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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科28巻7号

2000年07月発行

雑誌目次

てんかん外科

著者: 堀智勝

ページ範囲:P.580 - P.581

 1968年3月に卒業して以来,32年間医者として働いてきた.卒業当初教授になろうなどとは,夢にも思わなかった.真柳先生のご推薦でパリ・サントアンヌ病院に留学することになったのが1973年で,てんかん外科で有名なタレラック教授に師事することとなった.頭の中にブスブスと電極を刺し,深部脳波を病室でテレメーターを使ってとり,自然発作を記録して,発作が何処から始まったのかを脳波学者のバンコー先生を中心として白熱の議論をして(フランス語が難しくて半分ぐらい判るようになったのは留学が終わりに近づいた頃であった),発作焦点・刺激亢進部・発作進展部位などを判断して,シェーマに描き,切除部位を決めて,手術日にはシェーマどおりに切除するという,今現在われわれが行っている方法と殆ど変わらない方式で難治性てんかんの手術を次から次に行っていた.当時,パリ・サントアンヌ病院脳外科には,脳外科医はタレラック教授と私しか居なかったので,殆どの手術を教授と二人で行った.一方,シックラ先生は定位脳手術が専門の先生で,タレラック式のフレームを用いて現在はやりのpallidontomy,hypophysectomyの他,深部電極を望みの位置・深さに入れるのが仕事であった.またシックラ先生は脳溝・脳回と血管の関係を立体的に把握した脳のアトラスを作成中であり,それを手伝うのが私のもう一つの仕事であった.研究の当初は,あまり面白い仕事ではない様に思ったが,やっている内に面白くなってしまい,側頭葉平面の左右差を立体血管撮影で近似計算し,アミタールテストで決定した言語優位半球との関係を検討した仕事が私の博士論文になった.
 日本に帰ってから,早速てんかん外科をやりたかったが,世の中はそれどころではなかった.縁あって鳥取大学に奉職し,てんかん外科どころか,顕微鏡手術も普及していないところで,教室員も少なく1からの出発を余儀なくされた.助教授であったが,月に7-8回の当直をしながら,巨大聴神経腫瘍や動静脈奇形の(grade Ⅳ-Ⅴ)手術,また東京でし残した電子顕微鏡の研究を杏林大学の解剖学教室で行うなど,文字どおり不眠不休で仕事をした.その間もずっとてんかん外科を行う夢は捨てては居なかったが,なにしろ日常の生活が忙しく,京都で国際脳波学会があり,サントアンヌの先生方が来ているのは判っていたが会いにもいけない状態であった.

総説

Central neurocytoma

著者: 峯浦一喜

ページ範囲:P.583 - P.597

I.はじめに
 Central neurocytoma(CN)は1982年にHas-sounら35)が提唱した側脳室,第3脳室内を増殖伸展する腫瘍で,電子顕微鏡所見で典型的な成熟シナプス構造を確認して神経分化を示すことからneurocytomaと呼称され,中枢神経系のsupra-tentorialに位置するのでcentralを冠する.CNは従来のmidline oligodendrogliomaやependymo-ma of the foramen of Monroと診断されたモンロー孔近傍脳室腫瘍のなかに混在し4,27,95,118,130),標準治療の未確立なgliomaから予後がほぼ良好な本腫瘍が区分されたことは,生物学的特性に基づいた効果的な治療が選択でき,不必要な治療法や副作用が回避されて脳腫瘍例における生存の質(QOL)の向上に多大に貢献している50)
 CNは提唱以来,1993年で127例36),1997年で210例48),18年を経て最近までの報告の集計では526例1-4,6-35,37-49,51-55,57-120,121-131)である.ただし,重複報告例があるのでほぼ450例と推定される.この間,免疫染色法と分子生物学的手法の発展応用に伴って生物学的多様性が判明し,遠隔成績も明らかになりつつある.今回,自験例の手術および治療方針を中心に最近の知見を含めて本腫瘍の診断,治療および成績を解説する.

研究

脳室内血腫に対する神経内視鏡的血腫除去術および第3脳室底開窓術

著者: 安斉公雄 ,   上山憲司 ,   佐々木雄彦 ,   中村博彦

ページ範囲:P.599 - P.605

I.はじめに
 脳神経外科領域において神経内視鏡を用いた治療は,近年その適応疾患の拡大が進み,種々の報告がなされている.特に,軟性鏡はその先端のfrexibilityにより脳室内での操作性に富み,脳室内病変の治療に有用性が高い.われわれは脳室内穿破を伴う脳内出血による脳室内血腫例に対し,軟性鏡を用いて脳室内の血腫を除去し,さらに第3脳室底を開窓することで閉塞性水頭症に対処し良好な成績を得ている.今回,その手術手技ならびに治療成績に若干の文献的考察を加え報告する.

