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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科29巻10号

2001年10月発行

雑誌目次

Highly Qualified Neurosurgeonを目指して30年

著者: 江口恒良

ページ範囲:P.904 - P.905

 昭和49年(1974年),脳神経外科に入局3年目に,スイスチューリッヒ州立大学脳神経外科のYaşargil教授(microsurgeryの世界第一人者,怒りっぽいことでも有名)のもとに留学することになった.そこには,京大から菊池晴彦先生,米川泰宏先生他数名の先生が留学されており,東大からの長期留学は私が初めてということだった.ちょうどYaşargil教授が脳神経外科のDirectorをProf.Krayenbühlから引き継がれ,すべてのことにやる気満々の気風が感じられる時期であった.
 Yaşargil教授から一通の手紙が届いた.「日本人が勤勉であることはわかっている.ただ外国語が下手であることもわかっている.推薦者が『江口は語学に堪能だ』と言っても俺は信じない.ドイツ語をマスターしてチューリッヒに来るように.臨床を行うとき語学が不十分であれば,十分になるまで給料を払わない」という内容であった.「ずいぶん厳しいことを,はっきり書いてくる人だなあ」という感想を持った.いよいよスイスに向かいYaşargil教授に初めて会う日がやって来た.最初が肝心で,そのときの彼の印象で,私が給料をもらえるかどうかが決定されると思った.いろいろと心を砕いたものだ.当時,上映されていた『史上最大の作戦—The Longest Day—』にも匹敵するながーい一日だと感じた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

脳神経外科手術のための詳細な脳機能マッピング

著者: 三國信啓

ページ範囲:P.907 - P.918

I.はじめに
 詳細な脳機能マッピングは,手術操作によってeloquent areaの障害が予想される場合に必要不可欠な検査である.具体的には脳腫瘍,血管性病変,またはてんかん原性焦点などが感覚運動野や言語野などの皮質とその神経線維近傍に局在する,あるいは手術経路がその近くとなる場合である.脳機能部位と病変部との位置関係により,手術術式や時には手術適応そのものが決定される.
 脳皮質機能局在に関しては,1950年代にK.Kleistによる臨床所見やPenfieldによる電気刺激の結果が詳細に報告されている27,28).この局在はBrodmannが報告した大脳皮質の細胞構築による47野の分類と綿密に相関しており,現在でも広く用いられている(Fig.1).しかし,占拠性病変とその周辺浮腫や皮質形成異常などで画像上の解剖学的構築が不明になっていることが多く,さらに脳機能部位の変位や再構築が生じている場合7,9,12,20)があり,個々の症例での術前マッピングが必要となる.

研究

中大脳動脈瘤の流体力学的特徴

著者: 玉野吉範 ,   氏家弘 ,   吉本成香 ,   堀智勝

ページ範囲:P.921 - P.930

I.はじめに
 脳内に発生し,くも膜下出血の原因となる嚢状脳動脈瘤の発生,成長,破裂を促進する因子の1つとして,血行力学的負荷の関与が深く関わっていると考えられる2,4,6-9,15,26).動脈瘤内の流れに関する研究は数多くあるが2,4,10,11,14,15,18-20,22,25,26),動脈瘤のgeometryの特徴と流れの相関を定量的に検討したものはない.
 今回われわれは,動脈瘤を有する中大脳動脈分岐部の血管撮影における形態学的特徴について,1)親血管の血管径(M1血管径),2)分岐後血管の血管径(M2血管径),3)neck size,4)動脈瘤の長径等を測定し,これらの測定値からarearatio(M2断面積比),aspect ratio(depth/neckwidth)を求め,脳動脈瘤を有する血管系のgeo-metryの特徴を調べた.このgeometryの検討は中大脳動脈分岐部に,動脈瘤を有さないもの,未破裂動脈瘤を有するもの,破裂動脈瘤を有するものの3グループで行った.

