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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科28巻3号

2000年03月発行

雑誌目次

このごろの若い者は…

著者: 松田昌之

ページ範囲:P.210 - P.211

 最近,大学における学生の授業を受ける態度がかなり悪くなってきた印象がある.本学での印象であり,他大学にもあてはまるものではないかもしれない.授業開始のベルが鳴るわけではないが,開始時間が過ぎて教官が講義を始めようと前に立って待っているにもかかわらず,教室の後方では数人の学生が立って雑談を続け,やめようとしない風景がこの1・2年多くなってきた.また坐って待っている他の学生がそれをやめさせようという行動もとらない.先日は“教室から出て行くか,坐るか,どちらかにしなさい!”と一喝したが,最近報じられている小・中学校における学級崩壊のニュースをふと思い出した.子供と違って指示には従うだけましといえるが,以前には考えられなかった光景である.まだある.教室で,しかも授業中に飲食する学生がいるという話を他の教官から聞いた.アメリカではずっと以前から,セルフサービスのパンかサンドイッチ,コーヒーが準備されている早朝や昼食時のセミナーや抄読会があり,近年では我が国でもセミナー中に食事が出る場合があるが,あくまで食事の時間帯に開催されるからである.だいぶ前であるが,高校では“早弁”と称して,昼食時間前に授業中に弁当を食べる生徒がいると報じられていた.最近は街なかで歩きながら食べたり飲んだりしている若者(若者に限らないが)を多く見かけるようになった.リゾート地ならともかく,所かまわず飲食することを彼等は流行のファッションとでも思っているのかもしれないが,授業中の教室の中まで持ち込むことは願い下げにしてもらいたい.これはもう,けじめ,規律の問題であり,それ以前に家庭におけるしつけの問題であろう.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Spinal Perimedullary AVF/AVMの手術

著者: 宮本享 ,   永田泉 ,   橋本信夫 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.213 - P.217

I.はじめに
 脊髄周囲くも膜下腔に存在する動静脈瘻(peri-medullary arteriovenous fistula[AVF])は脊髄動静脈奇形のひとつのsubtypeとして知られている3,9,10).一方,脊髄円錐周囲には,前及び後脊髄動脈からfeedingを受け,上位レベルにおけるintramedullary arteriovenous malformation(AVM)と同様の灌流様式をとる動静脈奇形(ar-teriovenous malformation[AVM])が存在する.これは単なるAVFであることもあれば,多数の動静脈短絡を示すnidusすなわちAVMである場合もある.いずれにせよ,馬尾神経間に介在してくも膜下腔に存在するため手術的治療による根治が可能である.本稿では脊髄血管系の解剖的基礎知識共に本疾患の病態と治療について述べる.

総説

臨床における脳磁図の役割と可能性—頭蓋内病変に対する機能的アプローヂ

著者: 鎌田恭輔

ページ範囲:P.218 - P.231

I.はじめに
 1929年にドイツJena大学のHans Bergerが脳から発生する電気的現象を捉えることに成功し,その後その検査法は脳波(Electroencephalogra-phy:以下EEG)として脳機能の解明,脳疾患の病態生理の把握等広く臨床に応用されてきた.EEGは脳の自発活動電位の変動を電極によって記録したものであり,臨床的には縦軸に電位変動,横軸に時間をとり,電位の経時的変化を観察したものである.大脳皮質の活動電位は,尖端樹状突起と神経細胞の興奮性ならびに抑制性後シナプス電位よりなるものと考えられている.この時生じたイオン電流は,興奮している樹状突起と細胞体のわずかな部位を流れる電流(以下ダイポール)と細胞膜の外側を通って戻る帰還電流の2種類の電流を形成している.このように発生した電流に伴う磁界は,当然ダイポールと帰還電流に由来するが,頭部を球とみなすと帰還電流がつくる磁界がキャンセルされるため,脳から発生する磁界はダイポールの作る磁界のみとなる.この磁界を頭皮上から高感度の磁束センサであるSuper-conducting Quantum Interference Device(以下SQUID)磁束計と超伝導コイルを用いて測定した結果を経時的に表示したものが脳磁図(Magne-toencephatography:MEG)である.つまりEEGとMEGは,神経細胞の興奮によって生じる電気活動をおのおの別の面から観察したものである.これら2者間の大きな違いとしては,MEGに寄与する神経細胞が脳内の全ての神経細胞ではないことである.磁界はダイポールの作る電流と直交するように発生するため,頭部の表面に対して平行に存在する神経細胞,すなわちシルビウス裂や脳底部を除けば,脳溝に存在する神経細胞の作るイオン電流が生じる磁界のみがMEGに寄与することとなる.また,MEGはEEGが皮膚,頭蓋骨,脳等の形態構成材料の電気的性質の影響を大きく受けるのに対し,その影響が非常に小さく脳内の電流源の局在推定をすること(逆問題の解決)が容易であることが大きな特徴である.近年の多チャンネルMEGのコンピュータ技術の目覚しい発展により膨大なデータから複雑な逆問題計算や高速の画像処理が可能になったことでMEGが脳機能の解明の大きな武器となりうることが期待されている.

