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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科29巻3号

2001年03月発行

雑誌目次

三本の柱

著者: 原岡襄

ページ範囲:P.204 - P.205

 大学医学部,あるいは医科大学の臨床系講座に求められるものは,臨床,教育,研究の三本の柱であると言われる.これらの統括責任者が主任教授であり,教室を主宰することの重みを痛感している.その主任教授に就任して日はまだ浅く,したがって多くを語る資格はない.就任以来今まで経験したことのないような忙しさに襲われた.しかし,多忙と未熟は理由にならず,じっくり検討する間もなく,三本の柱についても既に当面解決しなければならない問題も山積しつつある.そこで新米教授としてこの三本の柱について愚考を試みた.
 まず臨床についてである.私自身は入局以来いわゆる臨床医として育って来た.学位のテーマも臨床的な内容であったし,派遣出張先も症例豊富な病院が多かった.特に大学病院ではbroad spectrumで多彩な疾患の手術に携さわることが出来た.腫瘍,血管障害のみならず,脊椎脊髄疾患,外傷,奇形等一例一例が工夫をすれば症例報告となるような貴重な症例ばかりであった.これらに対して,先輩から教わった手技,文献,手術書を読んで得た知識,学会などで学んだ工夫,さらにはcadaver dissec-tionを行うことによって得られたorientationと自信,などを根拠にdecision makingしつつ手術を行って来た.自分ではそれなりに各疾患に対して手術経験もあり,ある程度の自負も持ち合わせているつもりである.しかし,海外文献を読み,国際学会に出席していつも痛感するのは,欧米の脳神経外科医の手術例数の圧倒的な多さである.オーダーが一桁違う.私自身の経験が100例とすれば,事もなげに1000〜2000例の手術成績が論じられている.その差は各国の国民性,保険制度を中心とする医療事情,さらには昨今日本脳神経外科学会でも論じられている人口比における脳神経外科医の数の問題などによるのであろう.高度の専門性を有した者がその分野の手術を行い,成績を競う.その成績を保険会社がfollowしさらに手術例数が増え成績も向上する.これが米国の状況であるらしく,脳神経外科医のbirth controlも行われると聞く.彼我の差は歴然である.本邦でも各分野で突出した経験を有する脳神経外科医も育ちつつある.しかるにわが大学病院ではどうであろうか?その方向性は保持したいと思うが,現実には仲々難しい。少ない症例を一例一例積み重ねて行くしか方法はない.その際に絶対に怠ってはならないのは文献検索である.初心者であっても勉強さえしておけば,背後から世界のauthoritiesが手術を支援してくれる.時々見うけられる光景として,誰かの見様見真似で手技の目的が感じられない手術,早さだけが目的の手術…….話が説教じみて来た.

総説

脊髄髄内腫瘍の診断と外科的治療

著者: 寳子丸稔

ページ範囲:P.207 - P.214

I.はじめに
 脊髄髄内腫瘍はMRIの発達により容易に診断できるようになってきているが,正確な診断は依然として困難である.的確な術前計画の為には正確な術前診断が不可欠であるが,現在のところ確実な診断がなされることは稀である.また,脊髄髄内腫瘍はmicrosurgeryの発達により摘出が可能になってきているが,神経症状を悪化させないで全摘出することは依然として困難である.本稿では,脊髄髄内腫瘍の診断の概要と外科的摘出法を可能な範囲で明らかにしてみたい.

研究

症候性くも膜嚢胞の外科治療

著者: 本山靖 ,   鍋島祥男 ,   山添直博 ,   井坂文章 ,   樋口一志 ,   佐藤岳史

ページ範囲:P.217 - P.226

I.はじめに
 近年,症候性くも膜嚢胞に対して広く行われている治療は以下のような3群に分けられる.すなわち,1)嚢胞壁被膜を切除して脳槽と交通をつける嚢胞壁切除術(以下membranectomy)と2)嚢胞腹腔短絡術(cystoperitoneal shunt以下CPshunt)あるいは3)両者の併用である.それぞれの方法に長所短所があり,治療法の選択はいまだ議論の多いところである.われわれは硬膜下水腫,痙攣,水頭症および頭囲拡大を来した症候性くも膜嚢胞の治療と経過を検討し,手術適応,手術法の選択,および合併症について考察した.

