動物嫌いの方には,興味のないことだろう.私も,犬なんかに特別興味はなかった.私の子供の頃,犬は番犬として飼われていた.ドッグフードなんてものは,街に見かけなかった.シベリアンハスキーというのは,犬の一種で,体重30kgにもなる大型犬である.
娘が以前より,犬を飼いたいといっていた.その娘の中学進学が決まった3月,ある日知り合いの獣医さんから電話があった.子犬がいるので貰ってくれませんか,という.翌日が丁度日曜日だったので,朝7時前に起きて皆で出かけた,早く着きすぎて,獣医さんはまだ店を開けていない.日曜日の朝8時前,訪ねる方がおかしい.わかっていたけれど,娘が起きてしまったのである.獣医さんは少し早いな,という顔をして,ダンボール箱に入れた子犬を連れてきた.子犬は3匹いた.全部メスだ.獣医さんは,これは純粋なシベリアンハスキーですと説明してくれる.シベリアンハスキーは,体は黒で,脚が白いと思い込んでいた.子犬の体は焦げ茶で,脚は白である.しかも鼻も茶色だ.子供の頃,茶色の鼻の犬は賢くないと,親に教えられた記憶が蘇った.根拠はない.これは貰わずに帰った方がよい.だけど,断る理由を咄嗟に思いつけない.その間に事態は進んでいた,娘はどの1匹にするか,の選定作業にすでに突入していたのだ.本当は,3匹とも欲しいのである.それは無理なことがわかっている.そこで,戦略を,どの1匹にするか,に縮小していた.1匹は,耳が垂れている.獣医さんは,大人になれば耳は立ちますと説明してくれる.もう1匹は,目が青い.シベリアンハスキーの特徴である.残りの1匹は,獣医さんのくれたドッグフードを脇目もふらず,食べている.30分くらい迷った末,一番元気な3番目の子犬に決めた.家に着く前に,名前はチョビと決まった.風変わりな名前だと思われるだろう.しかし,丁度娘が「動物のお医者さん」という漫画本を読んでいたのである.主人公がハスキーで,名前はチョビだ.人気本で,今でも書店に並んでいる.娘は,もちろん全巻所有している.断っておくが,私は全巻読破する暇はない.ほんの2-3巻,目を通しただけである.しかし,結構面白い.子犬は,半年余りでオオカミのように成長した.体重は25kgを越える.あれから6年過ぎた.娘は,今度は大学受験である.以来玄関は,犬小屋替わりになってしまった.翌年の1月,阪神大震災の朝,大きな揺れで家中飛び起きたときも,キョトンと平気な顔をしていた.シベリアンハスキーといえばいわゆるバブル犬といわれ,一時もてはやされた.しかし大きくなるので,捨てられて野犬となり,ある地方では困っているという記事が新聞に出た.また朝の通勤電車にハスキーが乗り込んで,乗客が怖がって逃げたため,その車両はハスキー1匹となった,というテレビのニュース番組もあった.とにかくバブルがはじけて以後,この犬の人気は下降している.私の自宅の近辺でも,この6年間新しくハスキーが貰われてきた家はない.
雑誌目次
Neurological Surgery 脳神経外科28巻5号
2000年05月発行
雑誌目次
扉
シベリアンハスキー
著者: 有田憲生
ページ範囲:P.400 - P.401
総説
Functional MRIの現状と未来
著者: 中田力
ページ範囲:P.403 - P.410
I.はじめに:歴史的背景
1946年,原子核の磁化magnetizationが示す物理現象に関する論文が二つPhysical Reviewに相次いで掲載された4,22).一つは東海岸の勇Har-vard大学から,一つは西海岸の勇Stanford大学からの報告であった.Edward Mills Purcellに率いられたHarvardチームは高周波radio frequen-cy(rf)エネルギーのresonance absorptionに着目し,その現象をnuclear magnetic resonance(NMR)と名付け,Felix Blochに導かれたStan-fordチームは隣接するrfコイルにもたらすelec-tromotive forceの立場からnuclear inductionと呼んだ註1).これがNMR誕生の歴史である.その後,急速に進んだ技術革新は1950年代後半までに構造解析に必須の方法論として確固たる地位を持つ近代NMRを確立することとなる.これは主としてRichard R.Ernstに率いられたVarianAssociatesa註2)の努力によるとされる.
1895年ドイツ物理学者のWilhelm Conrad RöntgenによるX線の発見より出発した臨床画像学は1972年Hounsfieldによって発表されたcomputed tomography(CT)により革命的変革を遂げた10).
