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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科28巻6号

2000年06月発行

雑誌目次

想像力

著者: 難波宏樹

ページ範囲:P.486 - P.487

 NHKのスペシャル番組“検証・航空機事故”をごらんになった方もいらっしゃると思う.航空機の運行数はどんどん増えているのにその事故率は低下していないという.つまり事故数も増加しているということである.このままゆくと大型旅客機が9日に一機墜落する時代になるというから恐ろしいことである.そしてそれらの事故の原因には高度化した操縦機器への過信と危機に遭遇したときの操縦士らの対応の未熟さが関与しているそうである.コンピューターが何か異常を示したとき,いちはやく自動操縦から手動に切り替え,自らの操縦能力を最大限に活かして危機を脱すべきところを,コンピューター入力をやりなおしているうちに山の斜面に激突したという事故も紹介されていた.大事故は小さなミスの積み重ねから起こる.重大なプロセスにはかならずダブルチェックが行われるようになっているが(またそうなっていないと運輸省の基準をクリアできないはずだが)それが機能しないと大事故になる.一つのミスが起こる確率が百分の一と仮定すると,二つのミスが重なるのは単純計算で一万分の一,トリプルチェックにすれば百万分の一まで下げられるはずである.最近の医療事故の報告をみても驚くほど単純なミスがダブルチェックされることなく見逃され患者さんの命を奪っているという印象をうける.臨床データ,モニター情報,画像情報などを有効に利用するのはよいが,最終的に治すべきものは異常データではなく患者さん自身であることを考えれば,医療者はもっと謙虚に患者さんに接し,そこから得られる情報を最重視して診療を行うべきであろう.話は変わるが,一時ペットとしてヘビやトカゲを飼うのがブームになったが,飽きてしまったり,または大きくなりすぎて手に負えず池などに捨ててしまう人がいるという.捨てられたワニガメがそこで大きくなり生態系を崩しているということが報道されていた.また用水路にピラニアが捨てられ,子供が噛まれで怪我をするという事件もあった.コンピューターの子育てシミュレーション・ゲームなどでは,飽きたらリセットしたり電源を切ってしまえばよいから,動物を飼うことの本当の意味が分からなくなるのではないだろうか.飼っているものを捨てるとき,自分の大切な一部も捨てているということに気が付かなくなる.飼育しはじめる前にこの動物をいつまでも愛せるだろうか?と自問してから飼ってもらいたいと思う.子供のトラは可愛いが成長すれば猛獣になることぐらい誰にでも想像がつくはずである.人間どうしのコミュニケーションも,いやになったらリセットすればいいと思えば本当の友達などできるはずがない.仲良しのときもあれば喧嘩をするときもあるが常に信頼しあえるのが友達であろう.そのためには相手の立場にたってものを考えてみるという想像力が必要である.

解剖を中心とした脳神経手術手技

脳動脈瘤に対する瘤内塞栓療法

著者: 江面正幸 ,   高橋明 ,   吉本高志

ページ範囲:P.489 - P.498

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤を血管の中から治療しようという試みは,1974年のSerbinenkoにまでさかのぼることができる27).これ以降約15年にわたって脳動脈瘤に対する血管内治療の主役を担ってきたのは,離脱型バルーンであった.しかしこの治療は,フランスにおいて以外は,ほとんど発展していかなかった.この理由は,離脱型バルーンによる治療は,手技の簡便さ,治療の信頼性,手技に伴う危険性,などどれをとっても,外科的クリッピングに利するところが見いだせなかったからである.これに対して,1991年Guglielmiらにより報告されたGuglielmi detachable coil(GDC)による瘤内塞栓療法11,12)は,瞬く間に全世界に普及することとなった.これは離脱型バルーンと異なり,手技の簡便さ,治療の信頼性,手技に伴う危険性,など全ての点で許容範囲内である,と認められたことの証しであろう.本報では急速に普及しつつある瘤内塞栓療法について,実戦的な側面から解説する.