放射線照射を受けた小児germ cell tumor症例の進学状況

著者: 中溝玲 ,   稲村孝紀 ,   伊野波諭 ,   西尾俊嗣 ,   池﨑清信 ,   福井仁士

ページ範囲:P.227 - P.231

I.はじめに
 小児悪性脳腫瘍は外科的療法,放射線療法,化学療法の進歩により長期生存例が増加してきた.放射線療法はほとんどの小児悪性脳腫瘍に欠かせない治療であるが,長期生存例において成長・高次脳機能障害,遅発性放射線壊死,放射線誘発性腫瘍などが問題となっている.放射線照射が脳高次機能に与える影響については,知能テスト等の評価法が煩雑で,時間がかかることもあり詳細には検討されていない.今回われわれは長期生存例が多いgerm cell tumorの症例において現時点での進学状況を検討した.

側頭葉内側部病変による記憶障害

著者: 雄山博文 ,   上田正子 ,   池田公 ,   井上繁雄 ,   飯塚宏 ,   遠藤乙音 ,   渋谷正人

ページ範囲:P.233 - P.239

I.はじめに
 側頭葉内側部は,脳梗塞,一酸化炭素中毒,無酸素症,心肺停止後等の脳虚血6,7,8,18,22,25,27),脳出血,くも膜下出血,巨大動脈瘤,cavernousangioma, venous angioma, arteriovenous malfor-mation(AVM)等の血管障害6,7,8,18,22,27),脳挫傷等の外傷性疾患,glioma, neuroblastoma, malig-nant lymphoma, dysembryoplastic neuroectoder-mal tumor, dermoid or epidermoid cyst, hamarto-ma等の腫瘍性病変,単純ヘルペス脳炎,abscess,meningitis, cysticercosis, toxoplasmosis等の感染性疾患6,7,8,18,22,23,27),cortical dysplasia, arrhinencephalia, holoprosen-cephaly等の発生障害,側頭葉てんかん,radia-tion necrosis,脳ヘルニア,アセチルサリチル酸による中毒などさまざまな疾患6,7,8,18,22,27)で障害される.
 このような側頭葉内側部の障害では,記憶の一時的貯蔵庫である海馬の障害のため,記憶の固定化ができず健忘症を生じるが,その障害部位と症状との関係はまだまだ臨床的には明らかになっていないものと思われる25).われわれは,脳出血,脳梗塞,脳腫瘍,頭部外傷等の側頭葉内側部病変により,記憶障害を呈した6例を経験したので報告する.

症例

Bypassと血管内手術が有効であった経蝶形骨洞手術後の破裂偽性内頸動脈瘤の1例

著者: 甲斐豊 ,   濱田潤一郎 ,   西徹 ,   生塩之敬

ページ範囲:P.241 - P.245

I.はじめに
 下垂体腺腫に対する経蝶形骨洞手術の安全性は,一般的に確立されているが,稀な合併症として,腫瘍摘出の操作に伴う内頸動脈損傷の報告が散見される1,2,4,6,7,12,13).これら合併症の中では,内頸動脈偽性動脈瘤破裂による内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF:carotid-cavernous fistula)発症の報告が多く,重篤な鼻出血で発症した症例は稀である6,12,13).われわれは経蝶形骨洞手術後に多量鼻出血で発症した症例に対し,high flow bypassとGuglielmi Detachable Coil(GDC)により偽性動脈瘤を含めた内頸動脈の閉塞を行い良好な結果を得たので,文献的考察を加え報告する.

蛇行した椎骨動脈の延髄圧迫によって片麻痺を呈した1例

著者: 高野尚治 ,   斎藤元良 ,   宮坂佳男 ,   藤井清孝 ,   高木宏

ページ範囲:P.247 - P.251

I.はじめに
 三叉神経痛,半側顔面痙攣は,両者とも発作性,不随意な神経刺激症状を呈し,これらの疾患の病因としてDandy2),Gardner3),Jannetta6)らの報告以来neurovascular compressionという概念が定着し,神経血管減圧術が行われている,さらに耳鳴り,回転性めまいなどに対しても応用され6),本態性高血圧への治療の報告もあり13,18),hyperactive cranial nerve dysfunctionの概念は定着している.しかし,これらとは異なり,hypo-active cranial nerve dysfunction syndromeの報告例は少なく,ほとんどが拡張,蛇行した椎骨・脳底動脈による圧迫症状を呈した報告である.われわれは,正常径の椎骨動脈によって延髄が圧迫され片麻痺症状を呈した症例を経験した.症例は頭痛・嘔吐で発症し,その後麻痺が出現し,あたかもくも膜下出血を疑わせ,興味ある症例として報告する.

