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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科29巻7号

2001年07月発行

雑誌目次

宇宙と小宇宙

著者: 大野喜久郎

ページ範囲:P.586 - P.587

 果てしない宇宙の銀河系の片隅で,人類は地球時間として21世紀を迎えた.何かしら期待に満ちた気分になってもおかしくはない.地球の文明は20世紀において驚異的な発展を遂げ,かつてない未知の時代を迎えている.テクノロジーの発達は目覚ましく,ヒトゲノムの解読はほぼ終了した.哲学を越えて科学が全てを凌駕する時代の幕開けかも知れない.これは,人類にとって輝かしい未来の始まりだろうか.また,科学の進歩に伴って,ミクロコスモスである人間の精神は進化するだろうか.そして,民族,宗教,イデオロギーによる対立,戦争,環境破壊,資源の浪費など人類固有の問題は21世紀の間に解決されるだろうか.
 宇宙ではミクロである地球の,そのまたミクロの日本の社会状況はなお厳しく,日本丸は海図のない航海をしていて,目的地は見えず,さらには船長すらいなくなっているような感じすらある.しかし,経済的に不況とはいっても,バブル期が異常であったのだと考えれば,現在はむしろ沈静化し元に復した状態ともいえる.治療すべきは異常な時期の後遺症であろう.日本人は,戦後の悲惨な状況からようやく取り戻した自信を再びなくしつつあるようであり,責任感の喪失は感染症のように蔓延しつつある.それを象徴するように,このところ,危機管理に関する報道が目立つ.

総説

脳血管攣縮における情報伝達の遺伝子発現

著者: 小野成紀 ,   伊達勲 ,   大本堯史

ページ範囲:P.589 - P.602

I.はじめに
 脳血管攣縮は教科書的にはいまだ根治方法のない病態の1つとして記載され,そのメカニズムの研究において,病態自体の解剖学的,あるいは部位的特殊性から他の血管生物学的研究に比して一歩遅れをとっている分野といわざるを得ない面もある.また臨床的には予防方法に研究の重点が移行しつつある感は否めない15,53).しかし,血管生物学研究初期の生理学的,薬理学的手法を基とし,その後1980年代以降,種々のアゴニストに対する平滑筋細胞膜受容体,平滑筋張力発生機構の解析,あるいは分子生物学的手法を用いた解析が可能となり,血管平滑筋やヘモグロビンを中心とした,攣縮時の細胞内シグナル伝達や遺伝子発現機構が解明されてきたのも事実である.そこで本論文では,細胞内シグナル伝達に関する最近の知見,並びに現在までに得られた脳血管攣縮時の遺伝子発現の変化や遺伝子治療への応用などについて概説することとする.

解剖を中心とした脳神経手術手技

シャントシステムを用いないCEA

著者: 遠藤俊郎 ,   林央周 ,   平島豊

ページ範囲:P.605 - P.615

I.はじめに
 頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)は,頸部頸動脈のアテローム硬化性狭窄病変に対する根治的かつ確立された治療法である.特に近年の欧米における共同研究の結果,高度狭窄病変に対する手術意義は一段と明確なものとなっている1,5-7,12).しかし手術手技の具体的内容については術者による相違も多く,特に動脈遮断時のシャント使用の是非や,壁縫合時のパッチグラフト使用については,その評価・選択をめぐり議論がつきない8-10,13,14,16,17)
 各術者がより良い手術成績を目指し工夫を重ねる以上,その方法に差異が生まれることは当然の帰結であろう.筆者らはシャント,パッチは原則として使用せず,また個々の手術手技について若干の工夫を加えながら,手術症例を重ねてきた.これまでの経験より,本手術の成績を左右する最も重要なポイントは,シャントあるいはパッチ使用の有無ではなく,むしろ的確な手術適応と,動脈剥離よりアテロームプラク切除,壁縫合にいたる基本操作の確実,安全な実施にあることを,強く感じている2-4).本稿では,解剖学的知識と基本的手術手技の実際と留意点につき,われわれの経験,考え方を交え紹介する.

研究

Radiosurgery時代の肺癌脳転移に対する治療

著者: 山中一浩 ,   岩井謙育 ,   中島英樹 ,   安井敏裕 ,   小宮山雅樹 ,   西川節 ,   森川俊枝 ,   岸廣成 ,   根来俊一 ,   多田弘人 ,   田中正博

ページ範囲:P.617 - P.623

I.はじめに
 高齢化社会への移行,癌治療,画像診断の進歩などにより転移性脳腫瘍を治療する機会が増加してきている5).最近ガンマナイフを含めたradio-Surgeryが非侵襲的に施行でき,かつ種々の脳腫瘍などに対して高い有効性を示すことが明らかとなってきた1,3,4,8-10,14,15,17).Radiosurgeryの登場により転移性脳腫瘍の治療方針も大きく変化してきているが,当施設においてガンマナイフを導入した後5年間における肺癌脳転移の治療方法と成績につき検討し,その治療方針について考察を加える.

