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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科29巻8号

2001年08月発行

雑誌目次

独立行政法人化を3年後に迎える新設地方医科大学の決意

著者: 清水恵司

ページ範囲:P.696 - P.697

 「聖域無き構造改革に取り組む」ことを旗印にした小泉内閣の出現で,「聖域無き構造改革」の意味するところとそれに対処せねばならぬという自覚が,われわれ大学人にも徐々にではあるが浸透してきたように思える.むしろ,何をのんびりしたことを言っているのだ,とお叱りを受ける地方大学の現状だと認識している.医学教育の現場にいる私にとって,医療制度を巻き込むことになる医科大学の再編・統合には,国にはより慎重さを,大学人(特に,新設地方医科大学)には建学の精神に立ち戻った猛省が必要であるように思える.現在の窮乏した国の財政状態を考えると,民間的発想の経営手法を取り入れながら,全国に99ある国立大学を再編・統合していくことは当然のことかもしれない.少子化の影響で社会的ニーズに変化が生じている教員養成大学や学部,あるいは獣医学などの分野は,全国レベルでの再編成もやむを得ないのかもしれない.しかし,医科大学の再編・統合,地方自治体への移管などには慎重を期する必要があるように思える.2015年に実施予定の自己負担に基づく先進医療(患者による選択性の強い医療)が,公的医療と混在するようになると,伝統ある大学が自大学出身の若い医師を他府県まで派遣するといった医療社会独特の学閥を温存した状態で,競争原理を促進する単なる業績主義に基づく予算の重点配分を国が行うとなると,都市部と地方との間で医師数や医療水準に関し,現在以上の地域格差をもたらすことが予想される.

総説

重症頭部外傷に対する低体温療法—NABISHの結果と展望

著者: 重森稔

ページ範囲:P.699 - P.706

I.はじめに
 重症頭部外傷に対する低体温療法については,近年多くの基礎的ならびに臨床的研究がある4,7,910,23,24,27).基礎的研究では,主に神経保護という観点からその有効性を支持するものが多い15).一方,臨床面でも多くのphase II studyが報告されているが4,7,9,23,24,27),概ね頭蓋内圧(ICP)下降という点ではほぼ一致した見解が得られている.しかし高率の合併症の問題もありrisk benefit ratioに基づく臨床的有用性は未だ不明と言わざるを得ない22).特に問題なのは,本療法によって果たして転帰の改善が得られるか,という最も重要な問題に関して未だ明確なevidenceがないという点であろう22).しかしながら,実際には転帰改善への期待を込めて多くの施設で本療法が導入されているというのが実状である11,20
 このような折り,今年2月に米国から注目すべき大規模な多施設共同のphase III study(Natio-nal Acute Brain Injury Study Hypothermia:NABISH)の結果が発表された5).この研究は厳密なstudy designのもとに行われた,いわゆるdouble-blind placebo-controlled randamized trialである.本研究の成果は前述したような本療法に伴う諸問題に1つの解答を与えるとともに,本療法の位置付けを考えるうえで大変参考になる.そこで本稿では,このNABISHの詳細5)を解説するとともに今後の展望について考えてみたい.

研究

前下小脳動脈遠位部動脈瘤—3症例の報告と文献的考察

著者: 齋藤竜太 ,   冨永悌二 ,   江面正幸 ,   清水宏明 ,   吉本高志

ページ範囲:P.709 - P.714

I.はじめに
 前下小脳動脈遠位部に位置する動脈瘤は比較的稀な疾患であり,文献上55例が報告されているに過ぎない1-7,9-47).その多くはmeatal loopの内耳動脈分岐部近傍に発生し,meatal loop以外に生じるものはさらに稀である.解剖学的に第7,8脳神経と密接するため,くも膜下出血以外に脳神経麻痺にて発症する場合がある.また外科治療の際にもこれらの解剖学的特徴を考慮しなければならない.最近われわれが経験した3例の前下小脳動脈遠位部動脈瘤を報告するとともに,これまでの報告例をレビューし,その臨床像と血管内治療を含めた治療法につき考察する.