興味深い経過をみた中頭蓋窩くも膜嚢腫の1例

著者: 嶋田淳一 ,   石澤敦

ページ範囲:P.253 - P.257

I.はじめに
 くも膜嚢腫が消失した症例の報告が散見される1,6,11,18)が,その機序は必ずしも明確ではない.今回われわれは,中頭蓋窩くも膜嚢腫を伴った若年男性が頭部外傷後,最終的にくも膜嚢腫の消失を見た症例を経験したので文献的検討を加え報告する.

石灰化慢性硬膜下血腫に合併したextraaxial primary malignant lymphomaの1例

著者: 後藤正樹 ,   津野和幸 ,   半田明 ,   西浦司 ,   石光宏 ,   西田あゆみ

ページ範囲:P.259 - P.264

I.はじめに
 中枢神経系原発性悪性リンパ腫は,移植医療に伴う免疫抑制剤の使用や後天性免疫不全症候群の増加など医療背景の変化も影響してその症例数の増加が指摘されている.しかしその報告例のほとんどが脳実質内腫瘍であり2,6,16),脳実質外に発生するものはきわめて稀である.今回われわれは,石灰化慢性硬膜下血腫の外膜あるいはその直上の硬膜より発生したと思われる原発性悪性リンパ腫を経験したので,文献的考察を加え報告する.

Campylobacter fetusによるinfected subdural hematomaの1例

著者: 石井則宏 ,   平野一宏 ,   毛利豊 ,   今村和弘 ,   鎌田昌樹 ,   渡辺明良 ,   鈴木康夫 ,   石井鐐二

ページ範囲:P.265 - P.269

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫に血行性に感染が波及し生じるinfected subdural hematomaは,いわゆる硬膜下膿瘍とは発生機序や病態が異なりきわめて稀とされている.われわれが猟渉できた範囲では本例を含めて18例の報告があるのみである.今回,健康な若年成人で,生レバーからCampylobacterfetusに感染しinfected subdural hematomaを来した1例を経験した.MRIがinfected subduralhematomaの診断と経過観察に有用であったため文献的考察を含め報告する.

脳内出血で発症し診断が困難であった致死的ヘルペス脳髄膜炎の1例

著者: 日山博文 ,   田中喜展 ,   川上徳昭 ,   松尾成吾 ,   澤田達男 ,   堀智勝 ,   森山貴

ページ範囲:P.271 - P.276

I.はじめに
 単純ヘルペス脳炎(herpes simplex encephalitis,HSE)は壊死性脳炎とも呼ばれるように悪性の脳炎であり,早期に死に至ったり重篤な後遺症をもたらす,抗ウイルス薬であるacyclovirが治療に用いられるが,早期に投与を開始する必要があること,本剤が奏効しない症例もみられるなど,HSEは治療に苦慮する神経疾患のひとつである.
 今回われわれは,脳内出血で発症し,その後の臨床経過においてHSEの診断が困難であった症例を経験したので報告する.

読者からの手紙

読者からの手紙

著者: 青木信彦

ページ範囲:P.279 - P.279

 医学論文は臨床的に有用と考えられる内容が重視され,実際に日常の臨床に貢献しています.しかし,発表後に年月が経ち,臨床経験も多くなるにつれて,当初の発表内容が不適切であると判明することもまれではないように思われます.そのような場合,著者自身もそのこと(つまり,当初,考えていたことが不適切であったということ)を明確にすることも医学に携わる者にとっては重要なことと考えられます.
 最近,貴誌にて発表されたair in epidural he-matoma3)に関する論文の中でも指摘されましたように,小生が15年前に経験し,当時の少ない経験から,臨床的に有意義であろうと考えて発表した現象(air in acute epidural hematoma)1)は,その後の多くの経験から意味のないものであると理解されるようになりました.小生自身もその後も多くの症例に遭遇し,臨床経過は通常のacuteepidural hematomaと変わるところはないと考えるようになりました.そのような経緯をふまえて,次のような文章を公表させていただきます.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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