研究

脳卒中患者の急性期外科的治療の現況—特に脳梗塞について

著者: 丹羽潤 ,   久保田司 ,   千葉昌彦 ,   三上毅 ,   岡真一

ページ範囲:P.499 - P.504

Ⅰ.はじめに
 1985年に市立函館病院の救命救急センターに脳卒中診療部門が設立されて以来,函館市内はもとより南北海道の各施設から多くの脳卒中患者が搬送されてくる.脳出血やくも膜下出血に対する急性期外科治療はもちろんのことであるが,最近は血管内手術の進歩により脳梗塞に対しても急性期治療が行われるようになった4,9,11).しかしこれまで脳梗塞急性期患者に対してどのくらいの割合で外科的治療が行われているか詳細に検討された報告は見られない13).今回過去4年間に当院に搬入された脳卒中患者の動向と特に脳梗塞の急性期外科的治療(外科手術と血管内治療)の現状について検討したので報告する.

脳萎縮を伴う特発性正常圧水頭症(非定型特発性正常圧水頭症)—その臨床的特徴とシャント手術適応

著者: 竹内東太郎 ,   笠原英司 ,   岩崎光芳

ページ範囲:P.505 - P.515

Ⅰ.はじめに
 著者らは本来の特発性正常圧水頭症(idiopathicnormal pressure hydrocephalus:INPH)の中で基礎病態としてすでに脳萎縮を伴っている一群に注目し,これを非定型特発性正常圧水頭症(atypicalINPH:AINPH)と定義して検討してきた40,41).今回はAINPHの概念と臨床的特徴ならびにシャント手術適応について報告する.

延髄に伸展した頸髄上衣腫の手術

著者: 寳子丸稔 ,   小山素麿 ,   橋本信夫

ページ範囲:P.517 - P.522

Ⅰ.はじめに
 脊髄上衣腫は最も頻度の多い髄内腫瘍であるが,境界が明瞭で重大な後遺症を残すことなしに全摘出が可能であると考えられている2,4,5,8).さらに,多くの症例で脊髄上衣腫の全摘出後に一時的に症状が悪化するが,数カ月後には回復し,長期的に追跡すると術前より症状が改善することが報告されている12,13).また,組織型が良性であることがほとんどであり,全摘出を行った場合,放射線治療などの補助療法を施行しないでも再発の可能性は非常に少ないというのがコンセンサスとなっている.これらのことより,脊髄上衣腫に対しては,全摘出が治療の第1選択として推奨されている.特に,頸髄に存在する上衣腫は胸髄や腰髄膨大部に存在するものに比較し手術後の予後が良いことが報告されている8).しかしながら,頸髄上衣腫の中でも,上位頸髄に存在し延髄に伸展する上衣腫の全摘出には躊躇を覚える.というのは,延髄には呼吸中枢や循環中枢など,生命の維持に必要な中枢が存在し,手術侵襲によりこれらの中枢に影響が及ぶことを危惧するからである.今回,延髄に伸展した頸髄上衣腫の3例を報告し,それらの解剖学的特徴を明らかにするとともに,全摘出の方法を記述したい.

脳神経外科領域におけるステロイド使用と特発性大腿骨頭壊死

著者: 長島梧郎 ,   鈴木龍太 ,   浅井潤一郎 ,   藤本司 ,   渥美敬

ページ範囲:P.523 - P.528

Ⅰ.はじめに
 特発性大腿骨頭壊死はステロイド使用が原因となることは良く知られている.脳神経外科領域では1960年代にdexamethasoneが脳浮腫の治療に有効であることが報告されて以来8,17),比較的大量のステロイドが使用されてきた.最近になって頭部外傷,脳虚血に対するステロイドの有効性が疑問視され3,4,13,14),以前と比較しその使用頻度は減少してきたと考えられる.
 ステロイドの副作用は重篤で,耐糖能異常・消化管潰瘍・循環器系合併症・慢性感染症など様々であり,特に高齢者では骨粗鬆症やステロイド性高血圧などが大きな問題となる18),しかし,脳神経外科疾患とステロイド依存性大腿骨頭壊死との関係については数例の報告があるのみで,今まで注目されてこなかった2,7,15).当院整形外科では1985-1997年迄の間に特発性大腿骨頭壊死症例250例を経験しているが,内11例が脳神経外科治療で投与されたステロイドが原因と考えられる症例であった.さらに,11例中6例は下垂体近傍腫瘍の症例であり,下垂体機能低下に対してのステロイド補償療法が行われていた.今回われわれが検討した大腿骨頭壊死症例は,従来考えられていた頻度よりも高いものと考えられる.脳神経外科領域で経験されるステロイド依存性大腿骨頭壊死,特に下垂体近傍腫瘍に対するステロイド補償療法の合併症としての大腿骨頭壊死について,治験例を踏まえて検討してみた.

