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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科29巻5号

2001年05月発行

雑誌目次

脳神経外科と保険医療

著者: 寺本明

ページ範囲:P.382 - P.383

 新人の季節が来た.若い人が白衣を翻して病棟を走り回っているのを見るのは実に清々しいものである.生命や高次機能と直接向き合う大変な診療科によく入ってきてくれたなと思う.一方我々年長者は,彼等の努力を単なる自己犠牲や職業的な倫理観に帰するものとせず,それだけの評価と対価を与える努力をするべきである.
 そこでいつも引き合いに出されるのが健康保険の点数表である.実は私も5,6年前までは診療報酬の点数には全く関心はなかった,しかし,脳神経外科学会を代表して日本医師会の疑義解釈委員会に出席したり,厚生労働省の保険医療専門審査員を勤めている間に事の重要性を強烈に認識した.

総説

脳虚血の分子生物学

著者: 野崎和彦 ,   西村真樹 ,   橋本信夫

ページ範囲:P.385 - P.391

I.はじめに
 脳虚血は,脳内の血流の低下あるいは停止によって,神経細胞に対する酸素と糖分の供給が閉ざされ,細胞のエネルギー代謝が傷害された状態である.脳組織は他の組織と比べ,酸素と糖の消費が高く,またエネルギー生産のほとんどをその好気的分解によるATP生産によっており,虚血に対し非常に脆弱であるため,従来虚血における細胞死は壊死の代表的なものにあげられていた.しかし,砂ネズミの一過性前脳虚血モデルにおける海馬CA1領域のように,神経細胞の中に比較的ゆっくりとした経過をたどる死があることや,局所脳虚血においても,特にペナンブラと呼ばれる虚血周辺域ではアポトーシスが優位に起こっているとの報告から,脳虚血にも治療可能な領域が存在することが示唆され,その分子生物学的解析が盛んに行われるようになった.
 脳虚血には,グルタミン酸カルシウム仮説をはじめとして,活性酸素,炎症など様々なメカニズムが存在し,脳虚血とはそれらが時間的空間的に相互に関わり合いながら進行する病態であると考えられている11)(Fig.1).本稿では,脳虚血における主要なメカニズムであると考えられるexcito-toxity,spreading depolarization,postischemic in-flammation,apoptosisについて概説し,それらをコントロールしている可能性のある細胞内シグナル伝達と,最近注目されてきた脳における幹細胞についても言及する.

研究

3次元DSAによる脳動脈瘤の診断

著者: 難波理奈 ,   宝金清博 ,   黒田敏 ,   岩崎喜信 ,   牛越聡 ,   浅野剛 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.393 - P.399

I.はじめに
 磁気共鳴血管画像法(magnetic resonance an-giograsphy,以下MRA)と3次元computedtomography angiography(以下3D-CTA)が臨床に定着し,最近の脳動脈瘤の診断においては,まずMRAによるscreeningが最初に行われ,続いて3D-CTAにより確定診断が行われるという流れが主流になりつつある.さらにはこの診断に基づいて,治療方針の決定まで進む場合も多い.くも膜下出血急性期では,現在でもカテーテルを用いた脳血管撮影が行われる場合が多いが,MRAや3D-CTAなどの非侵襲的検査により治療方針の決定が行われ,従来のカテーテルを用いた脳血管撮影が省略されることも決して稀ではない.特に,優れた3D-CTAからは,動脈瘤治療の治療方針決定に重要な要素である,動脈瘤頸部の形態についてほぼ満足すべき情報を得ることができる.
 これに対して,回転型のdigital subtractionangiography(DSA)が臨床に応用され始め,最近,脳動脈瘤診断への臨床応用が活発に行われ始めた.これは,MRAや3D-CTAという非侵襲的な診断の方向性と逆行する印象を与えるが,一方で,その有用性と意義に関する報告も最近増えてきている.この論文では,脳動脈瘤の診断における3次元DSA(以下3D-DSA)の初期臨床経験を述べ,この新しい診断機器が今後占めるであろう臨床的意義について検討する.