新しいmechanical detachable coilの脳血管内手術における有用性

著者: 杉生憲志 ,   勝間田篤 ,   日下昇 ,   中嶋裕之 ,   大本堯史 ,   RÜFENACHT

ページ範囲:P.933 - P.940

I.はじめに
 Electrolytically detachable platinum coil(Gu-gulielmi Detachable Coil:GDC, Target Thera-peutics社製)の開発により脳神経領域,特に脳動脈瘤に対する血管内塞栓術はより安全・確実に行えるようになった2-4,7,8).GDC出現以前に脳血管内手術領域で使用されてきたいわゆるフリーコイルは,一度マイクロカテーテルから血管内ないし動脈瘤内に挿入されると,簡単に回収ができないという大きな欠点があった1,6,7).これに対してGDCは瘤内に挿入して位置が不適当であれば回収あるいは再挿入が容易に可能であり,位置が適切であれば通電により安全に切り離すことができるという特徴をもつ3)上このため,GDCを用いた脳神経領域の血管内治療は世界中に急速に普及している2,7,8).それでもなおelectrothrombosisによる不確実な血栓形成や,切り離しに時間がかかることによるembolic complicationの問題5),さらに価格の問題等が指摘されている.
 通電によらない機械的な切り離し方式を採用したmechanical detachable coilとしてInterlockingDetachable Coil(IDC, Target Therapeutics社製)やMechanical Detachment System(MDS, Balt社製)が入手可能であるが,安全性や切り離しの信頼性に問題が残る6,7).日本でもGDCの普及により,これらmechanical detachable coilは使用頻度が減少してきている7).今回,われわれは新たにプラチナ製mechanical detachable conとして開発されたDetach Coil System(DCS, WilliamCook Europe社製)を脳神経領域の血管内塞栓術に使用したので,その経験を特にGDCとの比較検討を加えて報告する.

未破裂脳動脈瘤の治療戦略

著者: 村田高穂 ,   鶴野卓史 ,   下竹克美 ,   寺川雄三 ,   西尾明正 ,   西嶋義彦 ,   吾郷一郎

ページ範囲:P.943 - P.949

I.はじめに
 未破裂脳動脈瘤(以下未破裂瘤)の治療法については,血管内手術による瘤内GDCコイル塞栓術(以下coiling)が導入され,その治療戦略の幅が広がった7,8).しかし,この度のinternational studyで,破裂の危険性はこれまでいわれていたものよりもずっと低いことが報告され,とくに無症候性の未破裂瘤については,その外科治療の適応が再問題化されている3,34)
 ここでは,過去16年間に経験した未破裂瘤110例のうち,処置例62例,未処置(経過観察)例48例につき分析し,とくにその外科治療戦略について検討した.

管腔壁を透視した3D-MRA Transluminal画像による脳動脈瘤構築の解析

著者: 佐藤透

ページ範囲:P.951 - P.959

I.はじめに
 最近のMRI装置や撮像技術など撮像系の革新とそれから得られた生体内三次元情報(volumedata)のワークステーションでのコンピュータ画像処理技術の目覚しい進歩により,MR angiogra-phy(MRA)による脳動脈瘤など脳血管病変の診断には,従来のmaximum intensity projection(MIP)画像に加えてsurface rendering法やvolume rendering(VR)法による脳血管構築の三次元画像表示,three-dimensional MRA(3D-MRA)が臨床応用されている3-10).また,近年perspective rendering法4)による仮想神経内視鏡(virtual neuro-endoscopy, VNE)画像や仮想血管内視鏡(virtual vascular-endoscopy, VVE)画像が作成され,脳動脈瘤構築を神経内視鏡に類似した血管外の視点から,あるいは血管内視鏡に準じた血管内の視点で観察することが可能となっている1-3,5-11)
 VNE画像やVVE画像など仮想的三次元画像は,脳動脈瘤や親動脈などの脳動脈瘤構築を遠近感のある1枚の立体画像として表示可能であり,脳動脈瘤blebやneckなどの微細表面形態の描出,脳動脈瘤内腔や親動脈開口部の内面形態の診断,さらに血管内治療や開頭手術シミュレーションなどに有用である2,3,5-7,10,11).しかしながら,これらの画像では,管腔構造物は基本的に一塊の構造物として描出されるため,管腔壁を透視して管腔外から管腔内を,あるいは管腔内から管腔外の構造物を観察することは不可能であった.そのため,VNE画像では,脳動脈瘤と親動脈が重畳する場合やdomeが大きくneckが隠れる場合には観察視野が制限され,脳動脈瘤neckの描出は不十分であった2,7).また,VVE画像では,管腔壁と重畳する内腔構造の一部,さらには管腔外のすべての構造物が管腔壁構造で遮蔽されるため,画像自体から観察部位や観察方向など観察視点のオリエンテーションを把握することは困難であった3,10,11)