軽度低体温下開頭術における全身・脳血行動態

著者: 中川敦寛 ,   佐藤清貴 ,   吉本高志

ページ範囲:P.529 - P.533

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤手術における一時血流遮断は動脈瘤の剥離操作,およびclippingに際して有効な手段であるものの10,22,23),脳虚血が問題となる18).その際の脳保護法としてvitamin E,phenytoin24),mannitol26),barbiturate15),propofol,etomidate4)などの薬物が用いられてきた.一方,術中低体温は古くから臨床応用されており,1950-1970年代にかけて25-29℃の中等度低体温管理下での動脈瘤手術が行われていた12,20).血流遮断時間の延長,dry field下での手術,脳容積の縮小といった利点がある一方,心室細動をはじめとする心機能異常,低カリウム血症,凝固異常,術後の頭蓋内出血などの重篤な合併症が多く12),次第に行われなくなった.ところが,近年32-34℃の軽度低体温による脳保護効果が実験時に示され5,10),再び低体温管理が注目されるようになった8,9).脳代謝を抑制し,脳酸素消費量を減少させることにより虚血耐性を高めるという従来からいわれていた機序1,20)に加え,軽度低体温ではフリーラジカル生成の抑制11),興奮性アミノ酸の放出抑制17),組細胞内カルシウム蓄積の抑制16)なども関わっていると考えられている.
 軽度低体温下では中等度低体温下でみられたような重篤な合併症がないとされ,臨床応用されるようになった.しかし,ICUにて長期的に軽度低体温管理を行った場合は循環抑制,呼吸器合併症,血液凝固異常,ホルモンの変化などが管理上大きな問題となっている21).術中のみの軽度低体温では循環動態に対する影響は比較的少ないとされてきたが2),実際に脳および全身の血行動態の変化を検討した報告は稀である.そこで術中軽度低体温が全身および脳の循環動態に及ぼす影響について検討した.

症例

脳内出血を繰り返した多発性転移性脳腫瘍の1例

著者: 石井尚登 ,   安本幸正 ,   鈴木一成 ,   熊巳一夫 ,   村村耕三 ,   望月衛 ,   小島英明

ページ範囲:P.535 - P.539

I.はじめに
 脳内出血の原因は高血圧症,脳動脈瘤,脳血管奇形,血液疾患など多様であるが,脳腫瘍が出血の原因であることは少なく,剖検では0.9-9%7,9,11),CTで診断された脳出血の中では2-6%5,14)である.画像診断で脳腫瘍が見出されない場合は,発症時に出血の原因が脳腫瘍であると診断するのは難しく10),特に,出血が高血圧性脳内出血の好発部位にある症例では困難である.今回,脳内出血が異なる部位に短期間に繰り返し起き,入院後3カ月のCTで転移性脳腫瘍が強く疑われ,剖険所見から肺癌の脳転移と診断し,腫瘍細胞塊の血管内塞栓による血管破綻が繰り返す脳内出血の原因であったと推察される症例を経験したので,若干の考察を含めて報告する.

くも膜下出血で発症した中大脳動脈近位部に複雑なAnastomosisを伴う一側内頸動脈欠損症の1例

著者: 松本博之 ,   森脇宏 ,   増尾修 ,   寺田友昭 ,   板倉徹

ページ範囲:P.541 - P.545

I.はじめに
 内頸動脈欠損症は比較的まれな先天性病変であり,血行動態の異常から高率に脳動脈瘤を合併することが知られている.このためくも膜下出血や脳出血で発症することが多いが,今回われわれはくも膜下出血で発症した右内頸動脈欠損症で,その出血源が中大脳動脈近位部に発達した複雑なanastomosisを呈する異常血管であると思われた興味ある1例を経験したので報告する.

