ページ範囲:P.167 - P.171

I.はじめに
 現在経蝶形骨洞的手術は,下垂体腺腫に対する第一選択の治療法として定着している.しかし解剖学的にトルコ鞍の近傍には内頸動脈や脳神経が存在する海綿静脈洞が位置しており,これが重篤な術中や術後の合併症を引き起こす原因になりうる1,2,4,5,14-17).また外傷性頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid cavernous fistula:CCF)の治療法としては,バルーンやコイルを用いた血管内手術が主流をしめるようになった1,3).今回われわれは下垂体腺腫の経鼻的アプローチの際に生じた外傷性CCFに対し,コイル塞栓術を施行し良好な結果を得た症例を経験したので,手術手技上の反省をふまえ,文献的考察を加え報告する.

慢性硬膜下血腫の血腫細胞診および外膜の病理所見から悪性腫瘍が判明した3症例

著者: 増山祥二 ,   府川修 ,   三谷慎二 ,   伊藤誠康 ,   伊藤健司 ,   浅野重之

ページ範囲:P.173 - P.178

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫(以下CSH)は,血腫穿頭術で比較的容易に治癒が得られる疾患であるが,基礎疾患がある場合必ずしもよくないことがある.今回われわれは,同疾患で手術を行った際の血腫smearによる細胞診所見あるいは血腫外膜の病理所見から,悪性腫瘍が判明した3症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

ステント留置が奏功した特発性頸部内頸動脈解離の1例

著者: 大石英則 ,   川口洋 ,   石井和則 ,   板東邦秋 ,   蘆田浩

ページ範囲:P.179 - P.184

I.はじめに
 特発性頸部内頸動脈解離は,従来稀な疾患と考えられてきたが1,14),疾患への認識と画像診断の発達に伴いその報告例は増加しつつある15,16,21,25).最近では,特に若年者の虚血性脳疾患の原因として重要と考えられている10,23).しかし,その治療にステント留置術を応用した報告例は少ない3,5,17).今回,著者らは特発性頸部内頸動脈解離に対しステント留置術を行い,良好な結果を得た1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

医療問題

脳死体からの臓器提供に関わる米国視察記

著者: 坂井信幸 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.187 - P.198

I.はじめに
 臓器移植法が平成9年10月に施行されてから2年が経過した.本年2月に高知から第1例目の脳死体からの臓器提供が行われたことは記憶に新しい.その後東京,宮城,大阪から相次いで臓器提供が行われ徐々に移植医療への理解が深まりつつある.移植医療は善意の臓器提供者(ドナー)が現れなければ成り立たない特殊な医療であり,法律施行後しばらくの間臓器提供者が現れなかった時は,臓器提供意思表示カード(ドナーカード)の普及不足をはじめとする社会全体の移植医療に対する無関心がその根底にあると言われた.脳死をヒトの死として受け入れ,臓器や組織を提供するかどうかは個人の自由意思に任されているが,われわれ脳神経外科医をはじめとするドナー治療医は,脳死・臓器提供・移植医療に関して正しい知識と認識を持ち,善意の提供者を手助けする義務がある.本年1月末から2週間,すでに15年間以上移植医療を進めてきた米国の実状を視察する機会を得たので,わが国の制度との比較を行い報告する.

報告記

第13回国際脳腫瘍カンファランス(The 13th International Conference of Brain Tumor Research and Therapy)報告記

著者: 生塩之敬

ページ範囲:P.200 - P.201

 1999年10月3日から6日まで,第13回国際脳腫瘍カンファランス(The 13th Internationai Conference ofBrain Tumor Research and Therapy)が北海道大学脳神経外科阿部弘教授の会長のもとに,紅葉の始まった美しい洞爺湖畔のホテルで行われた.アメリカ,カナダ,ヨーロッパ,およびアジアの20カ国から150名の新進気鋭から大御所までの研究者を迎え,総勢250名の出席者により,“悪性脳腫瘍の病態の解明と新しい治療法の開発”を日指して,連日レベルの高い熱のこもった報告と討論がなされた.
 この学会の起源は,1975年,California大学SanFrancisco校(UCSF)Brain Tumor Research CenterのWilson教授,Levin教授および故星野孝夫教授らが,先の目標を目指してカリフォルニア南部のAsilomarで,主に北米の研究者を集めて開催した研究会に遡る.この会は瞬く間にいわゆる“Asilomar Conference”と呼ばれ国際的にも有名になり,第3回の会には,故星野教授の紹介により,永井政勝教授,阿部弘教授と私が出席させていただいた.日本脳腫瘍カンファランスの前身の日光カンファランスはこの会を手本に作成されたものである.第4回の“Asilomar Conference”は日本に誘致され,日光で佐野圭司教授を会長として開催された.この頃から,この会はますます国際色が豊かになり,いつの頃からか現在の国際脳腫瘍カンファランスと呼ばれるようになった.ちなみに,第7回は永井政勝教授を会長として箱根で開催されており,今回は日本では3回目の開催になる.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?