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扉
ITとこころ
著者: 森竹浩三1
所属機関: 1島根医科大学脳神経外科
ページ範囲:P.482 - P.483
文献購入ページに移動感動は心(こころ)があって生まれるものである.昨年の沖縄サミットで“IT革命”が会議の最重点目標として掲げられ,政府予算に反映されたこともあって,何かにつけてITという言葉が飛び出してくる.医療も例外でなく,様々な分野でIT導入が検討され財政も含めた医療改革の要となっている.ITを支えるデジタル技術は,かつては脳神経外科の医療そのものを根底から変えたX線CTの発明,そしてこれから派生した様々なデジタル画像を生んだ.これらは,患者に侵襲や苦痛を与えることなく,それまでと比べると驚くべき正確さで疾患に関する情報をわれわれはもちろん,患者サイドにも分かりやすい形で提供してくれている.その結果,患者と医師が同じ土俵で話ができるようになり,インフォームドコンセントやevidence-basedmedicineの考えが普及した.一方で,現実には毎日のように医療ミスや医薬業界のスキャンダルがマスメディアを賑わし,ネガティブな側面を世間にさらし,今やこれらを防止することが医療機関の最重要課題となっている.しかしよく考えると,このリスクマネージメントはずっと以前から有形・無形を問わず存在していたはずである.にも拘らず医療をめぐるトラブルが急増している理由の1つに,医師のモラルや資質の低下したことをあげる者もある.しかし何よりも,個人の権利意識が急速に高まったことが主な理由であろう.現場対応をめぐるクレーム事件にみられるように,これまでなら許され見過ごされてきたような些細な事柄も,“クレーマー”にかかるとマスメディアやインターネットがフルに利用され一方的な主張が世間を動かし,こつこつと築き上げてきたものも一瞬にして台無しにされる.このような事例があちらこちらで起こってきているようである.いずれにしてもこのようなトラブル増加の背景には人間同士の心のつながり,心のゆとりといったものが失われてきたことにあるのは間違いあるまい.
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