3D-CT angiography(3D-CTA)による頭頸部血管病変のスクリーニング—single bolus注入法を用いた頭頸部3次元血管画像の有用性

著者: 高村幸夫 ,   田之岡篤 ,   森本繁文

ページ範囲:P.401 - P.406

I.はじめに
 3次元CT angiography(3D-CTA)は,従来とは異なる利点を有する画像診断法として,日常脳神経外科診療に欠かせないものとなっている.特に脳動脈瘤や頸部内頸動脈狭窄性病変の診断・治療に関しては,血管撮影やMRAと対比した詳細な検討がなされている1-4,8-12)
 3D-CTAは造影剤の使用やX線被曝などの一定の侵襲性を有するが,従来の血管撮影と比べはるかに低侵襲かつ簡便である.現状では撮影範囲や造影剤投与量の制限,画像精度の問題から脳血管と頸部血管をそれぞれ単独で行う方法が一般的である.したがって頭蓋内動脈と頸動脈の情報を得たい場合,2回の検査施行が必要となるが,仮に1回で施行可能であれば,患者の検査リスク(煩雑さ,X線被曝,造影剤投与量)の軽減につながる.このような背景から,造影剤の単回投与にて頭頸部血管を同時に描出する方法(頭頸部血管単回造影CTA法)を考案し,1995年11月より臨床応用を開始して有用性を確認してきた.

症例

放射線治療が著効したgliomatosis cerebriの1例

著者: 秦暢宏 ,   勝田俊郎 ,   井上亨 ,   上原智 ,   竹下盛重

ページ範囲:P.409 - P.414

I.はじめに
 Gliomatosis cerebriは,きわめて予後の悪い疾患として知られているが,今回われわれは放射線治療が著効した症例を経験した.症例を提示するとともに,本疾患の診断と放射線治療に関して文献的考察を加え報告する.

虚血症状にて発症し,早期に出血と細菌性動脈瘤の新生を認めたseptic embolismの1例

著者: 若本寛起 ,   冨田栄幸 ,   宮崎宏道 ,   石山直巳 ,   赤坂喜清

ページ範囲:P.415 - P.420

I.はじめに
 感染性心内膜炎(infective endocarditis;IE)の重篤な合併症であるseptic embolismでは様々な病態を引き起こすことが知られている.その機序は,まず細菌性栓子が血管内腔を閉塞した後,動脈壁内へ炎症細胞が直接浸潤して壁を脆弱化させる.そこでhemodynamic stressが加わって内腔が拡大すると細菌性動脈瘤が形成される.しかし栓子が血管を閉塞したときに症状を呈し,引き続いて動脈瘤が発生してきた過程を捕らえた報告例は非常に稀である.今回われわれは脳虚血症状にて発症し,早期に出血を来した後,細菌性動脈瘤の発生を認めた稀な1例を経験した.栓子形成から脳動脈瘤形成,破裂までの期間を知るうえで貴重な症例と思われたので,若干の文献的考察を加え報告する.

内頸動脈閉塞に合併した前頭蓋窩硬膜動静脈瘻の1例

著者: 原田淳 ,   岡本宗司 ,   浜田秀雄 ,   久保道也 ,   桑山直也 ,   遠藤俊郎

ページ範囲:P.421 - P.425

I.はじめに
 前頭蓋窩硬膜動静脈瘻は,Lepoireら10)によって初めて報告された.これまでは稀な疾患であると言われてきたが,その報告例は近年増加しており,従来言われているよりも発生頻度は高いと思われる.中年男性に多く発生し,頭蓋内出血を生じやすいことなど,前頭蓋窩硬膜動静脈瘻の臨床的特徴については詳細な報告がなされている4,12,13,17)しかし,その発生機序については横・S状静脈洞や海綿静脈洞に発生するものに比べ,未だ明らかにはされていない.
 今回われわれは,左内頸動脈閉塞に合併した前頭蓋窩硬膜動静脈瘻の1例を経験したので,その発生機序と主幹動脈閉塞性病変との関連について文献的考察を加えて検討する.

クリッピング術18年後に血栓巨大化した前交通動脈瘤の1例

著者: 岩下具美 ,   田中雄一郎 ,   小山淳一 ,   小林聡 ,   本郷一博 ,   小林茂昭

ページ範囲:P.427 - P.431

I.はじめに
 破裂動脈瘤の自然経過で再破裂せずに増大し巨大動脈瘤を形成することは稀である1).今回われわれは,破裂前交通動脈瘤に対しクリッピング術を行い,18年後に巨大血栓化動脈瘤を生じた症例を経験した.手術所見の詳細と動脈瘤頸部クリッピング術後の長期経過観察の必要性について報告する.

肺,心臓への転移が直接死因となり肺小細胞癌との鑑別を要した膠芽腫の1例

著者: 秦暢宏 ,   勝田俊郎 ,   井上亨 ,   有川圭介 ,   矢野敬文 ,   竹下盛重 ,   岩城徹

ページ範囲:P.433 - P.438

I.はじめに
 膠芽腫が稀ではあるが頭蓋外転移を来しうることはいくつかの報告がある1-11,13,14).今回われわれは未熟な小型腫瘍細胞の増殖が主体となった膠芽腫が肺,心臓に転移し,肺小細胞癌との鑑別に苦慮した症例を経験した.剖検所見に文献的考察を加えて報告する.