脳神経外科領域における近赤外分光計HEO-200の使用経験

著者: 黒田敏 ,   宝金清博 ,   小林徹 ,   安田宏 ,   牛越聡 ,   斎藤久寿 ,   阿部弘

ページ範囲:P.607 - P.613

I.はじめに
 近赤外線スペクトロスコピー(near infrared spectroscopy;NIRS)は,近赤外光が皮膚や頭蓋骨を含む生体組織を非常によく通過することや,ヘモグロビンやミトコンドリア内のチトクロームオキシダーゼなどの生体内色素が近赤外光に対して特異な吸収曲線を有していることを応用して考案された7).NIRSは,非侵襲的かつ持続的に脳循環動態や酸素代謝の変化を測定することが可能であることから,高次機能の局在診断や手術中の脳虚血モニタリングとして,次第に普及している1,2,10-15,22)
 われわれは以前,島津製作所社製の近赤外分光計OM-100AあるいはOM-110)を用いて頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy;CEA)や内頸動脈のバルーン閉塞試験(balloon occlusion test;BOT)の際に,NIRSによる脳内ヘモグロビンの酸素化状態やチトクロームオキシダーゼの酸化還元状態をモニターすることの重要性を強調してきた13-15).今回,われわれは新たに開発されたより軽量で小型の近赤外分光計16)を,脳神経外科領域のモニタリングとして使用して,その有用性を確認したため報告する.

0.5T MRIによる超急性期脳梗塞Diffusion-weighted imageの有用性

著者: 原口浩一 ,   高谷了 ,   坂本靖男 ,   森本繁文 ,   田之岡篤 ,   石崎努

ページ範囲:P.615 - P.621

I.はじめに
 近年,echo planar image(EPI)法による超高速撮影が可能となったことで,diffusion-weighted image(DWI)が脳梗塞超急性期における梗塞巣の検出に威力を発揮しているが,ほとんどは1.5tesla(T)以上の高磁場機が用いられている.しかし現実にはコストやスペースなどの問題で高磁場機を設置できない施設も多いことから,われわれは0.5T低磁場機を用いたDWIの臨床応用の可能性を検討すべくGE横河メディカルシステム(GEYMS)の協力を得て平成9年10月13日よりDWIのソフトウェアを導入した.その使用経験から0.5T機DWIの有用性を報告する.

重症頭部外傷における代謝性アシドーシスの病態生理—ケトン体と乳酸に着目して

著者: 玉置智規 ,   柴田泰史 ,   野手洋治 ,   山本保博 ,   寺本明

ページ範囲:P.623 - P.629

I.緒言
 頭部外傷急性期における代謝性アシドーシスは生命予後を予測しうる因子として重要視する報告が散見される19).しかし,その機序は低酸素血症,ショックなどの末梢循環不全による乳酸の蓄積とされ,この機序以外に頭部外傷急性期の酸,塩基代謝を考察した報告は少ない.今回われわれは内因性有機酸であるケトン体,乳酸,および,肝細胞ミトコンドリアの酸化還元状態(redox state)を反映する指標である動脈血ケトン体比(arterial ketone body ratio以下AKBR)に着目したところ,重症頭部外傷急性期には総ケトン体の上昇,AKBRの低下を観察し,ケトン体の代謝がその病態に影響を与えていると考えたので報告する.7

症例

四肢麻痺を呈した化膿性頸椎椎間板炎の2例

著者: 西村英祥 ,   上村喜彦 ,   福田俊一 ,   鎌田喜敬 ,   森脇拓也

ページ範囲:P.631 - P.637

I.はじめに
 化膿性脊椎炎の診断は画像的にはMRIの出現により容易となっているが,臨床的には合併症の兼ね合いなど複雑な臨床経過をとる場合も多い.今回われわれは頸椎椎間板炎をきっかけに急性期に硬膜外膿瘍により四肢麻痺を呈した例,亜急性期に椎体の後彎変形により四肢麻癖を呈した例に対して,ともに手術治療を行い良好な結果を得た.文献的考察を交えて報告する.

