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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科29巻11号

2001年11月発行

雑誌目次

“アナログ的考え”のすすめ

著者: 近藤明悳

ページ範囲:P.1016 - P.1017

 脳神経外科の各分野の専門化は外国との競争に太刀打ちするためにも必要な変化であると考える.しかし従来から一部危惧されている如く,その反動として,あるいは誤った考え方から一人前の医師として患者さんの全体像を把握する能力を具えるに到る以前から,既に特殊な「専門的」脳神経外科医になってしまっていたり,その限られた部門のことしか知らない中途半端な,換言すれば実際の治療現場で働くのに色々と齟齬を来すような医師が生まれることにもなりかねない.例えば頭痛・めまい・吐き気などの症状は,パソコンを毎日数時間もやることで若い人にも惹き起こされる“肩こり”によっても誘発されうるが,もしこのような医師が「頭痛・吐き気=頭蓋内圧亢進」というように,いわゆる“虫の眼”的な判断をいったん下してしまうと,あとはその原因を追及すべくあらゆる最新の医療機器を使った高額な諸検査がなされ,挙句の果てに,“とくになんの異常も認められません”ということになる.しかしこの際,もう少し広く頭痛の性質,いつ頃から起こったか,仕事はどんな内容か,視力はどうか,姿勢はどうかなど十分に聞いてみる,いわゆる“鳥の眼”的にまず患者さんを観察するところから始めれば,大きな間違いは起こさずに済む.
 脳神経外科医の仕事のなかで,手術は大きいweightを占めるが全てではない.もちろんneuroscienceも非常に重要な部分の1つであることは言を俟たないが,脳神経外科医にしかできないことは自身の冷徹な観察眼,臨床経験,磨かれた技術を100%活用して患者さんの悩みを解決してあげることである.しかし単に大工仕事的にいくら上手く“切ったりはったり”しても,患者さんの悩みが直ちに消え去るものではない.医師も人間なら患者さんも人間であるから,機械の修理とは訳が違うのは当然である.ここでいつも取り上げられるのが“最近の医者はパソコンばかり見ていて患者さんの顔を見ない,CT・MRIばかり見ていて患者さんの本当の症状・悩みが見えていない”等の批判である.つまりinterpersonal careの欠如である.では,もしそうならば最近の先生方は何故,またいつからそのようになったのか?小生が考えるに,それが全てとはいわないが,あらゆる社会の部分が,あるいはあらゆる若い世代から既に多くのことがデジタル化され過ぎてきたのではあるまいか?逆にいえば,あまりにもアナログを排除し過ぎたのではないか!ということである.今やvideotapeで手術方法を勉強し,いろいろな知識も居ながらにして習得出来る,internet・e-mailで全ての用が済まされる時代である.デジタル化されればされるほど便利となり,人と人とは会わずに済む.したがってある勝れた術者が自分の患者さんを手術するに当たって,どのような考えで,どのように説明をし,どのような哲学をもってそれを行っているか等という部分はほとんど伝わってこない.つまり手術についてのアナログ的な要素がないがしろにされやすい.人が人を手術すれば,嬉しいこと,感激すること,あるいは残念なことなどが生まれる.結果が悪ければ患者さんとの摩擦も起こりうるし,したがってそれを避ける方法も学ばねばならない.アナログ的な要素を取り入れることで,人が人を手術するときに決して一律に数量(値)的に判断できない,人間としての感情をもって患者さんに当たれるのではないか.

