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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科28巻9号

2000年09月発行

雑誌目次

異邦人—未知との遭遇

著者: 鈴木倫保

ページ範囲:P.760 - P.761

 私は,この春よりご縁がありまして,本州最西端の大学で働くこととなりました.
 卒業は昭和54年ですので,21年もの長きにわたり,東北地方の大先輩に育てていただいたことになります.先日,これまでに御世話になった施設を数えてみますと21施設にもなっており,北は帯広,南は大宮・水戸のラインで6道県にもわたっておりました.人事の突然の変更で,数週間で引っ越しといったこともありましたが,平均1年の在職期間であります.最低限の所帯道具と本を積み込み,新しい変化に対する希望と,かすかな不安を携えながら,車を運転する昔の自分がまざまざと蘇って参りました.どの勤務地でも病棟・外来・手術場のシステムと,上司の癖に迅速に適応し,患者さんに迷惑が掛からないようにと思ってはおりましたが,心のどこか奥底に土地の方々との間にすき間,「異邦人」,の感覚があり,離任間近では次の赴任地のことで頭がいっぱいになって,全力を尽くしたとは言い切れないところが多々ありました.

総説

悪性脳腫瘍の治療と高気圧酸素

著者: 合志清隆

ページ範囲:P.763 - P.771

I.はじめに
 高い気圧下で酸素吸入を行う高気圧酸素(HBO:hyperbaric oxygenation)治療は,主に低酸素による組織傷害の治療に用いられているが,逆に細胞傷害の増幅を目的として応用されることもあり,その1つが悪性腫瘍の治療である.悪性腫瘍が放射線治療や化学療法に抵抗性を示す大きな要因は低酸素腫瘍細胞の存在によることはよく知られており14,16),この低酸素細胞の制御の成否が治療予後を左右しているといっても過言ではない.したがって,放射線治療における低酸素細胞の攻略法としていち早くHBO治療が試みられ,1955年には既に治療結果が報告されている21).今日までいくつもの癌に対して併用治療が行われ,多施設でのrandomized trialsのメタアナリシスによる解析では頭頸部癌や子宮頸癌において著効が示されている41).一方,悪性グリオーマへのHBO治療の応用はこれまで2つの報告があり8,13),その1つは併用治療の有効性を示唆している8).しかし,従来の高気圧タンク内への放射線照射は操作が煩雑であるだけではなく治療侵襲と副作用が増強されたことから8,12),低酸素細胞の攻略法としてはより簡便な放射線増感剤の開発へとその興味が移っていった35).このような悪性腫瘍の治療状況のなかで,代表的な放射線増感剤であるmisonidazoleの臨床試験はその有効性を示すには至らなかった5,11,17).放射線治療は悪性グリオーマの治療法のなかで最も重要な治療手段であり,さらに酸素が最も強力な放射線増感物質であることに異論はなく14,16),西欧を中心としてcarbogen(95% O2十5% CO2)にnicotinamide(Vi-tamine B3)を併用した放射線治療が試みられてきた35,41).しかしながら,この治療法でも悪性グリオーマに対する有効性が確認できないだけではなく,phenytoinとnicotinamideの相互作用による副作用発現から臨床試験は遂行されなかった39).いくつかの放射線増感剤が開発されてきたが,それらの臨床応用の試みはほぼ否定的な結果に終わっている.

研究

外傷性水頭症の臨床的検討

著者: 松下博和 ,   高橋和也 ,   前田八州彦 ,   萬代眞哉 ,   合田雄二 ,   河内正光 ,   松本祐蔵

ページ範囲:P.773 - P.779

I.はじめに
 外傷性水頭症は稀な疾患で,その発生機序や病態については不明な点が多い.重症頭部外傷後の脳室拡大はよく見られるが,単に脳萎縮による代償性のものであることも多く,髄液循環障害を伴う水頭症の発生頻度は数%と言われている2,4,5,7).症状としては,通常のnormal pressure hydro-cephalus(NPH)の3徴候を示して発症するものもあるが,重症頭部外傷後の意識障害に隠れて症状の乏しい症例も多い1,4,5)ため,明確な診断基準がないのが現状である.また発症時期についても意見の一致を見ていない.今回われわれは,過去10年間に当院にて経験した外傷性水頭症22例の臨床像,診断,シャント術適応について検討した.