近位部鎖骨下動脈および腕頭動脈閉塞症に対するstenting—preliminary results

著者: 阪井田博司 ,   坂井信幸 ,   永田泉 ,   酒井秀樹 ,   飯原弘二 ,   東登志夫 ,   木暮修治 ,   高橋淳 ,   大田元 ,   長嶺知明 ,   安栄良悟 ,   副田明男 ,   谷口歩 ,   新堂敦 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.717 - P.725

I.はじめに
 血管内治療(interventional radiology,以下IVR)は,外科的血行再建術では到達困難な部位の閉塞性血管障害でさえ低侵襲に治療可能な理由から,近年急速に発展した治療分野である.頭頸部動脈狭窄症に対するpercutaneous transluminalangioplasty(以下PTA)やステント併用血管形成術(以下stenting)の有用性は,本邦でも既に確立されつつある.一方,頭頸部動脈閉塞症に対するIVRに関しては,諸外国に比較して本邦における知見は極めて乏しい3,5,7-9,13-15,17,20,22,28)
 頭頸部領域では閉塞動脈を再開通させる際に必ずdistal embolismを避ける必要があり,狭窄症と異なり頸動脈閉塞症に対するIVRの報告は限られている3,11,12,18,20).しかし,subclavian stealphenomenon(以下SSP)を伴う近位部鎖骨下および腕頭動脈閉塞性病変では,頭蓋内へのdistalembolismの頻度が低く2,4,5,8,9,13,15,20-24,27,28),また,遠位側からのapproachも可能であること4,5,9,15,17,20,22),術後の再狭窄が少ない15,19)等の特徴から,近位部鎖骨下および腕頭動脈閉塞症に対してstentingが有効な治療法として本邦でも応用されつつある.

症例

短期間に再発育を繰り返した頭蓋咽頭腫—MIB-1 labeling indexの有用性

著者: 姉川繁敬 ,   林隆士 ,   中川摂子 ,   古川義彦 ,   友清誠

ページ範囲:P.727 - P.733

I.はじめに
 頭蓋咽頭腫は一般に良性とされているが,発生場所によっては摘出には困難を伴い,治療には長い忍耐と努力が必要となってくる6)。水頭症により来院した4歳の男児において鞍上部より第3脳室を占拠する頭蓋咽頭腫を認め,最初の手術後のMRIで一部腫瘍の残存が疑われるものの,独歩退院となった.術後3ヵ月目に,視力障害にて再来院し,急速な再増大を認めたために再手術を行い画像上全摘出できたものと確信した.しかし,その後の経過観察で再々発がみられ,ガンマナイフ(γ-K)による治療を必要とした.本症例では第1回目のMIB-1labeling index(LI)で9.2%,2回目で21.2%と共に高値を呈した.本症例における臨床経過を記すると共に本腫瘍の治療のうえでのpitfallについて検討を加える.

外因性か内因性か鑑別に苦慮した小児くも膜下出血の1例

著者: 宮本伸哉 ,   安田宗義 ,   角田孝 ,   楠浩 ,   佐々木司

ページ範囲:P.735 - P.739

I.はじめに
 頭部外傷にて救急搬送され,脳底部くも膜下出血を認めた場合,外傷性か病的くも膜下出血か鑑別に苦慮することがある.特に,病的くも膜下出血の稀な小児例では,その原因を特定することは,さらに困難である.
 今回われわれは,傷害事件による頭部外傷をきっかけにくも膜下出血を発症した小児例を経験したので報告する.

下垂体膿瘍の3症例

著者: 小坂恭彦 ,   堀川義治 ,   中原功策 ,   榊原毅彦 ,   吉野英二

ページ範囲:P.741 - P.745

I.はじめに
 ラトケ嚢胞や下垂体腺種に合併する下垂体膿瘍,あるいは原発性下垂体膿瘍の報告が増加しているが,実際われわれが目にする機会は少ない.この度われわれは下垂体膿瘍を3例経験したが,そのうち1例は,MRI上下垂体出血様の所見を示し,経過観察中に髄膜炎症状を来し,下垂体膿瘍を発症したものである.

慢性硬膜下血腫を合併した特発性頭蓋内圧低下症—硬膜外自家血注入後に一側動眼神経麻痺を呈した1例

著者: 三河茂喜 ,   鮱名勉

ページ範囲:P.747 - P.753

I.はじめに
 特発性頭蓋内圧低下症(spontaneous intracra-nial hypotension:SIH)は原因不明の起立性の頭痛として1938年にSchaltenbrandにより“aliquor-rhea”として初めて報告された病態である14).長らく原因不明のままであったが,RI脳槽造影やCT脊髄造影によって髄液の硬膜外腔への漏出が認められ,髄液漏出が頭蓋内圧低下の主な原因と考えられている3,4,12,17)
 SIHは約10%に慢性硬膜下血腫(CSH)を合併するとされており3),画像診断の進歩によりSIHが容易に発見されるようになり,SIHに合併したCSHを治療する機会は増加している.しかし,SIHに合併したCSHの治療方針に関して一定の見解は得られていない.