総説

脳腫瘍に対する光モニタリング—ALA induced Pp IXによる術中脳腫瘍蛍光診断

著者: 金子貞男

ページ範囲:P.1019 - P.1031

I.はじめに
 悪性脳腫瘍患者の予後は非常に悲観的であり,glioblastomaの5年生存率はわずかに2.4%である6,38,54).悪性脳腫瘍の治療は頭蓋内にはリンパ節がないために他臓器への転移は考慮する必要がなく,治療予後は局所のコントロールを如何にするかに依存している.予後を決定する最大の要素は組織の悪性度であるが,治療に関する因子としては放射線療法や化学療法等の集学的治療が行われると同時に,手術時の腫瘍の摘出率を上げることが予後に大きく関与すると言われている6,7,25,38,40).The Committee of Brain Tumor Registryof Japanの報告によると,手術摘出率と生存日数の関係はmalignant gliomaの場合,全摘出で5年生存率は45.8%に,50%摘出で17.5%である38,54).すなわち,手術時に脳腫瘍の摘出率を上げることによって生存日数は延長する.
 しかしながら,脳腫瘍の摘出は正常組織を含めた広汎摘出が脳の機能的な問題から限定されており,特に腫瘍がeloquent area近傍に存在する場合には正常脳組織の機能をモニタリングしながら,その機能を損なわずに,腫瘍組織だけを識別して摘出しなければならない.それだけに他の外科領域とは異なった腫瘍組織だけを摘出するための多くの試みがなされている.脳腫瘍は正常脳組織の中に浸潤しながら発育するために,腫瘍摘出時に正常組織と腫瘍組織を肉眼的に識別することは非常に困難であり,腫瘍組織だけを全摘出することはほとんど不可能である.これらの問題を解決するために,摘出術時のモニタリングとしてニューロナビゲーターの利用や,種々の蛍光色素を用いて手術中に正常組織と腫瘍組織を識別する方法が試みられているが,現在十分に満足できる方法は得られていない.

研究

高安動脈炎に伴う頸動脈および鎖骨下動脈閉塞性病変に対するstenting

著者: 阪井田博司 ,   坂井信幸 ,   永田泉 ,   酒井秀樹 ,   飯原弘二 ,   東登志夫 ,   木暮修治 ,   高橋淳 ,   大田元 ,   長嶺知明 ,   安栄良悟 ,   副田明男 ,   谷口歩 ,   新堂敦 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.1033 - P.1041

I.はじめに
 高安動脈炎(Takayasu arteritis,以下TA)は大動脈とその主要分岐に発生する非特異的血管炎で,本邦では頭頸部や上肢症状を伴う若年女性例が多い.感染を契機とする自己免疫疾患や遺伝的因子の可能性が指摘されているものの,未だ病因は不明のため根治的治療法は確立されていない.画像診断の進歩に伴い早期発見・早期治療が可能となり生命予後は改善されたが,その反面,頭頸部や上肢の長期血流障害に対するより積極的な治療法が求められるようになってきた1,5,11,13,20,26)
 血管内治療の発達に伴い,TAによる閉塞性病変に対し,1980年以後percutaneous transluminalangioplasty(以下PTA)が応用され始めたが,動脈硬化症以上に再狭窄が多発することが報告された3,6,7,9,16,17,21-23).この問題を改善する目的で1994年以後stentingが施行され,良好な長期成績を得られることが明らかとなってきた2,4,10,12,14,15,18,19).われわれは,動脈硬化症に伴う頭頸部動脈狭窄症および閉塞症に対する治療経験をもとに,少数例ながら本症に対してstentingを施行したので,その有用性と問題点につき文献的考察を加え報告する.

症例

頭頂部に生じたsinus pericraniiの1治験例

著者: 秋葉洋一 ,   荏原正幸 ,   中崎浩道 ,   橋本卓雄 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.1043 - P.1047

I.はじめに
 Sinus pericranii(以下SP)は,硬膜静脈洞と交通する頭皮血管腫瘤であり,1850年,Stromeyerの報告以来11),約160例の報告がある13).臨床上稀な病態であり,本病態に関する成因,治療方針に関してはいまだ一定の見解はない.今回われわれは頭頂部に生じた交通路の小さなSPに対して開頭術を行わずに腫瘤の摘出および交通路の遮断を行い治癒し得た1例を経験し,本病態の成因,診断,および治療に関して文献的考察を行ったので報告する.