前頭蓋底部一塊切除手術における最近の工夫

著者: 川上勝弘 ,   河本圭司 ,   辻裕之 ,   久徳茂雄

ページ範囲:P.781 - P.788

I.はじめに
 われわれは前頭蓋底部の悪性腫瘍に対して,1993年以来頭蓋底チームが施行している手術術式を,Combined Transbasal and Transfacial Ap-proachによる一塊摘出手術としてその有効性や成績を報告してきた13-15).しかしながら,前頭蓋底手術,特に悪性腫瘍に対しては,如何に確実に一塊とした摘出手術を行うか,また如何に術後感染などの合併症をきたさないかなど,様々な問題が依然課題として挙げられる3,24)
 今回われわれは,前頭蓋底手術における最近の工夫として,より確実な一塊摘出手術を目的とした前頭蓋底深部の内視鏡支援による顕微鏡下一塊切除を行うとともに,より確実な前頭蓋底の再建を目的とした有茎の前頭骨外板つきpericraniumであるvascularized frontal outer table flap(VFOT flap)を作成し,臨床応用した.その結果,良好な手術成績が得られ,前頭蓋底外科における手術術式としてこれらの臨床的価値が高いと思われたため,代表症例を供覧するとともにその手術手技を報告する.

再発した中枢神経系原発悪性リンパ腫に対するDeVIC療法の有効性の検討

著者: 高須俊太郎 ,   若林俊彦 ,   梶田泰一 ,   波多野範和 ,   波多野寿 ,   臼井直敬 ,   木下朝博 ,   吉田純

ページ範囲:P.789 - P.794

I.はじめに
 中枢神経系原発悪性リンパ腫は,従来比較的稀な腫瘍と考えられてきたが,近年増加傾向にあり,脳神経外科領域での重要な問題となっている.全国脳腫瘍統計2)によれば,全脳腫瘍中に占める割合は,1969-1983年の間では1.1%であったのが,1984-1990年の間では2.4%と増加している.
 治療方法は,これまで放射線療法を中心として行われてきたが,短期間で再発することが多く,長期生存は望めないことから,放射線療法に加えて各種化学療法が試みられている.中枢神経以外の非Hodgkinリンパ腫に対する化学療法の治療成績の向上は著しく,強力な多剤併用療法によって長期生存が期待できるようになっている.一方,中枢神経系原発悪性リンパ腫に対する化学療法は,その効果についてはいまだ議論の多いところであり,CHOP療法やHigh Dose Methotre-xate療法などをそれぞれの施設ごとに試みているのが現状である.また,初期治療によって完全寛解を得ても,再発,disseminationを繰り返し,治療に抵抗性を示すため,満足な成績は得られていない.

症例

側頭骨錐体部に発生した類上皮腫の2症例

著者: 黛豪恭 ,   加藤功 ,   会田敏光 ,   佐藤信清 ,   澤村豊

ページ範囲:P.797 - P.802

I.はじめに
 類上皮腫は全頭蓋内腫瘍の1.3%を占め5),ほとんどが硬膜内に発生し好発部位は小脳橋角部・傍鞍部である.頭蓋骨板間層などの硬膜外からの発生は全類上皮腫の約10%と少なく,約半数が側頭骨錐体部に発生する.今回,末梢性顔面神経麻痺で発症した側頭骨錐体部類上皮腫の稀な2症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

Occipital transtentorial approachを用いて全摘し得た小脳上正中部アストロサイトーマの1例

著者: 幸治孝裕 ,   別府高明 ,   荒井啓史 ,   鈴木倫保 ,   小川彰

ページ範囲:P.803 - P.806

I.はじめに
 Occipital transtentorial approach(以下OTTと略す)は松果体腫瘍に対しての標準的到達法であるが,小脳上正中部腫瘍に対しても最良の到達法とされる2,3,7,8).われわれは小脳上正中部の近傍に発生したアストロサイトーマに対してOTTを用いて摘出術を行い良好な結果を得た1小児例を経験した.小脳上正中部腫瘍に対するOTTの適応と手術の工夫について文献的に考察したい.

痙攣発作にて発症した脳嚢虫症の1手術例

著者: 杉山誠 ,   岡田崇 ,   樋口晧史 ,   矢部熹憲 ,   小林直紀 ,   寺本明

ページ範囲:P.807 - P.810

I.はじめに
 有鉤嚢虫症とは,人体の小腸に寄生する有鉤条虫Taenia soliumいわゆるサナダムシの幼虫が中間宿主の体内で被膜を有して嚢尾虫に発育した状態をいう.中枢神経系に多く寄生する有鉤嚢虫はソ連,東欧諸国,中南米,中央,南アフリカ,アジア(特に中国,インド,インドネシア)に多いが,本邦では非常に稀な疾患である13,14)).今回われわれは痙攣発作で発症した脳有鉤嚢虫症を経験したので報告する.