悪性脳腫瘍における薬剤耐性遺伝子解析に基づいた抗癌剤治療

著者: 松本義人 ,   森崎訓明 ,   三宅啓介 ,   川西正彦 ,   河井信行 ,   小川智也 ,   入江恵子 ,   國塩勝三 ,   長尾省吾

ページ範囲:P.625 - P.630

I.はじめに
 癌化学療法を行ううえで抗癌剤に対する耐性が大きな障害となっている.その作用機序の1つとしてmultidrug resistance(MDR)-1に代表されるエネルギー依存性薬剤排出ポンプによる多剤耐性があげられる2).今回,悪性脳腫瘍において,現在,報告されている7種類の薬剤耐性遺伝子の発現を検索し,その結果に基づき抗癌剤治療を行ったので報告する.

低体温療法のリンパ球ならびにNK細胞に及ぼす影響

著者: 斎藤隆史 ,   大塚顕 ,   倉島昭彦 ,   渡部正俊 ,   青木悟 ,   原田敦子

ページ範囲:P.633 - P.639

I.はじめに
 近年重症頭部外傷患者などに対し,低体温療法が行われているが,低体温療法において感染症は重大な合併症の1つであり,予後を左右する重要な因子でもある4,10,14).当科では昭和57年より重症脳疾患患者に対しバルビタール療法を行ってきたが,平成6年よりはバルビタール療法に34.0℃前後の低体温療法を併用してきた.そこで感染症の合併に関し検討を行ったところ,バルビタール単独群では,感染症合併率26%であったのに対し,低体温併用群では40%と高かった.また合併感染症の種類も,バルビタール単独群では,肺炎,髄膜炎,カテーテル熱と一般的な感染症が主体であったが,低体温併用群では肺炎,髄膜炎以外に敗血症,肝胆道感染,腎盂腎炎,皮下蜂窩織炎などの普段あまり経験しない感染症の合併が見られ,いずれも重症化していた.このように低体温療法は感染症に対する抵抗力を低下させると考えられるが,その機序に関する報告はない.今回われわれは,長期間の低体温が末梢血リンパ球ならびにNK細胞に及ぼす影響を検討したので報告する.

症例

Cervical Anginaを呈した頸髄神経鞘腫の1例

著者: 原国毅 ,   吉井與志彦 ,   金城竜也 ,   久志助光 ,   新垣辰也 ,   與那覇博克 ,   鶴嶋英夫 ,   斉藤厚志 ,   兵頭明夫

ページ範囲:P.641 - P.645

I.はじめに
 脳神経外科医が,直接胸痛を主訴とした患者を診察する機会は少ない.しかし,胸痛を主訴の1つとしながらも,軽度から高度の後頭部痛や頸部痛を共に訴える患者を診察する機会は少なくはないと思われる.1927年にPhillips7)が,頸髄神経根を圧迫することで胸痛が生じることを最初に報告している.その後,cervical anginaの原因として,頸椎症2,5,6,8)での報告が多く認められる.この胸痛は生命への危険性を有する虚血性心疾患と同様な疼痛を呈することから,心臓疾患による胸痛との鑑別が重要である.頸椎・頸髄疾患による胸痛の機序が種々推測されているが,依然として確固たる解釈はなされていない.今回,左C5後根より発生し,胸痛を呈した神経鞘腫の1例を経験し,胸痛の発生機序とその特徴について,文献的考察をまじえ検討したので報告する.

ナイフ刺創により頸部髄液漏およびBrown-Séquard症候群を呈した頸髄損傷の1例

著者: 鈴山堅志 ,   小泉徹 ,   鵜殿弘貴 ,   峯田寿裕 ,   一ノ瀬誠 ,   阿部雅光 ,   田渕和雄

ページ範囲:P.647 - P.651

I.はじめに
 脊髄損傷は一般的に交通事故やスポーツなどによる外傷が原因となることが多い.欧米では,銃創や刺創を原因とするものも散見されるが本邦においては稀である.
 今回われわれは,ナイフ刺創により頸部髄液漏およびBrown-Séquard症候群を呈した頸髄損傷の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