研究

虚血性脳血管障害におけるドップラー心臓超音波検査の意義について

著者: 山崎友郷 ,   谷中清之 ,   青木司 ,   松木孝之 ,   小野文明 ,   福田利男 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.233 - P.236

I.はじめに
 虚血性脳血管障害の急性期治療においては,厳密な輸液・水分管理が必要である.一方慢性期においても,運動麻痺などの後遺症に対し,リハビリテーションを余儀なくされることが多いが,その際に心負荷や心機能を考慮せねばならない.心機能を評価する指標として心の拡張能や収縮能が挙げられる.これらの値の低下や弁膜症の存在は,直接心不全の引き金となり,急性期の状態悪化や慢性期のリハビリテーションの妨げとなる.したがって虚血性脳血管障害において心機能の評価は必須と思われる.しかしながら,従来は本疾患における心臓の評価は,心源性塞栓症に対する塞栓源の検索など,主に形態的側面に比重が置かれており,機能的側面は重視されてこなかった.
 近年パルスドップラー法やカラードップラー法などの確立により,弁膜症等の形態的評価のみならず心の拡張能・収縮能等の機能的側面の評価が可能となった.今回われわれは,虚血性脳血管障害症例にドップラー心エコー検査を施行し,心臓弁の異常等の形態的評価に加え,収縮能や拡張能等をはじめとする心機能の評価を行った.

脳血管造影を繰り返しても出血源不明とされた破裂脳動脈瘤の3D-CT Angiography所見

著者: 高畠靖志 ,   宇野英一 ,   若松弘一 ,   岡田由恵 ,   金子拓郎 ,   土屋良武 ,   宮山士朗

ページ範囲:P.237 - P.243

I.はじめに
 くも膜下出血で発症しながら脳血管造影を繰り返しても脳動脈瘤を認めず,出血源不明としていた症例が少なからずある.今回,われわれは,three-dimensional CT angiography(3D-CTA)を併用することにより脳動脈瘤を発見し,clippingし得た3症例を経験した.そこで,今回の経験に基づいて,脳血管造影および3D-CTAについて,その利点と欠点を考察した.

症例

治療に難渋したSinking Skin Flap症候群の1例

著者: 程塚明 ,   竹林誠治 ,   中井啓文 ,   橋詰清隆 ,   田中達也

ページ範囲:P.245 - P.249

I.はじめに
 広範囲減圧開頭術は,重症頭部外傷,脳血管障害や脳浮腫の著明な症例においてしばしば行われる手術である.この術後の合併症としてsinking skin flap症候群は比較的よく知られている14).この病態としては,骨欠損部に直接,大気圧が加わることにより,様々な神経症状を呈する,とされており,頭蓋骨形成術にて神経症状は軽快し,予後は良好である.今回われわれは,骨欠損部の著明な陥凹を認め,進行性の片麻痺と無動無言症を呈したsinking skin flap症候群の1治験例を経験したので報告する.

破裂脳動脈瘤術後早期に生じたIsolated Fourth Ventricleの1例

著者: 林成人 ,   野垣秀和 ,   巽祥太郎 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.251 - P.254

I.はじめに
 Isolated fourth ventricleとは,第4脳室から大槽への髄液の交通遮断に加え中脳水道の器質的もしくは機能的閉塞により第4脳室のみ拡大した状態で,頭蓋内圧亢進症状や意識障害,複視,失調などの後頭蓋窩の占拠性病変としての諸症候を呈するものである.一般に先行する水頭症に対しシャント手術を受け長期間経過した例に多いとされる.今回われわれは破裂脳動脈瘤術後早期に生じたisolated fourth ventricleを経験したので報告する.

椎骨動脈—後下小脳動脈解離性動脈瘤Trapping術後,Hyperperfusion Pressure Breakthroughによる小脳出血を来たしたと考えられる1症例

著者: 玉野吉範 ,   氏家弘 ,   堀智勝

ページ範囲:P.257 - P.262

I.はじめに
 解離性動脈瘤の破裂によるsubarachnoid hemor-rhage(SAH)の頻度は,近年digital subtraction angiography(DSA)や3 dimension computed tomography(3D-CT),magnetic resonance im-ages(MRI)等の検査機器の進歩普及によって増加している.一般的に椎骨動脈系の解離性動脈瘤ではSAHにて発症する症例が多く,内頸動脈系では血管閉塞による脳梗塞で発症する場合が多いと言われている16,17).その治療方法は,最近では血管内治療による報告も散見されるが11),明らかな頸部を持たない解離性動脈瘤の場合,一般的にはproximal clippingもしくはtrappingが有効であると思われる.
 今回われわれはSAHにて発症し,右椎骨動脈—後下小脳動脈分岐部(VA-PICA)よりdistalのVAに発生した解離性動脈瘤に対してtrapping術を施行し,その翌日病側PICA領域に出血を来たした症例を経験したので,その発生原因について若干の文献的考察を加えて報告する.