紡錘状椎骨-脳底動脈動脈瘤に対するステントとコイルの血管内治療

著者: 森実飛鳥 ,   坂井信幸 ,   永田泉 ,   中原一郎 ,   酒井秀樹 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.811 - P.816

I.はじめに
 明瞭なネックを持たない大型紡錘状脳動脈瘤の治療は非常に難しく,直達手術にせよ,血管内手術にせよ,母血管を閉塞せざるを得ないのが現状である.しかし椎骨脳底動脈には脳幹への穿通枝が存在するため,通常これを無視した長い距離の母血管閉塞はできない.くも膜下出血で発症した紡錘状椎骨脳底動脈瘤に対し,頭蓋内ステントを併用したコイル塞栓術を施行した.この治療の問題点,今後の課題などの考察を加え報告する.

親動脈の近位閉塞が奏功せず瘤内塞栓を含めた親動脈遠位閉塞術を追加した部分血栓化巨大椎骨脳動脈瘤の1例

著者: 加藤徳之 ,   江面正幸 ,   高橋明 ,   吉本高志

ページ範囲:P.817 - P.822

I.はじめに
 椎骨動脈の部分血栓化巨大脳動脈瘤は緩徐に進行し,くも膜下出血,ならびに腫瘤としての脳幹圧迫症状などを呈し,その形状,発生部位から従来治療困難な動脈瘤と考えられている.部分血栓化巨大脳動脈瘤の治療として従来の外科的近位動脈クリッピング,トラッピング,動脈瘤切除術,ラッピング,バイパス術1,2,16)から血管内手術手技によるバルーンを用いたトラッピング,近位動脈閉塞3,5,8,9),コイルによる近位動脈閉塞や瘤内塞栓などにて治療が行われるようになり6,7,15),単独ならびに直達手術との組み合わせ10)にて近年良好な成績を示したとする報告が散見されるようになった.部分血栓化動脈瘤の根治的治療は動脈瘤を体循環から完全に隔離することであり,近位動脈閉塞のみでは不完全である.このような治療後に再増大を来し再出血または腫瘤増大による脳幹圧迫症状が認められることがある4,14).また動脈瘤の自律的な増大を来す傾向があり,通常の嚢状動脈瘤と異なり瘤内に完全にコイル塞栓を行ったのちでもコイルが器質化した血栓の中に迷入することがしばしば観察される4,8,14)
 今回われわれは,部分血栓化椎骨動脈瘤に対して近位動脈クリッピング施行後2年の経過にて増大を認め,動脈瘤による脳幹圧迫症状を呈した症例を経験し,Guglielmi Detachabre Coils(GDCs)による瘤内塞栓を含めた親動脈遠位閉塞術にて良好な結果を得ることができた.

頭蓋内血管腫のT1-201 SPECT所見

著者: 苗代弘 ,   長川真治 ,   小野健一郎 ,   中村正幸 ,   加藤裕 ,   大貫明 ,   都築伸介 ,   石原正一郎 ,   宮澤隆仁 ,   島克司 ,   緒方衝 ,   相田真介 ,   徳丸阿耶 ,   小須田茂

ページ範囲:P.823 - P.827

I.はじめに
 脳腫瘍の鑑別診断においてthallium-201 single photon emission tomography(T1-201 SPECT)の有用性が報告されているが3),頭蓋内血管腫のT1-201 SPECT所見の報告は少なく評価が定まっていない.今回,われわれは病理学的に確定された2症例とMRI所見から血管腫と思われる1例のT1-201 SPECT所見を得たので文献的考察を含めて報告する.

読者からの手紙

慢性硬膜下血腫とホルモンについて

著者: 松本賢芳

ページ範囲:P.829 - P.829

 近年,当院における慢性硬膜下血腫の術後再発率が増加傾向にあります.最近連続して,再発した症例の病歴について以下に簡略に記載します.
 再発例は4例で,すべて男性,年齢は62-79歳でした.術後3週間から5週間以内に再発しております.既往歴に前立腺肥大症か前立腺癌(現在,再発の所見はない)があるが,いずれも手術をしており,現在は投薬のみとなっています.全例が黄体ホルモン製剤(プロスタール®)を服用しており,1例は1週間に2回合成エストロゲン(ホンバン®)の注射も行われていました.なお,血液凝固系には異常所見を認めませんでした.因果関係は不明であったが,いずれの症例も3週間の休薬(術前1週間,術後2週間)で再手術を行いました.現在のところ,再発はしていません.

