icon fsr

文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科28巻9号

2000年09月発行

文献概要

総説

悪性脳腫瘍の治療と高気圧酸素

著者: 合志清隆12

所属機関: 1産業医科大学脳神経外科 2産業医科大学高気圧治療部

ページ範囲:P.763 - P.771

文献購入ページに移動
I.はじめに
 高い気圧下で酸素吸入を行う高気圧酸素(HBO:hyperbaric oxygenation)治療は,主に低酸素による組織傷害の治療に用いられているが,逆に細胞傷害の増幅を目的として応用されることもあり,その1つが悪性腫瘍の治療である.悪性腫瘍が放射線治療や化学療法に抵抗性を示す大きな要因は低酸素腫瘍細胞の存在によることはよく知られており14,16),この低酸素細胞の制御の成否が治療予後を左右しているといっても過言ではない.したがって,放射線治療における低酸素細胞の攻略法としていち早くHBO治療が試みられ,1955年には既に治療結果が報告されている21).今日までいくつもの癌に対して併用治療が行われ,多施設でのrandomized trialsのメタアナリシスによる解析では頭頸部癌や子宮頸癌において著効が示されている41).一方,悪性グリオーマへのHBO治療の応用はこれまで2つの報告があり8,13),その1つは併用治療の有効性を示唆している8).しかし,従来の高気圧タンク内への放射線照射は操作が煩雑であるだけではなく治療侵襲と副作用が増強されたことから8,12),低酸素細胞の攻略法としてはより簡便な放射線増感剤の開発へとその興味が移っていった35).このような悪性腫瘍の治療状況のなかで,代表的な放射線増感剤であるmisonidazoleの臨床試験はその有効性を示すには至らなかった5,11,17).放射線治療は悪性グリオーマの治療法のなかで最も重要な治療手段であり,さらに酸素が最も強力な放射線増感物質であることに異論はなく14,16),西欧を中心としてcarbogen(95% O2十5% CO2)にnicotinamide(Vi-tamine B3)を併用した放射線治療が試みられてきた35,41).しかしながら,この治療法でも悪性グリオーマに対する有効性が確認できないだけではなく,phenytoinとnicotinamideの相互作用による副作用発現から臨床試験は遂行されなかった39).いくつかの放射線増感剤が開発されてきたが,それらの臨床応用の試みはほぼ否定的な結果に終わっている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?