研究
頭蓋底髄膜腫に対するガンマナイフ治療—その治療成績と患者アンケート
著者: 岩井謙育 , 山中一浩 , 中島英樹 , 安井敏裕 , 岸廣成
ページ範囲:P.411 - P.415
I.はじめに
頭蓋底髄膜腫の手術成績は,手術手技,手術アプローチの進歩により改善しているが,なお高い合併症が報告されている1,2,11,13,14).一方radio-surgeryは,髄膜腫に対して,低い合併症で80から100%の腫瘍増大抑制効果が報告されている3-8,10,12,15,16).われわれは,当院にて経験した頭蓋底髄膜腫に対するガンマナイフの治療成績を検討し,患者へのアンケートも行い患者の治療に対する満足度も検討した.
嚢胞性転移性脳腫瘍に対するRadiosurgery
著者: 内野正文 , 長尾建樹 , 清木義勝 , 柴田家門 , 寺尾榮夫 , 金子稜威雄
ページ範囲:P.417 - P.421
I.はじめに
転移性脳腫瘍に対するstereotactic radiosurgery(SRS)は80-90%の奏功率を上げ一定の評価を得るようになってきている1-5,8).しかし嚢胞性転移性脳腫瘍の場合,すでに照射の非適応となるような大きさになっていたり,最も照射線量の多くなる中心部に腫瘍が存在しないことから,SRSの適応とならない場合が多かった.また手術摘出の場合も充実性に比べ予後不良因子と言われている11).そこでわれわれは嚢胞性転移性脳腫瘍に対してstereotactic aspirationとSRSを組み合わせた治療を行い良好な治療成績を収めたので報告する.
Cleanな脳外科手術における予防的抗生物質投与の有効性—7日間投与と1日投与の比較
著者: 藤原和則 , 須田志優 , 鮱名勉
ページ範囲:P.423 - P.427
I.はじめに
脳外科手術の多くはclean operationに分類されるが,術後感染は周術期における最も重大な合併症であるため,ほとんどの施設で予防的に抗生物質を投与していると思われる.過去の多くの研究から,抗生物質の予防的投与が術後感染予防に有効であることが示されてきた2,9,13,16)が,具体的にいつ,何を,どの位の期間投与するかは未だに議論の多い問題であり,特に,どの位の期間投与すべきかを詳細に検討した報告は少ない.これまで当科においては,抜糸までの術後約7日間にわたって抗生物質を投与していたが,今回,術当日のみ投与するプロトコールを設定し,その有効性を検討したので報告する.
症例
開頭術後MRSA敗血症の2例
著者: 糟谷英俊 , 菊池賢 , 今村強 , 川島明次 , 藍原康雄 , 落合卓 , 山口浩司 , 深町きく代 , 堀智勝 , 志関雅幸 , 戸塚恭一
ページ範囲:P.429 - P.434
I.はじめに
Methicillin-resistant Staphylococcus aureas(MRSA)は現在,院内感染の起因菌として最も分離頻度の多い細菌の一つであり1,12,14,15),多くの抗菌剤に耐性を示すため,治療に難渋する,現在,脳神経外科手術後に予防的に使用する抗生物質はほとんどが単剤では効果のないβ-lactam系薬剤であるため5,6),術後感染症の起炎菌としてMRSAを常に念頭におく必要がある.われわれは脳神経外科手術後に血液発症し,診断と治療に難渋したMRSA敗血症の2例を経験したので,診断及び治療方法,さらに手術後の抗生物質の使用方法について考察を加える.
中枢神経系に浸潤したTリンパ球増殖性疾患(T-cell Lymphoproliferative Disorder)の2例
著者: 伊野波諭 , 稲村孝紀 , 大賀正一 , 原寿郎 , 福井仁士
ページ範囲:P.435 - P.439
I.はじめに
リンパ増殖症(lymphoproliferative disorder:LPD)はリンパ腫(lymphoma)に類似した疾患であり,時に中枢神経(central nervous system:CNS)に浸潤する予後不良の疾患である1,3,12).原発性CNS-lymphomaやLPDは高齢者に発症することが多いが,続発性LPDは年齢に関係なく先天性免疫不全症,移植医療における強力な免疫抑制療法,がん化学療法,HIV感染症例などに伴って発症する1,3,10-12).原発性,続発性ともにほとんどがB細胞由来でありT細胞,natural killer(NK)細胞起源であることは極めて稀である2,10).
今回,原発性T-cell LPDと慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)に伴う続発性T-cell LPDのCNS浸潤を2例経験し,早期の組織診断と免疫化学療法が有効であったので報告する.