著明な病変周囲脳浮腫を伴った多発性硬化症の1例

著者: 中井啓文 ,   窪田貴倫 ,   山本和秀 ,   吉田弘 ,   小山聡 ,   程塚明 ,   田中達也

ページ範囲:P.439 - P.444

I.はじめに
 多発性硬化症が画像上,脳腫瘍のような局所腫瘤病変を示すことは稀である13,15).今回,多発性で比較的境界明瞭な,中心部が抜けた均一な楕円形塊状造影剤増強効果を示し,強い病変周囲脳浮腫を伴うが圧排効果は軽度の病変を摘出,病理組織学的には多発性硬化症と診断した症例を経験したので報告する.

穿刺排膿後遅発性に被膜より出血を来したガス産生脳膿瘍の1例

著者: 若本寛起 ,   冨田栄幸 ,   田伏将尚 ,   宮崎宏道 ,   石山直巳

ページ範囲:P.445 - P.449

I.はじめに
 近年脳膿瘍の外科的治療において,定位的穿刺排膿術は低侵襲で合併症の少ない術式として広く普及し,施行される機会も増えているが,実際に合併症を来した報告例は少なく,穿刺にて被膜より大出血を来した例5)などが散見されるに過ぎない.今回われわれは,ガス産生菌による脳膿瘍に対して定位的穿刺排膿術を施行して膿瘍を縮小させたが,2週間後に膿瘍が急激に再増大してきたため,再度穿刺排膿術を施行したところ,黒色の凝血しない陳旧性血腫の流出を認めた.初回術中,術直後に出血は来しておらず,穿刺した被膜から出血が遅発性に起こり,凝血しない血液が徐々に貯留してきたものと思われた.脳膿瘍の定位的穿刺排膿術後にこのような合併症を来した報告例は過去に確認し得ず,若干の文献的考察を加え報告する.

Fibromuscular Dysplasia(FMD)に起因した前大脳動脈解離性動脈瘤の1例

著者: 畑山和己 ,   唐澤秀治 ,   内藤博道 ,   広田暢夫 ,   杉山健 ,   上野淳司 ,   金弘 ,   桶田理喜 ,   池田幸穂 ,   松本清

ページ範囲:P.451 - P.456

I.はじめに
 Fibromuscular dysplasia(FMD)は非動脈硬化性,非炎症性の狭窄を主体とする血管病変(angio-pathy)であり,腎動脈や頭頸部動脈に多く発生する.中年女性に多いと言われるが,原因はいまだ不明である.今回われわれはFMDが前大脳動脈という稀な部位に見られ8),しかも解離性動脈瘤の成因につながった興味ある1例を経験し,放射線学的だけでなく,病理組織学的にも検討する機会を得たためその詳細を報告する.

くも膜下出血ならびに急性硬膜下血腫で発症した海綿静脈洞部硬膜動静脈短絡の1例

著者: 香川賢司 ,   西村真実 ,   関薫

ページ範囲:P.457 - P.463

I.はじめに
 海綿静脈洞部硬膜動静脈短絡(cavernous sinusdural arteriovenous shunts,以下CdAVS)は一般に,眼球結膜の充血浮腫や眼球突出,雑音,眼球運動障害,頭痛,拍動性耳鳴で発症することが多く5,8,11),頭蓋内出血を来すことはきわめて稀である3,6,8,10,13,14).今回われわれはくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage,以下SAH)ならびに急性硬膜下血腫で発症し,結果的に救命し得なかったCdAVSの1例を経験したので報告する.

Germinoma症例の化学療法後に発生したB型急性肝炎の1症例

著者: 上坂十四夫 ,   稲村孝紀 ,   池崎清信 ,   中溝玲 ,   吉本幸司 ,   伊野波諭 ,   福井仁士

ページ範囲:P.465 - P.469

I.はじめに
 胚細胞腫をはじめとして化学療法が行われる脳腫瘍は多い2,3,6,8,10,11,12,16).しかしながら,化学療法による骨髄抑制のためB型肝炎ウイルス(HBV)をはじめとする不顕性感染症が活性化することがある4,5,13).今回われわれはB型肝炎HBs抗原陽性患者に行った化学療法によって,HBが活性化して急性肝炎へ移行した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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