症例

特発性内頸動脈海綿静脈洞瘻に対し顔面および眼角静脈経由で治療した1例

著者: 水野隆正 ,   甲斐豊 ,   戸高健臣 ,   森岡基浩 ,   濱田潤一郎 ,   生塩之敬

ページ範囲:P.961 - P.964

I.はじめに
 特発性内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)の治療は,経静脈的塞栓術により海綿静脈洞内を塞栓する方法が主流である1,4.代表的な海綿静脈洞への到達経路としては,内頸静脈から下錐体静脈洞(IPS)を経由するか,もしくは上眼静脈(SOV)を直接穿刺する方法がある3,8.しかし,到達経路の状況によっては,治療に難渋することも多い.今回われわれは,顔面静脈および眼角静脈からSOVに到達し良好な治療結果が得られた特発性CCFの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えてこれを報告する.

Reversible posterior leukoencephalopathy syndromeを呈した子癇とHELLP症候群を合併した1例

著者: 瀧波賢治 ,   長谷川健 ,   宮森正郎 ,   松本哲哉 ,   吉本裕子 ,   千鳥哲也

ページ範囲:P.967 - P.970

I.はじめに
 1982年にWeinstein11)が妊娠後期に溶血,肝酵素上昇,血小板減少を来す29例を報告し,その頭文字をとってHELLP症候群と名づけた.今日,本症候群は母児予後にとって極めて重篤な障害をもたらすことが知られているが,その病因についてはいまだ不明な点が多い,しかし,最近HELLP症候群において肝動脈の血管攣縮の存在が報告され6),病因として注目されている.また子癇発作とは分娩前後にかけて発症する痙攣発作で,その病因としては,脳血管攣縮に伴う一過性脳虚血が指摘されている10)
 Reversible posterior leukoencephalopathy syn-dromeとは一過性に頭痛や精神症状,痙攣,視力低下などを呈し,画像上後頭葉を中心に梗塞を伴わない浮腫が認められる症候群である2).その原因として,高血圧,子癇,免疫抑制剤の使用などが認められる.今回われわれは妊娠35週で子癇,視力障害およびHELLP症候群を発症し,MRI上後頭葉に異常信号を呈しMRAで頭蓋内主幹動脈の狭窄を認め,帝王切開分娩後に改善を認めた症例を経験したので報告する.

高血圧性脳内出血で発症した原発性アルドステロン症の1例

著者: 中川敦寛 ,   蘇慶展 ,   斉藤桂一 ,   山下洋二 ,   白根礼造 ,   吉本高志

ページ範囲:P.973 - P.977

I.はじめに
 原発性アルドステロン症(primary aldostero-nism;PA)は副腎球状層に腺腫あるいは過形成が生じ,アルドステロンが過剰分泌され,腎臓の遠位尿細管を介してナトリウム再吸収,カリウム(K)と水素イオン分泌が促進する結果,高血圧症,低K血症,代謝性アルカローシスを呈する疾患である.わが国では年間200〜300例が発見され,高血圧症患者の0.5%以下に認められるとされている5)
 従来PAのような低レニン性高血圧は血管障害の頻度が低く,比較的良性な高血圧症であるとされてきたが,最近は本態性高血圧症と比較して脳内出血を起こす確率が高いことが指摘されている6).ところが,脳内出血発症の症例に限らず,PAの早期診断は必ずしも容易でなく2),再発を予防するうえでの問題となっている.

くも膜下出血にて発症した小児脳動脈瘤破裂の2例

著者: 今高城治 ,   塚原由夫 ,   柴崎尚 ,   三上哲也 ,   山内秀雄 ,   杉山節郎 ,   江口光興

ページ範囲:P.979 - P.983

I.はじめに
 脳動脈瘤は成人にくも膜下出血として発症することが多く,小児期に発症することは稀である1-13).われわれは2例の小児(年長児)の脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

放射線照射後に生じた椎骨動脈狭窄症に対する外科的血行再建術

著者: 宮原宏輔 ,   鈴木伸一 ,   権藤学司 ,   菅野洋 ,   山本勇夫

ページ範囲:P.985 - P.990

I.はじめに
 椎骨脳底動脈狭窄症による虚血症状の発現にはhemodynamic compromiseが関与しており12),この領域のTIAから脳梗塞を引き起こす確率は5年間で25〜35%にものぼるといわれている2).同部位に対するpercutaneous transluminal angio-plasty(PTA)が,現在積極的に行われているが13,19),拡張後の動脈壁解離,再狭窄,distalembolismなどの合併症も依然少なくなく11,13,19),このような場合には外科的血行再建術が考慮される3,5,8,12,16,17).今回われわれは,頸部放射線照射後11年を経過した症候性椎骨動脈狭窄症に対して,PTAにより拡張困難であったため,鎖骨下動脈への転位術を施行し良好な結果が得られたで報告する.