脳幹部thrombosed AVMの1例

著者: 佐々木久里 ,   清水夕貴 ,   氏家弘 ,   久保長生 ,   堀智勝

ページ範囲:P.653 - P.657

I.はじめに
 近年の画像診断,microsurgeryおよび術中モニタリングの進歩によって,脳幹部病変は脳外科医にとってchallengingな領域ではなく,積極的かつ安全に手術のなされる領域になってきた.最近では,1999年Porterら11)が脳幹部海綿状血管腫86例,2000年Steinbergら15)が脳幹部angiog-raphically occult vascular malformation(AOVM)42例の良好な外科的治療成績を報告している.今回われわれは,出血で発症した脳幹部血管病変に対して,海綿状血管腫の術前診断にて摘出術を行った.しかし術中に動脈性の出血を伴い摘出に苦労し,病理組織学的にthrombosed AVMと診断された.脳幹部thrombosed AVMの報告例はきわめてめずらしいため,文献的考察を加え報告する.

Intravascular lymphomatosisの1例—化学療法の治療経験

著者: 芦立久 ,   坪井雅弘 ,   林一彦

ページ範囲:P.659 - P.665

I.はじめに
 Intravascular lymphomatosis(血管内リンパ腫症)は全身の小血管が腫瘍細胞によって閉塞し,致死的経過を辿る極めて稀な疾患である7).今回,われわれは脳表静脈に腫瘍細胞を認め,化学療法を施行するも効果なく,発症3カ月で死亡した症例を経験したので文献的考察を含め報告する.

Domeから穿通枝が分岐する前交通動脈瘤の手術

著者: 松岡好美 ,   永田安徳 ,   本田雄二

ページ範囲:P.667 - P.671

I.はじめに
 前交通動脈瘤の術後に,記憶障害をみることがある(Tidswellら9)).その原因として,激しいくも膜下出血による脳のprimary damageや,再出血によるdamage,脳圧亢進などが考えられるが,手術による重要血管の損傷もその一因と思われる.
 今回,われわれは,前交通動脈瘤の手術の際に,hypothalamic arteryがdomeの先端から分枝するためこれを温存することができず,動脈瘤のneck clippingを行ったところ,1例では記憶障害が出現し,1例では出現しなかった症例を経験したので報告する.

放射線治療が著効した放射線誘発Glioblastomaの1例

著者: 福井公子 ,   稲村孝紀 ,   中溝玲 ,   池﨑清信 ,   伊野波諭 ,   中村和正 ,   松崎彰信 ,   福井仁士

ページ範囲:P.673 - P.677

I.はじめに
 放射線誘発脳腫瘍は同じ組織型の自然発生腫瘍に比べ,悪性度が高く予後が悪いと言われている6,7,9).また,安全な放射線照射線量が少なくなることが予想されるため,十分な線量を照射しにくいことが治療上問題となってくる9).今回,われわれは予後不良と予測された放射線誘発神経膠芽腫に対し放射線療法が著効した例を経験したので報告する.

鞍上部に発生した血管芽細胞腫と胸髄髄膜腫を合併した1例

著者: 池田充 ,   朝田雅博 ,   山下晴央 ,   石川朗宏 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.679 - P.683

I.はじめに
 血管芽細胞腫は,一般に成人の小脳半球に好発する良性腫瘍であるが,天幕上の発生は稀である.Francoisらの報告では血管芽細胞腫の天幕上での発生は2.9%に過ぎないとしている5).Morel-loとBianchiらの1963年の報告では1,483例の天幕上腫瘍で血管芽細胞腫は2例のみと述べている8)
 今回われわれは,鞍上部に発生した血管芽細胞腫と胸髄髄膜腫を合併した1例を経験したので若干の考察を加えて報告する.

読者からの手紙

「脳神経外科診療における医療保険と介護保険」に対して

著者: 小貫啓二

ページ範囲:P.685 - P.685

 本誌2001年4月号に掲載された,稲村孝紀氏ら1)の論文を興味深く拝読致しました.われわれ脳神経外科医師も,介護保険のしくみをよく理解し,協力する時代が到来したのだと思います.小生は,この春介護支援専門員の資格を取得する機会に恵まれました.その立場から,一言追加させて頂きます.
 日本の脳神経外科医が,昼夜を問わず働き,社会に貢献してきていることは,多くの人が認めていると思います.しかしながら,最高の治療を施行しても,不幸にして後遺症がのこる場合もあるのが現実です.リハビリにて何とか自立した生活に戻れる場合もありますが,中には,いわゆる,要介護状態に陥ってしまう患者さん達もかなりいます.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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