開頭にて頭蓋内静脈から塞栓術を行い,良好な結果を得た海綿静脈洞部硬膜動静脈シャントの1例

著者: 吉野公博 ,   安原隆雄 ,   日下昇 ,   中川実 ,   寺井義徳 ,   藤本俊一郎

ページ範囲:P.639 - P.645

I.はじめに
 近年,海綿静脈洞部硬膜動静脈シャント(caver-nous dural arteriovenous shunts以下CdAVSと略す)(いわゆる硬膜動静脈奇形,あるいは,硬膜動静脈瘻)の治療は,第一選択として経静脈的塞栓術が施行されることが多いが,経静脈的塞栓術の際のアプローチのルートの選択は,個々の症例のvenous drainageの形態によるところが大きい.大腿静脈(femoral vein:FVと略す)から下錐体静脈(inferior petrosal sinus:IPSと略す)や時に上錐体静脈(superior petrosal sinus:SPSと略す)を経由し,海綿静脈洞(cavernous sinus:CSと略す)に至るルートや眼瞼を切開し上眼静脈(superior ophthalmic vein:SOVと略す)を直接穿刺して行う方法が一般的である3,6,9,11,12).しかし,時に頭蓋外静脈からのアプローチが困難となる症例に遭遇することがある.今回,頭蓋外静脈からのアプローチが困難となった症例に,開頭による頭蓋内静脈からのアプローチにて塞栓術を行い,良好な結果を得たので症例を呈示するとともに特に頭蓋内静脈からのアプローチの有用性や問題点について報告する.

治療経過中にうっ血性脳出血を来たしたHigh Flow CCFの1例

著者: 本山靖 ,   大西英之 ,   越前直樹 ,   金本幸秀 ,   井田裕己 ,   藤本憲太

ページ範囲:P.647 - P.651

I.はじめに
 Barrow Type A1)の頸動脈海綿静脈洞瘻(caro-tid-cavernous fistula,以下CCF)に対する治療としては経動脈的バルーン塞栓術が第一選択である4,10).また,内頸動脈の狭窄例などバルーンを留置することが困難なものに対しては,経静脈的コイル塞栓術が行われている5,8).しかし,カテーテルの操作が困難なものや血管内治療が不成功に終わったものに対して直達手術が必要になる場合も存在する.
 今回われわれはhigh-flow shuntを有するdirect CCFに対して経動脈的アプローチと経静脈的アプローチを試みたが成功せず,経過中に脳内出血を来たした症例を経験したので報告する.直達手術にてcortical refluxへの流出路であるsphenoparietal sinus(以下SpPS)の閉塞を行った.術後残存したCCFに対しては再度経静脈的アプローチにてコイル塞栓術を完成させた.

超選択的局所線溶療法が有効であった左房内粘液腫による中大脳動脈塞栓症の1例

著者: 山野目辰味 ,   吉田研二 ,   三浦一之 ,   小川彰

ページ範囲:P.653 - P.658

I.はじめに
 脳主幹動脈閉塞症,特に中大脳動脈閉塞症(MCAO)に対する治療法として超選択的局所線溶療法(LIF)が行われ,その有用性が報告されている2,3,21)
 今回われわれは,左房内粘液腫によるMCAOに対しLIFを施行し再開通を得た症例を経験したが,粘液腫による脳塞栓の原因として腫瘍周囲に付着した血栓,また腫瘍そのものによる場合の2つが考えられる.現在までに左房粘液腫による脳塞栓は多くの報告がみられるが4,6-9,11,13,15,16,19,23),LIFを行った報告は少な13),粘液腫に起因する脳塞栓に対する治療法についても考察を加え報告する.

報告記

第2回国際脳腫瘍病理シンポジウム(The 2nd International Symposium of Brain Tumor Pathology)報告記

著者: 若林俊彦

ページ範囲:P.660 - P.661

 本年5月11-13日に名古屋市中小企業振興会館(吹上ホール)で第18回日本脳腫瘍病理学会および第2回国際脳腫瘍病理シンポジウム(The 2nd International Sympo-sium of Brain Tumor Pathology)が,名古屋大学医学部脳神経外科吉田純教授の会長の下,開催されました.教室員や同門を始め,国内外の多くの方々から多大なご支援とご協力を得て,2年余りの歳月をかけて鋭意準備を進めて参りました.その結果,国外からの50余名の参加者を加えた総勢600名を越える参加者が得られ,各会場でホットな発表や討論が繰り広げられたことは,主催者スタッフとして誠に感無量であります.当日ご参集いただきました皆様には重ねて御礼申し上げます.
 さて,10年ぶりに開催された国際脳腫瘍病理シンポジウムでは1)Mamignant meningeal tumors,2)Molecu-lar biology of gliomas,3)Neuronal and mixed neuro-nal-glial tumors,4)Anatomical and functional imaging of brain tumorsの4つのテーマについて,外国からの招待演者(病理学者,腫瘍学者,脳神経外科医)と共に脳腫瘍の分子病理から臨床病理への最新の研究成果を討論していただきました.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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