金井秀樹先生へ

著者: 中島進

ページ範囲:P.831 - P.831

 脳神経外科28:465-469,2000に掲載された報告(広範囲のくも膜下出血を伴い,血管撮影中に造影剤の血管外漏出を生じた高血圧性被殻出血の1例)を拝見しました.
 私も同じような症例を経験し,近く投稿を予定しておりますが,くも膜下出血と大きな右脳内血腫を伴っておりました.昏睡状態で搬入となり,すぐに脳血管造影検査を施行.動脈瘤などの血管異常は指摘出来ませんでしたが,midline shiftが強く,また中大脳動脈末梢部の動脈瘤の可能性も捨てきれず緊急手術に臨みました.血腫の一部を吸引し減圧した後に,右内頸動脈,中大脳動脈(M1,M2)を確認.その後に血腫吸引を再開し,最後の血腫を吸引したときに激しい動脈性出血が見られました.Point suckingを続けながら中大脳動脈末梢部(M2-M3 junction)の動脈瘤を発見しclippingを行っております.

報告記

第3回脳静脈系国際会議,第3回髄膜腫国際会議および第12回日本頭蓋底外科学会合同学会(Matsumoto 2000)

著者: 本郷一博

ページ範囲:P.832 - P.833

 5月31日より6月2日にかけて,第3回脳静脈系国際会議,第3回髄膜腫国際会議および第12回日本頭蓋底外科学会の合同学会(Matsumoto 2000)が当教室教授小林茂昭の会長のもと,松本市の長野県松本文化会館において開催されました.これは,小林教授が第12回日本頭蓋底外科学会に加え,1994年より開催されている脳静脈系および髄膜腫のそれぞれの第3回国際会議の会長に決まっていたため,これら関連の学会を同時期に集中して行おうと,企画開催したものです.学会は,2年後の脳神経外科学会総会の主会場に予定している文化会館大ホール(収容人数1800名)を中心に,3会場およびポスター会場で行われました.
 初日の日本頭蓋底外科学会は,主題に1)脳血管障害に対する頭蓋底外科,2)頭蓋底悪性新生物に対する治療戦略,3)微小外科解剖と頭蓋底外科,4)頭蓋底外科とnew modality(γナイフ,血管内治療,ナビゲーシヨンなど)との調和,を掲げ,Prof.RhotonのAnato-mic basis of skull base surgeryと題する特別講演を含め,63題の演題が発表されました.2日目は,日本頭蓋底外科学会と国際会議のジョイントセッションとして両者に関連の強い内容で構成し,3日目は髄膜腫の発生,遺伝子関連などの基礎的な内容のセッションも行われ,国際会議として全117題の発表がありました.時間的には比較的余裕をもって企画したつもりでありましたが,この分野における経験豊富な多くの講師陣を含めた参会者によるhot discussionでいずれの日も終了が1時間以上延びました.

第7回国際脳血管攣縮カンファランス(7th International Conference on Cerebral Vasospasm:ICCV 2000)印象記

著者: 小野成紀 ,   伊達勲

ページ範囲:P.834 - P.835

 脳血管攣縮は,脳神経外科医なら誰でも悩まされている病態であるにもかかわらず,この病態の全容を理解し説明するために必要な知識は誠に膨大である.血管平滑筋の収縮機序はまだまだ闇の中であり,教科書的には非常に有名なこの病態も研究を重ねれば重ねるだけ疑問が深まる,というジレンマにおちいっているというのが現状であろう.そのような,ある意味でつかみ所のない脳血管攣縮と言う病態に対して,基礎的研究,臨床の両側面からreal timeな世界のconsensusを与えよう,というのが3年毎に開催される本カンファレンスの目的であり,意義である.回を重ねること7回,今回は,世界でもトップランクの観光名所であるスイスのインターラーケンで,Bem大学Seiler教授の会長のもと,ヨーロッパの伝統と格式が随所に現れるカジノクルサールというコンベンション会場にて催された(Fig.1).
 さて,インターラーケンと言う場所について,スイスを観光されたことのある方にことさら説明を加えるまでもないのではあるが,一応,一通りの説明は必要であろう.インターラーケンはチューリッヒ国際空港から列車で約2時間半,スイスのちょうど臍の部分に位置する.その名の通り街は氷河に削られた2つのフィヨルド湖の間に鎮座し,かつヨーロッパで6番目に高い美峰ユングフラウ(Fig. 2)を背景に纏い,その絶好のロケーションから,冬は多くのスキーヤーの基地として,夏は世界の避暑地として人々の声が途絶えることがない.また,誰もが知る,ヨハンナ・シュピーリ原作,「アルプスの少女ハイジ」のまさに舞台になった,急峻な岩肌の合間にひしめき合う小さな家々が間近に見えるその場所でもある.世界的には,もっとも標高の高い鉄道駅,ユングフラウヨッホ駅が特に有名であり,そこに至るアプト式鉄道は鉄道マニアでなくとも一度は耳にしたことがある言葉ではなかろうか.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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