頭蓋内capillary hemangiomaの1例

著者: 渡辺美喜雄 ,   久保直彦 ,   箱崎誠司 ,   桑田知之 ,   門馬信博 ,   小川彰

ページ範囲:P.1049 - P.1054

I.はじめに
 Capillary hemangiomaは,一般に乳児の頭部や頸部の皮膚,口腔粘膜によくみられ1,6),成長とともに自然に消退することが多い疾患である3,5,10,14).Capillary hemangiomaの中枢神経系での発生は稀であり,脊髄や馬尾神経での発生が散見されるが7-9,11,12),頭蓋内での発生は少なく,また腫瘤としての報告は稀である.
 われわれは頭蓋内圧亢進症状にて発症した中頭蓋窩capillary hemangiomaの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

小脳出血性梗塞にて発症した後下小脳動脈解離性動脈瘤の1例—経時的脳血管撮影による変化について

著者: 山下陽一 ,   林伸吉 ,   斉藤寛浩 ,   寺本明

ページ範囲:P.1057 - P.1062

I.はじめに
 頭蓋内解離性動脈瘤は神経放射線学的診断の進歩に伴い近年その報告が増加しているが,治療方針に関しては一定の見解を得られていない.山浦ら18,19)の報告した非外傷性頭蓋内解離性動脈病変の全国調査では,非出血群では外科的治療と内科的治療に有意差が認められず保存的治療が優位に多いとの結果が得られている.今回われわれは,小脳出血性梗塞で発症し緊急減圧開頭術にて一命を取り止め,その後,後下小脳動脈解離性動脈瘤に対し経時的脳血管撮影にてその消失を認めた1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

海綿静脈洞および後頭蓋窩に発生した多発性硬膜動静脈瘻の2例—症例報告および文献的考察

著者: 藤田敦史 ,   中村貢 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.1065 - P.1072

I.はじめに
 硬膜動静脈瘻(以下DAVF)は横・S状静脈洞,海綿静脈洞(以下CS)に好発し15),そのほとんどは単発病変で多発性に発生することは稀である3).発生機序としては後天的要因が考えられているが,いまだ正確な発生機序が解明されておらず,多発性DAVFに関する報告も少ない2,3,5,8-10,12-14,16-21,26).これらの報告の中には,同時期に多発病変を診断した症例以外に,一病変の治療後に遅発性に他病変が発生した症例を含んでおり,これらを多発発生とすべきか再発とすべきか報告者により統一されていない.われわれは,CSおよび後頭蓋窩それぞれにDAVFを認めた2症例を経験した.これらの症例は多発病変を同時に診断した症例と,遅発病変が反対側に発生した症例であった.2症例を呈示するとともに,これまでの多発性DAVFの報告例を検討し文献的考察を加える.

Paradoxical expansionを示した多発性脳結核腫の1例

著者: 後藤和生 ,   西浦巌 ,   長田憲和 ,   山本篤 ,   川西昌浩 ,   半田肇

ページ範囲:P.1075 - P.1079

I.はじめに
 抗結核薬療法の確立以来減少傾向にあった結核感染症が,従来から多いとされていた発展途上国のみならず,減少しつつあった先進諸国においても近年増加傾向にある.その理由として医療の進歩によるコンプロマイズドホストの増加による晩期まん延,および薬剤抵抗性結核菌の出現などが挙げられる.一方で結核菌の遺伝子解析はすでに完了し5),PCR(polymerase chain reaction)法により結核診断は進歩を遂げ,耐性獲得のメカニズムも解明されつつある3,4)
 中枢神経結核は粟粒結核に合併することが多いが13),その内の1つである脳結核腫は現在のわが国では未だ稀な疾患であり,多発性はその1/3にすぎない9).またその特異な現象として脳結核腫の化学療法の経過中に画像的,臨床的に増悪する“paradoxical expansion”が知られている8).われわれの経験した多発性脳結核腫の1例につき画像所見およびparadoxical expansionを示した臨床経過を中心に検討を加えた.