自然破裂を来した鞍上部嚢胞性病変の1例

著者: 寺尾亨 ,   沢内聡 ,   橋本卓雄 ,   宮崎芳彰 ,   秋葉洋一 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.755 - P.758

I.はじめに
 自然破裂を起こす嚢胞性脳腫瘍例のほとんどは,上皮腫,類上皮腫,くも膜嚢胞などの先天性腫瘍であり3,12),発症部位に関しては傍下垂体部,小脳橋角部および穹窿部などが一般的である.今回われわれは保存的加療中,自然破裂を来した鞍上部嚢胞性病変の1例を経験したため,鞍上部腫瘍の自然破裂例の文献的考察を含め報告する.

治療に難渋したガンマナイフ照射後聴神経鞘腫の1例

著者: 徳田賢太郎 ,   稲村孝紀 ,   上坂十四夫 ,   祁内博行 ,   辛島篤志 ,   松島俊夫 ,   福井仁士

ページ範囲:P.761 - P.765

I.はじめに
 聴神経腫瘍に対してガンマナイフ治療が広く行われるようになった.一般にその適応は腫瘍径が3cm程度までとされている9).今回われわれは,腫瘍径3.2cmの聴神経鞘腫へのガンマナイフ治療後1年4カ月の経過で腫瘍径の軽度増大および水頭症を来し,治療に難渋した1例を経験したので報告する.

腫瘍内出血を繰り返し髄腔内播種巣を合併した前頭葉glioblastoma multiformeの1例

著者: 奥野修三 ,   森本哲也 ,   榊寿右

ページ範囲:P.767 - P.773

I.はじめに
 Glioblastoma mtlltiforme(以下GB)は成人大脳半球に好発する悪性腫瘍であり極めて多彩な組織像を呈することで知られているが,このことは同時に臨床経過においても様々な病態を併発させると思われる.なかでも,ときに偶発する腫瘍内出血や髄腔内播種は神経症状の急激な悪化や生存期間の短縮に直接的な影響を及ぼすためGBの治療を一層困難なものにしている.今回われわれは,腫瘍内出血に続発したと思われる髄腔内播種を合併し,急峻な経過をたどったGBの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

脳底動脈瘤を伴ったpersistent primitive proatlantal intersegmental arteryの1例

著者: 野中裕康 ,   中谷圭 ,   谷川原徹哉 ,   服部達明 ,   大熊晟夫 ,   郭泰彦 ,   坂井昇

ページ範囲:P.775 - P.779

I.はじめに
 原始遺残脳動脈は脳動脈瘤を合併する割合が高いことが知られており,脳動脈瘤の成因に対する関与がしばしば報告されている.今回われわれは,稀な遺残動脈の1つであるpersistent primltiveproatlantal intersegmental artery(以下PPPIA)に破裂脳動脈瘤を合併した症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

側副血行路の発達により良好な経過を呈した前大脳動脈解離性動脈瘤の1例

著者: 中西欣弥 ,   内山卓也 ,   赤井文治 ,   山田恭史 ,   湯上春樹 ,   辻潔 ,   種子田護

ページ範囲:P.781 - P.785

I.はじめに
 頭蓋内の解離性動脈瘤は椎骨脳底動脈系(以下,VB系)に多く18),前大脳動脈解離性動脈瘤(以下,ACA-DA)は報告例が23例と稀な疾患である4-17,22).このACA-DAは虚血症状で発症することが多く,この場合保存的治療で良好な経過を得ている報告が多い1,9,10,13,14,16).そのため治療方針として一般的に保存的治療が第1選択となる.しかしながら,保存的治療で進行性あるいは再発性の虚血症状を呈するもの,また進行性解離が認められるものは外科的治療の適応があると考えられており15,17,22),特に経時的な脳血管撮影による血管動態の確認が必要となる.今回われわれは,脳梗塞で発症したACA-DA症例において,経時的脳血管撮影を行うことにより側副循環の発達を認め良好な経過を呈した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

読者からの手紙

急性大動脈解離の波及による総頸動脈解離—急性期経皮的血行再建は必要なのか?

著者: 鈴木泰篤 ,   池田尚人 ,   神保洋之 ,   池田幸穂 ,   松本清

ページ範囲:P.787 - P.789

はじめに
 貴誌,28(11):1015-1021,2000に久保田司先生の症例が掲載されたちょうどその頃,私も似たような症例を経験しましたが,まったく異なる経過をたどってしまいました.この苦い経験を契機に文献をあたったところ,いくつかの思慮深い研究がなされていることを知りました.このような患者の治療指針はまだ明確にされておらず,たった1例からの経験ではありますがこれを提示し,私見を述べさせていただきたいと思います.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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