Intrasellar Pure Germinomaの1例

著者: 奥口卓 ,   和田司 ,   吉田雄樹 ,   別府高明 ,   荒井啓史 ,   小笠原邦昭 ,   鈴木倫保 ,   小川彰

ページ範囲:P.263 - P.267

I.はじめに
 Germ cell tumorは鞍上部に好発することは周知の事実であるが,稀にトルコ鞍内発生,またはトルコ鞍内への発育進展がみられ,intrasellar germ cell tumorとして報告例が散見される1-7,9,10)
 特に,トルコ鞍内に発育するintrasellar germi-noma(以下IG)はCT,MRI上均一な内部構造と増強効果がみられpituitary adenomaとの鑑別が困難な例が多い9).われわれは,neurohypophysisに発生しトルコ鞍内への発育進展をみたintrasel-lar pure germinomaを経蝶形骨洞手術にて摘出し,5カ月後にテント上硬膜下腔に播種を来たした症例を経験した.本例について,発生母地とIGの臨床的特徴について若干の考察を加え報告する.

動脈解離を疑い血管内治療を行った前下小脳動脈末梢部動脈瘤の1例

著者: 斎藤敦志 ,   江面正幸 ,   高橋明 ,   吉本高志

ページ範囲:P.269 - P.274

I.はじめに
 診断技術の進歩に伴い,頭蓋内動脈解離の病態が明らかにされつつある.しかし,末梢領域の動脈解離は,まだ報告例も少なく病態が十分には解明されておらず,また治療法も確立されていない.今回,われわれはくも膜下出血にて発症した前下小脳動脈末梢動脈瘤に対し,動脈解離を強く疑い,血管内治療を行った.若干の考察を加えて報告する.

視床出血に続発した脳膿瘍の1例

著者: 岡見修哉 ,   川俣貴一 ,   笹原篤 ,   山里道彦 ,   河村弘庸

ページ範囲:P.275 - P.279

I.はじめに
 今日では,CTなどの画像診断による早期発見が可能になったことと,各種抗生物質の開発により脳膿瘍の死亡率は激減した17,18).しかし,その発見,診断が遅れれば致命的となることには変わりはない.
 脳膿瘍は脳卒中に続発することは稀であるが,今回,高血圧性視床出血発症後に,脳膿瘍を続発した例を経験した.感染徴候を伴わなかったために初期診断に苦慮したので報告する.

中耳炎を併発した巨大な側頭骨骨腫の1例

著者: 新堂敦 ,   本田千穂 ,   馬場義美 ,   高島誓子 ,   永野稔明

ページ範囲:P.281 - P.286

I.はじめに
 頭蓋顔面に発生する骨腫の多くは副鼻腔にみられ,側頭骨に発生する骨腫の報告は比較的稀である.難聴,耳鳴,ときに中耳炎等を合併するため,多くが耳鼻科にて治療されているが,その周囲の構造を含めて理解しておく必要がある.今回,難治性の中耳炎のため手術が必要となり,全摘出し得た巨大な側頭骨骨腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

読者からの手紙

原発性低髄液圧症候群に合併した慢性硬膜下血腫について

著者: 登坂雅彦

ページ範囲:P.287 - P.287

 最近,spontaneous intracranial hypotension(SIH)に対する診断,治療で大きな進歩があった.診断においてMRIでのいわゆるmeningeal enhancementの証明が一般的になったこと1,3),またspinal CSF leakageを検出し直接的に手術する方法が確立しつつあることなどである5).急激かつ激しい頭痛や背部痛で発症しくも膜下出血を疑われることがあることも重要である.(SIHでは脳がわずかに下方偏位を来たすことから,CTにて,迂回槽やシルビウス裂は狭小化し,脳底槽は不明瞭化する,CSFが軽度黄色調を呈することも,くも膜下出血を疑われる要因の一つ.)2,3)また古くから知られているものの重要な合併症として両側の慢性硬膜下血腫(CSDH)を伴うことがある.SIHにCSDHが合併することに関し,逆にCSDHの診断治療においてもSIHを念頭に置くことがポイントの一つであると考えられる.既に1984年大原らはCSDH 44例中,再発を認めた7例中2例がSIHによるものであったことを指摘している4).CSDHの診断の際,くも膜下出血に似た突然の激しい頭痛で発症し,両側性でCTでisodensityを呈し,外傷既往がなく,若年者のものなどはSIHに合併したCSDHを疑い,現在では,まず造影MRIを行って病態を特定すべきであろう(腰椎穿刺は病態の上で望ましくない).1996年に徳野らの報告した「くも膜下出血と診断された両側性慢性硬膜下血腫の2症例」は年齢が43歳,44歳と若く,突然の頭痛で発症し,両側性のCSDHを来たしている.したがってSIHを念頭に入れた診断が必要と考えられる6).SIHに合併したCSDHは,穿頭術を早期に行うと,低髄液圧が基盤にあるため,再発性となる可能性があり,SIHそのものに対する的確な診断と治療が優先されるはずであるが,この点に関しては他の報告においても未だ十分な議論がされていない.今後,CSDHの診断,治療上におけるSIHの意義について再考,再検証するべきと考える.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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