MIB−1 Labeling Index高値を示した小児Prolactinomaの1例

著者: 赤嶺壮一 ,   宮本恒彦 ,   杉浦康仁 ,   竹原誠也 ,   平松久弥 ,   西澤茂 ,   横田尚樹

ページ範囲:P.547 - P.553

I.はじめに
 年齢が14歳以下の小児におけるprolactin産生下垂体腫瘍(以下prolactinoma)の発生頻度は非常に低い.成人の場合と異なり,患者は身体発育,性成熟の途上にあるため,脳神経外科的,内分泌学的治療にはきめ細かい配慮が必要である.
 男児prolactinomaは,女児に比べてmacroade-nomaで高prolactin値のものが多く4,9),手術療法後のprolactin値のcontrolが困難であると言われている4).今回,われわれは,MIB−1 labelingindexが高値を示し,術後prolactin値のcontrolが困難と予想された男児prolactinomaの1例を経験し,小児prolactinomaの術後管理の特殊性につき,文献的考察を踏まえて報告する.

慢性腎不全患者の未破裂脳動脈瘤に対する瘤内塞栓術—2症例の中期的経過観察結果

著者: 中島利彦 ,   加藤貴之 ,   村川孝次 ,   山川春樹 ,   吉村紳一 ,   郭泰彦 ,   坂井昇

ページ範囲:P.555 - P.560

I.はじめに
 慢性腎不全により透析中の患者は,しばしば脳血管障害を合併するが11),脳血管障害の診断にMRIやMRAが一般に行われるようになった結果,脳出血や脳梗塞等を発症した透析患者に,偶然未破裂脳動脈瘤が発見される機会が増えてきた.透析患者に開頭術を行うことは,合併症の危険性が高い上6),虚血性脳血管障害を合併した未破裂脳動脈瘤に対する直達手術は,後遺障害を残す確率が高まるため2),脳出血や脳梗塞等を合併した透析患者の未破裂脳動脈瘤に対する直達手術には,消極的にならざるを得なかった.しかし脳血管内手術,特にdetachable coilによる瘤内塞栓術が開発された結果,慢性腎不全等の合併症を有する症例に対しても,積極的に治療が行えるようになってきた9,17).われわれは,脳出血あるいは脳梗塞を合併した透析患者に,偶然発見された未破裂脳動脈瘤に対し血管内手術を行い,それぞれ4年10カ月,2年6カ月にわたり経過を観察し得たので報告する.

串団子形状を呈し自然閉塞を来した解離性後下小脳動脈瘤の1例—放射線学的所見を中心に

著者: 鈴川活水 ,   天羽正志 ,   中村雄三 ,   安間芳秀 ,   黒川重雄

ページ範囲:P.561 - P.567

I.はじめに
 後頭部痛,ふらつき感,吃逆を主訴として来院した症例の頭部MRIにてPICA dissecting large aneurysmとして特異的な形状所見を得たので,文献的考察を加えて報告する.

報告記

American Association of Neurological Surgeons(AANS)68th Annual Meeting 2000(April 8-13,San Francisco,CA)に参加して

著者: 工藤千秋

ページ範囲:P.570 - P.571

 坂の街として知られるSan Franciscoは,まだ肌寒い気候であった上AANSはdowntownに近い,Moscone Centerで行われた(写真1).
 USAの他,Canada,Mexicoの脳外科学会よりなるAANSは,Harvey Cushing Societyを前身に1932年に設立された権威ある学会であり,68代目となるAANSPresidentは,Prof.Martin H.Weiss(Southern Califor-nia大学)であった.今年のdistinguished service awardには,Late Prof.George Albin(Jne 8,99ご逝去)とProf.Robert H.Wilkinsがノミネートされた.Prof.Wil-kinsはProf.Setti S. Rengachary(写真2)とともに,名著のTextによりわれわれ日本の脳外科医になじみ深い.また,George Bush前合衆国大統領の宣言のもとに始まった“Decade of the Brain”の10人目にあたる今年のmedalistは,J NeurosurgのEditor in ChiefであるProf.John A.Janeであった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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