硬膜に発生したosteomaの1例

著者: 杉本圭司 ,   中原一郎 ,   西川方夫 ,   田中正人 ,   寺島豊秋 ,   柳原博之 ,   林純哉

ページ範囲:P.993 - P.996

I.はじめに
 Osteomaは良性の骨腫瘍であり,頭蓋内に認められるのは稀である.その中でも,骨とのatta-chmentを有さず,硬膜下・脳内に認められるosteomaは報告例が極めて少ない.今回,われわれは硬膜外表が正常であり,硬膜内面にattach-mentを有したosteomaの症例を経験したので,文献的考察を加え,報告する.

読者からの手紙

鈴木泰篤先生への返答

著者: 久保田司

ページ範囲:P.999 - P.1000

 拙文4)に関しまして,鈴木泰篤先生から貴重な症例のご提示とともにご意見をいただき6),ありがとうございます.ご意見に対して返答させていただきます.
 失礼ながらお手紙を拝見すると,鈴木先生は脳血管内手術(tPA局所動注およびPTA)の際に,急性大動脈解離(以下AADと略する)の頸動脈への波及という可能性を全く念頭に置かれていなかったと考えられます.発症翌日の治療前まで状態が安定していた症例で,治療終了後短時間でAADの破裂を惹起したことから,カテーテル操作(特にガイディングカテーテルの挿入)やtPAの使用,さらには術中・術後の血圧上昇などが,破裂の誘因となった可能性は否定できないと思われます.鈴木先生もそうお考えになったからこそ,われわれが行ったAADの波及による総頸動脈解離に対するPTAは,「本当に危険を侵してまで行う必要」があったかという疑問をお持ちになったと思います.

「慢性硬膜下血腫における術後残存空気と再発の関係」について

著者: 田中輝彦

ページ範囲:P.1001 - P.1002

 貴誌掲載の塩見らの論文2)および青木らの手紙1,3)を興味深く拝見し,思うことを述べさせていただきます.
 今回は本症再発の機序,特に術後血腫腔内残存空気が主題となっています.しかし,両者の議論には,再発例が初回手術時にどんなstageにあったかという点,および,本症の血腫増大機序の考察という大事なポイントが欠けているように思われます.

報告記

第4回日独合同脳神経外科学会

著者: 名取良弘 ,   福井仁士

ページ範囲:P.1005 - P.1005

 日本シリーズとの日程が重なって日本全国で話題となった第59回日本脳神経外科学会総会(2000年10月24日から26日)とのジョイントセッション(10月26日)をプレミーティングとして2000年10月27日と28日の2日間の日程で,福岡市のZepp Fukuokaを会場に開催された.前回(1998年ハノーバー)から一般公募となった演題募集は,郵送・FAXと共にインターネットは予想演題数が少ないためメールを使用して簡易に行われた.ファールブッシュ教授・ベルタランフィ教授・福井で構成されたプログラム委員会は,電話・メールでの討論を行い最終プログラムが決定された.前回数会場に分かれていた会場数を,交流を深める意味で1会場としたため,演題数を制限せざるを得ず,1名1演題とされた.特別講演7演題,セミナー5演題,一般講演50演題,計62演題であった(内,ドイツから27演題).特に手術機器に関する演題が16あり,両国での科学技術の進歩を医学に応用した開発が活発であることが確認された.また,日本への医学情報が米国からに偏りすぎている現状も確認された.合計101名の参加者を数え,両国の交流を深める議論が会場内外で行われた.
 28日の学会終了後,ドイツからの参加者を中心にドイツにゆかりのある有田(ドイツ・マイセン市の姉妹都市),伊万里への半日バスツアーが行われた.慌しい日程の中,有田では皿や湯飲みの絵付けに挑戦した.また,参加者の希望で武雄温泉に立ち寄り,まさに背中を流し合うという親密な交流が展開された.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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