ステントによる血管形成術を施行した頭蓋内椎骨・脳底動脈狭窄症の3例

著者: 矢野俊介 ,   宝金清博 ,   阿部悟 ,   齋藤久寿 ,   黒田敏 ,   浅野岡 ,   牛越聡 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.1081 - P.1090

I.はじめに
 椎骨脳底動脈狭窄症に対しては,抗血小板剤などによる内科的治療が一般的である.血管吻合術などの外科的治療も行われているが,手技が困難であり,合併症の危険性のわりにその効果は十分ではないとの報告もある.また,症候性脳底動脈狭窄症の内科的治療群での再発率は年間10%前後と高く,その症状は重篤で,死亡例も少なくない,われわれは,頭蓋内・椎骨脳底動脈狭窄症に対しステントによる血管形成術を施行した3例を経験したので報告する.

8年間pearl & string signが持続した解離性前大脳動脈瘤の1例

著者: 坂本繁幸 ,   鮄川哲二 ,   井川房夫 ,   川本仁志 ,   大林直彦 ,   迫田英一郎 ,   日高敏和

ページ範囲:P.1093 - P.1098

I.はじめに
 非外傷性の解離性前大脳動脈瘤は,以前には比較的稀とされていたが,最近では報告例が増してきている2-4,6,7,9-11,15,16,18,20,21).本症の脳血管撮影上の特徴的所見はpearl & string sign, doublelumen, dilatation, stenosis, occlusionなどがあるが,これらの所見は発症後,早期に変化し,最終的には改善,あるいは動脈自体が閉塞することが多いとされている8,14,19,22).したがって,これら異常所見が継続することは稀で,解離性前大脳動脈瘤を脳血管撮影により長期間追跡した例は少ない,今回,われわれは発症後8年1カ月後の脳血管撮影でもpearl & string signを認めた非外傷性の解離性前大脳動脈瘤の1例を経験した.本症を呈示し,解離性脳動脈瘤における血管撮影上の異常所見の経時的変化について考察する.

アイスピックによる穿通性脳損傷の1例

著者: 鬼塚正成 ,   上之郷眞木雄 ,   藤田英志 ,   入江暢幸 ,   柴田尚武

ページ範囲:P.1101 - P.1105

I.はじめに
 穿通性頭部外傷は,本邦においても銃創例が増加傾向にあり,銃創以外では細刀,金属片,ガラス片,岩石,針,木片等の異物による脳内刺入の報告がある4,5,6,8,13).だが,日常の診療において遭遇することは珍しく,その対処に苦慮することも少なくない.今回われわれはアイスピックによる穿通性脳損傷の極めて稀な症例を経験した.長さ15cmにわたる穿通性脳損傷を来したが明らかな神経脱落症状は示さず,第16病日に摘出術を行い,術後良好な結果を得た.穿通性頭部外傷の治療方針について考察を加えて報告する.

再発悪性神経膠腫へのbradykininを併用した化学療法の1臨床治験例

著者: 稲村孝紀 ,   池﨑清信 ,   廣川詠子 ,   河村忠雄 ,   吉浦敬 ,   三原太 ,   末安正典 ,   入田和男 ,   高橋成輔 ,   福井仁士

ページ範囲:P.1107 - P.1113

I.はじめに
 脳実質内に発生する悪性神経膠腫は,脳内に浸潤性に発育するため,手術で全摘出することは不可能である.初期治療として手術による腫瘍容積の減量,放射線治療,化学療法が行われており,初期治療は一定の腫瘍増殖抑制効果を示すが,ほとんどの症例で一定期間を経た後に再発・再増大(以下再発と称す)がみられ,再発からの生存期間は短く極めて予後不良である7)
 悪性神経膠腫再発時の治療は,ガンマナイフを含めた追加放射線治療や化学療法が行われているが,現時点では完全寛解や治癒せしめる方法はない.われわれは1990年代初頭より化学療法の効果を増強するために,血管透過性亢進物質を併用した化学療法の研究を進めてきた8-10,12-14).2001年2月に九州大学大学院医学研究院の倫理委員会での承認が得られ,bradykininを併用した化学療法の臨床治験を開始した.このたび第1例目の治療を行ったので,その経過および早期治療効果を報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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