骨化生を伴う脳動静脈奇形(脳石症)の1例
著者: 竹内東太郎 , 笠原英司 , 岩崎光芳 , 楠見嘉晃
ページ範囲:P.441 - P.445
I.はじめに
脳石症(brain stone)は1913年Schüller15)により頭蓋内の異常骨様石灰化をHirnsteinとして初記載されたが,以後その報告例は散見されるにすぎない.今回著者らは脳動静脈奇形(cerebral ar-terio-venous malformation:AVM)が原因疾患と思われる脳石症の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
Rendu-Osler-Weber病に合併した頭皮動静脈瘻の直接経皮的塞栓術による1治験例
著者: 徳永浩司 , 日下昇 , 中嶋裕之 , 大本尭史
ページ範囲:P.447 - P.452
I.はじめに
Rendu-Osler-Weber病(以下R-O-W病)または遺伝性出血性毛細血管拡張症は全身性に血管形成異常を生じる常染色体優性遺伝性疾患であり,脳神経外科領域においては脳膿瘍や脳動脈瘤,脳動静脈奇形の合併が問題となる.今回われわれは,R-O-W病に合併した頭皮動静脈瘻症例を経験し,経皮的直接穿刺による塞栓術を行い,満足すべき結果を得たので報告する.
腫瘍内出血を伴った脊髄髄内転移性腫瘍の1例
著者: 李毅平 , 高安正和 , 高木輝秀 , 吉本真之 , 三井勇吉 , 吉田純
ページ範囲:P.453 - P.457
I.はじめに
悪性腫瘍の脊髄髄内転移は,比較的稀とされ,悪性腫瘍剖検例の2.1%を占めると言われている2).そのうち髄内出血を伴う症例は非常に稀であり,今まで数例しか報告されていない6,8,10,12,13).出血例ではその時点で症状が急激に悪化することがあるため,血管障害との鑑別も問題となる.
今回われわれは,亜急性に対麻痺の進行を来たした脊髄円錐上部の髄内転移性腫瘍の腫瘍内出血例を経験したので,若干の論文的考察を加え,報告する.
1歳8カ月の左シルビウス裂内髄膜腫
著者: 光山哲滝 , 糟谷英俊 , 久保長生 , 平澤研一 , 堀智勝
ページ範囲:P.459 - P.464
I.はじめに
今回,われわれはシルビウス裂内髄膜腫の1歳8カ月男児例を経験した.CTやMRIで明らかな硬膜の増強効果を認めず,術中にも硬膜との付着部位は認めなかった.小児の髄膜腫は稀であり,その発生部位がシルビウス裂内のもの2,3,4,21)は本症例が5例目である.そこで,文献的考察を交えてこれを報告する.
広範囲のくも膜下出血を伴い,血管撮影中に造影剤の血管外漏出を生じた高血圧性被殻出血の1例
著者: 金井秀樹 , 丹羽裕史 , 小出和雄
ページ範囲:P.465 - P.469
I.はじめに
高血圧性脳出血(HICH)は,脳表くも膜下腔へ穿破しても通常は局所に限局し,鞍上槽など脳底部へ広範囲に進展するくも膜下出血(SAH)を伴うことはまれである.
著者らは,被殻に原発したHICHが同側の島皮質表面のくも膜下腔からシルビウス槽,鞍上槽,迂回槽や大脳半球間裂槽さらには対側のシルビウス槽へと進展するSAHを併発しており,入院後に施行した血管撮影で患側のレンズ核線条体動脈からの造影剤漏出を来たした1例を経験した.血腫の進展機序や臨床上の問題点について考察を加えて報告する.
三叉神経に沿って頭蓋外に進展した頭蓋内原発悪性リンパ腫の1例
著者: 若本寛起 , 宮崎宏道 , 冨田栄幸 , 石山直巳
ページ範囲:P.471 - P.476
I.はじめに
頭蓋内原発悪性リンパ腫が頭蓋外へ転移,進展することは稀な病態であり,報告例も少ない.一方,nasopharyngeal tumorが脳神経に沿って進展し,頭蓋底孔を経由して頭蓋内に侵入するperi-neural tumorは耳鼻咽喉科領域では必ずしも稀ではないが,逆に頭蓋内から頭蓋外に進展したperineural tumorは報告例も少なく,稀な病態と思われる.今回われわれは頭蓋内原発悪性リンパ腫がMeckel's caveに再発した後,三叉神経の3枝に沿って頭蓋外に進展し,各々の末梢部にて腫瘤を形成した稀な1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
基本情報

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